アラヴェスタの街外れの教会に突然、騎士団の者たちが大勢の軍隊を引き連れて現れました。
「神父殿、あなたには獣人に手を貸していると言う疑いがかけられています。取り調べをするので任意同行願えますか?」
「私は神に誓って、そのような事はしておりません!」
「この教会で働いていたシスターの一人が獣人だった事はご存知ですか?」
「フラウ・マルヴェールは寿退職しました。もうこの教会にはおりませぬ」
「フラウ・マルヴェール?マルヴェールと言うのは獣人の国の王族の名乗っている姓のようですが…」
「獣人の王族の名など、私の知るところではございませぬ」
「こちらの教会からやって来た孤児のサラも獣人に手を貸していたようなのです。言い逃れは出来ませんよ?神父殿」
「言い逃れも何も身に覚えのない事です」
「シスター・フラウが子供たちに獣人は善良だと言う授業を行い、洗脳していると言う報告も貴族の者から受けているのです」
「私は授業時間は用事で席を外しておりますので、授業内容までは存じ上げておりません…」
「城に連行して拷問して吐かせろ?フラウの居所を、こいつは必ず知っているはずだ!」
「こんな事は神がお許しになりませんよ?教会の神父に手荒な真似をするのは、信仰心を重んじる騎士の誇りに反するのではないですか?」
「我々が崇拝するのは神ではなく国王陛下のみである」
「そんなものは騎士道精神に則っていません!王族よりも聖職者の方が階級は上のはずです」
「階級が上であろうと、貧乏な聖職者と裕福な王族では、どちらが力関係は上なのかは言わずもがな、おわかりになるでしょう?」
「貧乏は美しい事だ。聖職者を誰よりも敬え。それが聖典による教えだったはず…」
「そんな考え方はもう古いのですよ?神父殿」
「おお、神よ…。どうかこの哀れな私めを救いたまえ」
神父はゲイザーが公開処刑された時と同じ、処刑台の柱に縛り付けられました。顔はアザだらけで、服もボロボロにされています。
「しばらく晒し者にしておけ?ゲイザーの耳に入れば助けに来るやもしれん。その時に奴を捕らえるのだ」
ゲイザーの行き付けだったバーのマスターのところにも騎士団の者が現れます。
「この店にゲイザーが通っていたと言う情報が何件か寄せられているのだが?」
「確かに手配書が出回る前はよく一人で飲みに来られていましたね…」
「その時に奴は何か怪しい言動はしていなかったか?何でも良い。話してみろ」
「寡黙な方だったのであまり喋ってはおられませんでした」
「ゲイザーは口から先に生まれて来たような、雄弁家だぞ?嘘をつくな!」
「一度だけ女性を連れてお見えになりました。その時はよく話しておられて…」
「その女はシスターだったか?」
「はい、別れ話をしていたようでしたが、お客様の話はあまり真剣に聞いておりませんので、内容まではちょっと…」
「隠し立てするとただでは済まさんぞ!」
「隠すも何も…。ただマルヴェールの女王に即位するだの何だの言っていた気はします」
「何だと?フラウ・マルヴェールはやはり王族の者だったのか!国王様に報告せねば…」
…つづく
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昔、書いていたオリジナル小説の第87話です。