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呂北伝~真紅の旗に集う者~ 第010話

どうも。
今回は寝る前投稿です。未だに恋姫新作クリアしていないという。実は私の恋姫熱は既に冷めているとか......。
......っとまぁ、冷めていれば十年近くもこのサイトに居ませんけどねww

さて今回も過去回となっております。頭の中でシミュレーションでは、今回の過去回はあと二三回は絶対続くことだろうと確信に至ってしまった......。

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2017-12-11 01:08:12 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:2086   閲覧ユーザー数:1943

呂北伝~真紅の旗に集う者~ 第010話「溝」

「おい小娘!そっちに頭行ったぞ!足止めしろ!」

戦場にて、呂と書かれた真紅の旗の軍団が、即席装備の軍団と戦っていた。一つは扶風を収める呂北軍であり、相手は郡の近くで出没した賊である。筋骨隆々の兵士が夜桜に対しそう指示するが、それに対し夜桜は平手と拳を打ち鳴らし、腰から双截棍(そうせつこん)所謂ヌンチャクを抜き取り、左右交互に振り回しながら気合の雄叫びを一つあげると、そのまま向かってきた賊に突っ込むと、相手の攻撃を華麗に避け、顎を攻撃し続けざまに後頭部に強烈な一撃を与え、賊を気絶させた。指示を飛ばした兵士は、まさかそのまま叩きのめすとは思っていなかったのか、華麗な手際に見惚れたのか思わず目を見開いてしまっている。

「アイヤー‼まだまだイクアルネ‼」

そう言いながらまた棍を取り出し、二つの双截棍の先をそれぞれ合わせ付け、棍を繋ぐ鎖は、棍の中に収められるものなのか、少し深く掘られた繋ぎ目の溝にそれぞれ収まる。

計四つの50㎝程の柄は一つに繋がり、200mはあろう棒へと変化する。

夜桜は棒を勢いよく上空で振り回しもって相手方に突っ込み、しならせた棒の攻撃を鎧と鎧の間である身の部分に叩き込む攻撃を加えていく。

当てられた者は、それがどの部分であろうとも、あまりの痛みに悶絶してその場では動けなくなり、そのまま捕らえられていく。そんな奴らをどんどんと増やしていき、夜桜の道行く先は負傷で溢れかえっていた。

 

夜桜がいた隊は別動隊と合流し城に戻る。彼女のいた隊と別動隊は同じ隊であり、二面展開にて他箇所で出没した賊を討伐する任を受けていた。

「隴、そっちも絶好調だったそうアルネ?」

「おう夜桜。縄張りに入ってきよった(ヤッコ)さんしばきまわして、パクリまくたったけ」

二人は顔を合わせると喜々として互いの自慢を始めた。最終的には賊を捕まえた数は夜桜の方が多く、それに反発した隴は数より質と言い始めるなどの堂々巡りに陥った。

現在二人が所属しているのは高順こと愛華(メイファ)管轄の隊である。呂北軍における高順隊の役割は、戦の際常に先陣をきることである。敵を切り崩し、相手を混乱させ、最後に本隊が止めを刺す役割をもたらしているのだが、高順隊に所属する兵士は勇猛果敢が過ぎて、彼らの突撃の後には何も残らない。「鬼気迫る威圧感」だとか「狼の様な集団」などの声がある為、彼らの隊は『鬼狼隊(きろうたい)』と呼ばれた。だが鬼狼隊の管理は主に副官である李鄒(りしゅう)が行なっていた。理由として、愛華は一刀の収める領土の経営・経済管理を行なっている。多忙な彼女が兵を率いて戦に出ることは稀であり、そしてもっとも重要な理由が、「疲れる」...っであることだそうだ。彼女自身兵を率いて戦場で暴れまわることを得意としておらず、そんなことをするくらいであれば、机の上で筆を走らせ、計算をする方が遥かに楽であるとのこと。ちなみに、付け加えるのであれば、愛華の本職は一応武官である。そして副官の李鄒は文官である。元は一刀の推薦で、愛華の負担を少しでも減らすために派遣されたのが彼女であるが、愛華がある時、李鄒に槍を振るわせたところ、彼女は筋が良く武に置いてなかなかの才能を秘めていた。良い兵士が増えることは大変喜ばしいことでもあるので、愛華は自ら手ほどきを加え李鄒を育てた。文官である彼女も呂北軍一の強者(つわもの)である高順に教えられていることに感動し、彼女の武は一角の将程までは伸びた。やがていつしか戦場にも連れ出され、兵の指揮もさせられ、そして隊の管理を任せられ、いつの間にか愛華は城に引っ込む様になり、気付いたころには李鄒が鬼狼隊の管理を行なっていた。近頃の彼女は節々に愚痴を皆に漏らしていた。「私は文官だ‼」っと。そんな鬼狼隊に派遣されて3ヶ月の時間が過ぎた。何故二人が鬼狼隊にいるかは、同じく時は3か月前に遡る。現状の不満を高順に聞いてもらった二人に与えられたのは、鬼狼隊への異動話であった。彼女曰く、先日隊の席に二つ空きが出来た為、暴れたいのであればいくらでも暴れさせてやるとのことであった。一日の考える時間を与えられ、二人はその場を後にした。無論彼女達自身にとって悪い話では無かった。一刀に武官として召し抱えられながらも、戦場にすら出れない日々が続き、溜まる不満もある中、断る理由など無かった。

