No.110737

身も心も狼に 第8話:リコリス

MiTiさん

…未だにハッピーな話にたどり着けない…
でも、後のハッピーにつなげるには避けては通れない。

てことで、もうちょっとと辛抱お願いします…

2009-12-06 01:30:01 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:3431   閲覧ユーザー数:3162

[ ワーウルフ調査日誌③

 ワーウルフに備わった身体強化魔法。

 これは故意に行っているのではなく、無意識に行われる。

 閉鎖空間にて捕縛した野生の熊との戦闘を試行。

 耐久力のある熊に対してルビナスは速度で対抗。

 だが、その速度に慣れた熊が反撃を繰り出しルビナスを捉える。

 受けた際は致命傷となる一撃が当たる直前、

 ルビナスの魔力の流れに変化があった。

 魔法を使役する際は、脳より操作が始まり空間に生み出し発動される。

 今回ルビナスにみられた魔力は身体、特に脚部から生み出された。

 それを感知した瞬間ルビナスの移動速度が加速された。

 速度でかく乱していたときの倍以上の速度で移動し熊を翻弄し、

 熊に疲労が見えたところでルビナスは速度を乗せた体当たりにより意識を奪った。

 今回の試行にて二つのことが判明した。

 1つ、身体強化魔法は無意識のうちに身体自身が行使していること。

 無意識ではあるが、今回のように速度を必要とした際脚部に魔力が集中した。

 無意識のうちに必要とする部位を強化する。これが正体だ。

 そしてもう1つ、この強化魔法は他者への転写が可能であること。

 後日、再び戦闘試行を行い、魔力パターンの情報を収集。

 そして人体実験により転写を行った結果身体強化に成功。

 

 この強化魔法を利用することで、

 ユグドラシル計画に必要な膨大な魔力を制御可能な存在。

 その制御に必要な身体と精神、その内身体を得られる可能性を見る]

 

 

「ルビナス、怪我はなかった!?」

 

その日行われた実験で、その内容に戦闘があったことを、

実験を終えて部屋に戻ってきたルビナスに話を聞いて初めて知ったハリーとマオは驚愕した。

叫び問いかけながら、ルビナスの体を隅々まで調べる。

 

「うん、大丈夫だったわ。スピードに関しては熊如きに追いつかれるわけ無いし」

 

「だが危なかった場面も無くはなかったんだろう?」

 

「まぁ…ね。何故かそのときはいつもより速く動けるようになったんだよね」

 

「報告書にあった例の身体強化魔法ね。それにしても…何と言えばいいのかしら?

 資料が残されていなかったルビナス達ワーウルフの生態について知ることは出来たけど、

 その方法が無理やり戦わされたって言うのはね…」

 

「ああ。今度からはどんな内容であろうと何かしら実験を行うのであれば、

 必ず僕達を通すようにしてもらおう。フォーベシイ様を通せば確実な筈だしね」

 

「ええ」

 

ユグドラシル計画に、計画を実現させるための実験・研究に深く関わらないことを望む二人に対して、

研究員側は、以下に保護者であろうと計画に関わらない部外者であるならば内容を知らせる必要は無い。

そう考えていた。その考えを二人も感じ取っていた。

 

だが、魔王であるフォーベシイを通せばその問題は解決する。

彼としても、リコリスの親友がその様な目にあっていれば、そのような実験など認めないだろう。

そう思っていた。

 

後日、フォーベシイから実験・研究の内容を二人にも教えるようにすることは出来たと告げられるが、

それを止める事は魔王であっても出来なかった。魔王だからこそ止められなかったともいえる。

 

計画は神界、魔界共同での、未来を担う重要な計画。

その計画を実現のためのものとあっては止める事は出来なかった。

現段階でも暴走の危険性があると知りながらもそれを実行し、ある意味予想通り失敗に終わった。

それでも計画は進行しクローン体まで、更には人工生命体まで創られた。

ここまでやっておきながら、個人の希望で止める訳には行かない。

 

後日、計画に深く関わるからと言うことで再び戦闘が行われた。

今度は複数同時に相手をするということであり、無駄と分りながらも二人は反対するが、試行は行われた。

前回以上に苦戦を強いられはしたが、それでもルビナスは意識を奪うだけで命を奪うことは無かった。

 

