交通事故で楓の母ちゃんと稟の父ちゃんと母ちゃんが死んでしまった。
風邪で寝込んだ楓を心配した紅葉母ちゃんが急いで帰ろうとして事故を起こしたらしい。
稟はひどく落ち込んで泣いている。
楓はまだよく理解してないみたいで、ただボーゼンとしている。
紅葉母ちゃんたちの葬式で母ちゃんが死んだことをやっと理解した楓はそのまま倒れてしまった。その後はただ寝たまんまで何をいっても答えてくれなかった。
病院のセンセーとおじちゃんとの話を立ち聞きしてたら楓には生きる目的が必要らしい。
一緒に立ち聞きしていた稟が何かを考えてたが俺にはそれが何か分かってしまった。
だから俺が先にすることにした、稟も父ちゃんと母ちゃんが死んだばかりで辛いんだからやらせるわけにはいかない。
俺には父ちゃんと母ちゃんがいないからガマンは慣れてる、大丈夫だ、ガマンできる。
病室に入ると楓はベッドの中で虚ろな目をして横になっていた。
誰が何を言っても反応しない。
大好きなチョコの匂いを嗅がせてもピクリともしない。
でもこれならきっと反応する、楓は帰って来る、笑ってくれるようになる。
たぶん俺はその笑顔は見れない。
それでもいい、約束したんだ紅葉母ちゃんと。
楓を…守るって……
そして俺は楓に最初で最後の嘘をつく………
『楓、ゴメンな。俺のせいなんだ、俺が紅葉母ちゃんに電話したから、俺のせいで……俺のせいで紅葉母ちゃんたちは……死んじゃったんだ……』
言い終わるとゆっくりと楓の目に光が戻って来た、見た事のない程の激しい光が。
そして大きな音を立てて扉が開かれる。
バターーン!
『忠夫!お、お前……』
『た、忠夫君……』
飛び込んで来た二人はただ、愕然としていた。そんな中楓がゆっくりと起き上った。
『タ、ダ、くんが?……』
『か、楓、違うんだよ。忠夫君は』
『そうだ!忠夫はなにも』
二人は庇おうとしてくれたが俺はその「言葉」を口にした。
楓が生きる目的になるために。
『そうだよ、俺が……殺しちゃったんだ』
『忠夫君……君って子は………』
楓の目はその光と一緒にだんだん鋭くなっていった。
『タ、ダくんなんて…タダくんなんて………忠夫なんか…』
その目から止めどなく涙を流しながら楓は叫んだ。
『忠夫なんか死んじゃえーーーーー!!』
十年前に発見された太平洋上にある遺跡から異世界に通じる二つの扉が発見された事により世界は大きく変わった。
それまでは神話といった物語でしかなかった神界や魔界が実在し、あまつさえ神族・魔族の存在が確認されたのだ。しかし以外にもその二つの世界の王達は友好的で思った以上の混乱はおきなかった。
後に「開門」と呼ばれる出来事であった。
これにより「人界」「神界」「魔界」の三世界は数千年ぶりに結びついた。
二年後、某国において『三世界平和宣言』が執り行われたがそれを不服とした魔族の一人がある街で暴動をおこし、神魔の警備隊に取り押さえられた。
その際に一人の人族の少年が行方不明になったがこれ以上の混乱を避けたかった上層部はなかった事として神魔王達への報告はしなかった。
その少年を知る者達はみな悲しみに暮れたが政治的な事だけにどうしようもなかった。
それから暫くしたある日…
少年が最後に居たであろう空地に一人の少女が佇んでいた。
泣くでもなく、笑うでもなく、ただ虚ろな目をして、一人っきりで………
サヨナラ、タダオ・・・・・
(――――――――)
第二話
「帰郷・そして夕陽の思い出」
キーンコーンカーンコーン
「ふう、終わった終わった」
溜息交じりに鞄を抱えながらそう言う青年、「土見稟」に彼の悪友、「緑葉樹」は語りかける。
「何処の還暦だい、稟」
「ほっとけ」
そんな何時もの会話をしていると、彼等に近づいて来る少女達がいた。
「稟くん、帰ろう」
「稟さま、私もご一緒に」
「お兄ちゃん、帰ろ」
