No.94603

真・恋姫無双 季流√ 第5話 暗中にして、光在り

雨傘さん

大陸に広がり続ける闇。
その中には……
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2009-09-10 02:17:29 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:38594   閲覧ユーザー数:24867

 

「盗賊?」

 

一刀達がここ陳留にきて1週間、一刀は華琳の執務室に呼ばれていた。

 

「ええ、最近になって勢いを伸ばしているらいしいのだけれど、それが村を襲っているのよ。

 だから直に討伐隊を編成するつもりよ。

 桂花、相手の人数は?」

 

「確認されているのは500余というところです。

 ですが……」

 

「何?」

 

言い淀む桂花を華琳が発言を促す。

 

「は! 連中は最近できた賊ではあるのですが、不自然に規模が大きく、奇妙な点も見受けられます。

 勢力も報告ごとに規模に食い違いがありまして……先ほど報告致しました数も、それが連中の全勢力なのかは不明です。

 そして連中の拠点と思われる場所も確認できておりません。

 連中は急に現れては、急に消えるように姿をくらましております」

 

「ふむ、奇妙な点とは?」

 

「連中は食料に手をつけず、主に金銭と装飾品を強奪しております。

 また、こちらを撹乱するためなのか襲撃した村には必ず火を放っておりまして、より被害が大きくなり、村人の証言しか情報がろくに集まりません」

 

「そう、桂花でも情報が掴めないとなると厄介ね。

 それに拠点もわからずか」

 

「申し訳ありません華琳様」

 

「いいのよ、原因は私にもあるのだし、桂花はこの状況の中でよくやってくれているわ。

 今回のこと、一刀はどう思うかしら?」

 

華琳が妖しく微笑みかけながら一刀に意見を求める。

 

意見を求められてもなぁ、と内心思う一刀だが。

 

「賊の姿形に何か共通点はないかな?」

 

一刀の質問だからなのか、目に見えて面倒くさそうになる桂花。

 

「ないわね。

 連中の格好に共通点らしきものもなく、装備もまちまちよ。

 ただ……妙に統率は取れているという報告は、いくつかあがっているわ」

 

__統率か……昔、実際にそういうことが行われていたと、何かで読んだことはあるけれど。

 

「そうか、まぁこれだけの情報で決め付けるというのも早計だろうね。

 ただ不足の事態が起こる可能性が高い以上、それに対処できる柔軟な指揮官に討伐部隊を任せた方がいいんじゃないかな、それと兵数は多めに設定しておいたほうがいいだろう。

 ……無難なところだが、俺からはこんなもんだよ」

 

一刀の言葉を聞いた華琳は一つ頷くと。

 

「今回の討伐軍は秋蘭に任せる。

 実績と経験を積むために、補佐として季衣と流琉をつけるわ。

 それで一刀……貴方についてなのだけれど、私はまだ貴方を天として公開する気はないわ、今回は一兵士として秋蘭についていって頂戴」

 

「俺も?」

 

「えぇ、何せ情報が不十分な状態なのよ、”万全”を期すべきでしょう?」

 

「……随分と買い被られてやしないか?」

 

困ったように一刀が苦笑をすると、華琳はやはり楽しそうだ。

 

 

「あなたは自分の価値を低く見すぎよ、私はあなたを”天佑”と評したのよ?

 やってみせてくれるわ」

 

 

 

「って、俺も案外単純なもんだな……と」

 

慣れぬ手つきで手綱を握る一刀は、馬上で一人つぶやいていた。

 

なんだかんだ言っても、期待されていることに悪い気はしない。

 

しかもあの覇王様直々の御期待だ、こんな経験はちょっとできないだろう。

 

華琳の号が発せられてから、あっという間に兵の準備が整った秋蘭達は、さっそく一番最近に襲われたという村を目指していた。

 

このように迅速に出立できる辺り、統率・指揮能力の高さが伺える。

 

一刀は秋蘭達の後方を付いていくように、慣れない馬を歩かせていた。

 

襲われた村には半日程して到着する。

 

この距離であれば街からずいぶん近いのに、襲われた村の惨状は見るに耐えないものだった。

 

村人は家も何もかも焼かれたので、仮設の小屋を立てては雨露をしのぎ、あちらこちらでほとんど汁しかない炊き出しが行われている。

 

