No.94926

真・恋姫無双 季流√ 第6話 怪傑捕者帳

雨傘さん

皆さん応援ありがとうございます!
予想より話が長くなってしまいましたが、捕物は今回で終わります。
ちょっと文章短いかもしれませんが、ご容赦を。

2009-09-12 00:11:11 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:37010   閲覧ユーザー数:23892

 

「っくち」

 

「なんだぁ風邪か? うつすんじゃねえぞ」

 

「あぁ、すまん」

 

……誰か噂でもしているのかな?

 

北郷一刀は今、州牧が治めている街の外れにある古ぼけた屋敷にいる。

 

多少数を減らしたが400人以上いるのだ。

 

いくつかの街の施設に分かれて賊は隠れていた。

 

一刀はどうすればいいのかわからないので、とりあえず周りに合わせて動いている。

 

賊の互いに面識の弱い組織編制に助かっていた。

 

しばらくすると、文官風の男が屋敷に現れて賊のボスを呼びつけた。

 

その2人が少し賊から距離を取って部屋にそっと入っていく。

 

__チッ……これじゃあ何を言っているのかわからないな、部屋の中じゃ無理か……なんとかしないと……

 

一刀はスッと立ち上がると、怪しまれないように2階へとあがっていく。

 

幸いなことに上の部屋は武器やら防具やらを隠している物置部屋で、入っても誰もいなかった。

 

一刀は部屋の窓から適当に布で作った縄を伝い外へ出ると、部屋の中で話している2人を窓ごしから観察する。

 

「…………」

 

「……………………」

 

話す声はよく聞き取れないが、幸いなことに窓から見て横向きに座っているので、一刀は唇を読んで補足していく。

 

「……だったな。 ……それでどうだ? 上手くいったか?」

 

「それなのですが、どうして官軍が近くにいることを教えて頂けなかったのでしょうか?」

 

随分と丁寧な対応をする男、どうやら賊のボスは官軍らしい。

 

「何? 官軍にあったのか!」

 

「ええ、恐らく昨日襲った村の調査に来ていた軍かと」

 

「むぅ……まさかこんなに早く兵を動員してくるとはあの小娘め、何か感づかれる前に手をうつ必要があるな……これは韓居様にお伺いを立てる必要が……それで、被害は?」

 

「80人位です、今までのことを考えると相当な被害といえます。

 収穫も金目のものしか手に入りませんでした」

 

「なんじゃ、それじゃあ女は?」

 

ボスはノーを示すように頭を振る。

 

「そのような余裕はありませんでしたよ。

 ……火をつけるのに手一杯で死体を焼く暇も……」

 

「なんだと! それは不味い! 最低限それはしてこいと言っておいただろうが!」

 

「やたら強い子供達が敵にいまして……私達はその相手で手一杯でした。

 被害のほとんどもその2人の子供のせいです」

 

__流琉と季衣のことか。

 

「ガキが2人? どんなのだ?」

 

「桃色と緑色の髪でした、信じられない程の怪力で……正直かなり焦りましたね」

 

「あの2人か……どこのガキかと思ったら腕は確かということなのか、また厄介な……そいつらは捕らえてきたのか?」

 

「捕らえる、ですか? 殺すのでは?」

 

「いや、それだけの力は役に立つ。

 それにわしもチラとしか見なかったが、容姿は中々のものだ。

 しっかりと躾ればゆくゆくは……」

 

舌なめずりする文官風の男に対し、一刀は腹から立つ熱い怒りに思わず黒い笑みが浮かんでしまった。

 

__こいつ、後で殺す。

 

間違いなく……ぶっ殺す!

 

「ですが、捕まえてきていません。

 全員で囲んだのですが、その……化物がでましてその隙に逃げられました」

 

「化物? なんだ貴様ふざけているのか? そういう言い訳は感心せんぞ」

 

「嘘ではありませんよ。

 我々は子供を完全に囲んだのですが、味方が1人、また1人と倒れていったのです。

 辺りを見回してもそれらしい敵はなし、でも次々に仲間は倒れていくし……相当な恐怖でしたよ。

 まだ恐怖に呻いている者も多数いるぐらいです」

 

それを聞いた文官が鼻で笑う、えてしてこういう見下す事に慣れた者は総じて疑い深い。

 

「はっ! そんなことはどうでもいい。

 全く……これでは収穫が禄にないではないか。

 今回の報酬は厳しいぞ」

 

「あの賊達を纏めるのに報酬がないのでは手がつけられません。

 連中は報酬に釣られて動いているだけですし……どうなるかは保障しかねます」

 

