アークは給与明細をカバンの中に仕舞うと、別の書類をカバンから取り出しました。
「今日の公演には僕が代役で出ます。長台詞や途中の会話は記憶が曖昧な部分が多いので、アドリブで繋がせてもらいますが、この誓約書に劇団長殿がサインしてください」
「これは…。こんな条件飲めるか!」
「僕が代役に出るだけで二千万の損失を防げるんです。悪い条件ではないでしょう?それとも払い戻しと裁判を起こして弁護費用にも浪費なさるおつもりですか…」
「しかしこれはルーク・マルヴェールに支払う予定の給料の十倍じゃないか?」
「僕は九万九千九百九十九ジェニーぽっちの端金でこんな面倒な仕事はしたくないんですよ」
「違約金を支払わないだけでもガメツイ奴だと思ったが、給料を十倍に値上げ交渉してくるとは…。やはり政治家は金に汚いな!」
「あなたにだけは言われたくないですね?ルーク主演で普段のチケット代の二倍以上も稼いでおられる癖に、ルークに支払う給料は助演女優より少ないのは調べはついてますよ」
アーク相手では分が悪いと思った劇団長は泣く泣く誓約書にサインをしました。
「通し稽古もせずに大丈夫でしょうか?」
「時間がないのでしょう?スタイリストに妻も呼んで置きましたので、劇場の前に来ているはずです」
「ルシファーの衣装は、こちらでご用意してありますが、サイズが合うかどうか…」
「息子と同じサイズで大丈夫です。最近の子供は発育が良いので、僕と同じサイズですよ?」
ナタが役者の控室まで呼ばれて、アークの髪型をメサイアのライヴの時と同じ爆発ヘアに変えました。
「あの台本、アークが朝に誓約書を作ってる時に目を通したんだけど、かなり際どいわね…」
「嫌なら観ない方が良いと思うよ?」
「うーん、でもお芝居だからしてるフリするだけなんでしょ?」
「演技でもそれなりに見える様にしなきゃならないけどね」
アークの迫真の演技はルークを超えるセクシーさだったとファンの間では噂が広まりました。
「あの時のチケット、原価の十倍になってたんだけど、無理してでも観に行くべきだった!」
「アドリブが神がかってたって聞いたわ…。流石、本物のアーク様。息子を超えてる!」
「復活コンサートは絶対に観に行かなきゃ!」
…つづく
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一応、新シリーズだけど本編の第3部・第43話。