時間は現代に戻ります。ゲイザーの自宅でユリアーノは暮らしていました。しょんぼりした様子のユリアーノが帰宅します。
「うーむ、この歳になってナンパをすると言うのは難しいものじゃな」
「お師匠様もフォン様に、おじさんと同じ試練を出されたの?」
ナターシャがお出迎えしながら尋ねます。
「フォンが嫁と仲良くしておるのを見ているとわしも嫁が欲しくて堪らなくなってしまったんじゃ…」
人間の姿のユリアーノはちょっと渋目の色男でした。ゲイザーは声を聞いてやっとユリアーノだと気付きます。
「ユリアーノ様ほどのお方なら、お若い頃にさぞかし、おモテになったでしょう?」
「それが全くモテんかったんじゃ。王宮の侍女たちには話しかけても、すぐ逃げられてしまってのぉ。家では魔法の勉強ばかりしておって友達と外で遊んだ事もなかったから、人付き合いが苦手じゃったし…」
「ああ、私と同じですね。とりあえず恋愛小説を読んで、同じ台詞で口説いて見ましたが、笑われてしまいましたよ」
「ゲイザー殿もわしと同じ過ちを…」
「おじさん、お師匠様、一体なんて言って口説いたのー?」
「恥ずかしくてとてもここでは言えません…」
「右に同じく、わしも口が裂けても言えぬわ」
「ゲイザー様がどんな口説き文句を言われたのか気になります。一度で良いから、私の事も恋愛小説のように口説いて欲しいです」
フラウが目を輝かせながらゲイザーに頼みました。
「勘弁してください…」
「私も今後の参考に聞いておきたいです」
アークも興味津々と言った様子でゲイザーに尋ねます。
「そう言えばアーク殿は想いを寄せている女性がおられると言っていましたね。一体、誰なんです?」
「いえ、私の片想いですので、想いを打ち明けるつもりはないのです」
「わしも若かりし頃は王宮のマドンナに想いを寄せておったのじゃが、結局気持ちは伝えずじまいじゃったな」
「ユリアーノ様もアーク殿も思い切って想いを伝えてみればよろしいと思いますよ?意外と上手く行ったりするものです」
「うむ、既婚者のお主が言うと説得力があるわい」
「私は絶対に叶わぬ恋なので…」
「アーク殿、それは相手が既婚者だと言う事でしょうか?」
「いえ、私よりずっと目上のお方ですからね」
「ああ、ミカエル様とか言う天界の偉いお方の事でしょうか?」
「ミカエル様は男性ですよ?」
「ミネルヴァはもう結婚しておるのかのぉ。ミス・アラヴェスタコンテストで優勝した美女だったんじゃが、騎士団の者からも一番人気があったから、わしにとっても高嶺の花じゃった」
「ミネルヴァさんと言う方がユリアーノ様の想い人なのですね」
「もう三十年も前のことじゃから、わしの事など、とうに忘れてしまっとるじゃろうな」
「王宮でまだ働いていらっしゃるかもしれませんね。私が宮廷楽士になったら、ミネルヴァさんがいないか、侍女たちに聞いて見ますよ?」
ゲイザーはアークとリュートの練習を始めました。明日は路上ライブをする予定だからです。
「今はわしと同じ五十になっとるから、あの頃の面影はもうないかもしれんがな…」
「ユリアーノ様は五十になっても十分魅力的であらせられますので、ミネルヴァさんも素敵なマダムになっておられる事でしょう」
「今更想いを伝えたとしても上手く行くとは思えんが、逢ってみたい気もするのぉ」
…つづく
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昔、書いていたオリジナル小説の第119話です。