二人の気がかりは留梨のことである。村から常に一緒にいる友を置いて、二人で別の隊に移ってよいものだろうか。

ことの顛末を正直に話すと、留梨は思いのほか潔く了承し、むしろ二人に激励の言葉すら送った程だ。また異動に当たって、上司である臧覇にも声かけをしなければならなかった。正直これまでの経緯から、臧覇に対し好ましい印象は持っていなかったが、しかし上司と部下である義理は果たさなければならないと思い、二人は異動の旨を伝えると、彼女は素っ気無く返事をすると、異動報告書を作成して二人に渡した。仮にも部下として仕えてきたにも関わらず、あたかも事務仕事の一つとして片づけられるその態度に、二人は憤慨しそうになったが、そこで問題を起こしても誰も得をしないと判断し、堪えた。そうして翌日より二人は鬼狼隊の一員として、高順(厳密には李鄒)指揮下で暴れまわり現在に至った。

 「隴ちゃん。夜桜ちゃん」

二人を呼ぶ声の先を見ると、留梨が手を振りながらこちらに近づいてきており、二人も留梨に近づいて三人は熱い抱擁を交わす。

「お疲れ様。今日もまた随分と暴れまわたんだね」

「おうさ。ワシら鬼狼隊に、奴さんも蜘蛛の子散らして行きよったき」

三人はしばしの間言葉を交わした。隴と夜桜が鬼狼隊に異動となってから、三人の邂逅は減った。隊が違うだけあって、休憩時間も違ってくれば休みも違った。以前は毎日の様に会っていた三人も、刻が経つに連れて期間は3日ごと、1週間ごと、2週間ごとと開いていき、今回こうして会うのは1ヶ月ぶりぐらいである。

「それにしても留梨、これから何処に行くアルネ?」

「えぇ。一刀様が新しい商業開拓の為に使う土地の開墾状況の偵察を行ないに向かっているから、それを補佐するさt......臧覇様の補佐に今から向かうわ」

「......なるほど。しっかし、一刀親分の補佐役の補佐とは、留梨も出世したんじゃのぅ」

「そんなことないよぅ」

照れながら手を力なく前で振る留梨の背後より、突然女性の留梨を呼ぶ声が聞こえ、彼女は思わず飛び上がる。

「留梨さん、そろそろ行かないと呂北様の会合に遅れてしまいますよ。臣下である我らが一刀様より早く着くことがあろうとも、主である一刀様を待たせるようなことはあってはなりません。引いては郷里様に対する呂北様の評価にも繋がります」

黒髪の少女はそう語る。少女の身長の大きさは4尺6寸程で、下から鉄でも仕込んでいそうな黒皮靴に、膝元まである白い靴下。黒味の帯びた茶色のホットパンツに、脹脛にはレバーベルトが付いており、そこにはクナイなどが差し込まれている。

