家に帰宅したゲイザーは緩んでいたリュートの弦を調整します。とりあえずドレミファソラシドと鳴らしてみました。
「久しぶりなので勘が鈍っていますね…」
「ゲイザー様は音楽の才能もおありだったのですね!」
フラウがうっとりとした表情でゲイザーの下手な演奏に聴き入っています。
「いえ、別に音楽はそれほど得意ではありませんよ?音痴でしたし…」
「何か唄ってください。ゲイザー様の唄が聴いてみたいです!」
「そんないきなり言われても…。流行りの唄は何も知りませんよ?」
「ゲイザー様、これをどうぞ。アップルパイの唄の楽譜と歌詞です。なるべく正確に記憶しておいてください」
「なんだか卑猥な印象を受ける歌詞に見えるのは私の心が穢れているからでしょうか?」
「いえ、それはわざとエロティシズムを表現してみたのですよ」
「アーク殿がエロスがどうのとか言われるとは思いもしませんでした」
「私の唄の師匠であるミカエル様からの教えです」
「ミカエル様?誰ですか、それは…」
「一番偉い大天使様ですね」
「ふむ、人間で言う国王のようなものかな?」
「いえ、国王と言うかトップは神なので、天界で二番目に偉いお方ですよ」
「そんな偉い人がエロスを推奨されるとは…」
「エロスは大衆の心に響く大切なものだとか。エロスのない作品は大衆には受けないと仰ってました」
「そう言われて見ると、エロスのある作品は人気がありますね。絵画も彫刻も音楽も…」
「それが真理だとミカエル様は仰っておられたので、エロティシズムを表現してみたのです」
「なるほど、一応これはアップルパイの事のようなので、卑猥ではないのはわかります」
「実は新曲も作ってあるのです」
「どれどれ…これもエロスを感じますね」
「ええ、エロティシズムで男性ファンの心も掴もうかと思いまして」
「男性アイドルは普通、男ウケしませんよ?」
「はい、ですが老若男女問わず人気が出ないと大ヒットはしませんので、男性ファンもターゲットにしております」
「あまりターゲット層を広げ過ぎない方が…。卑猥過ぎると女性ファンが離れてしまう恐れもありますよ」
「私もそれが不安でしたが、アップルパイの唄は女性ウケしておりました」
「それは単にアーク殿の容姿のおかげのような気がします」
「ゲイザー様、その言い方は傷付きました…」
「すまない…。私はデリカシーがないとよく言われている」
「それではまるで私には才能など一片もないが容姿だけで売れていると言ってるも同然です」
「そんなつもりはなかった…。本当に申し訳ない」
「この歌詞、面白いと思うよー?カタツムリの唄もナタは結構好きー」
「ナターシャ様もそう思いますか?良かった」
「新曲は『瓶詰めのカタツムリ』か…。これも最後は食べ物オチだな」
「ええ、パターン化も人気の秘訣なので、この路線でずっと攻めて行こうかと。メサイアの曲はいつもこれだってファンに思わせるのです」
「それは何か狙いがあるのか?」
「作品のオチはセオリーと言うのがあって、セオリーが決まっている場合、同じオチが来るとファンは安心するようです」
「何か考えがあるのだな…。わかった、歌詞を覚えて楽譜も練習しておく」
…つづく
Tweet |
|
|
0
|
0
|
追加するフォルダを選択
昔、書いていたオリジナル小説の第104話です。