継い姫†無双の外伝で
対姫†無双、追姫†無双の続編です。
対姫†無双1と3の夢編、5で説明された蜀√が舞台です。
詳しくは対姫†無双、追姫†無双をお読み下さい。
scene-執務室
「ご主人様たいへんっ!」
桃香とともに蜀の王として華琳、雪蓮や蓮華達と歓談していた一刀を蒲公英が呼びに来た。
五胡との壮絶な戦いから半年。
三国の平和を祝う祭りがここ蜀で行われようとしていた。
「どうしたたんぽぽ?」
「それが……」
チラリと華琳を見て口ごもる。
「うちの者がなにかしでかしたかしら?」
華琳が春蘭を思い浮かべながら聞く。
ついでに仕置きのメニューも考えながら。
「あの……愛紗と許緒が……」
scene-城庭
「構えろ許緒!」
青龍偃月刀を手に敵意むき出しでそう言う愛紗。
「……」
挑戦された季衣の方はと言えば、無言で腕を組み考え中。
「何があった?」
「ご主人様」
駆けつけた一刀たちに翠が説明する。
「許緒がご主人様のことを聞かせろとしつこくって、愛紗が怒ってあんなことに」
「なんでそれぐらいで愛紗が怒るんだ?」
「それぐらいじゃないぞ! あいつは……許緒は張飛の仇だろ。その仇にご主人様の話をしたくない愛紗の気持ちもわかってやれよ!」
「だから止めないのか翠?」
「……割り切れないのはあたしも同じなんだ。張飛とは最後にちょっと会っただけだけどさ。新参者のあたしにもご主人様を託して死んでいったのを覚えている」
「でも、これじゃ喧嘩だろ? 天下一品武道会で決着つければいいじゃないか」
一刀が提案する。
なんといっても季衣は魏の将軍である。
蜀の将軍の愛紗が喧嘩するとなってはまずい。そういう判断であった。
一刀としても鈴々の仇というのはわかっている。
だが、やっと訪れた平和を乱したくはなかった。
「無理ね」
一刀の提案を否定したのは華琳。
「季衣は天下一品武道会に参戦しないもの。そうよね?」
「はい」
主に問われ、やっと口を開いた季衣。
「ボクはその時同時に開催される大食い大会に出ます」
「あ~、それお姉様もどっち出るか迷ったんだよね~。お姉様、代わりに勝負してあげれば?」
「うるさい! そんなんで決められるか!」
翠が蒲公英を怒鳴った。
「わかった。華琳さま、いいですか?」
「ええ。好きになさい」
華琳に許可をもらった季衣。
「それじゃ稽古をつけてやる。訓練用の武器のあるとこへ案内して」
「別に私は真剣でもかまわない」
「バカなのだ、死なれたらお兄ちゃんのことが聞けないのだ」
愛紗の挑発に、いつもと違う口調で答えた季衣。
scene-武器庫
「ここからあっちまでが訓練用の武器」
武器を選ぶ季衣を蒲公英が案内する。
「でも、鉄球はないよ」
季衣の武器を気にしてそう言った。
「あった……」
「それは! ……誰も使わないんだ。でも捨てようとか、別のとこに仕舞おうとかはないんだよ」
季衣が見つめていたものに気づいて説明する。
「え? ……泣いてるの?」
蒲公英にそう言われ、慌てて涙を拭う季衣。
そしてソレを手にとり、感触を確かめた。
「よし!」
なにか言おうとした蒲公英を置いて、庭へ季衣は急いだ。
scene-城庭
「待たせたのだ!」
いつのまにか観覧席が用意された庭。
各国な主要な将が観戦しようと待っていた。
「なに持ってきてやがる!」
翠が吠える。
「貴様! どういうつもりだ!?」
愛紗も怒りを隠そうともせずに問う。
季衣が手にしているのは蛇矛。
季衣が殺した張飛の愛用の武器。
蛇矛自体はその戦いで折られたが、訓練用の蛇矛は張飛が生きて辿り着けなかった成都にも用意されていた。
「それは鈴々のだ。貴様が使うことは許さぬ!」
怒る愛紗に対し。
「情けない」
季衣はそう一言。
「なんだと?」
「情けないと言ったのだ!」
「貴様!」
「鈴々と紫苑がいないぐらいで、お兄ちゃんに大怪我させるなんて情けないのだ!」
季衣の言葉に愛紗も青龍偃月刀を手に取る。
「二人の真名を口にするか!」
「こい! 鍛えなおしてやるのだ!」
