No.113199

身も心も狼に 第9話:囚われからの解放

MiTiさん

今回で、このシリーズのメインヒロインルビナスは…
幸せへの第一歩を踏み出すことになる!

ではどうぞ…

2009-12-20 00:16:00 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:3130   閲覧ユーザー数:2907

[ ワーウルフ調査日誌④

 実験体2号体個体名リコリスがなくなった後、

 研究対象であるルビナスが以前以上の研究・実験に協力と進言し、

 我々はこれを承認。

 

 数日間の実験・研究を経て、我々はついにワーウルフの持つ人語を理解する魔法。

 この力は、我々魔法を使える人間が共通捨て持つ翻訳魔法に似てはいるが、

 相違点は、ワーウルフの魔法には制限が無いことである。

 対象が誰であろうと、何であろうと、相手の表層心理を解し読み取ることが出来る。

 これは無自覚無意識に作用するために、相手にも自分にも感知することはない。

 

 言葉に魔法を掛け、相手が理解できる言語に翻訳して伝える翻訳魔法に対して、

 ワーウルフの、相手の表層心理、思考、脳に入り読み取れる魔法。

 制限の無いこの力を利用して、あることが出来ることを我々発見。

 

 これを利用し、更に研究・実験を進める。]

 

 

ルビナスが研究・実験に協力、つまり、研究員連中の完全なモルモットになると告げた。

 

もっと協力していれば、もっと積極的にしていれば…

もしかしたら、ネリネを救えたかもしれないと…リコリスを失わずに済んだかもしれなかったと。

 

それは所詮可能性に過ぎず、リコリスを犠牲にネリネが救えたという結果を、

一人の王族の少女を救えた事を、せめて喜ぶほうが良かったかもしれない。

 

だが、ルビナスはそれをしなかった。自棄になったともいえる。

 

リコリスの犠牲を、ルビナスは自身の責任だと決め付け、研究員にその身を差し出した。

ハリー、マオ、フォーベシイの制止の声も聞かずに。

 

ならばせめて、ハリーとマオは、これから辛く苦しい日々が続くであろうルビナスを、

心を安らかにし、癒してあげようと一層心に強く決める。

 

そして、数日がたち…

 

 

ルビナスを見送り、研究・実験を終え、ハリーとマオの許に戻ってくるのを、

二人はルビナスの部屋で待つ。

 

やがてその時間がやってきて、ルビナスが部屋に入ってくる。だが…

 

部屋の扉が開けられ、その姿が見えたときから、

ルビナスは立っているのもやっとで、始終よろめきながらハリーとマオの傍まで歩き、

やがて二人の目の前で崩れる。

 

「「ルビナス!?」」

 

抱きとめたルビナスの呼吸は荒く、苦しげで、

毛並みは荒れ、身体は触らずとも分かるほどに衰弱していた。

 

「ハァ…ハァ…ただいま、ハリー…マオ…」

 

「ルビナス!一体何をされたの?」

 

「こんなになるまでなんて…」

 

自分達よりも強い肉体を持ち、加え身体強化の魔法を持つルビナスがここまでなることに

異常を感じ問いかけるが…

 

「大、丈夫…前よりも少しキツイだけだから…」

 

言いながら、とても苦しげに微笑む。

そんな筈は無いと問い詰めようとするも、ルビナスは既に意識を手放し、

二人に身をゆだねて深い眠りに就いていたために出来なかった。

 

報告書を読んでも、確かに血液など体液他サンプル採取量が以前よりも増えて、

内容も濃くなっている。

 

だが、これでは、これだけではルビナスがあれほど衰弱する理由にはならない。

 

 

同じような出来事が続き、もう待つだけではいられないと思った二人は、

行動を起す決意をする。

 

ルビナスに何があったかを…突き止める。

 

 

着たくはなかった白衣に身を包み、顔を隠してなるべくハリーとマオだと気付かれぬように、

研究・実験が行われている部屋に侵入する。

 

その場で二人が見たものは、

 

「グゥゥウウウォォオオオォォオオオオォオアアァァアァアアァァゥアアアア!!」

 