「それじゃあ皆で帰りましょう。桜ちゃんも一緒に帰ろう」
「ごめんね、私ちょっと用事があるんだ」
「うーん、残念っス。麻弓ちゃんは?」
「申し訳ない。私にも用事があるのですよ」
「ごめんね、じゃあ明日」
「うん、明日。行きましょうか」
「そうだな、じゃあな樹」
彼女達は稟の幼馴染「芙蓉楓」に「八重桜」神界と魔界のプリンセス「リシアンサス」通称「シア」と「ネリネ」仲間内では「リン」と呼ばれている。
そう言ってさらりと帰りのメンバーから樹を外し、バーベナ・アイドル軍団と共に教室を出ていく稟を樹と男共は見つめていた。
「に、憎しみで人が殺せたら……」
「コクコクッ」
血の涙を流しながら………
帰り道でまっすぐ進まず横道に逸れる稟と楓にシアは不思議そうに尋ねた。
「ねえ稟くん、前から聞こうと思ってたんだけど何で何時も此処で横道に逸れるの?」
「………」
「……子供の頃この先の空き地で俺達の友達が行方不明になったんだ。……だから…いつかあそこに帰って来るんじゃないかと思ってさ」
「そうなんだ、何か悪いこと聞いちゃったかな?」
「…いえ、いいんです。言おうとは思ってたんですけど」
「・・・・・・」
そんな話をしている中、プリムラは何やら怪訝な表情で空を見つめている。
「どうしたんですか、リムちゃん?」
「…何かヘン、ザワザワする……」
「ヘンて、何が?」
すると何処からか火花が飛び散るような音が聞こえてきた。
「な、何だ?」
「稟さま、危ない!」
突然空の一角から、放電が起き、それがだんだん大きくなっていく。
そして、まるで落雷の様に地面へと落ちて行く。
「 !! 稟くん、あそこって、たしか……」
「ああ、あそこはあいつが…忠夫が消えた空き地だ!」
「…ひょっとして……」
楓は咄嗟に走り出す。
「楓!!」
「カエちゃん、危ないよ!」
「くっ、皆はここにいろ。楓ー!」
(もしかして、もしかして、もしかして)
楓は危険を顧みず走り続けた、一縷の望みに賭けて。
「待て!危ないぞ楓」
「で、でも、もしかしたらタダくんが……」
其処に突然二人の人影が現れる。
「稟殿!」
「稟ちゃん!」
転移魔法だろう、突然神王と魔王が現れた。
「おじさん達」
「一体何が遭ったってんだ?」
「突然強力な魔力を感じたと思ったらこんな事になってるし」
「俺達にも何が何だか…」
ようやく放電が収まって来て、小さくなっていく放電の中に人影が見えてきた。
「ん、誰か居るようだよ?」
「ああ、男みてえだな」
「 !! 」
楓はそれを見て愕然とした。そこには子狐を抱きしめた傷だらけの青年がいた。
ボロボロになっているが、その男が着ているのは「向こうの世界」で彼がいつも着ていた
GジャンとGパンにトレードマークの赤いバンダナだった。
「…や、やっぱり…タ、タダくん…タダくんだ」
「何!ほ、本当か楓!」
「タダくーーんっ!!」
楓は稟の手を振り払って横島の元へと駆けよる。
「タダくん?」
「知り合いなのかい?」
「ええ、俺達の幼馴染です」
「タダくん!タダくん!タダくん!大丈夫?しっかりして!」
「…う、ううう……」
「楓ちゃん、落ち着いて。とにかく家に運ぼう」
「お願いします。俺はシア達に知らせて急いで帰ります」
「おう、こっちは任せときな!」
「楓ちゃんしっかり掴まってるんだよ。行くよ」
神王と魔王は楓達と共に転移して行った。
「…忠夫……おっと、こうしちゃいられない」
稟はシア達に事情を説明すると家路を急いだ。
芙蓉邸のリビングにシアやネリネ達は集まっていて、神王達の治癒魔法によって横島の傷は殆ど治っていた。
「タダくん…」
楓は忠夫の手を握りしめたまま片時も離れようとしなかった。
「ひでえ傷だな…」
「うん、この傷もそうだけど体中に付いてる古傷、特にこの背中の傷なんか、かなり強力な魔力砲を受けた跡だよ」
