No.81468

とある6月のとある雨の日

華詩さん

一年の中で一番雨が多い6月。降って欲しい時には降らず、お出かけやお休みの日に当然という顔をしてふる雨。そんなどこにでもある雨の日におこった出来事を覗いてみることにしましょう。「とある」シリーズ第13弾です。

2009-06-28 18:21:41 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:576   閲覧ユーザー数:534

 梅雨らしく雨の日が続く。雨が嫌いと言うわけじゃないけど休みのたびに降ってくれると、少々恨めしくも思う。

 

 庭をみると紫陽花がこれでもかと言うぐらい生き生きと咲いている。よくみると葉の上に動くものがある。葉っぱについているあれはカタツムリかな、あの子たちが見付けたら雨の中に飛び出て大騒ぎだったかな。

 

 のんびりと進んで行くカタツムリに『よかったね、あの子達がお昼寝中』でと心の中で呟く。いや、そうなると泥だらけにあの子達がなるから助かったのは私かな。でも今日はそんなことはないか。あんな事があった後だし。

 

 そんなことを思いながらリビングのテーブルに置いてある絵を見る。あの子達が午前中に一生懸命になって書いていた絵が置いてある。

 

 そこにはお父さんが描かれている。一緒に行ったスーパーに飾ってあったのを見て描くと大はしゃぎ。ご飯の材料とは別に、画用紙を二人分買って帰ってきた。

 

 帰ってきて、しばらくは二人仲良く描いていたけどクレヨンの色の取り合いをして喧嘩した。めったにしない喧嘩なのに、弟が妹を叩いてなかしてしまった。

 

 自分がした事を知って欲しかったから、叱ったあと、弟は叱られた事とされた事に悔しくて泣き出してしまった。

 

 自分が叱られるとは思ってなかったのもあるだろう。叱る前に聞いた話だと妹が我侭をいって、実力行使に出たのが原因だったから。

 

 『僕は悪くないのにおねえちゃんバカ』そういって泣いてリビングの隅にうずくまっていた。その姿を見た時、私は自分が下した判断に自信がなくなっていた。

 

 しばらくすると起き上がり続きを描きはじめた。妹は泣いた事を忘れたかのように隣で泣く前と変わらず絵を描いていた。取り合いになった色のクレヨンは半分に折って二人に渡してあげた。妹は楽しそうに続きを描きはじめ、弟はずっと黙ったまま絵を描いていた。

 

 お昼ご飯の時もいただきますとごちそうさまを行った意外、ずっと黙ったままだった。私が美味しいかなとか、お茶は冷たいのがいい?と聞いても何も話してくれなかった。

 

 嫌われちゃったのかな。でもあれで、良かったんだよね。ふっとため息が溢れた。そんなことを思っていると玄関のチャイムがなる。時計を見ると彼との約束した時間になっていた。もうそんな時間なんだ。

 

 ドアを開けるとびしょ濡れの彼が手に紙袋をもって立っていた。

 

「いらっしゃい。凄い濡れてる。」

「あぁ、タオル借りていいか。」

 

 彼はそういって、濡れたジャケットを脱いでいる。中はそれほど濡れていないみたいだった。乾燥機に入れて干しておけば帰りまでに乾くかな。

 

「いいよ、あと、ジャケット貸して、帰るまで干しておくから。」

「いいのか。そうだ、これケーキ買ってきたから。あとでみんなで食べよう。」

 

 そういって彼は手に持っていた紙袋を渡してくれる。あの子達も大好きなお店の紙袋だった。彼の家からあのお店によってここに来るのはすごく遠回りになる。

 

「ありがとう。濡れたのそのせいだよね。ごめんね。」

「いいよ、喜んでくれたから。」

「タオルはあとで持っていくから、リビングで待ってて。」

 

 私は彼から紙袋を受け取り、そのままタオルを取りにいった。タオルを持ってリビングに入ると彼はあの子達が描いた絵を見ていた。

 

「これ、おじさんだよな。良く描けてる。」

「そうだよ。来週が父の日だからね。」

「ここ一カ所がグチャグチャなのはどっちの。」

 

 彼はそう言って一つの絵を持つ。喧嘩の原因、自分が使いたい色を使われてだだをこねた妹が弟の絵に落書きをした場所。

 