苦痛の叫びを上げ吠えながら拷問を受けるルビナスだった。

 

足元を見ると、噛み千切られた猿轡や引きちぎられた皮ベルトがある。

身体強化されたルビナスによってなされたものだろう。

 

今ルビナスは、更に頑丈で簡単には壊せそうに無い拘束具で身体を押さえられ、

身動きが出来ないルビナスに、灼熱・電撃・魔力弾の雨あられと、

身体強化魔法のお陰で、強い肉体と生命力があるが故に死ぬことが無い、

死ぬ直前までの虐待が行われていた。

 

やがて虐待が一時止まると、限界が遅い、ルビナスは強制的に意識を手放す。

 

「…フム。これほどやっても変化は起こらないか」

 

「強化が必要に応じ無意識に行われるならば変化も、

 と思いましたが…これまであらゆる条件で試しても変化はなし」

 

「命の危機的状況以外にも何か要素があるのか…」

 

「いずれにしても、もう少し続けよう」

 

ルビナスの許に駆けつけたい衝動を必死に抑え、

研究員達の会話を盗み聞いていた二人は驚く。

 

こんなことが既に何度も行われ、まだ続けるのかと。

 

怒り、彼らに殴りかかりたかったが、ここで出てきてはルビナスを救うどころか、

自分達がルビナスから離され、更に辛い目に合わされることになるかもと思い、

必死に押さえる。

 

 

二人が自身を抑えている中、研究員が意識を失い気絶しているルビナスに近づく。

 

これ以上何をするつもりかと二人が見る中、

研究員は何らかの魔力が込められた薬物をルビナスに投与した。

 

力尽きているルビナスは少しも動かなかったが、

投与された魔力が頭、脳に何らかの作用をもたらしたのを二人は見逃さなかった。

 

「これにて、本日の実験は終了。ルビナスを返してきてくれ」

 

それを聞き、二人は気付かれぬように退室し、早足で部屋に戻り、ルビナスを迎えた。

 

先日と同じように衰弱しきって帰って来たルビナスに何をされたのか聞いてみたが、

返ってきた答えは報告書と同じもの。

その内容にあの拷問や虐待はでてこなかった。

 

そんなものは受けていない、受けた憶えは無いような口ぶりだった。

 

これはもしや…このままでは…

 

そう思ったフォーベシイにこのことを話すことにした。

 

 

「それで、一体何はあったんだい?

 要望どおり、この部屋には今私達三人だけ。

 人払いもしているし盗聴の心配も無いよ」

 

翌日、フォーベシイを呼び、話を聞いてもらうことになった。

ハリーとマオの表情は深刻真剣で、フォーベシイもよほど重要なことだと感じる。

 

「…フォーベシイ様、貴方はルビナスにどんな研究・実験が行われているのか、

 ご存知でしょうか?」

 

「報告書は毎回目を通しているよ。以前よりも濃い無いようであるとは感じていたが…

 どうやらそれだけでは無さそうだね」

 

「はい。実は…」

 

ハリーとマオは、自分達が見た全てをフォーベシイに話した。

 

「何ということだ…」

 

「…では、あれはフォーベシイ様もご存じなかったので?」

 

「無論だ。いくらルビナスが協力的だからといって、

 私はそんなことを許可しないし、する気も無い」

 

「それでは…」

 

「ああ…これは思った以上に深刻だね…」

 

言葉通り、フォーベシイの表情はこれまで二人が見たことが無いほどに険しいものだった。

 

神界・魔界共同の二世界、いや人間界も入れて三世界の未来を担う重大な計画であり、

その最高責任者である魔王、フォーべしにも知らされていない、裏で行われている研究・実験。

ただ事ではないと三人は判断する。

 

「早急に調査する必要があるね。場合によっては…

 君達は研究所から離れる必要があるかもしれないよ」

 

「「はい」」

 

「杞憂であれば良いが…準備だけはしておいてくれたまえ」

 

その後、研究員達の、特にルビナスに関わる者達の徹底調査が行われた。

結果、フォーベシイの不安は杞憂ではなかったと思い知らされた。

 

 