「……ふん。

 まぁいい、今回の失態には目を瞑っておいてやろう。

 報酬はいつものところに届けておく」

 

「ありがとうございます。

 それでこれからはどうしますか?」

 

「連絡がいくまで待っていろ、連絡方法はいつものように遣いを出す、もうすぐあの屋敷が空くからそこで好きにするがいい。

 くれぐれも目立つ行動だけは避けろよ」

 

もう興味を失ったのか、文官はそういい残すと屋敷を出て行った。

 

賊のボス達はしばらくその屋敷にいたのだが、遣いがきて移動を命じられる。

 

一団に混じってついていくと、そこは大きな屋敷だった。

 

”な! これは!?”

 

そこは州牧の屋敷の中であった。

 

民から吸い上げた血税で作り上げた、広大な敷地面積を誇る屋敷。

 

その奥にある離れの屋敷に案内されたのだが、それでも相当にでかい。

 

なにせ500人程度の人数なら余裕で生活ができるくらいの広さなのだ。

 

屋敷に入ると、賊達は各々の時間を過ごしていたが、酒が届けられた途端にどんちゃん騒ぎになる。

 

酒を飲むふりをしていた一刀は、酒で騒いでいる連中を尻目に屋敷をそっと抜け出した。

 

「……それにしても無駄に広い……なんでこういった馬鹿は、やたら物をでかくしたがるんだ?」

 

一刀が木陰から木陰へ巡回の警邏に気をつけながら屋敷本殿へと向う。

 

ようやく本殿にまでついた一刀がそっと通路のそばに隠れていると、巡回していた兵が歩いてきた。

 

「……悪いね」

 

ドフ

 

一刀は背後から兵を襲い一気に気絶させると、手早く服を剥ぎ取って着込んでいく。

 

「……最近男の服を脱がせるのが、だんだん上手くなってきたのが悲しいよ」

 

そりゃあ上手くなるならば女性がいいに決まっている。

 

一刀は男に自分の服を適当に纏わせて、縁の下へ放り込んだ。

 

__最近は暖かくなってきたから大丈夫だろ。

 

警邏に変装した一刀は屋敷を巡回するように歩きまわる。

 

夜間ということもあって、そこまで巡回している人間が多いわけではないが、あまり顔を見られるのは不味い。

 

人を避けるようにして歩いていくと、まだ薄く明かりのついている部屋を見つけた。

 

中々いい部屋のようだ、室内では誰かが話し合っている声がしている。

 

一刀は部屋の明りに映らないように気をつけながら、聞き耳を立てた。

 

「……程、韓居様に伺ったところ、もう連中を始末しろとの仰せがあった。

 軍で屋敷を囲んで一気に火をつける。

 そちらの私兵も協力してくれぬか?」

 

「おお、任せろ。

 だが連中を始末するとして、これからどうやって商品を仕入れるのだ?」

 

「なに、連中程度いくらでも集めることはできる。

 ほとぼりが冷めたら、またやるんじゃないかね?

 それとも他にあてができたんじゃろうか……」

 

「人買いのあてなどそんなにあるものなのかぇ?

 まぁよい、わしははじめからあの連中のような、粗野な者どもを用いるのは反対だったんじゃ。

 この機会に一斉に憂いを立ちたいところだの」

 

__人買、い? …………人身売買だぁ?!

 

一刀は一般兵に支給される剣を強く握る。

 

今が偵察中でなければ、すぐにでも切り落としてしまいそうな嫌悪感だ。

 

「それで商品はどこにおいてあるのじゃ?

 間違って賊の連中と一緒に燃やしてしまうと大変じゃしの」

 

「今は西棟じゃよ。

 賊の連中は南棟じゃからくれぐれも間違えんようにの……では頼んだよ」

 

中の男が1人立ち上がる気配がしたので、一刀は慌てて身を隠した。

 

がらっ

 

すたすたすたすたすた……

 

 

男が居なくなると、機嫌の悪い一刀は来た道を戻り、闇にその姿を消した。

 

 

 

その夜。

 

全てが寝静まった子の刻。

 

華琳は桂花、春蘭、秋蘭、流琉、季衣と主要な人物を内密に集める。

 

中でも季衣を起こすのは大変だった。

 

「今日から皆に頑張ってもらうことになるわ、気合を入れて頂戴」

 

「「「「御意!」」」」

 

「先日、秋蘭が討伐に行った賊は官軍が関係していることが判明したわ」

 