「そっちは、よう君のだよ。グチャグチャの部分はりょうちゃんがやったけど。」

「喧嘩したのか。二人、珍しいな。」

「うん。ねぇ、真一は小さい時お姉さんと喧嘩して怒られた事あるよね。どんな風に怒られた。」

「そうだな、口喧嘩だといっつも負けるから手を出すんだ。そうすると美咲が悪くても俺が怒られたな。」

 

 彼は懐かしそうに何かを思い出しながらそう言った。

 

「そっか。」

「どうしたんだ。」

「あのね。」

 

 彼の横にすわり、午前中の事を話す事にした。いや、誰かに聞いてもらいたかった。そして自分が弟にした行動が正しかったと言ってもらいたかった。

 

 

「ようくんがたたいた。」

 

 妹は泣きながらそう言って、私の所にやってくる。手にはクレヨンを持ち、大粒の涙を流していた。喧嘩しちゃったかな。さっきまでは仲良く絵を描いていたのにな。

 

「ほら、おいで。」

 

 私は泣きじゃくる妹を抱き上げる。

 

「どこが、痛いの。」

「ここ。」

 

 妹は頭を抑える。妹の頭をそっと撫でる。こぶは出来てないみたいだ。あの子が手をあげたりするのは初めてかな。叩いたりの喧嘩はなかったのに。男の子だからかな。

 

 リビングでは弟が絵を一生懸命描いている。ただ弟も泣いたあとがあった。よく見ると右の上に落書きがしてある。妹が手に持っていたクレヨンの色だ。落書きされた事に対して怒れたのかな。

 

「よう君、なんでりょうちゃんを叩いたりしたの。」

「ぼくわるくないもん。りょうちゃんがわるいんだ。」

「わたしもわるくないもん。」

 

 お互いに自分は悪くないと言う二人をソファーに座らせる。取合えず何が原因か二人から聞かないとな。何となく想像はできるけど、二人の思う事を聞いてあげないと。叩いちゃダメだってこと教えるのはそのあとでもいい。私は二人の前にしゃがんで目をあわせながら話しかける。

 

「りょうちゃん。なんでよう君の絵に落書きしたの。」

「だってくれよんかしてくれないんだもん。」

「あとでっていったじゃん。」

「わたしもつかいたいの。」

 

 やっぱり原因はクレヨンの取り合いだったか。お父さんへプレゼントする絵、お互いに譲れない何かがあったんだろうな。

 原因はわかった。取合えずクレヨンを半分にして二個にしてあげれば大丈夫だろう。その方法を教えてあげれば、仲良く二人で絵を描く事を覚えてくれるかな。その前にお互いにごめんなさいを言わせてこの喧嘩を終わりにしよう。

 

「ねぇ、よう君、りょうちゃん。お互いにごめんなさいしようね。」

 

私はそう言って二人の頭を撫でる。

 

「いや、だってえがだめになっちゃったもん。」

 

弟は自分が描いている画用紙を睨みつけている。

 

「そうだね。でもね、よう君もりょうちゃんを叩いたでしょう。叩いたらダメなんだよ。」

「だって、そうしないともっとぐちゃぐちゃにされるもん。だからぼくはわるくない。」

 

 弟は涙をこらえながら大きな声で言った。一生懸命に描いている絵に落書きをされ、悔しかったのはよくわかる。

 

「そうだね。でも、よう君。叩くのはダメだよ。りょうちゃん泣いてたでしょう。」

 

 私は弟をじっと見つめる。わかってくれるといいな。まだ小さい、でもそのうち大きくなって妹と喧嘩した時に何かあってからでは遅い。手を出すのはダメだって事を教えないと。弟は顔をくしゃくしゃにしながら私を睨んでいる。納得はしてないかな、でも悪い事をして怒られたのがわかってくれればいい。

 

「りょうちゃん、絵をグチャグチャにしたらダメだよ。りょうちゃんも自分が描いたのがグチャグチャにされたら悲しいよね。」

 

 今度は隣に座る妹の番だ。妹は弟が描いている絵を見ていた。自分が描いた落書き部分をずっとみていた。しだいに悲しそうな表情をし始めた。たぶん自分の絵に落書きされたときを想像しているんだろ。しばらくすると、妹は小さく頷いた。わかってくれたのかな。