手の平を上に向け、クイクイっと指だけを曲げて手招きする季衣。
「季衣があのような挑発をするとは……」
即席の観覧席で始まった戦いを見ながら悩む春蘭。
「らしくないな。姉者の言うとおりだ」
秋蘭も同意する。
「そうなのか? 許緒って蛇矛も使えるのか?」
一刀の質問に。
「初めて見るわ。けれど様になっているわね」
「様になっているというよりもむしろアレは……」
華琳が評価すると、星が印象を言おうとして止める。
「星?」
一刀が星に囁く。
「なんですかな?」
「いつもならこんな場面だと必ず出てくるんじゃないか?」
「はて?」
華蝶仮面はどうした? との問にとぼけながらメンマをつまむ星。
「主もどうですかな?」
一刀にメンマを勧めて。
「このメンマは典韋より受け取った物です」
「典韋から? ……美味っ!!」
「許緒と同じ理屈ならば、紫苑を殺した典韋とも戦いがおこるでしょうな。けれど私は典韋が憎いとは思えぬのですよ。許緒も同じく」
「メンマで買収されたのか?」
一刀がそう言うと。
「何を勘違いなさる。このような絶品のメンマを作る人物とは愛紗たちとも仲良くなって欲しいのですよ。それにはあのような交流も必要というもの」
「交流? ……そういうものか?」
「馬鹿な!」
青龍偃月刀を振るいながら愛紗が迷う。
季衣の動きに幻惑されたからではない。
その動きを知っているから。
「そっくりだ」
「同門だったの?」
「でもそれなら愛紗だって知ってるはずだろ?」
猪々子が、蒲公英が、白蓮が、蜀軍の武将が動揺していた。
季衣の蛇矛に今は亡き鈴々の動きを思い出して。
「そこまで!」
何合、何十合かの後、動揺からか愛紗が偃月刀を弾きとばされると華琳がストップの声をかけた。
「まだだ!」
「待て。少しは落ち着け」
桔梗が愛紗を止めた。
「許緒も疲れたであろう? 次は別の者どうしではどうかな?」
「別に疲れてないのだ」
「そう言うな。わしとてな、戦いたい相手がおるのよ。なあ典韋よ」
そう流琉にふる。
「あらあら。どうしましょう」
そう言いつつもすでに流琉は武器を手にしていた。
それはいつもの円盤ではなく。
「弓だと!」
愛紗がさらに声を荒立てる。
「ほれ、どうやら典韋もそういうつもりらしい。ここはわしの番ぞ」
「くっ。許緒よ、二人の勝負が終ったらすぐにでも続きをする!」
愛紗は言い放つと観覧席へと向かった。
「あいかわらず怒った顔も可愛いわね」
「……主従揃って愚弄なさるか」
華琳をギロリと睨むが。
「愚弄じゃなくて本心よ。まあ、その顔も可愛いけれど、私としてはもっと可愛い顔を見せてもらいたいものね。閨で♪」
「ふん!」
「あんまり愛紗を刺激しないでやってくれ」
一刀が間に入る。
そして場をなごませるつもりで言ってしまった。
「でも弓将ってみんな胸が大きいわけじゃなかったんだ」
「そういえば桔梗さんも祭さんも大きいよね。……紫苑さんも大きかったし」
桃香がそう相槌を打つ。
「ほう。北郷は胸の大きさが弓の腕に関係すると言うのか?」
主の怒りを察した秋蘭が一刀に問う。
「いや、弓の邪魔になりそうな気がして不思議だったんだ……けど……」
いつのまにか華琳が弓を手に弦の具合を確認してるのに気づいた。
「そう。胸の大きさなんて弓の腕に関係ないと証明してあげましょうか?」
「え、遠慮します! って言うか! きっと典韋が!」
身の危険をやっと察知した一刀は必死に誤魔化そうとするのだった。
「さて、典韋よ。勝負といこうぞ」
「ええ」
流琉と桔梗の戦いが始まる。
「あの動き……黄忠と同じ?」
蜀の武将だけでなく、秋蘭もそれに気づいた。
体格や弓こそ違えど、流琉の動きは紫苑のそれと同じ。
「あの戦いで覚えた、とでもいうのか?」
「どうやら思った通りらしいの」
「あら、わかりました?」
お互いに矢を放ち、かわしながら会話を続ける二人。
激しい攻防に見えて、流れ矢の一本も観覧席へとは飛ばない。
「何年の腐れ縁と思うておる?」
