アラヴェスタ・タイムスの臨時版がまた飛ぶように売れていました。アークに投票した若者が歓喜していますが、年寄りは眉をひそめています。
「やはりアークが議員に当選して良かった!」
「税金は上げずにトーナメントくじを公の場で販売するとは…。一体、最近の若い者は何を考えとるんじゃ?」
その日の晩の一家団欒でゲイザーは深くため息をついています。
「アーク殿にしてやられた…。今まで私のそばにいて、私のやり方を見て来たアーク殿だからこそ、私が手も足も出ない提案を出せたんだ。一番やりにくい相手だよ?」
「ゲイザー様がディベートで負けてしまわれるなんて…。アークは一体、どんな提案をしたのです?」
「このアラヴェスタ・タイムス臨時増刊号に載ってるよー?なんかトーナメントくじを販売して優勝者は議長に昇格するんだってー!」
ナタは学校帰りに買ってきた臨時版をフラウに手渡しました。フラウは急いで目を通します。
「こんな提案が通ってしまうなんて…。マルヴェールでは公の場でのギャンブルは禁止されてますよ」
「トーナメントくじは絶対に儲からないギャンブルなんです。私はギャンブラーですがトーナメントくじにだけは手を出しません」
「おじさんってギャンブラーだったんだ?意外だわ…」
「わかりやすく説明するとね、トーナメントくじの主催者は必ず九割儲かる仕組みなんだよ」
「九割も?でも当たった人はたくさん儲かるんじゃない?」
「私は計算はあまり得意ではないけど、例えばポーカーならどんな下手な人でも掛け金の七割は取り戻せる。私なら九割に抑えるけどね…」
「えっ、そんなに取り戻せるの?下手な人はもっと負けちゃう気がするけど…」
「あくまでもどんぶり勘定だけどね?ポーカーのダブルアップの場合、ハイアンドローと言うゲームをするのだが、これはディーラーのめくったカードを見て、プレイヤーはハイまたはローと答える」
「あっ!そうか…。トランプは十三までしかないから、七だと五分五分だけど他の数字なら当てられる確率上がるね」
「その通り。つまり七割は絶対に勝てる。十回やれば七回勝てるわけだから効率良く稼げるってわけさ?」
「でもギャンブルですってんてんになったって言ってる、知らないおじさんを街でよく見かけるよ?」
「それは降りるタイミングを見誤ってるんだ。ある程度勝てたらダブルアップを降りないと、掛け金はすべて没収されてしまうからだよ?」
「ふーん、じゃあトーナメントくじはどうして儲からないの?」
「トーナメントくじのオッズは主催者側が決めるわけだけど、配当金の一割しか返還していないんだ。例えば一億枚の投票券が売れたとしても売り上げの百億を全部返還することはない。十億の配当金をオッズで調整して返還しているんだよ」
「えっ、それって…ほとんど詐欺なんじゃ?」
「だから私はトーナメントくじだけは絶対に手を出さない。例え百億で一億枚のくじを買ったとしても、十億しか儲からないのに、くじなんか買う方が馬鹿らしいだろう?」
「それじゃあなんでトーナメントくじなんかやりたがる人いるのー?」
「ははは、それは夢を買ってるんだ。低所得者の中には一攫千金を夢見てる人が多いから、たった一枚で十億が手に入ったら…って言う夢を買うならオススメするよ?」
「うーん、じゃあ私も一枚だけ買ってみようかなぁ。おじさんも出るんでしょ?そのトーナメントに」
「アーク殿はそれを狙ってるんだろうね。しかしナターシャは未成年だから投票券は買えないよ?購入出来るのは二十歳以上からになっている」
「そうなんだ…。未成年者ってつまんなーい!早く大人になりたいよ」
「大人になったら子供に戻りたくなるんだけどね」
…つづく
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書き残してしまったことを書きたくて考えた本編の続き第147話です。