「母上、これを見てください…」
ゲイザーは徐に兜をスッと外しました。狼人間の姿が露わになります。
「あらあら、ビックリしたわー」
ゲイザーの母親は特に驚いたそぶりでもなく、言ってる事と正反対でした。
「あまり驚かないのですね…。私は獣人になってしまいました。じきに手配書が出回る事でしょう。早くこの村を離れなくては母上の身も危険です」
「いえいえ、驚いていますよ?あなたが急に帰って来た事も、結婚してた事も、獣人になってしまった事も…」
「母上はポーカーフェイス過ぎます」
「ゲイザー様もポーカーフェイスですけどね」
「私の性格は母譲りですからね。絵の才能もおそらくは母譲りだと思います。母には芸術的才能がありますが、父には全くありませんので」
「そんな事ないわよ?ゲイザーはあの人にとってもよく似てるわ。あなたは嫌がるでしょうけど」
「確かに私の容姿は父似ですね。母上に似ればもう少しモテたのでしょうけど…。嫌なところだけ父上に似てしまった…」
「ゲイザー様はモテると思いますよ?お父様も素敵なお方なのでしょうね」
「父上は目付きが悪くて、人相が悪いです。まるで悪人のような顔付きですよ?私も目付きが父上によく似ていると、近所の人から言われておりました」
その時、ガタッと音がしてゲイザーは後ろを振り返りました。ロマンスグレーの剣士が立っています。
「ゲイザーの声がすると思って来て見たら…。この放蕩息子がッ!獣人などになり腐ってからに…。わしは哀しい!」
「父上!?これには訳があるのです…。話を聞いてください!」
「もう二度と帰って来るな!?さっさと出て行け!!」
「あなた、ゲイザーの話をちゃんと聞いてあげてください」
「獣人になった息子などとは、わしはもう縁を切る!」
「私と縁を切っても国王はお許しにならないと思います。父上も首をはねられるでしょう。私と一緒に獣人の国へ避難してください。ここにいては、いつアラヴェスタの騎士団の者がやって来るかわかりません」
「獣人の国などわしは行かんぞ?この領地は先祖代々受け継いで来た由緒正しい土地なのだ。この邸もわしが建てた」
「土地や家とご自分の命のどちらが大事だと言うのですか?父上が来なくても母上だけ連れて行きます!」
「ロレインを獣人の国へ連れて行くなど、わしが許さん!」
「母上は首をはねられずに済んだとしても、奴隷としてこき使われる可能性が高いです。周りから後ろ指を指されて誹謗中傷も受ける事でしょう。父上が何と言おうが連れて行きます!」
「困ったわね…。早く孫の顔が見たいけど、獣人の国に行かないと、孫の顔が見られなくなってしまうかもしれないわね」
「な、何!?ま、孫の顔だと…。ロレイン、どう言う事か説明しろ!」
「ゲイザーがお嫁さんを連れて帰って来たんですよ?聞いてなかったのね」
「わしはさっき仕事から帰って来たところだ!知るわけがないだろ?」
「だからちゃんと話を聞いてと言ったんです」
…つづく
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昔、書いていたオリジナル小説の第67話です。