役所へとんぼ返りすると、また受付嬢たちが話しかけて来ました。
「やっぱりドラゴンの討伐は無理だったんですかー?」
「いえ、ドラゴンはとても良いお方でしたので倒すのをやめました。他に良い仕事はありませんか?」
「もしかしてドラゴンとも喋ったんですか?」
「ええ、とても知的な喋り方でしたよ?」
「アーク様は魔物とお喋りできるんですねー」
「普通の人間には、魔物と喋ったりする事は出来ないのでしょうか?」
「普通は出来ないと思いますよー?」
「すみませんが、次こそ達成可能な仕事の紹介をお願い致します。この調子では楽器を買うのがいつになる事やら…」
「うーん、どれも達成困難で残ってるやつみたいだからなぁ…。簡単な依頼ってすぐ達成されてなくなっちゃうんですよねー」
アークが掲示板の手配書を眺めていると、受付嬢たちはペチャクチャと不愉快なお喋りを始めました。
「ゲイザーって見るからに悪人ヅラしてるわよねー。どうして前にここに来てた時に誰もあいつが獣人の仲間だって気付かなかったのー?」
「私なら絶対、すぐ気付くわー」
「あんた、ゲイザーがスライムの討伐の報告に来た時、好みのタイプって言ってなかった?」
「ゲイザーから悪の匂いがプンプンしてたからよ?なんかそう言うのグッと来ちゃうからー」
「私、前にゲイザーにナンパされた事あるよ?彼女が欲しいって言ってたけど」
「何、それ?怖ーい!」
「あの時、付き合っちゃおうかなぁってちょっと思ったんだけど、押しが弱くってさー。顔はコワモテなのに、喋り方はめっちゃ丁寧で違和感ありまくりなのー。もっと俺様口調なら付き合ってたかも?」
「でも俺様口調の人って付き合うと嫌な思いする事が多くない?自己チューで振り回して挙句に浮気して捨てられたり…」
「私も前にあった!自己チューで束縛が異常に強かったりして、他の女と浮気してるのも知ってたから、こっちも浮気してフッてやった!」
「ああ、その男知ってるー。教会のシスターに何百万も寄付金貢いでたらしいよー。バカだよねー?シスターがそんなんで簡単にやらせるわけないじゃん!」
「ざまあみろ!って感じー。そのシスターのおかげで私もスッキリしたわ」
「しかもそのシスター、ゲイザーの奥さんだったって噂あるの知ってる?」
「えーっ!何、それー?知らなかった…」
「騎士団の元カレが言ってたのよー」
「カタブツのシスター、ゲイザーには口説き落とされちゃったんだ?」
「あのクソ真面目さに魅かれたんじゃない?」
「あの白銀の獣人シスターがそのシスターだって」
「人間の方の手配書はないの?」
「美人過ぎて似てないから手配書に出来なかったらしいわ」
「絵にも描けない美しさってやつー?なんかムカつくー!」
「どんな顔してるんだろ?そのシスターの顔、見てみたいわー」
「ブティックで働いてる友達が見たって言ってたわ。ゲイザーと一緒に買い物に来てたって言ってたよ?」
「ゲイザーも来てたんだ?女物の服なんて、なんで買いに来てたの?そのシスターにあげる為の服かな?」
「シスターのことはただの知り合いって言ってたみたい。服は奥さんの為に買うって言ってたらしいよ?」
「なんだ、じゃあシスターは奥さんじゃないんじゃん?そもそもシスターは結婚したらダメなんでしょ?」
「ゲイザーは騎士団にいた頃、王宮で働いてるサラって言うメイドと付き合ってたらしくて、公開処刑から逃げる時にサラも連れて行かれて行方不明らしいよー」
「えっ、それってサラがゲイザーの奥さんなんじゃないの?だからわざわざ一緒に連れてったんでしょ?」
「ゲイザーが騎士団クビになった後もサラはゲイザーからもらった婚約指輪ずっとしてて外さなかったって噂だし」
「でもゲイザーってただのナンパ男なんでしょ?ナンパされたって言ってる子、結構たくさん知ってるよ?」
「結局、サラとシスターと同時に付き合ってたって事?二股じゃん!」
アークはナタを連れて役所から出ました。
「ナタ、あのお姉さんたち嫌い…。おじさんの悪口言ってたでしょ?」
「あの人たちは真実など何も知らないのです」
…つづく
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昔、書いていたオリジナル小説の第86話です。