ユリアーノがフォンの邸に遊びにやって来ました。サラは酒と肴を盆に乗せて運んで来ます。
「それにしても良い嫁を見つけたもんじゃな」
「フハハ!お前にもわかるか?ユリアーノ…」
「婚礼の儀の招待状は、わしにも出してくれれば良かったのに、水臭い奴じゃのぉ」
「お前がどこに住んでおるかも知らぬのにどうやって便りを出せと言うんだ?」
「言っておらんかったかの?わしの住んでおった塔は割と有名じゃと思っとったんじゃが…」
「アラヴェスタでは有名なのか知らんが、マルヴェールにはアラヴェスタの噂は流れて来んからな…」
「わしも嫁を見つけた方が良いじゃろうか?」
「お前もわしもまだ五十ほどだから、嫁をもらうには遅くはない。人生はまだこれからだ…」
「もう諦めておったが、幸せそうなお主の顔を見ておると、わしも嫁が欲しくなってきおったわい。どこかに良い女がおらんか探してみるとするかのぉ」
「わしらは鼻が効くからな。本当に良い女ならば匂いですぐわかる…」
「うむ、サラ殿は本当に良い香りがしておる」
「フォン様、ユリアーノ様、それはきっと香水の匂いだと思います…」
「いや、香水の匂いではない。そんなものでは我々の鼻はごまかせんよ?」
「むしろ香水の匂いは邪魔だ。そんなもの付けなくて良いぞ?」
「フォン様が香水の匂いをお好きではないと仰るのなら、付けるのをやめます」
「ところでユリアーノ。お前はなぜマルヴェールを去る事にしたんだ?突然、置き手紙だけ残して姿を消したから心配したぞ」
「森の中でナターシャを拾ったのでな。マルヴェールでは人間は住めないと言う掟じゃったから、出て行く事にした」
「お前が出て行ったのは五年前になるかな?」
「まだ一歳じゃったナターシャが森で泣いておった。わけを聞いたら獣人の国へ行けと親に言われたと言うんじゃ…」
「そんな子供を森に置いて行くとは…。親もロクなものじゃないな…」
「ナターシャは非常に強い魔力を秘めておったのでな。おそらくは親は手を持て余して、森に捨てて行ったのじゃろう…」
「フラウも親に捨てられて教会で育ったと言っておったが、子供を簡単に捨てるような生き物は子供を作るべきではない」
「子供は作るのは簡単じゃが、育てるのが難しいからのぉ」
「子など欲しいとも思っておらんのに、快楽だけを求めて女を抱く輩が多過ぎる!」
「わしはナターシャを育てる決意を固めてあの塔を建てたんじゃ。使い魔たちに命じて作らせたんじゃよ」
「今はその塔はどうした?」
「置いて来た使い魔に命じて掃除だけはさせておるが、あれはわしの別荘だと思っとるから、気が向いたら戻るつもりじゃよ」
「この国を作ろうと言い出したのもお前だったな」
「わしはお主を討伐する為に前アラヴェスタ国王に依頼されたのじゃが、獣人のお主の方が前国王よりも良い男じゃったので寝返った」
「お前がいなかったら今のマルヴェールはなかった。感謝する」
…つづく
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昔、書いていたオリジナル小説の第114話です。