No.103010

身も心も狼に 第7話:二人の少女

MiTiさん

SHUFFLE!SSシリーズ最新話、やっとこさ更新です。

資格試験やら月末試験やらの勉強で急ピッチで仕上げた感が否めませんが…
まぁ生暖かい目で見守ってくだせぇ

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2009-10-25 02:56:58 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:4347   閲覧ユーザー数:3943

[ ワーウルフ調査日誌②

 研究対象ルビナスに、魔王の命により世話役に二人の人物が任命される。

 元ユグドラシル計画主任研究員ハリエン。

 元ユグドラシル計画副主任研究員マオラン。

 実験体第一号の両親である。

 彼らの経験から出された指示によりルビナスの生活環境を変更。

 内容は”自分達二人と共に家庭を築かせよ”であった。

 これは王命でもあったが、初期は反対者半数以上。

 だが、三日間の試行の結果、実験・研究成果の向上が見られる。

 よって、変更を正式に採用。

 ハリエン、マオランの監視共々ルビナスの研究・実験を続行]

 

 

ハリーとマオが正式にルビナスの世話役に任命されてからルビナスは明るくなった。

 

何も無かった部屋の中はハリーとマオ、そしてルビナスの生活用品がある。

 

食事を取るための机と多めに用意された椅子。

研究員が用意した栄養食ではなく、マオが作る手料理、それを三人で、

時にはリコリスやフォーベシイも加わったりする。面倒な手続き諸々の末ではあるが…

 

ハリーとマオが使用するために用意された二つのベッド。

土見家では、いつも寝ているときは稟の腕の中であったために、

就寝時の寒く寂しい時間は、ハリーかマオ、どちらかの腕の中、

親の存在、温もり、安らぎを感じながら眠ることができる至福の時へと変わった。

 

何より嬉しかったことが、以前ほどとは行かないが、リコリスと一緒にいられるようになったこと。

研究員側としては、対象がなくならなければ可能な限り大量のデータを求めていたが、

精神状態の観点から、今のやり方では逆に効率が悪すぎると二人が進言し、

そのお陰で、研究や実験の時間もかなり減った。

そして精神状態の回復ならばこのような自由な時間が不可欠という意見も聞き入られた。

 

そして、その得られた自由な時間の中で、ルビナスは二つの出会いを果たす…

 

 

「ルビナスちゃん!今日はリンちゃんに会いに行けるって!!」

 

「稟?稟がここに来てるの!?」

 

「うん?…って、ごめん…土見稟じゃなくて…リンちゃんね…」

 

「え……あ~そういえば、ネリネだったっけ?名前の字の中にリンがあったからその呼び方をしようって」

 

「そうそう、紛らわしくてごめんね…

 体がちょっと弱くてよく風邪を引いちゃうんだけど、今日は調子がいいから会える許可がもらえたんだ!」

 

「…でも、私が会ってもいいの?」

 

「もちろん!リンちゃんもルビナスの話をしたら会いたいっていってたよ」

 

「…うん、それじゃ…いい?」

 

それは、リコリスを加えた4人で食事をしていたときに行われていた会話。

強請るようなルビナスの要望に対して二人は笑みで返した。

 

「もちろんだよ。と言うより…これは僕達がお願いしたことでもあるからね」

 

「ルビナスにはね、私達やリコちゃん以外の人とも接して欲しかったの。

 それも他人としてではなくて家族や友人としてね。

 フォーベシイ様は快く了承してくださったし、研究員の方は適当に理由をつけて許可は取ってあるわ」

 

「と言うことで、後はルビナス自身の意思ってことだったのさ」

 

二人の言葉を聞いていくうちにルビナスの瞳は、断られる不安から出るくらい色から喜びによる明るい色へと変わる。

 

「じゃぁ、答えは決まってる!私はネリネに会いたい!!」

 

「うん!それじゃ行こう、ルビナスちゃん!」

 

思い立ったら、了承が得られたら、反対無しなら即行動。

二人は嬉々として扉を開け放ち、リコリスの走る後をルビナスが追っていく。

そんな二人の後姿を微笑ましく思いながらハリーとマオもその後を追う。

 

 

リコリスに案内された部屋はルビナスに宛がわれた部屋とは比べ物にならなかった。

家具、装飾品、生活用品、カーテンや照明器具、それら全てが豪華なものであり、

机の上には新鮮で色鮮やかな果物の山が積まれ、ベッドの横の小机には澄んだ水が入った容器とコップがある。

なんとも生活感を感じられる空間だろう…ルビナスは改めて研究員の自分に対する認識を思い知り、

その状況から救い出してくれたハリーとマオに感謝した。

 

