青いリュートを買ってから、メンズショップに行きました。
「このお兄さんに似合う服、お願いしまーす」
「わぁ!あなたのお兄さん、すごくカッコ良いわねー」
「でも鎧がダサいでしょ?」
「鎧姿も素敵ですよー」
「鎧のままじゃ街で歌っても、地味過ぎて売れないと思うのー」
「お兄さん、ストリートミュージシャンをされてるんですか?」
「これからやってみようと思っているのです」
「えーっ、どこでやるんですか?私、あと少しで仕事、上がれるので絶対、見に行きます!」
「街の中央の噴水広場で路上ライブをやろうと思っています。コーディネートをお願い出来ますか?」
「それじゃ売れそうな服をコーディネートしますね!」
ナタが気に入るまで試着を繰り返し、アークは別人のようなファッションに身を包みました。
「これなら道行く女性の心を鷲掴みですよ?」
「私がすぐ売れると良いのですが…。ピーターが売れてしまう前に買い戻さないといけませんし」
「ピーターさんもアイドル目指してるお友達なんですか?きっとイケメンなんでしょうねー」
「いえ、こちらの話です。すみません…」
「お買い上げは服を上下セットと靴の三点で、合計は三万五千になりまーす!」
「服って結構高いんだね…。おじさんにもらったナタのワンピースも高かったのかな?」
少し薄暗くなりかけた噴水広場の前にやって来ると、噴水は街灯でライトアップされて、幻想的な雰囲気に包まれていました。カップルが噴水の周りでイチャ付いています。
「では、まずアップルパイの歌を演奏します」
「アーク、頑張ってねー!」
アークは青いリュートを手に持ち、激しくかき鳴らします。この世のものとは思えない澄んだ歌声で、即興なのに歌詞をスラスラと間違えず唄いました。
「一目見た瞬間から、恋に落ちたんだー。その曲線が美しいボディー。君を急いで家に持ち帰りー。シナモンの香りを身にまとったー。熟れて艶やかで美味しそうな甘い果実ー。僕は君にかぶりついたのさー。ああ、なんて素晴らしい初恋の味ー。僕の大好きなアップルパイー! 」
歌詞は微妙でしたが、なぜか足を止めて聴き入る女性が大勢いて、演奏後は拍手が巻き起こりました。ナタはいつもかぶっている魔女のトンガリ帽子をひっくり返して、観客に向かって大声で叫びました。客の中にはさっきのメンズショップの店員もいます。
「お金はここに入れてくださーい!」
女性たちはおひねりを奮発してくれたので、アークは全員に握手をして軽いハグをすると、女性たちは大喜びで拍手喝采、黄色い声援を送っていました。魔法屋に来ると店仕舞いしようとしていたので、店の外から見えるガラスケース越しに、ピーターの値札だけ確認します。
「ピーター、千五百万だね…。一千万だと思ってたのに…。お金が全然、足りない」
「一晩では思ったほど稼げませんでしたね。明日また出直しましょう?新曲の歌詞を考えなくては…」
…つづく
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昔、書いていたオリジナル小説の第89話です。