「二人とも、落ち着いて聞いてくれ。

 まずルビナスに行われていたことだが、

 このことを本人は覚えていなかった。これは間違いないね?」

 

「はい、嘘を言っているとは思えません」

 

「ウム…最近ルビナスの持つ言語理解魔法について解明されたことだが、

 これは無意識かで対象の思考の表層を読み取るものだ」

 

「思考の、表層…」

 

「ああ。深層心理で思い感じ考えたことを相手に言葉や身振り手振りで伝えようとする。

 その伝えたいことを読み取るんだ。

 魔界出身のルビナスが人間界の人語を理解できたのもこの力によるものだ」

 

「なるほど」

 

「そして、ここからが重要なんだが…この力には制限が無いんだ」

 

「制限が、無い?」

 

「ああ。相手が誰であろうと何であろうと、ルビナスが望めば無条件でこの力が働く。

 そこが民家であろうと宮殿であろうと顔パスで入れるようなものだよ」

 

「これは、人に害は?」

 

「これ自体は皆無だ。私達が使う翻訳魔法とあまり違いは無い。

 問題なのは、この無条件無制限に他者の思考に入り込める力が悪用できるということだ」

 

「悪用、と言うと…?」

 

「この力に特殊な術式を組み込むことで対象への催眠・暗示効果ができるんだ。

 君達の話にもあったルビナスの頭に働いた何らかの力、恐らくこれがその正体だろう」

 

「催眠と、暗示…ではルビナスが憶えていなかったのも」

 

「これによるものだろう。ルビナスの記憶を改竄してまで秘密裏に実験を行っている連中。

 そうではないことを願っていたんだが…やつらの正体は反魔王組織であることが分かった」

 

 

「反魔王…」「組織…」

 

ハリーとマオは驚きを隠せなかった。そんな者がいることも、それが計画にいることも。

 

「反乱を起すには力が要る。そしてここではユグドラシル計画の為に、

 最強にして最大の力を制御出来る存在を創り出そうとしている。

 連中にとってこれほどの利は無いだろう」

 

「ではプリムラやルビナスは…」

 

「プリムラは大丈夫だろう。ルビナスの身体強化の魔法もあり、

 今では、アレだけの膨大な魔力に耐えられる肉体を持つのはプリムラだけだろう。

 現段階では精神的な問題から使役、制御に至っていないが、

 ここまで出来た貴重な存在だ。警戒も十二分にしてるよ。

 だが…ルビナスのほうは…」

 

「何故ですか?」

 

二人は不満や怒りを隠すことなくフォーベシイを見る。睨むと表現しても良い。

 

「連中はそして他の研究員もだが、こんな言い方したくは無いが、

 ルビナスのことを野生のサンプルとしてしか見ていない。

 たかが実験動物にそこまで気を回す必要は無い。連中はそう考えているんだ」

 

言っているフォーベシイも眉間にしわが出来、表情も更に険しくなっている。

 

「これ以上ここにいたら連中はルビナスに何をするのか分かったものじゃない。

 荷物の準備は出来ているね?」

 

「はい。いつでも出られます」

 

「ならば、今すぐ研究所を出るんだ。先方には話をつけてるから、

 君達を迎え入れる準備は整っているよ」

 

「…ルビナスの研究は?」

 

「奴等の言い方をすれば、ルビナスは一サンプルだ。

 あれば嬉しいが、ルビナスがいなくても計画の研究が出来ないわけじゃぁ無い。

 それに、いなくなって計画が遅れることよりも、

 いることで悪用されるほうが苦しいものさ」

 

「そう、ですね…」

 

「わかりました。ルビナスにも離してすぐにここを後にします」

 

「ああ…ルビナスを頼んだよ」

 

「「勿論です」」

 

 

三人が話し合った、その翌日。

体力回復の為にと理由をつけ、ルビナスの一日の休みを取ることができた。

 

連中の研究・実験で疲労が溜まっていたルビナスだが、

一日という僅かな時間ではあるが、そこから解放され一緒にいられることを喜び活力を取り戻す。

 

そんなルビナスを見て、ハリーとマオは行動を起す。

 