怪我人が集められた場所へ行くと、50人程が禄な治療も受けられずに苦しみに呻きながらながら地に横たわっていた。

 

秋蘭は早速医療隊に指示を下すと、連れてきた軍医達が次々に治療を始めていく。

 

この村の惨状に一刀は気分が悪くなってきたので、誰にも見つからないようにそっとその場を後にした。

 

「ふぅ……慣れないなぁ。

 慣れたくもないんだけど、そうも言ってられないし……」

 

実際この世界に来て2週間程、この地獄のような光景に慣れることができる現代人がいるのならば会ってみたい。

 

肉の腐臭、生々しい血、更には焼け落ちる匂いやらなんやらがごっちゃになって胃液が逆流する。

 

だが、ここで吐くと体力を無駄に消費するから、一生懸命堪えるしかない。

 

ゴクッ、コク

 

持ってきていた水筒の水が、やたら旨く感じる。

 

少しだけ気分が落ち着いた一刀は、体を動かしていたほうが気が紛れると判断し、胸を押さえながら立ち上がると、色々と捜索するために村中を見て回ることにした。

 

すると、多少たどたどしいが部隊に指示を下している流琉を見かける。

 

一刀は平然さを装い、そっと寄り添って小声で声をかけた。

 

「流琉、ご苦労様だね。

 何やってるんだ?」

 

「? ……兄様! 今家の設営をしているんです。

 ほとんどが焼けちゃっているし、あの廃材の寄せ集めの小屋じゃいつ崩れるかもわからないので……

 私が組み立てで、季衣が木の切り出し係ですね」

 

「そっかそっか、頑張れよ。

 ……秋蘭はどうしているかわかる?」

 

「秋蘭様ですか? 周辺に兵を警戒させているみたいですね。

 本拠地の手がかりでも見つかればいいんですけれど……」

 

「そうかぁ、じゃあ俺は流琉達を手伝おうかな? ……御指示をお願いします! 典韋将軍」

 

一刀はわざわざ恭しく敬礼をすると、流琉の顔が真っ赤になる。

 

「へぇ!?/// わ、わかりました……じゃああちらの組み立てのお手伝いをお願いします」

 

「御意に。

 ……流琉将軍様?」

 

最後の部分は小さめに発して、指示された場所へと向かっていく。

 

「もう! 兄様ったら///」

 

 

そんな声が後ろから聞こえたが、まぁいいだろう。

 

 

 

結局、その日は大工仕事にひたすら従事していた。

 

秋蘭達偵察隊が戻ってきたのは夕方になってなのだが、結局収穫はなかったらしいと人づてに聞いた。

 

一刀は馬を下りる秋蘭へそっと近づく。

 

「御苦労様です! 夏候淵将軍」

 

「ん? ……あぁ北郷か……フフッ中々新兵の服も似合っているじゃないか?

 丁度いい。

 ちょっとついてきてくれないか?」

 

一刀は言われたまま秋蘭について行くと、仮設の天幕が用意されており、中に招き入れられる。

 

慎重に周りに誰もいないことを確認すると、いきなり一刀へしだれかかってくる秋蘭。

 

「しゅ!? しゅう”静かに”ら?」

 

秋蘭は一刀の耳に口を寄せると、囁くように話しかけた。

 

”……注意はしているがな、どこで聞かれているかわからん。

 私のような無骨ものでは不服だろうが、しばし我慢してくれ?”

 

「我慢もなにも……嬉しいよ」

 

__冗談じゃない、秋蘭みたいな美人と体を密接させるなんて……気がどうにかなっちまう、きっと俺は顔が赤くなってるな。

 

”そうか、世辞でもうれしいよ……連中、官軍の可能性が濃厚になってきた”

 

「!」

 

”桂花の報告でその可能性もあるとは思っていたが、ほぼ間違いがなくなった。

 偵察して判明したのだが、ここから4里離れたところに新しい馬の蹄の跡が大量に見つかったのだ。

 あれだけの馬を所有している賊など、この付近には存在しない。

 しかもその跡は郊外へ離れるように偽装されていたが、よくよく調べてみるとむしろ街へ向かっていることがわかった。

 連中が拠点をもっていないことの謎も、これで解けたな”

 

”……そうか、俺もいくつか不思議に思うとこがあった。

 村に残された賊の装備品がむしろ不自然だ。”

 

”不自然?”