実験に連れてこられただけの罪の無い動物を殺さずにすんだ。

そのことに3人は安心する。

その後フォーベシイより今回の実験での報告書が渡され、ある部分を注目する。

 

「”他者への転写が可能”…てことはつまり」

 

「ああ。リコリスやプリムラにもこれが使えるようになれるってことだ」

 

「無意識のうちに使うものだから、魔力制御の際無意識のうちに身体が強化されて、

 制御出来る可能性が高くなる。暴走する可能性も低くなるわ」

 

「本当!?」

 

「あくまで可能性だけど。これもルビナスがいてくれたお陰ね」

 

「私が、二人を…」

 

これまでの実験・研究の苦行が無駄ではなかった。その苦行があったからこそ希望が見えた。

ルビナスは喜び、嬉しさから涙を流した。

 

 

 

 

だが、その数日後、そのうれし涙が悲しみの涙へと変わることとなってしまった…

 

 

「っゴホ、ケホっ…ハァハァ、っゴホっ」

 

「ネリネ!しっかりするんだ!!」

 

「ネリネちゃん!」

 

豪華な家具装飾に溢れた部屋、その中にある高級そうなベッド。

そのベッドで、一人の少女ネリネが滝のように汗を流し、苦しげに呼吸し、絶え間なく咳き込む。

そんなネリネの手を、フォーベシイはベッドの脇に膝をつきながら必死に掴む。

 

「何とか…何とかならないのか!?」

 

「手術を施したい所なのですが…ネリネ様が有する魔力に身体の方が追いついていないのです。

 今だけ乗り越えることが出来ても今後は…」

 

ネリネは、その魔力保有量から実験体2号体、膨大な魔力を持つものの複製、

そのクローン元として選ばれた存在である。

 

だが、その魔力は幼い少女の身体を蝕み苦しめていた。

幼いネリネにはそれを制御出来る身体も精神も出来上がっていなかったのだ。

 

「そ、そうだ!ルビナスの肉体強化の魔法はどうだ!?

 先日の報告書では解明できたと…」

 

「い、いえ。アレはまだ研究段階でして…副作用があるかどうかもハッキリていない上に、

 ネリネ様のように幼く病弱な彼女に施すのは危険かと」

 

「・・・・・・っく!」

 

フォーベシイは歯噛みする。追うという立場で多大な権力を持ってしても、

たった一人の少女、自分達の娘の命を救うすべが見つからないことに。

 

フォーベシイが、母セージが、研究員が解決法を模索する中、

ネリネと同じ容姿の少女が言葉を発する。

 

「おじ様…私を使って」

 

「リ…リコリス?」

 

「私はリンを元に複製された。この身体も、精神も、魂もリンと一緒。

 これならリンを救えるでしょ?」

 

「…確かに、可能ですね。確率も低くはありません」

 

そう答えるのは研究員だ。重要な存在とは思っていても、

リコリスのことを実験体の2号体であるとしか考えておらず、

ただ現状を解決することしか考えていない発言。

だが…

 

「しかし…それではリコリス、君は…君の命は!?」

 

その身を差し出すということはつまり、リコリスはこの世からいなくなるということ…

リコリスのことを娘のように思っているフォーベシイにとって、それは耐え難いものだった。

 

「いいの。どの道私はそんなに長く生きていけないんだし…」

 

「っ!?知っていたのかい…」

 

「自分のことだから…元々完全じゃない技術で創られた私は、

 リンが持ってた魔力に耐えられるものじゃなかった。

 今はまだ大丈夫だけど…そんなに長くは無い」

 

自らを差し出すといいながら、自分のことを知りながら、リコリスの表情は晴れやかだった。

 

「それに私はリンと一緒になるんだから、リンと一つになるんだから」

 

眩しいまでの笑みをフォーベシイに見せる。

 

「…ありがとう、リコリス…すまない」

 

涙を流しながらフォーベシイとセージはリコリスを抱きしめる。

決まったのなら早く取り掛かろうと研究員が促すが、

 

「その前に、リムちゃんと…それから、ルビナスちゃんと話をさせて」

 

リコリスがそう頼むと、急かそうとする研究員を押し切って、フォーベシイは許可した。

 

 