「「「え!!」」」

 

春蘭、季衣、流琉は信じられないと驚く。

 

「それは本当なのですか華琳様!」

 

「ええ、まず間違いないわ。

 相手はあの韓居よ」

 

「なんと!!」

 

春蘭はその名を聞いて驚いているが、季衣と流琉は良くわからないと首を捻っている。

 

「ここの州牧が韓居なんだ」

 

秋蘭がそっと説明すると、2人の顔がみるみる赤くなる。

 

「今回は早さが勝負よ、あの韓居のことだからここを逃すと機を失することになるわ。

 桂花、今我々に必要なことは?」

 

「はい! まず我々に必要なのは証拠と、後ろ盾となる人物になります。

 後ろ盾となる人物は華琳様の祖父が宦官であった繋がりがありますから、私の宮中にいる知り合いを通し、急いで許可を取り付けるので問題はありません。

 すると問題になるのはやはり証拠かと……それも明らかなモノである必要があります」

 

「証拠などとまどろっこしいことなどしていられるか!

 直に私が行って奴らを成敗してくれる!」

 

春蘭の頭にはかなり血が上っており、既に臨戦態勢のような気迫を出していた。

 

季衣と流琉もそれについていく気満々だ。

 

「待ちなさい脳筋! ……今回は相手が違うのよ。

 朝廷の信任を受けている人物……形式だけといっても華琳様より立場は上なのよ。

 下手をうつと返り討ちになって、逆臣扱いされかねないわ!」

 

「だれが脳筋だ!

 そんなもの相手が悪いとわかればいいのだろう!」

 

「それができないから待てっていってんでしょ! この脳筋! 脳筋!」

 

「貴様~~!! 2度も”黙りなさい!”……ハイ」

 

華琳の怒声で2人とも借りてきた猫のように大人しくなる。

 

「春蘭、貴方の心意気は後で存分に発揮してもらうわ、でも今は機が満ちるまで待ちなさい。

 桂花、私達にはどのような策があるかしら?」

 

「はい、まず強襲する場合ですが相手の軍の規模は我々よりも大きいです。

 ですが韓居には優秀な将軍などはいなく、兵の練度も明らかに低い事は調査済みです。

 ですから正面から当たった場合はさしたる問題もなく捕らえることはできるでしょう、ですがこれは実行するには危険です」

 

「何故かしら?」

 

「はい、まず韓居が人質などをとった場合、我々は動きが取れなくなります。

 次に……これが最悪の事態になるのですが、証拠が無かった場合です。

 もし、無理に捜索した上に証拠が無いとなると、我々が今度は窮地に立たされる事は間違いありません」

 

「そうね、他の案は?」

 

「……やはり、証拠を探すしかないかと。

 先日の賊討伐の際の捕虜はいません。

 証拠となる物証も目ぼしい物はありませんでした。

 ですが、先日の襲撃は相手に失敗も多いはずです。

 よって焦っていることは間違いないでしょう……必ずどこかで粗がでます」

 

「そう、桂花は後でもう一度何かないか洗い直しなさい。

 春蘭と季衣は直に戦闘にでられるように部隊を編成し、秋蘭と流琉は先に足の速い兵をつれて韓居の動向を探りなさい。

 近日中に動きがあるはずよ、気取られぬよう気をつけて向いなさい」

 

「ですが華琳様、城の手の者はどうしますか?」

 

そう、自分達のいるこの城には韓居の間諜がたくさん潜んでいるのだ。

 

将軍が皆居なくなったら騒ぎになるだろう。

 

「春蘭達は賊の討伐準備、秋蘭達は賊の捜索とでもしておけばいいわ。

 どうせ連中は知らせることが精一杯なのだし、こちらに手を出してきたときは……消すわ」

 

それは大丈夫なのだろうか?

 

と、一同思ったのだが華琳の目は本気だ。

 

だからこそ皆事の重大さに、より一層の決意を胸に抱く。

 

「あ、あの……兄ちゃんは?」

 

季衣がおずおずと華琳に尋ねる。

 

「一刀は……正直わからないわ。

 2人には何かわかったら直に知らせるようにするから、貴方達は自分ができることをしなさい」

 

「……はい」

 

華琳は季衣の残念そうな顔を見てちょっと良心が痛む。

 

北郷が何をしているのかは本当にわからないが、敵中にいることは間違いない。

 

だから彼自身の安全のためにも言うわけにはいかないのだ。

 

「皆、ここ数日が勝負になる。

 各人の奮励努力を期待する」

 