(それはあの女性(ひと)を、ルシオラさんを助けた時の……やだな、私こんな時に嫉妬してる)
「忠夫、一体お前に何があったんだ?」
「お父さん、この子の傷ももう大丈夫だよ」
「でも珍しいですね。尾が九本もある狐なんて」
「でも可愛い」
攻撃を受けた為か、狐形態に戻っていたタマモはシア達にヒーリングを受けていた。
「尾が九本……!! 九尾の狐!」
「うわっ!ど、どうしたんスか、稟くん?」
「どうしたも何も、九尾の狐といったら…」
「稟くん、大丈夫だよ。だってタダくんが大事そうに抱いて守っていた子なんだから」
「…そうだな、忠夫を信じるか」
「ずいぶんと信頼なさってるんですね」
「ああ、忠夫は友達というだけじゃない。俺達にとって大事な恩人なんだ」
そんな風に稟が昔を懐かしむ様にしていると横島の意識が覚醒して来たのかうっすらと目を開けて来た。
「うう、こ、ここは?」
「タダくん!」
「忠夫!」
「…知らない天井だ……」
「……何かヤバイ事を言ったような気もするが、大丈夫か?」
「…誰だ、お前?」
「誰って、そうか、あれから8年立つから分からないのか。俺だよ、俺は土見稟だ」
「…悪い、やっぱり知らん」
「 !! そ、そんな……忠夫…」
自分達の事を知らないという横島に稟は愕然とするがならばと、今度は楓の事を思い出させようとする。
「ならこの娘はどうだ?楓、芙蓉楓だ。楓の事も忘れたのか?」
「おお、可愛い!お穣さん、僕は横m……あれ?」
横島は楓を見るなり、何時もの様にナンパをしようとするが何かが彼を押し留めた。
(何だ?何か変だ。何時もならすぐにナンパをしようとするのに…何かが頭に引っ掛かる。誰だろうこの娘は?いや…誰だっけ?)
「タダくん…やっぱり…」
「ゴメン、君は俺の事知ってるみたいだけど俺には…分からない」
その時、離れていた場所でタマモのヒーリングをしていたシアは突如立ち上がり横島に声を上げる。
「ちょっと、知らないなんて酷いじゃない。稟くん達、貴方の事ずいぶんと心配してたのよ!」
横島はそう言って抗議してくるシアを見た瞬間その場から消えて、
「僕の名前は横島忠夫。美しいお嬢さん、貴女のお名前は?」
「え、え、え?…わ、私っスか?私の名前はリシアンサス、シアと呼んでほしいっス」
何時の間にかシアが居る場所に移動し、シアを口説いていた。
「は、早い…」
「お、おいまー坊。今の動き…見えたか?」
「い、いや、全然…」
(そうでした、向こうに行ってからのタダくんはこうでした…)
その一瞬の出来事に稟、そして神王と魔王は唖然とし、楓はやはりという感じで一人溜息を付いていた。
「あ、あの~」
そんなシアの隣でタマモを抱き抱えていたネリネが呼びかけて来た。
「おお、ここにも美女がっ…て、タマモ!?」
「あ、この子なら大丈夫ですよ。酷い怪我でしたがもう治っています」
横島はネリネからタマモを受け取るとすぐさまタマモに霊気を送り込み彼女を覚醒させた。
「何だ!今の力は?」
「魔力とは何か違う力だね」
霊力という概念を知らない神王と魔王は横島が放ったその力に驚いている。
「キュ~ン…」
「大丈夫か、タマモ?」
「コンッ!」
覚醒したタマモは目の前に横島が居るのに気付くと笑顔で抱きついて来た。
「タマモちゃんという名前なんですか?」
「そういう美しい貴女のお名前は?あ、僕は横島忠夫」
安心したのも束の間、タマモを頭に乗せてさっそくネリネの手を掴み、口説く横島であった。
「は、はい。ネリネと申します、宜しければリンとお呼び下さい」
「う~ん、俺はネリネちゃんと呼びたいけどいい?」
「はい、構いませんよ」
すると当然面白くないのがタマモ。すぐに剝れて横島に噛み付くのであった。
「ウ~、コンッ!」ガジガジッ
(いいかげんにしなさい!この節操無し!)
