騎士団長は久々の休日を恋人と共に過ごしていました。噴水広場のベンチに座って話しています。
「もし私が国王の怒りを買って、首をはねられたらどうする?」
「もう!テオったら、またその話?せっかくのデート中にやめてよ…」
「昨日も危うく首が飛びそうになった…。騎士団長に昇格したら長生き出来ないと言われていてな…。貧乏くじを引かされたと思っている」
「あなたが死ぬなんて考えたくないわ。お願いだから、その話は二度としないで…」
「生きているうちにパーッと金を使いたくて恋人を作っただけだ。なんでも欲しいもの買ってやるぞ」
「そう…。私の事、愛してないのね」
「宝石が良いか?ドレスが欲しいか?高級レストランに食事でも行くか?」
「物で釣られる女だと思わないで!」
噴水広場に奇抜なファッションの二人組が現れました。リュートを出して試し弾きしているようです。
「あれはなんだ?怪しい二人組だな」
「ああ、あれはメサイアって言うバンドらしいわ。今、アラヴェスタで大人気なのよー」
「ん?あの黒髪の男の方、どこかで見覚えがあるな…」
「私はアークの方しか知らないの。兄のダークは滅多に現れないし…」
試し弾きを聴いて足を止める女性が増えて、噴水広場の前は黒山の人だかりが出来ました。テオは立ち上がって、よく見える場所に移動します。
「どうしたの?バンドに興味あったなんて意外ね」
「私は音楽は好きだよ?なかなか独創的な歌詞じゃないか。路上ライブとやらも面白そうだ」
薄暗くなって練習が終わったらしく、アークが観客に向かって手を振りました。
「みんな!今日も集まってくれてありがとう。今日は兄貴も来てるんだ。カムヒアー?」
見るからにヤル気のなさそうな態度で、ゲイザーはアークの隣に移動しました。
「兄貴に来てもらったのは新曲を披露する為だったんだ!それでは聴いてください」
「きゃー!アーク様、素敵!!」
「ダーク様もこっち向いてー?」
演奏が始まると騒いでいた女性ファンも急に鎮まります。アークはノリノリでリュートをかき鳴らしていますが、ゲイザーはあまりノリ気ではなさそうに弾いています。
「やはりあのダークと言う男、どこかで見た事があるな…。一体、どこで見たんだろう?なぜか思い出せない」
「地味で目立たないけど、アークよりダークが好きって言ってる子、結構多いのよねー」
長い前奏が終わって歌唱が始まりました。アークの声はよく聞こえますが、ゲイザーはボソボソ小さな声で何か呟いてるだけです。
「濡れてしなやかなそのボディー。クネクネと腰を揺らしてー。僕の眼は君に釘付けさー。ガラス越しの君は、だんだん色が染まってー。その毒が抜けてゆくー。食べ頃の素敵な娘に成長したらー。焼かれて悶えて、エスカルゴー!」
歌い終わると拍手喝采、おひねりを渡す為に列を成しています。
…つづく
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昔、書いていたオリジナル小説の第105話です。