一通り部屋を見回した後、ルビナスは下半身を布団で被い上半身だけを起しているネリネの方を見る。

瞳の色以外リコリスと瓜二つの少女は、リコリスと話せるこの時間をとても嬉しそうにしている。

やがてリコリスが手招きしてきたので、ルビナスは傍によってくる。

 

「リンちゃん、この子が話してたルビナスちゃんね♪」

 

「よろしくネリネ」

 

「うん、よろしく」

 

リコリスのような天心満蘭と言った感じとは異なり、

ネリネは儚げながら優しい笑みをもって応えた。

 

数時間に渡って3人は、時にはハリーとマオも混ざって5人で談笑した。

やはりと言った感じか、稟に関する話題のときが一番盛り上がった。

 

その楽しい一時はネリネの咳によって幕を閉じた。

大丈夫と言い張ってはいたが、マオが額に触れてみた所僅かだが熱があったためお開きとなった。

 

「あ~あ、結局ちょっとしか話せなかったね」

 

「…ごめんね、リコちゃん、ルビナスちゃん…私がこんなだから」

 

「ネリネの所為じゃないよ…とにかく早く直しちゃってまた一緒に話そう?」

 

「うん」

 

やがて主治医が到着し、4人は別れることとなる。

 

「またねネリネ」

 

「今度はもっと話そうね♪」

 

「うん!」

 

互いに笑顔を見せながら3人は別れた。

出会い会話したのはほんの数時間…

されどその数時間はルビナスにとってとても大切で幸せな時間であった。

 

 

ネリネと会ってから数日たったある日…

あれからまた体調が悪くなったのかネリネにあえない日々が続いていた。

会えないことを寂しく思っていたある日、ルビナスはリコリス・ハリー・マオに、

是非会って欲しいという少女の所に来ていた。

 

少女の名はプリムラ。ユグドラシル計画実験体の3号体。

男性と女性が結ばれて生まれたのではなく、何者かの遺伝子をコピーして作ったのでもなく、

一から作り出されて生み出された存在。

彼女を作る際、ルビナスで研究・実験し得られた成果が使われているとも教えられた。

これもプリムラに会って欲しい理由の1つではあったが、

彼女にあって欲しい一番の理由は、現在の彼女の境遇だ。

 

彼女の境遇、それはかつてのルビナスと同じもの。

寄り添い温もりを与えてくれる親もおらず、

手を取り安らぎを与えてくれる友人もいない。

あるのは自分がいることだけが出来る場所とモノ。

自分のことを何も思わず考えず、ただ目的のために自分の体を好き勝手する人間。

 

だが、ルビナスとプリムラには決定的な違いがあった。

それはハリーとマオの存在。親と言う存在。

プリムラにも、彼女のことを気にかけてくれる者は少なからずいたのだが、

その誰もが彼女のことを貴重品かつ危険物扱いして、ハリーとマオのように親身になってくれるものはほとんどいなかった。

 

この境遇がハリーとマオにとっては放っておけないものだった。

二人は計画に関わること辞退を避けていたが、フォーベシイの要請でルビナスの存在を知りここに戻ってきた。

そして、研究所で生活し、僅かながらでも計画に参加していれば必ずプリムラのことを知ることとなる。

 

ルビナスもこの話を聞いて他人事のように取れずプリムラにあうことを決意した。

そして約束の翌日、ルビナスは少し前の自分と…僅かなつながり以外を全て失ったかつての自分と出会った…

 

 

彼女、プリムラはルビナスが想像していた以上にひどかった。

何も知らないが為に、何事にも興味を持たず持てず…まるで人形の様…

 

4人が入る少し前、プリムラはこれから他人に会うので、その前に精密検査が行われていた。

体の各所を研究員に調べられているのだが、どこを何されようと本人は気にしてさえいなかった。

 

やがて検査が終わり検査を行った研究員と入れ替わるように4人が入る。

 

「やっほリムちゃん!」

 

そこれやっと、リコリスの声を聞いてやっと人らしき反応を見ることが出来た。

同じユグドラシル計画の実験体、それなのにリコリスは余りに自分と扱いが違うプリムラのことをいつも気にかけていた。

プリムラは何も知らない。だからこそリコリスは彼女に多くのことを話す。

その部屋が世界であるプリムラにとっての外の世界を、リコリス達がいる世界のことを。

リコリスの話を聞いているときこそ、リコリスがいるその時こそ実験体という人形ではなくルビナスという少女でいられるときであるのだ。

 