「こら、やめろ、痛て、痛て!!」
「…変わったな…忠夫の奴…」
子供の頃とはあまりに変わっている横島に稟はただ、唖然とするほかなかった。
「なあ、忠夫君といったかな。少し話をしてもいいかい?」
そこに魔王フォーベシイが近づいてきて横島に語りかける。
「その魔力、あんた魔族か?」
「あ、ああ。自己紹介がまだだったね、私の名はフォーベシイ、一応魔王をやらせてもらっているよ」
「魔王だと!性懲りもなくまた俺を狙ってきたのか!」
感覚的にはついさっきまで反デタントの神魔族と闘っていた横島は魔王という言葉に過剰に反応し、半歩下がって右手に霊波刀を展開させた。
「お、おい忠夫!何をするんだ?」
「タダくん、待って!この人は悪い魔族じゃありません」
その事情を何となくだが理解した楓は横島に駆け寄ってフォーベシイに悪意が無い事を説明する。
「えっ、…そうなのか。反デタントの勢力とは関係ないのか?」
「その反デタントとやらががどんな勢力かは知らないけど私は君を傷つけるつもりはないよ」
「そっスか。スンませんした」
そう言って横島は謝りながら霊波刀を消した。
「な、なあ、今のそれは何なんだ?それにお前さんが使っているのは魔力とはちがう力みてえだが」
「何って霊力を知らないんスか?」
「落ち着いて神ちゃん。とにかく、一度今の事態を整理し直してから話を進める事にしようか」
「そうだな」
☆
話を進めるうちにお互いの事情がわかって来た。
忠夫は元々この世界に住んでいてある魔族が起こした事件のせいで平行世界であるGS世界へ飛ばされその時に記憶を失ったらしい。
GS世界にも神族や魔族は存在するがお互いに対立しあっている事。
忠夫は魔力ではなく霊力を使うGSである事など。
(ヨコシマ)
(分かっている。魔神大戦や文珠の事、神魔人の事等は喋るつもりはない)
ピンポーン、ピンポーン
そこに来客を知らせる呼び鈴が鳴った。
「私が出ますね」
『か、楓ちゃん!忠夫くんが帰って来たって本当!?』
『ええ、本当ですけど…』
足音と共にやって来たのはもう一人の幼馴染である桜だった。
「忠夫くん!」
「え~と、君は?」
「私だよ、桜、八重桜。忘れちゃったの?」
「どうもそうらしいんだ」
「え~。稟くん、それってどういう事?」
「8年前だったか?俺は子供の頃の記憶って覚えてないんだ」
「そ、そんな…何で?」
「じゃあ、改めて自己紹介しようか。さっきも言ったけど私の名前はフォーベシイ。魔界の王だよ」
「俺の名はユーストマ。神界の王だ」
「私も改めましてリシアンサスです。長いからシアって呼んでくれていいよ。神界の姫だけど気にしないで気軽に友達付き合いしてくれると嬉しいっス」
「改めましてネリネです。私も魔界の姫ですが、友達として気軽にお付き合いして下さると嬉しいです」
「私はプリムラ。…人工生命体3号……」
「プ、プリムラ!」
「そこまで正直に言わなくても」
「いや、隠しきれる事じゃないしはっきり言っておくべきだよ。彼女はね、ある理由から人工的に生み出された生命体なんだ。詳しい事情は言えないけど今はこの家で稟ちゃんや楓ちゃんと三人で暮らしてるんだよ」
「ふ~ん、でも見た目は普通と変わらない可愛い女の子だな」
そう言って横島はプリムラの頭を優しく撫でた。
「あっ……」
プリムラは照れながらもその手を拒まなかった。
(出た。人外キラースキル)
横島の無自覚で発動するそのスキルをタマモは溜息を吐きながら見ていた。
「…驚かねえのか?」
「何を?」
「何をって、人工生命体だよ。普通はもっと驚くだろう?」
「そんな事を言われても、向こうじゃバンパイアハーフの友達はいたし、九十九神の机妖怪はいたし、人口魂を持つアンドロイドはいたし、そのアンドロイドを作った錬金術師はもう千年も生きてるし、ウチの事務所には人工幽霊が憑いていて会話も成立するし…」