 

”ああ、賊にとって装備はかなり重要だ。

 今回は官軍に追い詰められているわけでもないのに、これ見よがしに剣や防具をわざわざ棄てていく理由はないよ”

 

”そうか……言われれば確かに不自然だな”

 

”それに、一番怪しいのは火だ”

 

”それは官軍の追っ手を振り切るための、時間稼ぎじゃないのか?”

 

”それもあるさ。

 この辺りは華琳が統治しているから、直に官軍が飛んでくるからね。

 それから逃げるために火で目眩ますのは理にかなっているけど……

 だけど、焼けた家の中を見たか?”

 

”いや、そちらは季衣や流琉に任せていたから……”

 

”家の中には何人かの焼死体があった。

 そして聞いてみたところ、村の若い女の行方不明者が多い”

 

”?”

 

”連中、死んだ仲間を燃やしているんだ”

 

「な! ッムグ」

 

秋蘭が大きな声をあげそうになったので、一刀は直にその口を手で塞ぐ。

 

”焼死体の数と村人の数が一致しない。

 多少なら許容範囲かもしれないが、10を超えるとなると流石に多すぎる。

 連中は死んだ仲間の装備を剥いでそこらに棄て、体を家にいれて火をつけて証拠を燃やしているんだ。

 燃え跡の骨を見てみたけど顔が潰されている……徹底してるよ”

 

息を飲む秋蘭が一層一刀に近づいて声を抑える。

 

”だが、何故そんなことを?”

 

”行方不明に女性が多いのは……多分焼死体への数の見せかけ、と……まぁ後は……な。

 ここまでやっているのは、身元が割れるのを恐れているんだろう。

 賊の身元なんて華琳でも調べないけれど、今回は相手の正体があまりに不鮮明だ。

 手がかりを探そうと、もしかしたら死体の身元を確認する可能性もあるかもしれないだろ?

 普通の賊ならこちらもそんなこと気にしないが……

 官軍が関わっているなら、もしかしたら顔を知っている奴がこちらにいるかもしれない。

 顔を潰したのは、万が一死体が焼け残った場合を考えてってところだな。

 ……だけど詰めが甘い、焼死体の骨格は全部男だ”

 

ギリッ

 

”! 下種が……だが良かった。

 今のところ部下達にも何一つ収穫がなかったと説明しておいてある。

 北郷には言っていなかったが、今回の部隊は私の部隊だけじゃないんだ。

 最近投降してきた賊やら流れてきた連中の混成部隊でな、その新兵の育成も兼ねているので素性が判明していない者も多いんだ。

 どこにやつらの手の者がいるかわか”キャアア~~~!”らな!”

 

突然、女性の叫び声が上がった。

 

一刀は秋蘭と目を合わせ、天幕から飛びだす。

 

「どうした!」

 

秋蘭が叫び声のほうに駆けると、血だらけになった農民が倒れていた。

 

「何があった!?」

 

「……官、軍……助け…………村が……燃やされる…………」

 

「どこだ? どこの村だ!」

 

秋蘭の部下が村人を抱え上げて場所を問いただす、早くしないと手遅れになってしまう。

 

一刀は目を逸らした。

 

__もう助からない。

 

「……ぅ、ぃ……ぉ……」

 

やはり、間に合わなかった。

 

村人が事切れたことにより、今襲われている村がわからない。

 

「誰か! この近くの村のことを詳しく知るものはいないか!」

 

秋蘭の声に応じた村人が何人か前に出てくる。

 

その人達の話だとこの近くには2つの村があるらしい。

 

秋蘭は手を顎に当てて考える。

 

__部隊を二つに分けるか? 部隊長を流琉と季衣に任せて大丈夫か? 戦力分散の愚にならないか? 将軍職に就いてまだ日が浅いのに2人の指揮はどうか? 新兵の組み分けはどうする? 北郷は……駄目か、今回は新兵としての扱いだから指揮はできない。

 

そして秋蘭が色々と考えてその答えを出す。

 

「季衣! 流琉! 新兵700を率いて遠い方の村へ迎え!