 

「じゃ、よう君にごめんなさいをしよう。いい。」

 

私は妹の頬に両手をあてる。妹は大きく頷いた。

 

「ごめんなさい。」

 

妹はそういって謝った。頭をやさしくなでてあげる。

 

「良く言えたね。次はよう君の……。」

 

私がそう言い終わらないうちに、弟は妹の頭を叩いた。

 

「また、たたいた。ごめんなさいしたのに」

 

 妹が大きな声で泣き出した。私は妹の隣に座り、膝の上に乗せる。妹が私にしがみつく。妹の頭を優しく撫でながら、隣に座っている弟を見る。

 

「よう君。」

 

 私はコツんと軽く弟の頭を叩く。弟はビックリした顔で私をみている。

 

「ねぇ、よう君。今、痛かったよね。同じようにりょうちゃんも痛いんだよ。」

 

 私は叩いた手で叩いた場所を撫でながら弟を叱る。

 

「ぼくはわるくないのにおねえちゃんばか」

 

 弟は私の手を払いソファーから飛び降り部屋の隅に置いてあるヌイグルミの所でうずくまった。私は何だか取り返しのつかない事をしてしまった。そんな気持ちに支配されていた。

 

 泣き止んだ妹は楽しそうに絵を描いていく、部屋の隅にうずくまっていた弟はしばらくして戻ってきて同じように絵を描きはじめた。けど弟は笑いもせずに黙々と絵を描いていた。ときたま私と目があってもすぐに目をそらし絵を描いていた。

 

 

 話し終えると彼は背中を優しく撫でてくれた。その手を取り私はギュッと抱きしめる。

 

「亜由美がしたのは間違ってないと思う。」

「そうかな。あのあと話しかけてもしゃべってくれないんだ。もっといい方法があった気がするよ。」

「大丈夫だって、しばらくするといつもに戻るよ。」

「うん。」

 

 私は抱きしめていた腕を放すと、彼がもう一度優しく頭を撫でてくれる。そうしていると、外で大きな雷の音がした。何処かに落ちたんじゃないかという位の大きな音だった。私は思わず彼の体を抱きしめていた。

 

「すごい音だったね。」

「ああ、どこかに落ちたのかな。雷、苦手だった?」

「ううん、ビックリしただけだよ。でももう少しこのままでいいかな。」

「ああ」

 

 しばらく彼に抱きついたまま遠ざかっていく雷の音を聞いていると、二階から小さな足音が上から聞こえてくる。あの子達が起きたかな。その足音はどうも廊下を走っているみたいだった。階段から落ちないよね。

 

 そんな事を思っていると勢いよくリビングのドアが開いた。そこには、とっても不安そうな顔でリビングを見渡している弟がいた。私の姿を見つけると、今にも泣き出しそうな顔をしてこちらに駆け寄ってくる。どうしたのかな、怖い夢でもみたのかな、それともさっきの雷が恐かったのかな。

 

 そんな事を思いながら駆け寄ってくる弟を受け止めようとソファーから立ち上がると、タックルをするかの勢いで足に抱きつかれた。

 ギュッと強く強く痛いぐらいに抱きしめられた。そして、後ろにいる彼を見ると大きな声で泣き出した。

 

「よう君、どうしたの。何があったの」

 

 私は弟の頭を撫でながら、しがみついている手を解き抱き上げる。背中を摩りながら落ち着くまでこのままでいよう。一緒に寝ていた妹の事も気になるけど起きてきてないだけかな。泣きじゃくりながら一生懸命に私を見て弟は途切れ途切れながら聞いてくる。

 

「おねえちゃんは、いなくならないよね。」

 

 何だかよくわからない事を聞いてきたが、安心してもらう為に返事をした。

 

「ここにいるよ。大丈夫だよ。」

 

 するとボソボソと話をしてくれた。私がいなくなる夢をみたらしい。目が覚めて確認の為に私の部屋をあけたらいなかった。それで急に怖くなって慌てて下に降りてきて私を見つけた。

 

「ほんと、いなくならない。」

「本当だよ。」

 