「「「「「御意!!」」」」」

 

全員が部屋から出て行く、部屋に残った華琳は窓の外を見上げた。

 

 

__一体、何をしてくれるのかしらね?

 

軽く微笑む顔を引き締めて、華琳も部屋を後にした。

 

 

 

「よし、いくぞ」

 

秋蘭は数人の平民に変装した部下を連れて、街に潜入することに成功した。

 

何人かの組を作って街の四方へ放つ。

 

「よし流琉、私達も気をつけていくぞ。

 連中も警備を強化しているのは間違いないからな」

 

街の入り口でも検問が敷かれていたところを見ると、かなり警戒を強化しているらしい。

 

だが悲しいかな、普段ちゃんとできない連中がいくら増えても穴が多い。

 

単純に兵の練度が低いのだ。

 

秋蘭達は街の中に紛れると、姉と妹のように手を繋いで歩いていく。

 

街の中にも警備をしているのだろうか、鎧をきた者が多く居た。

 

ある程度情報を集めると、あらかじめ示しあわせておいた店に集まり、部下も合わせて食事をする。

 

するといくつか気になる情報があった。

 

怪しい私兵団らしき一団がたむろしていたことと、昨晩韓居の屋敷で侵入者の騒ぎがあったということだ。

 

何やら縁の下から警邏中の兵が見つかったとか。

 

__まさか北郷か?

 

その考えが秋蘭の頭をよぎるが、まさかと思い直す。

 

いくらなんでもそれはないだろうと。

 

秋蘭はとりあえず、私兵団が怪しいと目星をつけて数人をそれの監視に当たらせる。

 

残りの者は他に何かないか探すように指示をすると、昼を終えてまた散開した。

 

あまり時間は残されていない。

 

そう心に焦りを抱えながらも、時間は無常に過ぎていく。

 

現実は中々うまくいかないもので、結局夕方になって得れたものに目新しいものは無かった。

 

「結局、私兵団くらいのものか……見張らせたが動きもなし。

 聞き込みでも大した情報は出ないときた、やはり城か屋敷にでも忍び込まないと厳しいかもしれんな……後は桂花達で何か見つかればいいのだが……」

 

こう述べる秋蘭自身、その可能性は低いと考えている。

 

「秋蘭様、夜に忍び込むことはしないのですか?」

 

隣を歩く流琉が秋蘭を見上げる。

 

「最悪しなければならないだろうな。

 そこまでの危険を冒したくないのも本音なのだが……

 勅史になった時、桂花が街の復興、私が部隊の拡充と姉者がその調練に精一杯で、私達の部隊にはまだ優秀な細作はいないんだ。

 それに細作や間者の育成は上が一際うるさくてな」

 

「どういうことですか?」

 

「流琉には言っても大丈夫か……

 城にいる文官武官のほとんどが韓居の息がかかった者達だ。

 ”前任を解任する代わりに他の者は残す”というのが華琳様が出世なさる際の取り決めでな。

 人事権がほとんど残されていなかったんだよ。

 細作や間者の教育など提案しようものなら、韓居の耳に届いて直ぐに止めさせにくるってことなのさ。

 ……暗殺など、奴が一番恐れる事だからな」

 

「そうなんで、きゃ! ……す、すいません!」

 

流琉は秋蘭をずっと見上げていたため、向かいの通行人とぶつかって倒れてしまった。

 

ぶつかった男は何も言わずにその場を去ったので、秋蘭は流琉を起こしにかかる。

 

「大丈夫か流琉?

 それにしても無礼な奴だ。

 一言くらいあってもいいだろうに……」

 

「いえ、いいんです。

 余所見して歩いていたのは私の方です……し?」

 

流琉は立ちあがると体の違和感に気づく。

 

「秋蘭様! さっきの人は!?」

 

「ん? もう……いないようだ。

 もしや何か盗られたのか?!」

 

流琉と秋蘭は辺りを見回すが、既に先程の男の姿はどこにも見られない。

 

秋蘭は物取りと考えて走ろうとするが、グイっと流琉が袖を掴んで放さなかった。

 

「流琉?」

 

「秋蘭様……ついてきてください!」

 

流琉は秋蘭を掴んで走り出すと、裏路地に入って辺りに誰もいないことを確認する。

 

「ど、どうしたというのだ流琉よ。

 こんなところに一体」

 

流琉は服の裏から紙を取り出す。

 

この時代の紙は貴重だ、そう無駄にできるものではない。

 

流琉はそれを急いで広げると目を凝らすように見入る。

 

「えっと……なんだろこれ、何かの見取り図、かな?」

 

秋蘭も流琉の持っている紙を上から覗きこむ。

 

「……? これは……韓居の屋敷の見取り図か!」

 

見覚えのある構図に秋蘭が驚く。

 

「そうなんですか?!

