ゲイザーの母親は、日当たりの良い庭にあったカゴを持って来て、机の上に置きました。サツマイモの切り干しのようです。ナタはそれを美味しそうにムシャムシャと頬張っていました。
「これ、美味しいー!」
「非常食の干し芋よ?こんな物しかなくて、ごめんなさいね…」
骨董品などが並べてあるはずのシェルフは乱雑に書類が突っ込まれており、高価な物は何も置いていないようでした。壁には絵が飾られていましたが、額縁は立派なのに素人が描いたような拙い絵です。凛とした若くて綺麗な女性の絵でした。
「母上、これは私が十歳の頃に描いた母上の肖像画ではありませんか…。なぜこんな物を飾っているのです?」
「これはとても良い賞をいただいた絵ですし、私のお気に入りなのよ」
「父上は絵など描いても、なんの稼ぎにもならないからくだらないと仰ってましたが…」
「そんな事はないわ。いつもこの絵を見ていらっしゃいます。あの頃が一番幸せだったと言って」
「父上が没落する前に描いた絵ですからね…」
フラウは絵に近づいてじっくり眺めながら言いました。
「ゲイザー様が子供の頃に描かれた絵なのですね」
「こちらの綺麗なお嬢さんはどちら様?」
「若い頃の母上は、フラウと雰囲気が良く似てるだろう?」
「いいえ、私なんかよりずっとお綺麗だと思いますよ」
「ゲイザー、失礼な事を言わないの。私と似てるなんて言ったらお嬢さんが気を悪くするでしょう?」
「私は何か失礼な事を言いましたか?気づきませんでした。すみません…」
「そんな!失礼だなんて思っていません。ゲイザー様のお母様に似てるなんて光栄です」
「そう?母親に似てるなんて言われたら、もしゲイザーの彼女だったら気を悪くすると思ったのだけど…」
「母上、この女性は私の妻です」
「あらあら、いつの間に結婚したの?この前、婚約は破談になったと手紙をもらったばかりだったのに…」
「すみません、あれから私も色々とあったのです」
…つづく
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昔、書いていたオリジナル小説の第65話です。