精神安定を図るためにと研究員から外出許可をもらい、三人は研究所を出る。

そこに待っていたのは一台の馬車。荷台にはハリーとマオが用意した荷物が積まれ、

開かれた扉が、後は乗るだけだと告げている。

 

困惑するルビナスを促して三人が馬車に乗ると、それを確認した御者が馬を走らせる。

 

「ねぇ、これってどういうこと?」

 

未だに状況を理解できずにいるルビナスに、ハリーとマオは説明する。

 

ルビナスの持つ魔法がいくつか解明されたこと。

その一つに催眠・暗示効果を持たせられること。

実は研究・実験と称して拷問まがいの虐待を行っているが、

先述の効果でその部分の記憶が改竄されていること。

 

それならば、まだ耐えられると思い、そう告げようとするが、

それよりも早く二人が言葉を発する。

 

この力が、それを持つルビナスが悪用されそうなこと。

秘密裏に研究・実験を行っているのが、クーデターを企む反魔王派の者達であること。

 

「そんな…っは!?それじゃぁプリムラは!?」

 

クーデターに何かしら利用されるということならば、

プリムラも危険なのではと思い、二人に問い詰める。

 

「ああ、安心…は出来ないわね。プリムラは心配ないわ。

 ユグドラシル計画は、今やプリムラを完成させるための計画といってもいいくらいだから」

 

「彼女を危険に晒すことは無いだろう。警備警戒も十分だ」

 

「そう…」

 

二人の言葉を聞き何とか落ち着くことは出来た。が、

同時に申し訳なさが込み上げてくる。

表情に出ていたのか、そんなルビナスを見て、二人が嗜める。

 

「プリムラを残して研究所を逃げ出して、なんて考えているようだけど、そんなことは無いからね。

 確かにルビナスの力は計画の助けになるかもしれないけど、

 そんな連中がいるんじゃ、むしろルビナスだけじゃなくプリムラも、

 果てはフォーベシイ様やセージ様、ネリネ様、魔王家に関わる全員が危険になるわ」

 

「連中が満足する結果を出せなかったことに、

 望むものを手に入れられなかったことに、

 企みを未然に防ぐことが出来たのを喜ぶべきだよ」

 

「うん、わかった」

 

 

三人が話し合う間にも馬車は進む。

研究所のある森を抜け、いくつかの街々を通り過ぎ、

だんだんと家が減り、田畑道を暫く進んで、

ようやく目的地の村が見えてくる。

 

「あれが私達がこれから住む村?」

 

「ああ、かなり田舎だけど良い村だとフォーベシイ様も言っていたよ」

 

「何でもセージ様の出身の村だそうよ。

 現王妃の出身村だから信用も出来るわ」

 

馬車は村の中の一際大きい家に着くと、

玄関で待っていた、その家主である村長を乗せて再び動き出す。

馬車の中で四人は挨拶を交わし、互いに自己紹介をするうちに、

三人に用意された家に到着した。

 

この日から、ルビナスの研究所で研究・実験に苦しむとらわれの生活から、

ハリーとマオと共に過ごす自由な、一つの家族としての生活が始まった。

 

 

第9話『囚われからの解放』、いかがでしたでしょうか?

 

やっとこさルビナスの幸せへの第一歩を踏み出すことが出来ましたよ。

 

いや~、長かった。

 

引越し先の村に関して、セージの出身村って設定ですが、

 

これはあくまで自分が勝手に作った設定です。

 

諸事情によりチクタクのゲーム、何故かプレイできなくなってしまいまして、

 

セージに関する詳しい設定が確認できなくなっちゃってまして…

 

とりあえず、Essense+から得られる情報からこういう形になりました。

 

まぁ、この村では特別なイベントは…1つありますね。

 

ネタバレって分けじゃありませんが、

 

ルビナス一家はいずれ人間界に引っ越すことになるので、

 

それまでの仮住まいって分けで、それほど多くは出てきません。多分…

 

でも、ここでの話は…ここで起こるイベントは外せないものです。

 

何が起こるかは…続きをお楽しみに。

 

ではこの辺で…


 
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