 じゃあままさか、この印に書いてあることって……」

 

「一体誰が?」

 

「この字、単語だけだし……しかもこの端の、ひらがなってのだ! 兄様!」

 

 

「流琉! 直に城へ戻るぞ!」

 

「はい!」

 

 

 

馬を休ませることもせず秋蘭達は夜に街を脱出してからひかすら急いで城へ帰還する。

 

バテている馬をそのままにして、秋蘭と流琉は華琳の政務室へとなだれ込んだ。

 

意外な2人に華琳が面をくらっている。

 

「どうしたのあなた達……もしかして何か見つかったのかしら?」

 

「華琳様、コレを見てください!」

 

そういわれた華琳は紙を受け取って目を通すと、クワッと見開いた。

 

「これは、一体誰が?」

 

「兄様です!

 この字は兄様の字で間違いありません!」

 

汗をかいている流琉は、とても興奮しているようだ。

 

「そう、一刀が……この紙を信じると時間がないわ。

 誰かある! 春蘭と季衣、桂花をすぐに呼んできなさい!」

 

しばらくすると呼ばれた3人が飛んできた。

 

「華琳様! 何かあったのですか?

 ……おお? 秋蘭じゃないか、一日ぶりだな! あれ? どうしているのだ?」

 

「姉者落ち着け、華琳様がお話くださるから」

 

全員集まったのを確認すると、華琳は机に紙を広げる。

 

もう間者にも気を配る気は無い。

 

「全員、この紙を見て頂戴」

 

「なんですかこれは? ……ずいぶん拙い字が書いてありますが……図はわかりやすいのに」

 

春蘭が意味がわからなくて頭を捻っている。

 

「それは、その……兄様の字です。

 まだ教えてから間もないので……///」

 

「何! 北郷だと! あやつはどこにいるのだ!」

 

「落ち着け姉者! ここに北郷はいない。

 流琉が北郷からこの紙を預かったのだ」

 

「兄ちゃんは生きてるんだね!」

 

季衣の笑顔に秋蘭は一つ頷くと笑顔を返す。

 

「ああ、間違いなく生きている。

 それどころかこれは……」

 

「ええ……素晴らしいわ!」

 

華琳が紙の表面を優しく撫でる。

 

__全くもってあの男は……

 

「春蘭、季衣、今すぐに軍を出す準備をせよ、韓居の屋敷へ強襲をかける!」

 

「御意!」

 

「ハイ!」

 

「桂花!

 あなたの部隊には屋敷内の捜索を命ずる」

 

「はい! お任せを華琳様!」

 

「秋蘭と流琉の部隊は城の方の韓居の部隊を抑えなさい、完全に息の根を止めるわよ」

 

「「御意に!」」

 

そして陳留の街は、夜にもかかわらず騒騒しい事態になった。

 

将軍達に叩き起こされた兵達は急な夜間の出兵に驚くが、慌てることはない。

 

次々に装備で身を固めた屈強な兵士達が整列していく。

 

大量の篝火が炊かれた城下を、兵達が駆け抜けて行った。

 

「な……なんなのだコレは!?」

 

兵が騒いでいると報告を受けた韓居の鈴達は、城下の様子を見て慌てふためく。

 

その兵の行き先を尋ねたところ、韓居様のいる屋敷というではないか。

 

文官たちの背にじわりと嫌な汗が流れる。

 

不味い、不味すぎる。

 

今韓居の屋敷には賊の連中と商品の女達がいる。

 

これを調べられたら終わりだ。

 

「い、急いで韓居様に使者を出せ!