上は足元まで伸びた、体を包む黒皮ジャケットを着こんでいる。上はしっかりボタンで留められ、意図した作りであるのか、足元は動きやすさを重視して、ジャケットの前下半身はない為に、少女の奇麗に伸びた足をしっかり確認することが出来る。

「あ、ごめんなさい歩闇暗(ファンアン)ちゃん。そうね。急がないとね。それじゃ二人とも、またね」

そう言いながら留梨は手を振り去っていき、歩闇暗と呼ばれた少女も、甲斐甲斐しく頭を下げてその場を後にした。

彼女は曹性(そうせい)。留梨と隴、夜桜より前に呂北軍にいた者であり、以前は一刀の側付きであった。しかし隴と夜桜の異動に伴い、二人の抜けた穴埋めとして送られた人物である。その実力は未知数であるが、留梨曰く「いい子」であるとのこと。だが、大きな感情表現も無く、淡々と話す少女を、隴と夜桜は苦手意識を持っていた。二人が通った後に、数十人規模の隊が歩いていく。恐らく彼らは今回留梨が率いた兵たちなのであろう。以前、久々に三人で会食する機会があった際、留梨は部下が出来たことを話していた。その時は5人程だと語っており、三人の中で呂北軍における初めての出世をその時は喜び、二人もうかうかしてはいられないと思い、明日よりまた張り切って仕事に励もうと息まいていた。そんな会食からしばらく経った現在。留梨は既に小規模であるが隊の隊長にまで出世した。二人は焦った。無論彼女の成長を妬んでの焦りではない。自ら現状についてだ。二人はそれなりにやってきたつもりだ。戦場に出ては誰よりも戦果を挙げて、誰かが体調を崩した際も、休日返上で代わりに働いた。無論仕事が楽しくて出来たことであるが、それでも未だに一兵卒のままであった。

そして二人は仕事後に李鄒に直談判しに行った。自分達にも隊の一部の指揮をさせて欲しいと。曲がりなりにも義勇軍時代は将として戦っていた二人である為に、兵を動かすことに関してもそれなりに自信はあるつもりだ。だが李鄒は言った。「今はまだ時期ではない。来る時が来れば、愛華様もその機会を与えてくれるだろう」っと。二人はその言葉を信じた。自分たちの話を親身になって聞いてくれた高順のことであるから、きっと自分達を評価してくれるであろうと。そしてさらに刻は1月流れた。この日、呂北軍全てを集められた集会が集められた。数日前に、重臣会議にて、新しい将を選抜することが決められていた。内容としては、兵士達も十分育ってきたために、選抜して兵の指揮を高めてもいいのじゃないかとのことだ。現在、最有力候補は文官からは李封と呼ばれる青年である。実は元武官であり、呂北隊の小隊長の一人であった。彼はその昔、呂北軍の人材がまだ豊富では無かったころに、兵糧の帳簿を付けていた際、彼の記録の仕方に目を付けた一刀が、他の事務仕事をさせてみると、これもまたそれなり成果を挙げていたために、その能力を評価され無理矢理城の文官へ異動されたのだ。ちなみに現在も自らが文官になった理由を納得しておらず、時折ため息を吐いているらしい。武官からは鬼狼隊の李鄒。彼女の能力は既に折り紙付きであり、重臣組を除けば文武両道とは彼女の為にあるような言葉だと、呂北軍では持ちきりである。ときおり、「私は武官じゃない‼」との叫びが何処かから聞こえてくるのは、恐らく気の性であろう。ちなみに追記であるが、李封と李鄒は従兄妹である。数日前より、この二人が有力候補として挙げられていた。ここに集まっている兵士の誰もがそう思い疑わなかったが、しかしそこに現れた人物は誰も想像出来なかった人物であり、その決定に誰よりも度肝を抜かれたのは、隴や夜桜であった。

備え付けられている檀上に一刀が上ると、皆に聞こえる様に声を大にして話す。

「さて、今日皆に集まってもらったのは他でもない。今回、重臣会議にて新たに将を選抜した。......っと言っても我が軍はまだまだ弱小であるからして、重臣なんぞ片手で数えるほどしかいないがな‼」