 残りの夏候淵隊を私が率い、近い村へ急行、何もなかったら直にそちらへ向かう。

 賊と遭遇したら村人の救出を最優先で行い、賊との交戦は極力避けろ。

 仕方なく戦闘が始まったら、私が駆けつけるまでの時間を稼ぐように」

 

「それでは秋蘭様が賊に当たった時はどうすれば?」

 

指令を受けた流琉が質問する。

 

「その場合は私が時間を稼ぐ。

 伝令を送るから直に援軍にきてくれ。

 ……頼むぞ」

 

「「わかりました!!」」

 

季衣と流琉が笑顔で飛び出していく。

 

そして秋蘭が2人につれられていく新兵達を見遣ると、その中に一刀の姿を見つけた。

 

同時に向こうも気づいている。

 

コクリ

 

目線を合わせて互いに1つ頷きあう。

 

 

直ぐに秋蘭は直属の部下に命ずると、その村を後にした。

 

 

 

「う~~緊張するね」

 

「そうだね、私達がこんなに兵士を指揮することになるなんて、考えても見なかったし……」

 

季衣と流琉は自分達の後ろをついてくる兵達を振り返り緊張する。

 

ついこの間まで村で生活をしていただけなのに、今や700人の命の責任を負っている。

 

まだ年端もいかない少女達にはとてつもないプレッシャーだ。

 

「それにしても兄ちゃんって後ろの中にいるんだよね?」

 

「そうよ、さっき会ったし」

 

「えっ!? ずるい流琉ばっかり!」

 

「ずるいってなによ! ……それよりも季衣、ちゃんとしなさい。

 秋蘭様がいないんだから、私達がしっかりしないといけないのよ?」

 

「わかってるよ~~。

 ……ちぇ、兄ちゃんに会いたかったな~。

 それにしても賊のやつらムカつくよね」

 

「うん、だから急ごう?

 私達が早くつければ、それだけ救える人が増えるんだから」

 

舞台を急がせて進むと、先行していた部隊から兵が戻ってきた。

 

「将軍! いました! あれです! 村が燃やされています!」

 

「「?! 全軍駆け足! 村へ!」」

 

 

「「「「「「「おおおおお!!」」」」」」」

 

 

 

燃えている村にはまだ賊がいた。

 

基本的に襲って直ぐに逃げるこの賊の姿を、ちゃんと捉えたのはこれが初めてである。

 

季衣と流琉はこれを好機と考え、巨大武器を構えだす。

 

「皆さん! 村人の救助を最優先にお願いします!

 手の空いているものから火を消しにかかってください!

 賊は私と季衣が抑えます! 何人かついて来てください!」

 

流琉の声に応じて兵が動きだす。

 

だが、何人かついてこいと言われても皆新兵であるために、少数で賊に立ち向かおうとする程の気概はない。

 

兵達は危険の少ない村人の救出と消火に回ってしまった。

 

だが、季衣と流琉はそれに気づかずに、賊に立ち向かう気が満々である。

 

「あ! あそこに賊が固まってるよ! 流琉~行くよ!」

 

「うん!」

 

「許緒将軍! 典韋将軍! お二人では危険です! 夏侯淵様をお待ちになったほうが!!」

 

1人の気の利いた部下が止めようとするが、興奮した2人は走って行ってしまう。

 

2人はまだ若い。

 

しかもこんな大規模な戦闘を経験したこともないのだ、歯止役の秋蘭もいないこの状況に加え、村をこんなにした賊を許せなかった心情も強いのだろう。

 

事前に時間を稼げと秋蘭に指示されていた2人だが、突っ走ってしまったのだ。

 

「うりゃああ~~!!」

 

「せい!!」

 

季衣と流琉は獲物の巨大武器を振り回す。

 

その豪撃には賊の誰も止めることはできなく、次々に吹き飛ばされていった。

 

「怯むなお前ら! 相手はたったガキ2人! 囲んで動きを止めるんだ!」

 

頭領らしき男のその声で、季衣と流琉を取り囲むように何重にも人垣ができていく。

 

「へへ~、そんなんで僕を止められるかな!」

 

季衣の巨大鉄球は人垣の一角を潰す。

 

「舐めないでください!」

 

流琉の巨大ヨーヨーが、更にその一角を広げるように賊を吹き飛ばしていく。

 

開いたところへ駆け込む季衣と流琉。

 

また振り出しに戻った形だが、賊の頭も考える。

 

「もっと囲め! 何重にも囲んで外へ出すな! 離れて牽制しながら石を投げつけろ!」

 

頭の指示に従って、賊達が次々と石礫を投擲していった。

 

「くっ! ……イタ! この~~!!」

 

「せい!!」

 

季衣と流琉は互いに庇いあいながら、近寄られないようにブンブン武器を幾度も振り回すが、相手が牽制してくるためか先ほどのように当たらない。

 

「う~~流琉。

 どうしよう全然減らないよう……」

 

「はぁ、はぁ……なんでこんなにいる、の!

