フォンとサラが夫婦の営みをしている最中に、サラは吐き気を催して、流し台に駆け込みました。
「サラ、もしかして妊娠しているのか?」
「この子はあとで流します。気にしないで続けてください」
「お腹の子に良くないのに、このまま続けられるわけがないだろう?」
「私は産むつもりはないのです。フォン様の子ならば喜んで産みますが、この子はアラヴェスタ国王の子です」
「そうか、だがお腹の子には何の罪もないぞ」
「王宮にいる頃にも何度かアラヴェスタ国王の子を妊娠しているのです。下等な身分の女の子はほとんどが流されます…」
「子を流すのは母体に大きな負担がかかるというのに」
「はい、あまりの苦痛に耐えきれず、亡くなる者もおりました」
「わしは獣人だから繁殖能力がない。子が欲しいと望んでも授からんのだ。お腹の子はわしの子として育てるから産んでくれまいか?」
「いくらフォン様のお願いでも嫌です!」
「なぜだ?わしは血の繋がりなど、どうでも良いと思っておる」
「この子が大きくなった時、フォン様の子ではないと悟って、私を責める事でしょう。お母さんはなぜ自分を産んだんだ?と」
「子と言うのは産みの親よりも育ての親に似るものだ。わしが育てればわしに似て育つ」
「あなたに私の気持ちがわかるはずがありません!私を捨てた母親は誰の子かもわからない私を産んだ。私の母親は娼婦だったのです」
「サラよ。誰の子であるかは、そんなに大事なことか?わしは獣人だから親はおらぬ。錬金術によって産み出された」
「私の父は金で私の母を買って抱いた男です。私も母のように身体を男たちに弄ばれて生きて来ました…」
「哀れな者たちよ。金でしか女をものに出来ないのは、良い男とは言えんな…」
「こんな穢れた身体であなたに抱かれるのが、本当に苦しい…。まだ教会で暮らしていた穢れを知らぬ十四の頃に戻れたら良いのに…」
「わしは今のお前が好きだ。それはお前が苦労して生きて来たからだろう。十四の子供にはそれがないから、わしは惚れたりはしない」
「十五になれば城に奉公に上がれます。美味しいご飯がお腹いっぱい食べられて、綺麗な服が着られる仕事だと神父様に言われて、私は期待に胸を膨らませながら、アラヴェスタの城門をくぐったのです」
「神父殿は嘘はついておらん。おそらく真実を知らなかっただけだ。責めないでやってくれ」
「私は侍女長に言われるがまま、国王の寝室へ行きました。嫌だと泣き叫びましたが、無理やり他の侍女に両手両足を押さえ付けられて…」
「酷い話だな…。女は惚れさせてから抱くものだと説教してやりたい」
「しばらくは国王のお気に入りは私でした。私は何度も妊娠させられ中絶を繰り返しました」
「お前の気持ちはよくわかった。しかし子供の命をむげに奪う事は賛成出来ぬ」
「あんなおぞましい男の子など産みたくありません!」
…つづく
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昔、書いていたオリジナル小説の第113話です。