大きな木のある空き地で少年と少女、忠夫と楓は出会った。
『え~ん、え~ん』
『ねえ、どうして泣いてるの?』
『え?ひっく、ひっく、あの子』
楓の指さす方を見たら子猫が木の上で小さくなって震えていた。
おそらく何かの拍子に木に登って降りられなくなったのだろう。
『ニャ~ン、ニャ~ン』
『助けてあげたいけど、ひっく、わ、私、ひっく、木に登れ、ひっく、登れないから、ひっく、かわいそうだよ~、うええ~~ん』
『わかった、俺が助けてあげる。だから泣かないでいいよ。』
『えっ、ほんと?』
『うん、俺木登り得意なんだ』
忠夫はするすると木を登って行き、子猫に手を差し伸べた。
『さあ、おいで。一緒に降りよう』
『…ニャ~ン…』
トコトコ…
子猫は忠夫の所に行くと頭の上に乗った。
『よし、じゃあ降りるよ』
『だ、だいじょうぶ?』
『だいじょうぶだy…あっ』
『きゃあっ』
忠夫はうっかり足を滑らせてしまったが、あまり高くない所からだったので尻もちをつく程度で済んだようだ。
『いててて……』
『ね、ねえ、だいじょうぶ?ケガしてない?』
『うん、これくらいヘッチャラだよ!』
『ニャオ、ニャーオ!』
『ニャーン!』
親猫だろう、子猫を呼ぶように鳴くと子猫もそれに答えた。
子猫は忠夫の肩に乗ると忠夫のほっぺたをペロリと舐め親猫の所に走って行った。
『お母さんのところに帰れたんだね、よかった』
『いいな……』
『え?』
『俺、母ちゃんも父ちゃんもいないんだ…』
そう言って寂しそうにしている忠夫を見て楓は何かしてあげたかった。
『だったら私の家にあそびにくる?』
『えっ?』
『私のお母さんの作るおかし、とってもおいしいの。いっしょに食べてほしいな』
『いいの?』
『うんっ!私のなまえは楓。芙蓉楓』
『俺の名前は忠夫。浜菊忠夫』
『じゃあ、タダくんだ』
『じゃあ、楓』
『うん、タダくん。行こう』
手を差し出すとギュッと握ってくれた。
(えへへタダくんのお手手あったかい♪)
そうして手を繋いで二人で走り出した。
カーテンの隙間から朝日が差し込み、目覚ましの電子音で楓は目を覚ます。
「懐かしい夢、久しぶりに見たな」
机の上を見ると子供の頃の写真が幾つか飾られている。
その中に楓と忠夫と紅葉の三人で写っている写真があった。
あれがタダくんと私の初めての出会い……
そして、あれが私の初恋……
第三話「激震!嵐のバーベナ学園!!(前編)」
あの後お父さんにタダくんが帰って来た事を伝えると出張先から飛んで帰って来た。
『忠夫君、よく…よく無事でいてくれたね。……本当に良かった……』
『幹夫おじさん…心配させてすみませんっス。それから、ありがとう』
お父さんはタダくんの肩を抱いて泣いていた。本当にタダくんの事を心配していたから。
戸籍の事などはタダくんは行方不明という事になっていたので問題はなかったけどむしろ問題だったのはタマモちゃんだった。
でもそれも神王様達が『何か』したらしく数時間でタマモちゃんの戸籍が用意されていた。
どうやら、タダくんの従妹という事になったらしい。
タダくん達がどうやったのかを聞いていたけど『いや~、人間話し合いってのは大事だよな~』と言っていた。
結局、詳しい事は知らない方が良いいう事で済ます事になった。
そしてタダくんは孤児院を経営していた菊山先生に会いに行った。
孤児院はすでに閉鎖されていたが菊山先生はタダくんが帰って来た事をまるで自分の子供が帰って来たかのように喜んでいた。
『信じていたよ忠夫君、良く帰って来てくれた』
『先生…有り難うございます』
『今は姓を横島と名のってるらしいけど?』
『はい。母ちゃんと父ちゃんには悪いけど今の俺がいるのは横島の両親のおかげっスからこれからも横島の姓を名のるつもりっス』
『ああ、それでいいだろう。御両親も分かってくれるさ。そうだ、御両親と言えば…』
そう言うと先生はタダくんに通帳と印鑑を差し出した。
『これは?』
『君の御両親が残された遺産だよ。君が成人するまではと私が預かっていたんだがもう渡してもいいだろう』
『…母ちゃんと父ちゃんが……』
タダくんのお母さんとお父さん。どんな人だったんだろう?