 このままだとまずいよ季衣~!」

 

追い詰められる状況は、想像以上に疲労の溜まりが早い。

 

小さい石のせいでいちいち防御もしなければならず、流石に2人にも疲労が見えはじめてきた。

 

「流琉、一点突破しよう!

 僕の鉄球に合わせて攻撃して!」

 

季衣の提案に流琉も武器を構える。

 

「「てりゃ~~~~!!!!」」

 

ドカーーーン

 

その強烈な一撃に賊の一角が完全に開けた。

 

2人は急いでそこへ走って抜け出そうとするが、スッと大きな影が2人を覆う。

 

「行かせねぇんだな!」

 

小柄な2人には、見上げるような大男が目の前に立ち塞がっていた。

 

その手には巨大な戦槌。

 

ッブオオン!

 

「クウッ!」

 

「きゃあ!」

 

その戦槌の横薙ぎを2人はなんとかガードをするが、また後ろにまで吹き飛ばされてしまう。

 

「へへ、ようやく大人しくなってきたようだな。

 お前ら! まだ気を抜くんじゃねえぞ!」

 

遠巻きにしていた輪が、じりじりと狭まってくる。

 

「うあ……」

 

「……あ……」

 

2人は土に塗れながら立ちあがるが、辺りは完全に包囲されてどうしようもなくなっている。

 

「へへ……なんだ、よく見ると中々かわいいじゃねえか。

 もう7,8年待てば、俺好みだな」

 

「そうだな、それなら韓居様も……」

 

「馬鹿野郎! それをいうんじゃねえ!」

 

「おっと! すまねえな。

 でもまぁいいじゃねえか、どうせこいつらは今死ぬんだからな!」

 

「も、もったいないんだな……オイラが欲しいんだな」

 

「ハ! 止めとけ止めとけ。

 命令外の事をやっちゃあ、今度はお前が死んだ連中みたいになるぜ?」

 

「そ……それはいやなんだな。

 我慢するんだな」

 

「そうそう、そんじゃあな! 恨むんなら腐った世の中ってのを恨んでくれよ!」

 

その声に呼応して男達が一斉に武器を振りかぶった。

 

何十本と迫る剣の光景を見たくないと、2人は目をきつく瞑り願う。

 

「「……助けて、兄……」」

 

 

 

「うぎゃあぁあああーー!!」

 

 

 

 

突如男の絶叫が響き渡る。

 

その声に全員の腕が止まった。

 

「なんだ!?」

 

「わからねえ! そいつが突ぜ……いぎゃあ!」

 

また響く絶叫に男達が振り向くと、その男の目に小刀が突き刺さっている。

 

初めに倒れた男の背にも小刀が刺さっており、ビクンビクンと痙攣している。

 

「な……なんだぁ? どっから攻撃されて?!」

 

男達は慌てて回りを見渡すが、燃えている家と大量の仲間、後はちらほらと官軍がいるだけである。

 

ドサッ

 

また1人が、今度は叫び声すら上げれずに倒れた。

 

 

ココニ、ナニカイル

 

 

だが、ここには餓鬼が2人と、自分達しかいないはずだ。

 

男達は一気に疑心暗鬼になる、元々信頼で結ばれた一団ではないのだ。

 

裏切り者? と伺う視線が飛び交う。

 

ドスッ

 

1人。

 

「っ!」

 

また、1人。

 

「グッ」

 

1人。

 

もはや声もろくに上げられずに消される賊達。

 

誰もが不安に心を惑わしていく。

 

すでに男達の意識は混乱の最中にあった。

 

味方が叫ぶことすらできず地に伏せていく。

 

どう攻撃されているというのか?