 私がそう言って弟の頭を撫でると弟は首を横に激しく振る。

 

「うそ、おにいちゃんがつれていっちゃうもん。」

 

 そう言って彼を睨んでいるようだ。そう言われた彼は複雑な顔をしていた。

 

「どうして。」

 

 私はさらに聞き、あやしながら弟を抱いたままソファーに座る。どうやら夢の中で私を連れて行ったのは彼だったらしい。

 

「ねぇ、おねえちゃん。ぼく、もうたたいたりしないよ。だからいかないで。」

 

 弟が強く私を抱きしめてくる。なんだかあの時の私みたいだった。取られてしまったと言う思いがすごく強かったのを覚えている。そして、それがとっても悲しくて大泣きして二人を困らせたんだっけな。

 

「どこにも行かないよ。」

「ほんとうに。おにいちゃんもつれていかない?」

 

 私は彼をみる。彼は何て答えていいのかわからず戸惑っていたが、私と目があうと何かを決意したかのように弟に話しかける。

 

「ああ、連れて行かない。」

 

 彼はきっぱりとそう言った。そう言われた弟は落ち着いたのか私を抱きしめていた力が弱くなる。

 ただ、弟を落ち着かせる為だとわかっていても、そう言われるとちょっぴり寂しいかな。そんな風に思って彼を見ていると彼はとても真剣な顔をしていた。

 

「でも、いつかは連れて行くよ。」

 

 そう言われた弟の手に力が入る。ちょっとだけ痛かったけど、私はそのままにした。もう、なんでそんな事言うのかな。せっかく落ち着いてきたのに。

 

「大丈夫。洋一がいいよって言うまでは連れてかない。」

 

 彼はそう言って弟の頭を撫でる。弟は彼と私の顔を交互にみる。

 

「ほんとう。」

 

彼は大き頷いた。それを見た弟は今度は私を見る。

 

「そうだね。よう君とりょうちゃんが良いよって見送ってくれない限りいかない。約束する。」

 

私は抱きしめている弟に優しく優しく語りかける。

 

「じゃ、ちゅーして。」

 

 そんな事を突然弟が言いだした。なにがどうなるとそう言う風になるんだろうか。ただ、弟は凄く真剣な顔をしていた。

 

「どうして、ちゅーなの?」

「やくそくのときはするんだよ。」

 

 テレビかなにかの影響かな。それでこの子の不安がなくなるならそれでもいいか。頬に軽くキスをしてあげる。弟は本当にしてもらえると思ってなかったのかビックリした表情で私を見つめていたが、嬉しそうな顔に変わった。その代わりに隣の彼がムスッとしていた。もう、弟に嫉妬されても困るんだけどな。

 

「ほら、お兄ちゃんがケーキ買ってきてくれたから食べようか。りょうちゃんはまだ寝てるの?」

「ケーキがあるの。たべる。りょうちゃんケーキだよ。」

 

 そういって弟は妹を起しにいった。よかったいつも通りかな。それに色々とわかってくれたみたいだった。小さいときに感じた事は大きくなった時にも影響を受ける。そんな事を思っていると視線を感じた。

 

「何、もしかして真一もチューして欲しい?」

「バカ、何言ってんだよ。」

 

 私のカラカイの言葉を軽く流し彼はこんなことを言った。

 

「笑顔で亜由美がこの家から送られるように頑張るから。」

 

 そう言った彼の顔はいつも以上に真剣な顔をしていた。

 

「うん、お願いするね。」

 

 そんな話をしていると廊下から二人の元気のいい声がした。

 

「おねえちゃん、ケーキ。」

「けーき、けーき」

 

 弟妹の元気な声が聞こえてくる。仲直りしてくれたのかな。それともケーキの事で頭がいっぱいで忘れちゃったかな。どちれにしても良かった。

 

「真一、お茶にしよう。」

 

 彼の手をとり、リビングから離れる。さっきまで雷鳴が響いていた空模様は、真っ黒な雲から灰色の雲へと少しずつ明るさを取り戻していった。この分だと明日は晴れるのかな。湿気まじりのジメジメした天気よりも、今の気持ちみたいにスッキリとした天気だといいな。

 

fin

 


 
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