「…ってわけだから。ゴメンねリムちゃん、ルビナスちゃん」

 

「…リコリス、いなくなる?」

 

生まれたのではなく人工的に創り出された少女、プリムラは、

未だ死という概念を完全にはわかっていなかったが、

今目の前にいるリコリスが自分達の前からいなくなると理解していた。

 

「う~ん…でも、私はリンと一緒になるからいなくなるわk「ダメだよ!!」

 ルビナスちゃん?」

 

リコリスの言葉を遮って、ルビナスは叫び抱きつく。

 

「そんな…リコリスがそんなことしなくても。私が…私が実験にも研究にも耐えれば…

 私の魔法が解明できればネリネもリコも助かるんでしょ!?なら!」

 

狼の体で、リコリスのことを決して離すまいと抱きつき叫ぶが、

リコリスは首を横に振った。

 

「ダメだよそれは。そうしたらルビナスちゃんが辛い目にあっちゃうよ?」

 

「そんなの…そんなの大丈夫だから!

 言ったじゃない…約束したじゃない!一緒に会いに行こうって!!

 リコとプリムラとネリネと私と、一緒に稟に会いに行こうって!!」

 

稟、その名前に始めてリコリスは笑みを崩すが、それも一瞬。

 

「うん、一緒だよ。私はリンと一つになるの。

 私とリン、二人で一人。

 だから、皆で…皆一緒で会いに行こう」

 

それは目の前で自分のことを想い涙を流してくれる親友に対しての…

本心を押し込み決意を崩すまいとする自分への誤魔化し。

そうしなければ決心が揺らいでしまうから。

 

ルビナスは言葉を発することが出来ずただ抱きつき涙を流していた…

 

 

「それじゃぁ…いいかい、リコリス?」

 

「…ハイ」

 

リコリスは手術用の、儀式用のカプセルに向け歩み、

入る直前フォーベシイに振り向く。

 

「それじゃ、おじ様…行って来ます」

 

「…ああ、すまない。リコリス」

 

辛いのを、涙を流すのを耐えながらフォーベシイは謝罪し、リコリスはそれに微笑み返す。

 

この場にはルビナスの姿はなかった。立会いを禁じられていたのもそうだが、

ルビナスが眼前で親友がいなくなってしまうことに耐えられそうに無いからと、

無理を言って研究所の外に、前研究所があった更地に来ていた。

 

見上げれば満天の星空、そして輝く満月…

 

だが、幻想的な美しい光景に反して、ルビナスの心は暗く悲しみに充ちていた…

 

またしても大切な人が失われる…

 

故郷が消え…

 

産みの親が失われ…

 

稟の両親と楓の母親が亡くなり…

 

そして今、自分達の目の前から親友がいなくなろうとする…

 

ルビナスは頬を伝い流れ落ちる涙を止めることができなかった…

 

「それでは、始めます」

 

やがてその時がやってきて、リコリスを入れたカプセルの蓋が閉まっていく。

 

閉まりきる直前、リコリスは呟く。

 

「じゃぁね…ルビナスちゃん…」

 

その場にいない親友に向け、リコリスは別れを告げる。

 

それが聞こえたかのように、ルビナスがリコリスがいなくなるのを感じ、

 

「リコ…リコ!…リコォォォオオオォォオォオオオォオオオ!!」

 

森の中、空けられた更地で、ルビナスは悲しみ、

 

月に向かって、天に向かって叫びを上げる…

 

涙を流しながら遠吠えを上げる…

 

 

~あとがき~

 

…稟とルビナスのイチャイチャラブラブな話を書きたいのに、

 

なんだってこんな悲しい場面しか無いんだー!!

 

と、ストーリー上こうしなければならないとは分かっているんですが、

 

叫ばずにいられない。

 

早く話を進めなければ…

 

でも、まだまだ掛かりそうだな。

 

未だに研究所から出られないでいるし…

 

 

それから、Tinami内を散策していた所、

 

今回のイメージにドンピシャの絵がありましたので載せます。

 

http://www.tinami.com/view/112239

 

です。インスパイアしたかったんですがTinami規定により、

 

後に出て来た作品をインスパイアすることは出来ないとのことなので、

 

この形になります。よければどうぞ。

 

そしてこの絵の作者である狗っころさんに感謝を。


 
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