 

そもそもそんな者がいるのかが、わからない。

 

ここに留まると、いつ自分が気づかずに死ぬのか、わからない。

 

敵がわからぬ恐怖とは、おそらく至上の恐怖の類。

 

姿形を把握できぬ敵は、もはや化物と変わらないのだ。

 

 

どさり

 

 

ゆっくりと倒れる味方の死体が6人に達しようという時、その場から1人が逃げ出した。

 

すると、もう持たない。

 

男達はこの悪夢から逃がれようと、次々に壊走を始める。

 

「……流琉!」

 

「季衣! うん!」

 

2人がその動揺の隙をついて、再び攻撃を合わせて賊を吹き飛ばす。

 

そして、開いたスペースから細かい傷のついた2人は抜け出した。

 

男達はその2人の少女を追いかけることもできず、己の身を守る逃走しかできなかった。

 

「はぁ……ハァ……助かったね~流琉」

 

肩で息をする季衣は手を膝について、汗ばんだ顔を流琉に向ける。

 

「そう、だね。

 でも一体なんだったのかなあれ……何が助けてくれたんだろう?」

 

流琉も周りを警戒していたが、大丈夫だと判断して一息つく。

 

「わっかんないよ~……でもよかったぁ! さっきわけわかんなくなっちゃって、兄ちゃんの顔が見えちゃったもん」

 

えへへと力なく笑う季衣。

 

「わ、私だって見えたもん! なんか賊っぽい格好していたのがよくわかん、な、い……けど?」

 

話しながら、頭によぎる違和感に言葉が詰まっていく流琉。

 

「だよね~、早く兄ちゃんに会いたいなぁ~。

 一緒にご飯を一杯食べるんだもんね! ……ってどうしたの流琉?」

 

「ねぇ季衣、さっき兄様が……見えたよね?」

 

「うん! それが?」

 

「……なんで?」

 

「「………………………………」」

 

 

 

「「え~~~~~!!!!!」」

 

 

 

 

先刻の一刀の姿は本当に”見た”ものだった。

 

ピンチに浮かぶ走馬灯の類ではなく、れっきとした像として網膜に結んだ姿だ。

 

さっきは2人とも混乱していた上、一瞬しか見えなかったので幻だと思っていたのだが、冷静に考え直すと、賊の格好はしていたがあの目は一刀のものだ。

 

「兄様!」

 

「兄ちゃん!」

 

さっきよりも慌てる2人は村に戻って大声で北郷の姿を探す。

 

けど、いくら探しても見つからない。

 

どんなに叫んでも返事は返ってこない。

 

2人が慌てていると、知らせを聞いた秋蘭が到着した。

 

「季衣! 流琉! 無事だったか!」

 

隊の兵から2人が突っ走ったことを聞いた秋蘭が、大汗を流しながら駆け寄ってくる。

 

「はい、あの……それが……」

 

季衣と流琉は俯きながら先程起きたことを秋蘭に報告した。

 

「そうか……季衣、流琉。

 顔を上げなさい」

 

パシン! パシン!

 

秋蘭の平手が2人の頬を打ち乾いた音を立てる。

 

「初陣の2人にそこまでいうのは酷かもしれん。

 だが、私はお前たちに生きて欲しいんだ。

 ……これからは気をつけなさい」

 

「「……はい」」

 

「無事で良かった……」

 

秋蘭は自分の胸に2人を抱きしめると、背中をぽんぽんと叩く。

 

小さい肩がブルブルと震える。

 

耐える2人を胸に抱きながらと同時に、秋蘭は北郷のことを考えていた。

 

__どういうつもりだろうか?

 

2人の話を聞く限り、助けたのは恐らく、北郷がやったのだろう。

 

 

阿鼻叫喚を耳にしながら秋蘭は、未だ赤々とした火に燃える家々を見つめ、姿無き男のことを考えていた。

 

 

 

「北郷がいなくなった、ですって?」

 

秋蘭の報告を受けていた華琳は予想外の言葉に驚いている。

 

結局、賊は討伐できなかった。

 

秋蘭が到着した時には既に賊は逃走しており、季衣達の部隊では2人の指示が途切れたことで、火消しと村人の救出で手一杯になっており、賊の行方すら追っていない。

 

とりあえず秋蘭が村の処置を終え、部隊を再集結させて北郷を探したりもしたのだが、その姿はない。

 

一応死体も全て検めたのだが、勿論いなかった。

 

「はっ! ……残されていたのは北郷がいた部隊の隊長が、この武器を下級兵士から預かったということだけで……後、気になることが……」

 