家に帰るとタダくんはその通帳をお父さんに渡した。
『タダでお世話になるのも何ですからこれを生活費の足しにして下さい』
『そんな事は気にしないでもいいんだがね。分かった、取りあえず預かっておこう』
そう言って通帳を受け取る幹夫だったが……
《ああ、預かっておくよ。君と楓の結婚資金としてね。ふふふふフフフフフフフフフ》
そんな幹夫の呟きは誰の耳にも聞こえなかった。
☆
そして今日からタダくんも私達と一緒にバーベナ学園に通う事になった。
コンコンッ
タダくんの部屋の扉をノックして部屋に入るとタダくんはまだ布団をかぶって寝ていた。
「タダくん、朝ですよ。起きて下さい」
ユサユサッ
私はそう言いながらタダくんを軽くゆする。
えへへ、何だか新婚さんみたいだな♪
「うう~ん」
「タダくん、タダ……」
モコッ
「……え~と…」
モコッ
「…………(-_-;)」
モゾモゾ
「動いた!」
モコモコ
「あわわ…お布団から出ちゃう…///」
ヒョコッ
「はうあっ!!」
慌てて両手で目を覆い隠したけど、好奇心に負けてチラッと指の隙間から覗いてみたら……
布団の裾から狐の姿のタマモちゃんが顔を出していた。
『………』
「………」
『…おはよう…』
「…お、おはようございます……」
『何だと思った?』
「はわわ……」
タマモちゃんは人型になると私の傍に近づい来て……
「…エッチ……」
そっと呟いて部屋を出て行った。
「うう~タ、タダくん!今日から学校です。早く起きてください!」
そう言って布団を剥ぎ取ると……
モコッ
「ひゃあああ~~~~~!」
そして学園に行く為に歩いている横島の頬には真っ赤な紅葉が刻まれていた。
「朝なんだからしょうがないじゃないか……」
「うう~~」
俯きながらそう呟く横島を楓は頬を赤く染め、涙ぐみながら睨んでいた。
「稟さま、何があったんですか?」
「聞かないでやってくれ」
「そ、そうですか……」
今私たちは皆で学園に登校している、タマモちゃんも神王様達のおかげで一緒に通うことができた。
プリムラちゃんと同じ学年だということだ。
「はあ……」
力無く溜息を付く稟にシアが話しかける。
「どうしたの、稟くん?」
「いやな、これから樹が二人になるかと思うと頭が痛くなって…」
「あはは……」
シアも横島と樹のツーショットを思い浮かべると、乾いた笑いしか出て来なかった。
「何、その樹って奴そういう奴なの?」
「ああ、そういうy…」
「稟ちゃん、おっはよーーー!」
稟の背中に亜沙の平手が小気味いい音を立る。
「いたたたた…あ、亜沙先輩、おはようございます」
「なーに、稟ちゃん。朝からため息なんかついちゃって、幸せが逃げて行くよ?」
「今ので三割ほど飛んで行った気もしますがね…」
「まあまあ、ところで見慣れない顔があるみt…」
「僕の名は横島忠夫。お美しい貴女のお名前は?」
横島は何時もの如く亜沙の手を取って口説きを始めた。
「わっ、びっくりした。え~と、キミは?」
「俺と楓と桜の幼馴染で浜菊…じゃ無かった、横島忠夫といいます。詳しい説明は後でしますけどこれからはこのタマモという娘と一緒に俺達と暮らすことになりました」
「一緒って、楓とも?」
「は、はい。タダくんと一緒です」
「ふ~ん、タダくんか……稟ちゃんとそういう雰囲気じゃなかったと思ったらそういうことか」
「えへへ」
「忠夫ちゃんだね、ボクは時雨亜沙。三年生だよ、よろしくね。そしてこっちが……」
「まままあ♪亜沙ちゃんてば稟さんという人が居るのにその方とそんな事を、まままあ♪」
「あ~、また始まった。とにかく、この娘はカレハ。ボクと同じ三年生、ちょっと…かなり妄想壁が強いけど、とてもいい子だから」
「は、はあ……」
「まままあ♪そんな、三人でだなんて。亜沙ちゃんてば、まままあ♪」
「どこまで行く気なの!いい加減帰って来なさーい!」
「ともかく急ぎましょう。このままだと遅刻してしまいます」
「そうね、行くわよカレハ」
「はい、まいりましょう」
「……つかめない人ね…」
そう言いながらも私達は学園に着いた。
「おはよう」
「おはようございます」
「おはよースッ」
「おはようございます」
「おはよう」
挨拶をしながら教室に入って来る稟達に麻弓=タイムは駆け寄って行く。
「あっ、土見くん、ラバーズ諸君、聞いた?このクラスに転校生が来るんだって」
「男らしいから俺様には何の関係もないけどな」
「このクラスに?ということは」
「一緒のクラスになったんですね」
「何?もしかして知ってる人」
「は、はい」
「わっ、楓ってば何赤くなってるの?もしかして楓の好きな人だったりして」
「はははは、麻弓、冗談は胸だけn…グボハッ」
樹は麻弓の鉄拳を受けて吹き飛んだ。
「まったく、乙女の胸を冗談呼ばわりするとは何事よ!ねえ、楓……」