「…………お姉ちゃん…」

 

本当に消え入りそうな声でかすかに反応を示す。

だが、先程研究員にされるがままになっていた時より少女らしかった。

 

「今日はね私の友達に来てもらったんだ!」

 

「……その犬?」

 

「犬じゃなくて狼ね。はじめまして私はルビナス」

 

普段どのような話をするにせよ、動物の話をする際は猫か犬についてがよく話される。

以前に持ち込んできてくれた本で犬について教えてもらってはいた。

記憶にある犬の容姿に似ていたのでルビナスを見て実物の犬が見れたと表面には出せないが何かを感じた。

が…目の前の”狼”は自分が犬であることを否定した。

 

「…狼って…話せるの…」

 

「ううん。これはねルビナスちゃんが特別なんだ!」

 

「…特…別…?」

 

「うん♪」

 

ルビナスのことを嬉々として話していくリコリス。そんなリコリスを見てプリムラは更に興味を持った。

外見からではプリムラの感情を察知することは難しいが、目の前にいるのは姉のような存在であるリコリスと、

人間界で稟と共に暮らしていたために彼の影響(いい意味)で他人の心に敏感なルビナス。

この二人だからこそプリムラと会話できたのだ。

 

その後も三人はいろんなことを話していく。内容はもっぱら稟と猫のことだが…

リコリスが人間界でその可愛さに惚れてしまった猫のことを。

ルビナスが共に暮らしていた稟のことを。

二人の話を、自分の知らない世界のことを聞いていくうちに、プリムラは何かを得ていく。

 

 

楽しい時間はあっという間に過ぎていくもの…

「そろそろ時間だ」と研究員が告げに来るまで三人は(二人がプリムラに語っていく形だが)語り合った。

 

別れる間際、リコリスは用意していたあるものを取り出す。

それは人間界で稟から受け取った猫のぬいぐるみ。

僅かな間だが、稟・ルビナス・リコリスが一緒にいたという思い出の品。

 

「今日はこれを渡したかったんだ」

 

そう言いながら優しい笑みでプリムラにぬいぐるみを差し出す。

ぬいぐるみに触れながら、プリムラはもらっても良いのかと視線で問いかける。

 

「本当なら本物を連れてきたかったんだけどね。

 でもこれは私達の思い出、大切な思い出…

 いつも傍にいられない私達の代わりになるとは思えないけど、

 これで少しだけでも寂しさがなくなると嬉しいな♪」

 

リコリスは笑みで答えた。ルビナスに視線を向けると彼女も頷いてくれた。

プリムラは三人の思い出の品を、とても大事そうに愛おしそうに抱きしめる。

表情こそ読むことは難しいが、その仕草から彼女が喜んでいると分かり、

渡してよかったと二人は思った。

 

「でも、いつか私達皆が一緒になれるといいね」

 

「うん!リムちゃんにルビナスちゃん、私とリンちゃん、それから稟君♪

 会えると良いね…というか会おう!」

 

「…私も?」

 

「もちろん!」

 

帰る約束をしたルビナスと、楽しい未来を期待するリコリスと、二人のお陰で心を得たルビナス、

それは三人の願望と約束。

 

 

 

 

 

だが、それは…果たされることはなかった…

 

 

『二人の少女』いかがでしたでしょうか?

 

次の話を書こうとし、それに巧く繋げようとしたらこんなにも短くなってしまった…

 

と言うか、もしここで切らずに書き続けていたら次の投稿が何時になるのやら…

 

全く、自分の文才の無さにはいつも悩まされますよ。

 

さらにはショタ一刀シリーズにちょいと始めたチェンジシリーズ。

 

長編ではなくギャグを寄せ集めたいわゆる短編集ではありますが、

 

それでも書き上げる数が半端無くて困って困って…自業自得ですが…OTZ

 

と愚痴っても仕方ない、始めたからにはちゃんと完結目指し頑張ります。

 

 

で、今回出会いを果たしたルビナスとネリネ、プリムラ。

 

が…その喜びもつかの間…

 

次回起こるのは彼女達にとって最も辛いあの出来事…

 

ルビナスと言う存在が加わっても変えられなかったあの辛い出来事…

 

 

それでも話は続きます。皆さん次の話はハンカチを用意してお読みください…


 
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