押し問答の末、アークに説得されて、マルヴェールに帰還したフラウたちの前に、獣人の姿のゲイザーが現れました。サラはゲイザーの首に手を回して寄り添うように抱き上げられています。
「フラウ、この女性に服を貸して上げてください」
「ゲイザー様!ご無事で何よりです」
フラウは女の勘で、サラがゲイザーの元恋人だと勘付いていましたが、女物の一番良い服をサラに貸してあげました。
「それと背中に矢が刺さっているので、誰か抜いてもらえませんか?」
「私が引き抜きましょう。少し痛むかもしれませんが、歯を食いしばってください」
アークが背中の矢を引っこ抜くと、血がドクドクと溢れ出しましたが、ナタが回復魔法で傷を癒しました。
「フラウ、獣人の姿から戻れないのですが、どうしたら戻れますか?」
「そのうち戻り方もわかると思います。獣人化の仕方はわかったのでしょう?」
「いえ、怒りに我を忘れて気が付いたら獣人化していました。意識は保っていられるので、以前よりはマシですが…。戻れないのは困りますね」
「ゲイザー様が怒りに我を忘れるなんて、珍しいですね。しばらくそのままでいれば、よろしいと思いますよ」
「そう言うわけにはいかないのです。私の母が辺境の田舎村に住んでいるのですが、息子が獣人化して公開処刑中に逃亡したなどと言う噂が立てば、母の身が危険に晒されます」
「はっ!確かにそうですね。お母様をお救いしなくては…」
「母を説得してマルヴェールに移住させます。父は頑固なので説得するのは無理かもしれませんが…」
ナタがルーシーを召喚すると、ゲイザーとフラウが乗り込みました。ゲイザーは兜を深くかぶって、獣人である事をごまかしています。
「母にはあなたを紹介したいと思っていたのです」
「ゲイザー様のお母様にお逢いするなんて緊張します」
遠く離れた辺境の地にルーシーはひとっ飛びしました。
「おじさーん!言われた場所まで来たよー?」
「よし、少し離れた場所に降りてくれ。あの村で一番大きな邸が私の生まれ育った家だよ?」
「あれがゲイザー様のご実家なのですね」
ゲイザーの家まで歩いて行きました。家の玄関には見事な花のオブジェが飾られています。花壇にも花がたくさん咲き乱れていました。ナタもなぜかはしゃいでいます。
「これは母がこしらえたのでしょう。母はフラワーアレンジメントが趣味なのです」
「素敵なご趣味ですね」
「母上!ゲイザーです。帰って参りました…」
玄関を開けて落ち着いた雰囲気の大人の女性が出て来ました。五十代とは思えないほど若く見えます。
「あらあら、急にどうしたの?なんにもないけど上がって頂戴」
…つづく
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昔、書いていたオリジナル小説の第64話です。