マルヴェールの自宅に帰るとゲイザーは早速、ファンレターの封を開けてみました。
「初めてお便りを差し上げます。突然お手紙を差し上げる失礼をお許しください。いつも陰ながら応援しております。ダーク様の寂しげな瞳が堪りません。アーク様が作詞を担当されているようですが、ダーク様の作詞された曲も聴いてみたいです。アーク様が太陽ならば、ダーク様は月のようなお方です。ダーク様の書かれた作詞なら、私の心は今よりも満たされる事でしょう。無茶なお願いかもしれませんが、よろしくお願い致します。かしこ」
ゲイザーは無言で頭の中で手紙を読みました。読み終わった頃、アークが話しかけてきます。
「手紙には何が書いてあったんですか?」
「私の作詞した曲をリクエストされた…」
「私もゲイザー様の作った唄でバンドやってみたいですね」
「私には詩を書く才能などないぞ?」
「ゲイザー様ならきっと私より良い詩が書けますよ?」
「私は長文で理路整然とした文章を書くのは得意だが、短文で抽象的な表現の詩は書いた事がない…」
「とりあえず一度試しに書いてみては?」
ゲイザーは真っ白な紙の前で、何時間も頭を抱えています。
「何も思いつかない…。アーク殿の歌詞を参考に同じ路線で書こうとしているのだが…」
「ゲイザー様の歌詞は私と一風変わった感じになさると良いと思いますよ?作風が違ったとしてもファンも納得してくれると思います」
「どうやったら良い歌詞が書けるんだ?上手く書く為のコツを教えて欲しい…」
「私は歌詞を書く際に、愛する女性の姿を思い浮かべながら書いていました。アップルパイもカタツムリもその女性のイメージで書いています」
「アーク殿にもそんな相手がいたのか?意外だな」
「はい、密かに想いを寄せている女性がおりますね。私の片想いではありますが…」
「その女性が誰かはわからないが、アーク殿なら断られる事はないと思うぞ?」
「いえ、色々と事情があって…叶わぬ恋なのです」
「そんな事よりテオドールの件が心配だ。仮に歌詞が完成したとしても危険を冒してまでアラヴェスタに行こうとは思えない」
「私には心眼がありますが、テオドール様は悪人ではなさそうでしたよ?純粋に音楽を気に入られて握手を求めて来られたようでした」
「ああ、それはわかっている。神父様を救出した後、救護班に聞いた話によると、顔のアザは特殊メイクで、服はボロボロだったが、身体にはアザ一つなかったそうだ」
「えっ、それはどう言う事ですか?」
「国王の目を欺く為だろう。神父の拷問は行われていなかった」
「なぜそんな事をしたんでしょう?」
「神父の拷問を命じられたテオドールは、神父を拷問したと見せかけて、国王を納得させたようだ。信仰心の厚いテオドールに、神父を拷問する事は出来なかったのだろう」
「それならテオドール様は我々の敵ではないのでは?」
「私はテオドールの事をよく知っている。かなり頭のキレる男だとね。王宮のチェストーナメント戦では第三位だった。準優勝はギルバートだったがな」
「優勝されたのは誰だったんです?」
「決勝戦はギルバートと私だったが、その前の試合で私とテオドールが当たったから、ギルバートとテオドールが対戦したら、どちらが勝っていたかはわからない」
「なるほど、知能の高いお方なのはわかりました」
…つづく
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昔、書いていたオリジナル小説の第107話です。