秋蘭は刀を机に置くと、賊討伐時の北郷とのやり取りを事細かに伝える。

 

「そう…………ふふふ、あはははははは!」

 

華琳が大層愉快に笑いだしたのを、秋蘭は驚きの目で見ていた。

 

「秋蘭……連中の正体はあなたと北郷のおかげでよくわかったわ、その手口さえも、ね。

 秋蘭は北郷が何故消えたかわからないようだけれど、貴方と一刀との会話をよく思い返しなさい、わかるはずよ?」

 

__あのときの会話? ……あ……

 

「そうか、女達の居場所を……」

 

「そうよ、まさかそんな真似は腐ってもしないと思いたいところなのだけれど、連中の手口を聞いていたらそうも言っていられないわ。

 人質なんかにされたら、厄介なことになるのは間違いないし……逃がす気は一切ないわ!」

 

ドン

 

思いっきり机を叩く音が部屋に響く。

 

華琳がこうまで目に見えて怒ることなど珍しい。

 

自分達の上司が盗賊行為をしているなどと……

 

華琳の立場がもし上であったのなら、即刻公開処刑させるというのに、まだそれだけの力が無いのが恨めしい。

 

この一帯を管理する州牧、韓居。

 

古くからの家柄とその潤沢な資金によって朝廷から州牧を任され、やりたい放題をしている人物である。

 

まさに腐った役人そのものなのだが、人間というものはなにかしら取り柄というものはあるらしい。

 

今までにも、韓居が指示したと思われる事件は多数あるのだが、どれも証拠不十分。

 

自分にまで容疑を及ぼさないように他人をけしかけ、甘い汁をすする。

 

だが、今までは周到に尻尾を出さなかった狸が、ついにその尾を現しはじめている。

 

2日連続で村を襲ったのは調子に乗りすぎだ。

 

今頃、賊からの報告を聞いて慌てふためいていることだろう。

 

__覚悟するがいい……狩る、確実に。

 

容疑は確実、あと必要なのは証拠、後ろ盾、切り札無効化の3つ。

 

 

華琳は政務室に桂花を呼びつけると、秋蘭と3人でこれからの打ち合わせを始めるのであった。

 

 

 

春蘭はイラついていた。

 

その姿を一目でも視界に入れた城の者は、道をサッと空けていく。

 

彼女のイラつきは、北郷一刀によるものだ。

 

秋蘭達と賊討伐に行ったまではいい。

 

自分も行きたかったが、事態が複雑なことくらいはわかっている。

 

頭で秋蘭には及ばないのだから、このような事態には自分より妹の方が適任には違いない。

 

__だが……だが! 帰ってきた秋蘭に話を聞くと、北郷とは一緒に帰ってきていないと言うではないか!

 

北郷がこの城に住み着いて、何度も……何度も何度も何度も手合わせをしようと思ったのに

 

あるときは季衣と一緒に寝ていて?

 

さるときは流琉と一緒に寝ていて?

 

そう思えば朝議の後、桂花と何か話し合ってどっか行っちゃって?

 

賊を討伐して帰ってきたら、明日こそはと思って予定を取り付けようとしたら帰ってこなくて?

 

これでは……まるで……

 

「まるで私が避けられているみたいではないか!!」

 

その大声に、偶々隣を歩いていた侍女がヒッとおびえる。

 

実際一刀は避けているわけでもなんでもないのだが、春蘭はそう感じていた。

 

ずんずん、ズンズンズンズン……

 

怒肩を振りながら通路を歩いていくと、中庭に差し掛かったところで、視界の隅に気になるものが映った。

 

「ん? あれは……季衣と、流琉か?」

 

春蘭は庭の隅で蹲っている2人に近づいていく。

 

「あ……春蘭様ぁ……」

 

顔を上げた季衣の声に元気がない。

 

__なんだ? これでは調子が狂う。

 

「どうした? 元気がないな」

 

「流琉ぅ……」

 

「もう、自分で言いなさいよね」

 

「だってぇ……」

 

「もぅ仕方ないわね……あのぅ、春蘭様。

 実は……」

 

2人は昨日のことを相談するために話し出した。

 

春蘭は黙って聞いていたが、無表情で2人を見据えるだけ。

 

「……そうか。

 それで北郷がいないから元気が出ないということか?」

 

「「……はい」」

 