冗談交じりのトークで場を和ましつつ、一刀は話を続ける。

「今回選抜したのは遊撃部隊の将。今までは高順隊にその役割を担ってもらっていたが、本来高順隊である鬼狼隊の役割は、敵の出鼻を挫く先兵。その先兵を支え、いざという時には本隊を守り、周りを見渡せ臨機応変な対応が出来る遊撃兵が絶対に必要となってくる。その遊撃部隊の兵員をこれから発表していく。まずは小隊長から。臧覇隊三番隊隊長劉何(りゅうか)

懐より封をされた紙を取り出し、そこに書かれた名前を次々と読み上げていく。呼ばれた者は返事をして前に出ていき、左に控える臧覇に認可状もらい、そして別の場所に控えた。読み上げられるどの名前も、呂北軍の中では名の通った(つわもの)であった。またその中には隴や夜桜が手合わせをして勝った者もいたので、二人はもしかすると自分も呼ばれるのではなかろうかと期待に胸を膨らませたが、いつまで経っても名前が呼ばれることは無かった。そしていよいよ遊撃隊の将の名が呼ばれた。

「それでは栄えある遊撃隊の大将だ。無論この隊を選抜する上で、俺たちは誰を何処に配置すればいいか悩んだが、大将の選抜だけは満場一致で迷いは無かった」

皆が誰だ誰だと騒めき出す。やがて一刀が一つ咳をこぼして静寂を作ると、いよいよ発表されると思い、皆口を紡いだ。

「呂北軍遊撃隊大将は、臧覇隊副官、宋婁邊(るへん)

その名が呼ばれた瞬間、また兵達が騒めきだした。皆が李封か李鄒のどちらかと思ったのだから。名前を呼ばれた留梨本人も、誰が呼ばれたのか分からなくなり、二三度目の呼び出しにようやく応じることが出来て、前に出ていった。彼女の認可状だけは、一刀本人からの手渡しであった。たどたどしく両手を出す留梨であったが、未だに彼女の頭は真っ白で何を考えればいいか分かっていないのであろう。だがそれ以上に真っ白であるのは、親身な友でもある隴と夜桜であった。二人は地面に立っているが、しかし視覚は現在自らが立っている場所がわからない程回転しており、なんとか人としての本能のみで直立出来ている感じであった。

一刀がニヤリと頬を引き、兵士の反応を確かめた。

「お前らの反応は大変面白いぞ。『何故あいつが?』、『誰だあいつは?』、『どういうことなんだ?』っと言いたげな顔だな。言っておくが、ここにいる宋憲(そうけん)は見た通り虫も殺さなそうな見麗しい外見をしているが、俺たちが彼女を選んだのは、そんな偏見ではない。彼女の兵を指揮する能力。自ら臧覇に対して学びに行こうとする姿勢。武の実力もさることながら、それに驕らない謙虚を持っている。後は実戦経験を積むだけだ。臧覇に従軍して戦場を駆けたとはいえ、まだまだ駆け引きに置ける点では甘い。その点は先輩の話を傾聴し、一歩引いた戦を積み重ねれば自然と冒険する心も身についていくだろう。......異論はあるか?」

皆の顔は憑き物が落ちたように納得した。これの問題を他の誰かが説得しても誰も納得しないだろうであろうが、他ならぬ一刀の言なのだ。その決定に皆が素直に従うのも彼の人並みに兵たちが魅了されていることなのだろう。

「宋婁邊(るへん)よ、この決定に従うのであれば黙して時が過ぎるのを待て。従うことが出来なければ攻めはしない。その認可状を破り捨てよ」

一刀のその言葉に留梨は認可状を折り畳み懐にしまい、拱手の礼を取って頭を下げた。

「それでは皆の者、新しい将の誕生だ‼兵から将としての門出を祝おうぞ‼」

その瞬間兵の声は一つとなって将となった留梨を歓迎した。それに対し沸き上がってくる体中の熱い血流の波と共に留梨の心は歓喜に震えた。

皆が新たな将の誕生を喜んだが、しかし隴と夜桜のみがその歓喜の波から取り残され、二人はただ茫然と近くとも遠いところにいる友の姿を見続けていた。

 


 
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