「ちょ、ちょっと待て!何なんだそりゃ!」
「それに何より…タマモ!」
『…了解』
「喋った!?」
タマモは横島の頭から降りると体から光を放ち人型形体になった。
「き、狐が人の姿になった!?」
「だから今更人工生命体ぐらいで驚けと言われても…なあ?」
「ねえ?」
「な、なあ、忠夫。その娘ってやっぱり九尾の…」
「ああ、金毛白面、九尾の妖狐だ。言っとくけどタマモは何も悪い事はしてないぞ」
「もっとも、殺生石から転生したての頃に追い立てられて殺されかかったけどね、ヨコシマとおキヌちゃんが庇ってくれなかったら確実に殺されてたわ」
(ああ、やっぱりタダくんだ)
「解った。そう言う事なら私達もその娘には手は出さないと約束しよう」
「…信じていいんスね?」
「ああ、神界と」
「魔界の」
「「王の名に賭けて約束しよう」」
「じゃあ俺も二人の事を信じます」
「ヨコシマが信じるなら私も信じるわ」
「ねえ、忠夫くん。やっぱり私達の事思い出せない?」
「……タダくん…」
「えっと、桜ちゃんに楓ちゃんに…鱗だっけ?」
「……稟だ……何でそんな無理やりな変換をする」
「ごめんな、見覚えがあるような気はするんだけど…やっぱり思い出せない」
「何か思い出す切っ掛けがあればいいんですけど」
「じゃあ、みんなで遊んだ公園に行ってみない?」
「そうだな、行ってみるか!」
「いいですか、タダくん?」
「ああ、このままじゃ埒が明かないからな」
そうして皆は思い出の公園に向かった。
*********
「ここは私達みんなで遊んだ公園…タダくん、やっぱり思い出せない?」
「鬼ごっこしたり、かくれんぼしたり……後…お医者さんゴッコとか。きゃっ♪」
「それは思い出さなくていい…」
稟は何処か遠い眼をして呟いた。…何かがあったらしい。
忠夫は周りを見回しながら思い出そうとしている様だ。
(たしかに見覚えがあるような、ありふれた公園だけど妙に懐かしい)
そうしていると母親だろう、遊んでいる子供達を呼ぶ声がした。
『美紀ーー、そろそろ帰りなさい』『隆ーー』『桂子ーー、ご飯よーー』
『はーーーーい!!』
「私達もああやってお母さん達が迎えにきたよね」
「桜!!」
「あっ!ご、ごめんなさい忠夫くん……」
だが横島は呆然としてその光景を見ていた。
「…タダくん?」
(そうだ、たしか”皆”と一緒に遊んでいて…誰か呼ぶ声がして……そして…)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
夕陽に染まる公園で遊ぶ4人の子供達、みんな笑顔で笑いが途切れなかった。
其処に桜の母の桃子、稟の母の蘭、そして楓の母の紅葉が迎えにやって来た。
『桜ーー、そろそろ帰りなさい』
『稟、あなたもよ』
『楓、帰りましょう』
『はーーい』
『じゃあ俺も帰るね』
『あ、忠夫君、ウチでご飯食べていかない?』
『え、ホントお母さん♪』
『でも、園長先生が待ってるし』
『園長先生には私から言っておいてあげるから』
『うん!ありがとう、おばちゃん』
ピクッ
ふと、”おばちゃん”と呼ばれた紅葉の目がつり上がった。
彼の肩に置いた手に少し力がこもる、気のせいかその瞳には何やら怪しい光が見え隠れしている様な。
『も、紅葉?』
蘭はそんな紅葉を落ち着かせようと声をかけるがどうやら紅葉には聞こえないらしい。
『ねえ忠夫君?前から聞こうと思ってたんだけどなんで「おばちゃん」なの?』
『え、だ、だって母ちゃんじゃないし……』
『そうね、だったら「紅葉母ちゃん」って呼んでみて』
『えっ?か、かあ……』
『うん、さあ早く♪』
『も、紅葉か、かあ……』
『早く、早く♪』
『紅葉…母ちゃん…』
忠夫少年はさすがに照れくさいのか真っ赤になりながらもようやく呼び終えた。