 いや、私が直接赴こ”あら、どこへいくのかしら?”……そ、曹操様!?」

 

文官達は背後に現れた華琳に驚いて思わず後ろへあとずさる。

 

「貴方達は待機していていいわ。

 既に準備は春蘭達で間に合っているしね」

 

「な、何をおっしゃいます曹操様。

 このような出兵我々は聞いておりませぬ。

 せめて我々もついてゆき事態を把握しないわけには行きませぬて……」

 

へいへいと頭を下げる文官達を見て、華琳は冷徹なまでの視線を浴びせる。

 

「ふーん? 今日は随分働きたがるのね」

 

「何を異なことを、我々は日夜曹操様のためを思い、身を粉にし”黙りなさい!”?!」

 

平伏している男達に向ける華琳の目は、もはや”人間”を見る目ではない。

 

「あまりにもつまらない茶番劇に付き合うのはもう終わりよ。

 こやつらを捕らえろ! 1人たりとも逃がすことは許さぬ!」

 

曹操の命に従って大量の兵士達が駆け寄ってくる。

 

「や、やめんか無礼者! 放せ! 放さんかぁぁ!!」

 

「我々に触れるなど、貴様ら無礼打ちにしてくれる!」

 

「く、くそっ!!」

 

やけになった一人が懐刀を取り出して曹操に駆ける。

 

シュラ

 

華琳は自らの獲物である大鎌”絶”をどこからともなく取り出し、駆けてきた男の小刀を弾くと、返す刃で一気にその文官の頭を刎ねた。

 

ゴトン ゴロ ロ

 

「「「「ヒィ!!」」」」

 

転がる生首を見た文官達の顔が青ざめる。

 

それで一気に逃げる気力が萎えたのか大人しくなった。

 

次々に兵に連れられていく文官達。

 

華琳は転がっている頭を見て、冷笑を浮かべた。

 

 

その男は、以前この世が平和であると言っていた者だった。

 

 

 

漸く日が明けようとする、まだ鶏も鳴きださない時。

 

「失礼いたします!」

 

「……何事か」

 

寝不足なのか、不機嫌な韓居が襖ごしに声をかける。

 

「はっ! 韓居様! すさまじい勢いで軍隊がこの街へ向かっておるようです!」

 

「ん……な、なんだと! どこの者たちだ?」

 

「は! 報告によると陳留の曹操様のものではないかと思われます!」

 

「曹、操だと? あの生意気な小娘め……ついに血迷ったか」

 

恐らく先日の事件について来たのだろう、だが証拠も無しにくるとは愚か。

 

それとも屋敷を捜索すれば何かみつかると考えているのだろうか?

 

ニヤリ

 

__これはもしかしたら好機やもしれぬな。

 

あの曹操を蹴落として、奴の優秀な兵達を吸収できるやもしれぬ。

 

「どうすればよろしいでしょうか?

 昨晩の賊が起こした火事騒動で、屋敷の者たちは疲弊しておりますが……」

 

「ふむ……城へいって兵を出させろ。

 屋敷は門扉を閉め、中には誰も入れるな」

 

「は! ただちに!」

 

兵が伝令を伝えに走っていく。

 

 

「ふっふっふ、今一歩……間に合わなかったな曹操。

 嫌な予感で昨日、作業を早まらせておいて正解じゃった。

 ここに来て、何かみつかるとよいのぅ……」

 

 

 

「韓居には略奪及び、人攫いの嫌疑がかかっている!

 早くここを開けぬか! 門扉を開けろ! さもなくば押し通るぞ!!!」

 

「そうだ~! 早く開けろ~!!」

 

春蘭と季衣の大声が響き渡るが、屋敷からの反応はない。

 

「警告はしたぞ! 覚悟をするがいい!」

 

獰猛に笑う春蘭が七星餓狼を構えるが、季衣が引き止める。

 

「春蘭様! 僕にやらせてください!」

 

「季衣か! ……よし、やれ!」

 

春蘭の声に応じて季衣の鉄球がうなる。

 

ブンブンブンブン

 

「いっくぞ~~~!!!!!」

 

ガグシャーン

 

季衣の放った巨大鉄球は、一撃で門扉を粉々に粉砕する。

 

「うわぁああ! なんだ?!」

 

「いきなり門が壊れたぞ!」

 

「韓居様へ知らせろ! 早く!!」

 

屋敷の中にいた兵達が侵入してきた春蘭達をみて慌てだす。

 

「「突撃~~!!!」」

 

屋敷に曹操軍がどんどんと押し入っていく。

 

「西塔と南塔を調べろ! 急げ!」

 

春蘭たちが屋敷の捜索をしていると、従者を連れた老人が現れた。

 

「……なんの騒ぎかな? 夏候惇将軍」

 

「韓居……貴公には盗賊行為と人攫いの容疑がかかっている。

 大人しくしてもらおうか」

 

それを聞いた韓居が、わっはっはと楽しげに笑う。

 

その笑い声は、春蘭にとって耳障り以外のなにものでもないのだが……

 

「どこにそんな証拠がある?