話を聞き終えた春蘭は、スッと立ち上がると自身の獲物である大剣”七星餓狼”を構え始める。

 

「……ふぇ?」

 

「えっ!?」

 

春蘭の行動の意味が良くわからない2人は困惑する。

 

「2人とも構えろ! 私が稽古をつけてやる!」

 

「「は、ハイ!」」

 

春蘭の気迫に驚いた2人は、急いで自分達の獲物を握る。

 

すると問答無用で大剣を振りかぶった春蘭は、2人に容赦ない攻撃を始めた。

 

「うわぁっ!!」

 

「きゃあ!!」

 

2人はギリギリでかわし、後ろに飛びずさる。

 

「私は難しいことはよくわからん!

 秋蘭が何を考えているのかも、北郷が何をやっているのかもわからん!

 だが、さっきの話を聞いてわかったこともある!

 2人はまだ……”弱い”ということだ!」

 

ギャリイィン

 

春蘭の苛烈な攻撃を、季衣は自分の鉄球でなんとか防ぐ。

 

巨大な鉄球を押し飛ばすかという衝撃に季衣に苦悶が浮かぶ。

 

「賊程度に囲まれた程度でやられてどうする!

 華琳様にお仕えする事になった以上、その程度の窮地を跳ね返せる力をつけろ!」

 

「「!」」

 

ドゴゥゥゥン

 

春蘭が今度は流琉を攻撃した。

 

大剣が地に埋まり、凄まじい轟音が辺りに響き渡る。

 

季衣はそれを隙と見て、鉄球を振りかぶり春蘭に投げつける、それに一つ遅れて流琉が春蘭のすぐ横から巨大ヨーヨーを投げた。

 

「甘い!!」

 

ゴガァァーーーンガァン!!!!

 

春蘭は埋まっている大剣を引き抜くと、流琉のヨーヨーに叩きつける。

 

それによって軌道を変えられたヨーヨーは、季衣から放たれた鉄球にぶつかり相殺させられる。

 

「え?!」

 

「そんなぁ!!」

 

「はぁぁああああ!!」

 

春蘭は鉄球とヨーヨーの鎖と縄を手に掴むと、同時に引き寄せる。

 

武器をしっかりと握り、尚且つ踏ん張っていた2人なのだが、その強力な引き寄せに抗うことができずに一気に春蘭へ引き寄せられた。

 

「くぅ!」

 

「っ!」

 

2人は直ぐにでも訪れるであろう攻撃に、覚悟を決める。

 

……ぽすっ

 

「え……」

 

「はぇ……?」

 

春蘭は勢いよく飛び込んできた2人を抱き上げると、ワシワシと頭を撫でた。

 

先程のような荒々しさは既に消えている。

 

2人が恐る恐る顔を上げると……

 

「強くなれ!」

 

真っ直ぐに、自分達を見つめる春蘭の力強い瞳。

 

それは何よりも確固たる意思を感じさせられるものであった。

 

「「ハイ!」」

 

2人は元気を取り戻し頷いた後、お互いに笑顔を見せ合った。

 

「よし! 御飯でも食べに行くか!」

 

「「ハ~イ」」

 

そうして元気になった2人は、春蘭と仲良く街へと向かっていった。

 

 

”それにしても北郷め、帰ったら1発ぶん殴ってやる”

 

と春蘭が密かに決意をしたのは……内緒。

 

 

 

どうもamagasaです。

 

皆さんからのコメント、御支援、メールありがとうございます! 励まされます!

 

御意見・誤字報告もありがとうございます!

一応投稿する時見直してはいるのですが……自分では中々気づけないものでして、すいません。

 

今回は華琳様達の諸事情ということで、原作と離れた話を入れさせて頂いたのですが……いかがでしたでしょうか?(不安)

 

季衣と流琉の成長……書けてるかなぁ……

さり気に秋蘭が一刀君に入れ込んでいるのも、書きたかった1つです。

 

 

皆さんに、第5話を楽しんでいただけたら幸いです。

 

御意見、御感想、御支援、いずれもお待ちしております!

 

それでは~…… (あぁ……眠い。 ケアレスミスしてそうだ……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一言

 

最近、黒ひげの中の人が大塚明夫さんだと知ってびっくりしました。

ゼハハハハ! あぁ……超聞きたいなぁ、DVD貸し出ししてるかな? いやユーチューブで……

 

 


 
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