『きゃーーーー♪うれしい!私、男の子もほしかったのよ♪』
そう叫びながら忠夫をギュッと抱きしめた。
『ねえ稟君、桃子お母さんって呼んでみない?』
『え?で、でも』
『もーもーこー』
『いいじゃない、ケチ!』
『さあ、帰りましょ。今日はシチューだからね』
『わーい、私お母さんのシチュー大好き♪』
『ありがとう、紅葉母ちゃん!』
『はあ~~♪。ねえ忠夫君、私が本当のお母さんになってあげようか?』
『え、え、え、え~そ、そんな、タダくんのお嫁さんだなんて、そんな…』
『じゃ、じゃあ私は稟くんの…』
楓と桜は何を考えたのか耳まで真っ赤にしていた。
『ぷっ』
『あはははははは♪』
桃子と蘭はそれを見て笑いだした。
『な、なんで笑うの~?』
『ぶーー、ひどいよ~』
『ふふふ、さあ!』
笑いながら楓と忠夫少年に手を差し出す紅葉、そしてその手をつかむ忠夫。
そんな皆を夕陽が染めていた。
『うん!紅葉母ちゃん!!』
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ヨコシマ?」
「タダくん!どうしたの?」
横島は夕焼けに染まる公園を見つめながら、何時の間にか涙を流していた。
「忠夫?」
「忠夫くん」
「も、紅葉…」
「!!!」
「紅葉母ちゃん……」
「お、思い出したのか!!」
「本当?忠夫くん!」
「…タ、タダくん?」
楓は横島を見つめながら涙を流している。
思い出した、自分たちの事を思い出してくれた、その事を信じて。
横島は振り返り楓を見つめ、そして言った。
「楓…だったんだな」
「タ、タダ…くん」
「…ごめんな、楓」
「…う、ううう、グスッ…な、何で、何でタダくんが謝るの?謝るのは…うう、うう、謝るのは、グスッグスッ…私が、私が…うええええ~~」
「楓?」
楓は泣きじゃくりながら横島に抱きついた。
「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」
「楓、何で謝るんだ?俺は……」
「忠夫、楓は気付いてるんだよ、本当の事に」
「稟…そっか…」
横島はしがみついて泣いている楓をそっと抱きしめて頭を撫でてやる。
「むっ…まあ、とりあえず良かったわね、ヨコシマ」
「まあな、気にするな楓。俺がそうしたかっただけなんだ。その事で楓が苦しむと俺が苦しい、だからこれで終わりだ、笑ってくれ」
「うん、うん、うん」
楓は横島の腕の中で頻りに頷く。
「よかったね、稟くん」
「ああ、ようやく元通りだ」
(ほんとに良かった、これで気兼ねなく稟くんにアタックできるよ)
「ところでヨコシマ…」
「なんだタマモ?」
「いつまでやってるつもり」
「何を?」
「いつまでその娘を抱きしめてるのかって聞いてるのよ!」
横島の胸の中に抱きしめられたまま頭を撫でられている楓はまるで猫のように丸くなっていた
「ふにゃ~~~あ」
「は、ははは、ははははは……」
「レア?ミディアム?ウエルダン?」
「堪忍やーーー!成り行きなんやーーー!あったかくて柔らかかったんやーーー!」
「や、やだ、タダくん」
「ウエルダンけってーーーい!!」
嫉妬に燃えたタマモの狐火が横島に襲いかかる。
「ギャーーーーーー!」
そんな横島達をシア達は笑顔で見つめている。
「あはは、面白い人っスねーー」
「ええ、賑やかになりそうですね」
「あの人、優しそう」
「うん、なんといっても稟くんの友達だもん」
「それに楓さんの今の笑顔、あんな嬉しそうな笑顔初めて見ました」
「じゃあ、私達も行こう」
「うん」
「はい、行きましょう」
シア達は笑いながら横島達の所へと駆けて行く。
だが、ユーストマとフォーベシイは横島の事を複雑そうな表情を浮かべて見つめている。
(ところで神ちゃん、気づいてるかい?)