 まさか曖昧な嫌疑で、このような暴挙をしたわけではあるまいな」

 

「ふん! そんなものは今”夏候惇将軍!”見つかったか!?」

 

兵が慌てて駆け寄ってくると

 

「に、西塔はすでにもぬけのからであり! 南塔は燃えた跡しか残っていません!」

 

「なんだと!?」

 

予想外の兵の報告に春蘭が動揺する。

 

「夏候惇将軍……南塔は昨夜賊に侵入された際に燃やされてしもうたんじゃ。

 それに西塔など……今は誰も使ってはおらんのだよ?

 何を探しているのかとんとしらぬがなぁ……

 さて、どのような証拠があってわしが疑われているのか、御教授願おうかの?」

 

「っく!」

 

動揺している春蘭は、証拠を屋敷に入って見つけるつもりだったのだ。

 

それがないとなると、今度は一気に自分達が危うくなる。

 

「なんだ、もしや無いのか?

 ……このことは朝廷にしっかりと報告させて貰おう。

 朝廷に信任されたわしを疑ってのこの振る舞いなのだからな……お主等の曹操は逆臣として処罰されることになろうて……

 ところで夏候惇将軍、君達はわしのところに来る気はないかね?

 今よりも良い待遇を約束するぞ?」

 

「ふざけるな! 私の主は唯1人! 曹孟徳様以外にはいない!」

 

韓居はその言葉に顎を1つなでる。

 

「ふむぅ……やはり姉のほうはうつけか、まぁ良い。

 早く私の邸宅から、その無粋な者達を引いてくれないかね?

 わしは今から朝廷に使いを出さねばならぬのだか”その必要はないわね”……」

 

韓居の言葉に被さるように凛とした声が響く。

 

「おお、曹操ではないか。

 此度のことは真に残念じゃ、お主のような聡明な者がまさか流言に誑かされるなどと……」

 

「流言?

 この私が流言など信じるわけがないでしょう。

 そのようなことも御老体になると、わからなくなってしまうのかしら?」

 

「……言うてくれるな小娘が。

 お主の部下達は何1つ証拠を持っていないと申しておるが、どう申し開きするつもりじゃ?」

 

「フフ……証拠、証拠、証拠と……そこまでして証拠を求めるのであればいいでしょう。

 連中をここへ連れてきなさい!」

 

華琳の言葉に兵達に引き連れられた、まだ生かされている文官達が次々と連れられてくる。

 

「韓居様!」

 

「韓居様! お助けください!」

 

口々に韓居に助けを求める文官達。

 

「……なんじゃこいつらは?

 このような者などわしは知らんが」

 

まるで汚いものを見下すような韓居から放たれる言葉に、驚く文官達。

 

「そ、そんな!」

 

「韓居様! 私です! 私ですよ!」

 

喚く文官達を無視して韓居は曹操と向き合う。

 

「このような者どもとわしは関係ない。

 わかったら早く、この煩い馬鹿共を下がらせろ」

 

「……尻尾を切る、ということね」

 

「切るもなにも初めから知らんというとる。

 こんな者どもが証拠になると思うとるのか?」

 

韓居が勝ち誇った笑みを浮かべている。

 

もとより曹操なら鈴達くらいを突きつけてくることなど予想の範疇なのだ。

 

もう曹操に切れる手札はない。

 

そう確信している。

 

「では、この者達はどうしますか? 韓居」

 

今度は背後から声があがる。

 

振り返ると桂花が兵を引き連れていた、その兵たちはみな賊を捕らえている。

 

「南塔を燃やしたのは流石ですね。

 ですがあんな急ぎ仕事で、全員を始末できたとお思いでしたか?

 確認をしなかったのは、らしくないですね」

 

昨夜酒で酔いつぶれて寝ているときに、火災に見舞われた賊は大半が煙による呼吸困難と炎で焼け死んだが、それでも全員がやられたわけではなかった。

 

そう、いくらかの人間は”事前”に逃がされていた。

 

その中には賊のボスだった男もいる。

 

「韓居様! いや……韓居! よくも俺たちをだましたな!

 あんたの指示に従ってあんな事をやったっていうのに! 殺してやるあ!」

 

凄い殺気を放ちながら賊達は韓居を睨む。

 

それに気圧されたのか韓居は一歩後ずさるが、まだ引くわけにはいかない。

 

「そのような賊の言うことなど誰が信じるか!

 全て貴様達が仕組んだ連中に決まっている!

