ナタはとんがり帽子をひっくり返しておひねりを集めています。
「この子、アーク様の妹さんでしょ?可愛い」
ナタは頭を女性ファンになでなでされました。男性ファンが一人だけ並んでいます。アークに握手を求めると、アークは笑顔で応じました。
「男性ファンはあなたが初めてです!こんなにたくさん、おひねりをありがとうございます」
「初めて聞いたが、メサイアの曲のおかげで彼女と仲直り出来たよ?」
「本当ですか?僕の曲で恋人と仲直りしたなんて嬉しいです!」
ゲイザーにも握手を求めましたが、ゲイザーは顔面蒼白になって、手で顔を覆い隠しました。
「ダーク殿、握手してはくれませんか?」
「兄貴!大事な男性ファンだから、握手してあげて欲しい」
「すまない、気分が悪い…」
ゲイザーは公園の茂みの裏に、ヨロヨロと駆け込んで行きます。ナタが後を追いかけました。今にも吐きそうになって俯いている、ゲイザーの背中をナタはさすっています。
「おじさん、気持ち悪いの?ゲーゲーする?」
「あれはアラヴェスタ軍の現騎士団長・テオドールだ。普段着だからオフのようだが…」
「えっ…、おじさんだってバレちゃったの?」
「あの様子ではおそらく気付いていないと思うが、心臓が止まるかと思った…」
ナタがアークのところに戻ると、ナタのとんがり帽子をアークが持って、おひねりをもらっています。
「アーク様!アップルパイを焼いてきたので、あとで食べてください」
「わぁー!アップルパイ、大好きなんですよ」
「アーク様の大好物だと思って、心を込めて焼きました!」
リボンの付いたカゴの中に手作りのアップルパイが入っており、上からガーゼのハンカチを軽くかぶせてありました。
「あの…ダーク様は具合が悪くなってしまったのでしょうか?」
モジモジしながら、地味目の女性が尋ねてきます。
「ええ、兄貴は少し病弱なので…。きっと無理して疲れてしまったんだと思います」
「ダーク様の事が心配です…。私、ダーク様推しなので…」
「兄貴のファンなんですね!兄貴にはあなたの事、あとで伝えておきますよ?ファンが出来たと聞いたら喜ぶと思います」
「手紙を書いてきたので、渡してください!」
アークは赤いハート型に封蝋してある、手紙を預かりました。見るからにラブレターのようだと思いましたが、アークは笑顔を崩さずに受け取ります。ファンがいなくなってから、ゲイザーのいる茂みの中に入りました。
「突然、どうされましたか?随分と気分が悪そうでしたが…。ファンレターをもらいましたので、どうぞ」
「騎士団長のテオドールがいた。さっきの男性ファンには気を付けろ?バレたら捕らえられてしまう。俺はしばらくアラヴェスタには来ない事に決めた」
「そうですか…。ダークファンの女性が残念がるでしょうね…」
「俺のファンなどいるわけないだろう?」
「この手紙を読めば、わかると思いますよ?」
ゲイザーは手紙を受け取りました。満更でもないようです。
…つづく
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昔、書いていたオリジナル小説の第106話です。