弱気な態度のルークを見ていて、魔術師はすっかり強気になってしまいました。
「契約破棄さえしなければ、いくらでもお金は差し上げます。月給二億でも三億でも!」
「そんなお金はいりません…。僕がやりたかったのは昔のルシファーがやっていた書類を作るような普通の仕事です」
「総帥の座に就くのが嫌だと言うだけなら…ごく普通の一般職員の椅子もご用意出来ますが、その際の給料は一般職員に支払われる三十万程度になりますね」
「あっ、それなら怒られないかも…。ちょっと妻に相談して来て良いですか?」
「あなたも大人の男ならば妻に頼らず、ご自分の意思でご決断なさってください!」
中身は九歳の子供であるルークには、難しい決断を迫られると焦りが生じていました。それを魔術師には見抜かれてしまったようです。
「わ、わかりました。家計が火の車なのは、前から知っていましたし、妻の養母であるフラウ様は僕が働く事に賛成している」
「マルヴェールは王家ではないのですか?なぜそんなに家計が火の車なのでしょう」
「フラウ様は一般職員と同じ額の給料しか受け取っていないんです…」
「なぜです?一国を治める女王が月収三十万などあり得ません!三億はもらってしかるべきなのに…」
「ゼロの数が違いすぎて…。僕には驚く話ばかりです」
「ルシファー様ほどのお方ならば、もっと上の職に就くべきなのですが、ご希望通り一般職員の椅子をご用意しておきます。明日の朝からアラヴェスタ城に出勤してください。重役ではないので遅刻はされないように、よろしくお願いします」
「重役は遅刻しても良いんですか?」
「総帥が遅刻して叱るような上官はいませんからね…」
「なるほど。一番偉いから叱られる事がないわけですか?」
「こんな良い話を蹴られる理由が私にはわかりかねます…」
帰宅したルークはアークの衣装ケースが積み上げられた物置で何やらごそごそ探し物をしていました。フラウに支えられてナタが覗き込みます。
「そんなところで何を探してるの?」
「明日からアラヴェスタ城に出勤しなきゃならないからネクタイを探してるんだ…」
「総帥になる件は断ったんじゃなかったの?」
…つづく
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どうしても書きたくて書いた裏の続き、第57話。