ロレインは素早くトランク一つに荷物をまとめました。白髪の剣士はまだ怒鳴り散らしています。
「父上はマルヴェールへ行かないのですか?」
「わしは明日も仕事があるのだ!旅行に出かける暇などないわ」
「旅行ではありません…。マルヴェールに永住するのです」
「わしはこの邸を手放す気はないぞ?先祖から受け継いだ土地も、絶対に手放さんからな!」
「私の話を何も聞いていなかったのですか?ここにいたら、明日にはアラヴェスタ国王の手の者が、父上を捕らえにこの家までやって参ります」
「お前の方こそ!わしの話をちっとも聞いとらんじゃないか?」
「父上は私を見下していらっしゃるので、私の話に聞く耳を持たないのです…」
「お前の方がわしを見下しておるだろうが!」
「父上は言ってる事に筋が通っておりません」
「それ見ろ?そう言うのがわしをバカにしておると言っておるのだ!」
「ああ、もう!あなたと話しているとイライラして来ます。だから帰りたくなかったんだ…」
「だったら二度と帰って来るな!顔も見たくないわ?」
「ええ、二度と戻りません。父上と会う事は金輪際ないでしょう。首をはねられて天国に行ってください。私は地獄に堕ちますので…」
ゲイザーは家を出ようとしました。ところがロレインはトランクを片付けてしまいます。
「ゲイザー、あの人が行かないと言うなら私も行けないわ」
「なぜです?ここにいたら、母上も酷い目に遭わされます」
「夫婦と言うものはね、どんな事があっても離れてはいけないのよ?」
「孫の顔が見たくはないのですか?」
「ゲイザー様…。私は子供を産む事ができません」
「フラウ、今はその話をする必要はないでしょう?母上をマルヴェールにお連れするのが先決です!」
「私も辛いのです…。お母様にゲイザー様の子供を抱かせてあげられなくて…」
「あら、フラウさんは不妊症だったの?それは辛いわね…」
「子供の事は置いておきましょう。母上はナターシャを気に入っていたではありませんか?」
「ナターシャちゃんにはまた会いたいわ。時々連れて来て頂戴」
「私はもう二度とこの地に足を踏み入れる事はないでしょう。マルヴェールに骨を埋める覚悟です…」
「そう…、残念ね。私もこの地に骨を埋める覚悟よ?」
「母上だけはお救いしたかった…。父上がもう少し頭の柔らかい人なら良かったのに…」
…つづく
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昔、書いていたオリジナル小説の第69話です。