No.83027

とある七夕のとある光景

華詩さん

今宵は一年に一度しか会えぬ二人の逢瀬の夜。皆様はお願いごとはお済みでしょうか。小さな弟妹がいる彼女は、いったいどんな七夕をむかえているのやら。それでは「とある」シリーズ第14弾です。

2009-07-07 21:20:08 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:759   閲覧ユーザー数:705

 一昨日からな雨が嘘のように空一面に星空が出ている。天の川が見れるほど空気は澄んではいないけど、それでも空一面に広がる星空はきれいだ。

 

 縁側座り、空を眺める。私の横ではカップアイスを手にして一生懸命に食べている弟妹が座っている。その隣には二本の笹にたくさんの飾りとお願いごとを書いた短冊がつるしてある。

 本当は一本でよかったんだけど、一人一本づつ欲しがったので、織り姫用と彦星用と言うことにして二本用意した。それぞれに弟妹が書いたたくさんのお願いごとの短冊と、私と彼が書いた短冊も一緒に風に揺られている。

 

 弟妹の書いた短冊には欲しいものや、将来なりたいもの、やってみたいことなどがたくさんたくさん書いてある。

 

『さっかーせんしゅになりたい。』

『おはなやさんになりたい。』

『ばすのうんてんしゅになりたい。』

『ぱんやさんになりたい。』

『けーきがたべたい。』

『まいにちはんばーぐ。』

『しょうぼうしになる。』

『かんごしさんになる。』

『えほんがほしい。』

『うちゅうにいきたい。』

『およめさんになる。』

『ぷらもがほしい。』

『おまつりにみんなでいく。』

『にんじんがなくなりますよに。』

『ぴーまんがなくなりますように。』

 

 二人とも欲しいものやなりたいものがいっぱいあるんだね。でもニンジンやピーマンはなくならないからごめんね。好き嫌いがなくなるように、ちょっぴり多めに出していこうかな。そんな事を思っていると妹が袖を引っ張る。

 

「おねえちゃん、もう、おりひめはひこぼしにあえたよね。」

 

 アイスを食べていた妹がふっとそんな事を聞いてきた。

 

「わっかでつなげたからだいじょうぶ。」

 

 弟がそう言って二本の笹を繋いでいる紙の輪を指差す。

 

「そうだね、橋をつくっったもんね。大丈夫だよ。」

 

 今日になって追加した折り紙の輪飾り。彼が作ってもってきてくれた。その時にちょっぴり成長した弟と彼の父性を見る事が出来た。その時の事を思い出す。

 

「ほら、これ。輪っかの飾りな。」

「わぁ〜。きれい。」

 

 彼は鞄の中から一本の長い長い、紙の輪が繋がったものをとりだし、二人に見せた。

 

「一昨日は折り紙が足らなくって、長いのできなかったろ。」

 

 この間の休みの時に、四人で七夕の飾りを作った。輪っかを繋げる奴もつくったが彼の言う通り、折り紙が足らず四つか五つ繋げた短い物しかできなかった。二人が長いのが欲しいといっていたのを覚えていてくれたのだ。

 

「二人とも良かったね。さっそく飾ろうか?」

「ぼくのにかざる。」「わたしのにかざる。」

 

 二人が互いに自分のに飾ると言い顔を合わせた。一本しかないから、喧嘩になる前に半分にしてあげるのがいいかな。そんな事を思っていると弟が小さく呟いた。

 

「おねえちゃん、はさみほしい。はんぶんこする。りょうちゃんいい?」

「うん、はんぶんこ」

 

 私はそれを聞いてすごく嬉しかった。お兄ちゃんだもんね。ありがとう。少しだけ我慢している表情が覗いていた弟の頭を優しく撫でてあげる。

 

「ちょっと待っててね。すぐもってくるから。」

 

 私がハサミをとりにいこうとすると、彼に止められる。何だろうと思っていると彼は弟に話しかけていた。

 

「あのな、これは切っちゃだめなんだよ。」

「どうして。」

 

 弟が不思議そうな顔をして、彼をみている。どうするつもりなんだろうか。私も彼を見つめる。

 

「織り姫と彦星が天の川を渡る橋になるんだ。ほら、こっちのを洋一のに、そしてこっちを稜子のにな。」

 

 彼はそういって二つの笹に端と端を括り付けて、うまく絡めさせていく。一本の飾りで繋がれていく二本の笹を二人は真剣に見ていた。

 

「ほら、出来た。これでちゃんと織り姫と彦星が出会えて、短冊に書いたお願いごとを叶えてくれるぞ。」

「ほんとう、おにいちゃんありがとう。」

「どういたしまして」

 

 二人は満足そうに笹を見ている。とっても嬉しそうだ。

 

「ありがとうね。」

「ごめんな、二本用意できれば良かったんだけど。」

「いいよ、アレ作るのも時間かかったでしょう。でもどうして半分にしなかったの?」

 

 私がそう聞くと彼は頭を掻きながら教えてくれた。

 

「見間違いかもしれないけどさ、洋一がちょっと悲しそうな顔してたから。でも洋一は、もうお兄ちゃんなんだな。」

 

 彼はそう言って弟を見ていた。一瞬見せた弟の表情を捉えていてくれたのが私は嬉しかった。

 

「少し前からそんな感じかな。ねぇ、さっきの橋の話。真一が考えたの?」

「そうだよ、変だったかな。」

「大丈夫、良かったよ。二人ともしっかりと信じてるしね。」

 

 そんな事を思い返しつつ、紙の輪で繋がっている二本の笹を見つめながら、遠くない将来の事を少しだけ考える。一緒になり二人の間に子どもが出来たら、彼はやっぱり、素敵な父親になるんだろうな。私はその時ちゃんといい母親になれるんだろうか。短冊に吊るした願いとは別に、『将来よき母親になれますように』とそっと星に願いを込めた。

 

fin

 


 
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