そう言いながら楓を見ると楓は真っ赤な顔をしながら俯いていた。
「ち、ちょっと、楓……えっ、マジ……?」
『何だとーーーーーーーーーー!!』
KKKの悲痛なまでの叫びは学園中に響き渡った。
「まったく、仮にも担任になる女性をいきなり口説こうとする奴があるか」
撫子は横島に注意をしながら廊下を歩いていた。
「すんません」
「いいか、くれぐれも問題を起こすんじゃないぞ。いいな、横っち」
「なるべく努力してみます」
教室に着くと騒がしい生徒達を一括する。
「みんな、席に着け。知っているようだが転校生を紹介する。先に言っておくがこれから紹介する奴はある事情からツッチーと一緒に芙蓉の家に住む事になっているがこれは芙蓉の父親も承知していることだから詮索は無用だ。では横っち、入って来い」
呼ばれると横島は教室に入って行くが、
「どうも、横島忠夫です。よろし……」
男共は殺気を隠すことなく横島を睨み付けて来る。
「な、何だこの尋常じゃない殺気は」
「気にするな。もてない男共の哀れなやっかみだ」
撫子はその男共にあっさりと止めをさした。
「ひ、ひどい……」
男共に出来たのは涙ながらにそうそっと呟く事だけだった。
「ねえねえ、貴方、楓とどんな関係なの?そこの所をちょっと詳しく…」
「僕は横島忠夫、美しい君の名前を教えてくれないかな?」
横島は麻弓に話しかけられるや否や、すぐさま麻弓に駆け寄り両手をつかみナンパを始める。
「えっえっえっ?美しい?私が?何、ひょっとして私ナンパされてるの?あ、そっか、私は麻弓=タイム。よ、よろしく」
「よろしく、麻弓ちゃん。へー、オッドアイか。幻想的で素敵な瞳だね」
そう左右、色の違う瞳を見つめながら横島は麻弓に微笑みかける。ニコポ発動。
(へ……今何て言ったの?……幻想的で素敵……そ、そんな事言われたの初めて、何?これって私のターン?つ、遂に私の…貧乳の時代がっ!!)
麻弓は手を握られたまま顔を赤くする。
「むー、タダくんてば」
「あはは…」
「よかったじゃないか、麻弓。その胸でもいいそうだよ」
「誰だ、お前は?」
横島はそう言って来る男、樹を睨みつけながら聞く。
「自他と共に認める史上最悪の女好きの男。緑葉樹よ」
「史上最悪とは聞き捨てならないね。俺様はすべての女性を平等に愛しているだけだよ」
「では緑葉よ、その胸でもとはどういう事だ?」
「どうも何も麻弓の貧乳では…」
「馬鹿野郎ーーーっ!!」
「がはあっ!!」
横島は樹に駆け寄るとJETなアッパーをぶちかました。
「い、行き成り何をする!?」
「愚か者め、貧しいとは何事だ!!女性の胸に貧しいという形容詞はあってはならない。俺も男だ、巨乳は大好物だ。しかし、同時に小さな胸も否定はしない。女性の胸は生命を育む神秘の象徴だ、それを小さいというだけで否定した貴様に女好きを名乗る資格はない!!」
忠夫が言い終えると樹は真っ白に燃え尽きた。
とたんにクラスの女子から拍手が巻き起こった。
「そうっス、胸の大きさなんか関係ないっス」
「だよね、だよね」
「はあ、またややこしい奴が増えたか」
撫子は額に手をやりながら頭痛を堪えている。
まだまだ騒動は収まりそうにない。
続く!
「お、俺様は……俺様は……」
樹は未だ白く燃え尽きたままだった。
キャラ設定2
麻弓=タイム
魔族と人族のハーフ。それ故に子供の頃に迫害にあってきた。
自分の小さな胸とオッドアイにコンプレックスを持っていたがそれらを全く気にしない忠夫に気を惹かれていく。
いったん彼女に弱みを握られると逆らうことは出来なくなるバーベナのヒル○
忠夫への呼び方は「横島くん」
紅薔薇撫子
忠夫達のクラスの担任。
生徒達からは紅女史と呼ばれている。
緑葉二世となりそうな忠夫に頭を抱える今日この頃。
忠夫への呼び方は「横っち」
緑葉樹
バーベナの及川……以上!
忠夫への呼び方は「忠夫」
シア達の設定は彼女達がメインの話で行います。
《次回予告》
学園を駆け巡る「芙蓉楓に恋人現る!」の大ニュース。
稟ちゃんから忠夫ちゃんに移ったKKKの追撃戦。
そしてお昼休みに聞かされた忠夫ちゃんの生い立ち。
GS?平行世界?妖狐のタマモちゃん?
でも二人ともいい子だから問題なし♪
次回・第四話「激震!嵐のバーベナ学園!!(後編)」
面白くなりそう!
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雛里ENDの参考に恋ENDを見ようと思って作品管理のページを開いて見ると
・・・( ゚д゚)・・・(つд⊂)ゴシゴシ(;゚д゚)・・(つд⊂)ゴシゴシゴシ(;゚ Д゚)・・・!?
いきなり閲覧数がうなぎのぼり!ほんとに驚いた。
というわけで三話目、見て下さい。
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