「本当はご主人様に一番にわかってもらいたかったですのに」
「仕方あるまい。お館様は鈍感であるからのう」
「ふふふふふ」
「ははははは」
二人して笑いあう。
攻撃の手は休めていなかったけれど。
「なにを戯れているのだ、桔梗は」
「まさにじゃれ合ってるわね」
愛紗と華琳が呆れる。
「弾切れですわ」
「わしもだ。引き分けとはしまらぬのう。ならば次は酒で決着をつけるとしようぞ」
同時に矢が切れ、二人の勝負は終った。
「残念ながらそれはちょっと」
「なんだ紫苑、情けないことを言うではないか」
「桔梗様、黄忠と典韋の区別がつかなくなるなんて……」
二人の会話を聞いた焔耶が涙する。
「でも気持ちはわかるな。だってそっくりだったよ~」
「ああ。身体が小さくなければ私だって見間違えたかも知れない」
蒲公英と白蓮がやはり涙しながらそう焔耶を慰めた。
「何を泣いておるたわけども! わしはまだボケてなどおらんわ!」
桔梗が一喝する。
「け、けれど典韋のことを」
「おう。あのバカめ。成仏できずに典韋に乗り移ったらしいぞ」
焔耶に笑いながらそう説明する桔梗。
「桔梗様、そんな風に思い込んで……ううううう」
まだ桔梗がおかしくなったと思って泣く焔耶。
「本当ですわ。というかバカはあんまりよ、桔梗」
そう流琉が言い出したので城庭の騒ぎはもっと大きくなるのだった。
「そんなことを信じられるか!」
愛紗がそう声を上げる。
「自分を殺した相手に乗り移るなど、馬鹿にするにもほどがある!」
「愛紗は執念深いから、乗り移った上に呪い殺すぐらいはしそうなのだ」
季衣が愛紗をからかう。
「貴様は鈴々のつもりか? ふざけるな!」
「ふざけてなどないのだ! あいかわらずわからず屋なのだ!」
睨みあう愛紗と季衣。
すぐさま戦い始めそうなそこへ乱入者があらわれた。
人ではなく犬であったが。
「コリン! 元気だったのか~?」
「恋が面倒見てた」
犬の後から恋があらわれる。
「ありがとうなのだ!」
ペロペロと犬に顔を舐められながら礼を言う季衣。
「……鈴々死んでからずっと元気なかった。こんな元気は久しぶり」
「鈴々……なのか?」
おそるおそる、といった感じで一刀がやってきた。
「おうなのだ!」
「ご主人様!」
愛紗の静止も聞かず、季衣を抱きしめる。
「鈴々!」
「お兄ちゃーん!」
「う、うううぅ……」
泣き出してしまう一刀。
季衣も犬を放し、一刀にしがみついて泣いている。
「鈴々ちゃん」
「鈴々」
周りの皆も泣いていた。
愛紗だけはバツが悪そうに困っていたが。
「これでやっと約束が果たせるのだ!」
「約束? そうかそれが未練で……」
「鈴々と、にゃんにゃんする約束なのだ!」
季衣の言葉に泣いていた皆の動きが止まる。
「はわわ、ま、間違いなく鈴々ちゃんです」
朱里がそう断言する。
「ご主人様! 鈴々とそんな約束をしていたのですか!」
愛紗が一刀に詰め寄る。
「あ、あれ? 鈴々だと信じていないんじゃ?」
「あのようなことを恥ずかしげもなく言えるのは鈴々しかおりません! それよりも今の話を詳しく聞かせてもらいます!」
「鈴々を大人にしてくれる約束なのだ! ……にゃ? ボクも兄ちゃんにオトナにしてもらうの?」
憑依した鈴々の宣言の後、元の季衣に戻ったらしい。
それでさらに愛紗が悲鳴とも怒声ともつかない声を上げる。
「ご主人様!?」
「あらあら、むこうは大変みたいねえ」
「お母さ~ん」
璃々を抱きしめている流琉。
「……あの、もしかしてわたしも? ……ええ、そうね。季衣ちゃんの鈴々ちゃんと、桔梗とどっちと一緒がいいかしら? ご主人様ならみんなでも……えええええっ!?」
璃々をなでる手はそのままに、紫苑と流琉が切り替わり、赤くなったり、艶っぽくなったりコロコロと変わるのであった。
<あとがき>
外伝というか、番外編ですね。
こっちでも続きは書けそうかも。
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