静かに様子を見ていたナタが突然、大きな声を張り上げました。
「ナタ、このお爺さん、嫌い!」
「な、な、な、何を言う…。わしの事がき、嫌いじゃと?」
「だって怒ってばっかりなんだもん!おじさんと、このおばちゃんは優しいのに…」
「ほら、あなたが怒鳴ってばかりいるから、こんな小さな子に嫌われてしまったではありませんか?」
「わしは…、わしだって別に怒鳴りたくて怒鳴ってるわけじゃない!ゲイザーがわしの言う事を聞こうとせんのが悪いんだ…」
「こんな事じゃ孫が出来たとしても嫌われてしまいますよ?少しは反省なさってくださいな」
「お言葉ですが、父上!私は幼少の頃から父上の言い付けを全て守って、言われた通りに生きて来ました」
「昔は本当に良い子だったのに、なんでこんなに捻くれてしまったんだ?」
「子供の頃、いじめられている子がいれば、かばいました。しかしその後、私がいじめに遭った」
「わしはお前が誇りじゃった。わしの理想通りの子に育ってくれたと思っておった」
「しかしその理想と現実は違います。私は父上の教えに背けず、獣人をかばいました。そして国王の怒りを買って騎士団を解雇され、処刑されそうになり、命からがら逃亡して、今は追われる身です。どうか現実を見てください」
「ゲイザーよ。お前は一体、何が言いたい?」
「私がこうなったのは父上の育て方が間違っていたからです!」
「ゲイザー様!それは違います。お父様の育て方は間違っていません。間違っているのは世の中の方です」
フラウが味方をしてくれたので、ゲイザーの父親は突然、掌を返しました。
「なんと良い嫁だ!わしはこの嫁が気に入ったぞ?マルヴェールとやらに行ってやっても構わん」
「本当ですか?お父様」
「美人で賢くて、ロレインの若い頃にそっくりだ」
「あなた、失礼な事を言わないの!本当にデリカシーのないところが、あなたとゲイザーはそっくりです」
ゲイザーの父親はやっと荷造りを始めました。シェルフの中に突っ込んであった書類を、スーツケースにギュウギュウに詰め込んでいます。
「父上、その書類はもう必要ないのでは?捨てて行きましょう」
「これは不正の証拠を掴んだ時の報告書の控えだ」
「父上が没落した原因の報告書ですね…」
「わしは間違った事は何もしておらん!」
「父上はご自分の正義を振りかざし過ぎなのです。もっと利口に生きた方がよろしいかと…」
「お前にだけは言われたくないわ!」
「お父様は立派なお方です。ゲイザー様をこんなに立派な息子に育て上げたのは、お父様の考え方が素晴らしかったからだと思います」
「本当によく出来た嫁だ。ゲイザーにはもったいない」
ゲイザーの父親はまた、機嫌を取り直して荷造りを続けました。
…つづく
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昔、書いていたオリジナル小説の第70話です。