ナタとアークは途方に暮れていました。街の中央にある噴水の広場の前でベンチに腰掛けて休んでいます。
「何か質に入れられる高価な物があれば、楽器を手に入れてから、すぐに買い戻せるのですけど」
「おじさん、毎日ナタと一緒に暮らせる分のお金稼いで来てたけど、こんなに大変だったんだね…。やってみてやっとわかったよ」
「私も人間の世界の事はよくわかりませんからね。歌で稼げるのは意外でしたが…」
「うん、アイドルって言うんだってー。若い女の子はみんな好きだって、おじさんは言ってたけど、ナタは興味ないやー」
「一番安いビーストカードを一旦、魔法屋で売って、後で買い戻すのはどうでしょう?」
「ピーターは売りたくないよ!」
「私も出来れば売られたくはないですね」
「ナタの大事なウルトラレアカードだもん!」
「金色のカードになるとゼロが一つ減りますよね」
「金色と虹色では価値が全然違うよー?」
「リュートは少しお高いので、もう少し安い楽器を買いましょうか?」
「えーっ!他の楽器、カッコ悪くてアークには似合わないよー」
「見た目のカッコ良さは、そんなに重要なのでしょうか?」
「めちゃくちゃ重要だよ!カッコ良くないとアイドルになれないもん」
「そうなんですか?知りませんでした…」
「服も買った方が良いかも?鎧だとアイドルっぽくないし…。カッコいい服が良いよ!」
「アイドルになるのは断念した方が良さそうですね。歌だけなら元手はいらないと思っておりました」
「アークがアイドルになったら、ナタもファンになって追っかけるよー?サインしてねー!」
「それは本当ですか!?それならば、私も頑張ってみます!ナターシャ様の為に、素敵なラブソングを一曲お作りしましょうか?」
「ナタ、ラブソングは嫌いー。面白い歌の方が好きー」
「面白い歌ですか?難しいですね…」
「アップルパイの歌作ってー。あとカタツムリの歌とかー」
「あのアップルパイは絶品でしたね。その感動を歌詞にしてみます!」
とりあえずまた楽器屋に来てみました。安くて良い楽器がないか探しに来たのです。
「うーん、やっぱりこのリュートが一番カッコ良いなぁ」
「この赤い方は安いですよ?一万五千で買えます」
「こっちの青い方がアークに似合うもん?こっちじゃなきゃやだー!」
「ナターシャ様の気に入らない物はいくら安くても意味がありませんね…」
「ナタ、ピーターを一旦売って、楽器を買ってお金稼いだら、すぐにまたピーター買いに行くー」
「その方がよろしいかと思われます。こんな事をしていたら、日が暮れてしまいますので…」
魔法屋に行って、ナタはピーターのカードをカウンターで差し出しました。
「所有者の名前を消してからなら、もう少し高く買い取れるよ?名前を消すのが第一級魔術師に依頼しないとダメなんで手間だからね」
「本当に?じゃあナタの名前消すー」
ナタが呪文を詠唱するとピーターのカードから『ナターシャ』の名がスーッと消えて行きました。
「それじゃウェアラットを八百万で買い取るけど、良いかい?」
「わーい、やったー!すごい札束ー。ナタ、お金持ちー?」
「お嬢ちゃん、その歳でカードの名前を消せるなんて、すごい魔術の才能だね?おじさん、ビックリしたよー」
「ナタ、ユリアーノの弟子だもん?このくらい簡単だよー」
「ユリアーノだって?あの有名な第一級魔術師の…。なるほど、道理で良いカードを持ってるわけだ。この百獣の王カードやレッドドラゴンカードなんて、戦闘力がぶっ壊れてる…」
「獣人の王様とドラゴンのお爺さんはいくらなのー?」
「これなら億単位で取引されてもおかしくないよ?むしろこっちを売って欲しいくらいだ。一国の率いる軍隊も蹴散らしてしまいそうな恐ろしいカードだよ」
魔法屋から出ると夕日が空をオレンジ色に染めていました。
「もうこんな時間になっていたのですね…。急がないと!」
…つづく
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昔、書いていたオリジナル小説の第88話です。