(おう、うまく隠しちゃいるが忠夫殿のあの魔力、今まで感じたことのない波動だぜ)
(しかも、ヘタをするとあの魔力。プリムラを上回っているかもしれないよ)
(ああ、何とかあの馬鹿共から守ってやらねえとな)
(稟ちゃんや楓ちゃんの大事な友達だからね)
横島はこの世界に帰って来た、これからどのような物語を紡いでいくのか?
それはまだ誰にもわからない。
続く
キャラ設定1
《横島忠夫》
本作の主人公で美神除霊事務所所属のGS。
正式な免許は貰っているがいまだ美神の丁稚扱い(涙)
魔神大戦の時にルシオラをかばって重傷を負うが彼女の霊的構造を受け継ぎ命を長らえる。
その後魔族因子の暴走による魔族化で命の危険に晒されるが小竜姫の神族因子を注入する事により事なきを得る。
この魔族化により、神魔の半デタント勢力に狙われる事になる。
神魔の因子を同時に持つ事によりアシュタロスクラスの魔力を持つ神魔人(老師命名)となる。(外見上に大幅な変化あり)
一般の神魔族はこの事を知らされて無い為横島を半魔と呼ぶ。
普段は魔力封印の宝具により力を抑えている。
神魔の過激派の攻撃と文珠の作用により元々住んでいた平行世界に戻って来た。
《土見稟》
本作のもう一人の主人公。
神にも悪魔にも凡人にもなれるという某Sロボットのような属性を持つ男。
両親が死んだ後、楓の父親に引き取られ芙蓉家で暮らす事になる。
子供の頃にシアとネリネ(?)に出会い彼女達の心を救った事で想いを寄せられる。
横島とは楓を通じて知り合い、一番の友達になる。
彼にとって楓は友達というより妹といった感じで恋愛感情はない。
横島への呼び方は「忠夫」
《芙蓉楓》
横島と稟と桜の幼馴染。
横島とはある出来事がきっかけで出会い想いを寄せるようになる。(次回のアバン参照)
子供の頃に母親の死で心を閉ざしかけたが横島が自分に憎しみを向けさせた事で彼を憎むようになり、それが生きる気力になった。
後に父親と稟の会話から真実を知り横島の気持に応えるために笑うようになる。
何故か高校生の頃から平行世界にいる横島の夢を見るようになり魔神大戦や、
ルシオラとの悲恋の事を知っているが稟達には秘密にしている。
それ以降の事は夢を見なくなっていた為タマモの事は知らない。
横島への呼び方は「タダくん」
《八重桜》
横島と稟と楓の幼馴染。
初めて会った時から稟に想いを寄せている。
横島と楓の仲の変化は稟に聞いて知っている。
その為二人が元通りになるまでは稟に告白しない事にしていた。
本作では楓達と一緒にバーベナ学園に通っている。
親衛隊は「SSS」(桜、咲く、咲く)ps(シアの場合は「SSSⅡ」(ツヴァイ))
横島への呼び方は「忠夫くん」
《タマモ》
金毛白面・九尾の妖狐の転生体。
転生したての頃、政府に追い立てられ殺されそうになるが横島とおキヌの手で
助けられる。最初はその恨みから人間を憎んでいたが横島達と触れ合うことで
徐々に仲間たちに溶け込んでいく。
特に横島にはよく懐き、その想いを恋心に変えていく。
買物の途中で神魔の過激派に襲われ横島と共にこの世界に転移してきた。
横島への呼び方は「ヨコシマ」
以降は次回。
《次回予告》
事件です事件です、事件なのですよ!
なんとあの、バーベナアイドルの頂点に君臨していた楓に遂に恋人が!?激怒する「KKK」
その恋人とやらは生き残れるのか?
そしてその恋人はなんと私をナンパしてきた!?
おおお、遂に貧乳の時代が!!
次回・第三話「激震!嵐のバーベナ学園!!」(前編)
さあ、お祭りの始まりなのですよ!
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SHUFFLE!とGSのクロス小説、
今回より本編となります。
一姫は本当にスランプ……
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