「ユリアーノ様はフォン様の旧友だったのですね。アラヴェスタ武術大会で優勝されていたので、私もユリアーノ様のお強さは存じ上げております」
「うむ、あれはナターシャの為に色々と買いたかったので、小遣い稼ぎのつもりで出場した」
「ユリアーノが国王になるべきだとわしは提案したのだが、ユリアーノは補佐官が良いと申してな。ゲイザーも同じ意見だった…」
「わしには国王は重荷じゃて辞退したんじゃ。お主の方が国王に向いておると思うぞ?」
サラはフラウの執務室を訪ねました。
「フラウ様にお願いがあるのです…」
「はい、何でしょう?」
「フラウ様は薬草学にお詳しいとお聞きしましたので、子を流す毒も作れるのではないかと思いまして…」
「まあ!サラさんは子供を妊娠なさってるんですか?」
「はい、でも流したいのです。王宮にいる頃は子供を流すのを専門としている薬剤師がおりました。毒を飲めば寒気がして子供が流れます」
「薬は作れる事は作れますが、あまり身体に良くありませんので、オススメ出来ません」
「この子はアラヴェスタ国王の子です。産んでも愛せる自信がありません」
「そう…、子供の産めない身体の私には妊娠する事が出来るサラさんが羨ましいわ」
「私はフラウ様の方が羨ましいです。穢れのない身体を一番愛したお方に抱かれて、幸せに暮らしておられますからね…」
「サラさんはゲイザー様の元恋人だったのですよね…」
「はい、最初はフォン様に抱かれながら、ゲイザー様に抱かれていると言う妄想に耽っておりました。フォン様の女性に対する扱い方がゲイザー様と似ていましたので」
「あなたはまだゲイザー様を愛しているのですね」
「今はフォン様を愛しています。ゲイザー様がフラウ様に内緒で私を抱くような男ではないのはわかっていましたから…」
「私は幸せ者です。毎晩、ゲイザー様の胸の中で眠る事が出来て…。アラヴェスタ国王に毎晩抱かれるなんて考えただけで鳥肌が立ちます」
「私はその地獄を十年間耐えて来ました」
「十年も…。私の想像を絶する苦痛だった事でしょう」
「死んだ方がマシだと何度も思いました」
「私なら耐え切れずに死んでいると思います」
「国王に身体を穢された後、命を絶った者も大勢いました。私は臆病なので命を絶つ勇気がなかったのです…」
「いいえ、命を絶つのは勇気などではありません。私は一度、身を投げた事がありますが、それに勇気は必要ありませんでした。むしろ苦しみながら生き続ける事の方が、遥かに勇気が必要だと思います。私には穢された身体で生き続ける勇気がなかったのです」
「こんな身体で生き続ける私の一体どこが勇気のある者だと言うのです?」
「サラさんは勇気があるから生きていられたのですよ。臆病なのは私の方です」
…つづく
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昔、書いていたオリジナル小説の第115話です。