 そうだ……わしは無実なのだからなぁ」

 

韓居は深い皺を刻みながら、その賊達から離れて距離をおく。

 

韓居は焦ってきた。

 

まだ賊が生きていたのにも驚いたが、それ以上に気にかかることは曹操が未だ余裕なのだ。

 

まだ、なにかあるというのか?

 

「……街の東の大通りにある、一際大きい酒家の3階……」

 

華琳から、そっと呟くように紡がれる言葉。

 

__東通りの……酒家の三階……な、なぜ…………何故曹操がそのことを知っている!?

 

「城の兵はどうなっている! こいつらを早く追い出せ! いや殺せ!」

 

「それが、城は既に夏候淵将軍の部隊によって抑えられております!」

 

「なんだと?!」

 

「ハァ……もういいでしょう韓居……いい加減見苦しいわ」

 

華琳の兵が韓居を捕らえようと近づくと、韓居は剣を振りかぶってその兵を斬る。

 

兵は怪我をしながらも後ろへ退いた。

 

「韓居! 貴様ぁ!」

 

「止まれ!」

 

韓居の叫ぶ声に、飛び出そうとした春蘭が止まる。

 

「わしに何かしたら、女どもの無事はわからんぞ?

 あそこの兵達にはわしに何かあった場合、直ぐに殺すように命じてあるんだ。

 わかったら動くなぁ! ……曹操、その者達を放してやれ……」

 

言葉通りに、華琳は捕らえた文官達を解放させていく。

 

「そうだそうだ。

 中々物分りがよいではないか?

 貴様等は動くなよ……」

 

韓居は合流した文官達と一緒に脱出しようとするが、曹操達の兵が囲んで出ることができない。

 

「曹操! 人質がどうなってもいいのか!」

 

その脅すような言葉に、むしろ華琳はフフッと嗤う。

 

「……人質? どこにいるのかしらね?」

 

「ふん! 言うわけなかろうが! だがわしに”どこにもいないと思うぜ?”なん?!」

 

突然沸いた声に韓居は辺りを見渡すと、曹操の後ろからただの一兵士が現れた。

 

「なんだ貴様は!? クズが黙っていろ!」

 

「はっ、お前にクズとか言われたくないがね。

 人質は解放させてもらったよ、兵達は全員捕まえた」

 

「そんな馬鹿なこ”ほれ”とが?!」

 

一刀が韓居達を囲んでいる輪の中に、捕らえた兵達を投げ入れる。

 

それは女達を監視していたはずの兵達であった。

 

全てが終わったと判断した華琳は、場にいる全ての者に聞こえる凛として清々しい声を上げる

 

「韓居! 貴方は州牧の身でありながら守るべき民から盗賊行為を行い!

 あまつさえ人身販売を行うなど言語道断である! 覚悟せよ!」

 

追い詰められた韓居と文官達は、身の破滅を悟り無謀の逃亡を試みる。

 

だが、曹操の兵達は皆一流の兵士達である、奇跡は無い。

 

 

こうして、ただの盗賊騒ぎから始まった一連の騒動は幕を下ろした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……捕まえました、マル……と、これでいいわね。

 ふあぁ~~。

 報告書が予想以上に長くなっちゃったわね……もう、朝か……

 ひとまず仕事も一区切りしたし……少しは寝ましょう、お肌に悪いわ」

 

疲れた桂花は筆をおくと、現代で言うパジャマ(とってもふんわりしてます)に着替え、明かりを消してベッドに潜り込むのだった…………おやすみなさい。

 

 

どうもamagasaです。

 

応援ありがとうございます!

 

今回で韓居というオリキャラ←(ホント誰)を交えた話は終わりました。

 

どうでしたでしょうか?

お楽しみ頂けたら幸いです。

 

007とのコメントがありましたが、イメージはボンドか水戸黄門の弥七です。

 

御意見、御感想、御支援、凄いお待ちしております! 一言でもほんと嬉しいんです!

 

 

一刀君は能力値を高めにしていますが、基本的に現代人の枠からあまり外れるつもりはありません。(といっても、一応1つくらいは凄い必殺技を使おうかなぁっとも考えているんですけど)

 

第7話は拠点みたいなものを入れ、その次に以前コメントで書いた指標になる外伝を入れます。

 

 

それではまた~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一言……というより質問です。

 

この作品をここまで読んでくださった皆さん。

魏では誰が好きですか? 気が向いたらでいいので、お答え頂けると嬉しいです。

どのような方法でも構いませんので。

(作品に影響はしないと思います……スイマセン、ただの好奇心なんです)

 


 
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