No.931560

「真・恋姫無双  君の隣に」 外伝第1話

小次郎さん

美羽の残した日記
そこには赤裸々な一刀達の日常が

2017-11-29 00:14:14 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:7761   閲覧ユーザー数:5845

漢から華へと国家が移行した時間は僅かなもので、歴史的に見れば瞬き程のものだろう。

しかし現代でも尊ばれる北郷王の歩みは人々を魅了し、歴史学者に留まらず様々な立場の者から話題に挙げられる。

国から史書と認められているものに始まり、時を変え土地を越え数多の解釈が為され多くの書が残っていった。

それもまた人の想像に翼を持たせ、その時代に思いを馳せらせる。

俺、新田剣丞もその一人だ。

今もスナック菓子とジュースをしっかりと用意して、あと念の為に枕も傍へ置いておく。

手に取るのは公路記の一巻。

北郷王の后が一人、袁術が残したといわれる日記。

全十巻、勿論本棚には全巻並んでいる。

二巻と三巻を手元に置いているのは続きを読みたくなった時の為だ、起き上がるのが面倒臭いからではないと一応言っておく。

そもそも一巻を読むのに軽く二時間は掛かる本だ、三冊も読んでいて一度も立ち上がらないなんて有る訳無いじゃないか。

用意してあるスナック菓子が五袋あって飲み物に一リットルのペットボトルが二本なのは、そう、あくまで念の為だから。

では最後に携帯の電源を切って、俺もあの時代へ旅立とう。

 

 

「真・恋姫無双  君の隣に」 外伝 第1話

 

 

某月某日

妾は日記を書くと決め、今日は記念すべき初日じゃ。

以前の妾なら面倒臭いと言って筆を取らず、そもそも実行しよう等と全く思わなかったであろうの。

じゃが七乃から教えを受け、城下の者達と交流を行なっておる今の妾は、此の迸る思いを何とかしたいと思い、一刀に相談した結果、こうして日記を書く事になったのじゃ。

うむ、書きたい事が次々と溢れて来るの。

妾の事、七乃の事、一刀の事、城下であった事。

もう少し書きたいのじゃが七乃が寝る時間というので、続きは明日にする事にしたのじゃ。

 

 

某月某日

今日は一刀と一緒にぱんけいきを一緒に作ったのじゃ。

最初の一枚目は形が歪んで丸くならず食してみれば生焼け、一刀のは綺麗に出来取るのに、ううむ、奥が深いの。

「離して下さい、一刀さん!何を昼間から発情してるんですか」

「そんな訳あるか!手出ししたら駄目だって」

何やら七乃と一刀が揉み合っておるが、今度こそと次に挑む。

夢中になって作って、綺麗に出来たのは用意した材料が尽きる寸前じゃった。

流石に作り過ぎたと思ったが一刀は全部食べて美味しかったと言ってくれた、次に作る時も頑張るのじゃ。

じゃが七乃は何故に食べておる一刀の後ろにずっと立っていたのじゃろう?

 

 

某月某日

困った事になってきたの。

日記を書き始めて七日目になるのじゃが、そうそう新しい事ばかり毎日起きる訳ではないので日記に記す事がないのじゃ。

一刀に相談してみると、

「ああ、分かる分かる。日記ってそういうもんなんだよな」

残念じゃが一刀にも解決策が無いとの事。

しかし七乃が素晴らしい方法を耳元で囁いてくれたのじゃ。

 

 

某月某日

自分の事だけではなく他の者に焦点を合わせてみたらどうですか、と七乃に助言されて早速やってみる。

一緒に寝ておるのに妾が目を覚ますと既に起きておる一刀。

陽が昇ろうとする時間に七乃に起こして貰い、探してみると孫権たちと鍛練を行なっておった。

声を掛けようとすると七乃に止められた、こっそり見てましょうと、面白そうなので了解したのじゃ。

「小さな弱みも握っておいて損はありませんから」

弱み?何の事じゃ?

時に組み手中に二人して縺れて倒れてしまったり衣服が乱れてしまうなどあるが、一刀たちは真面目に鍛練に励んでおるだけじゃぞ。

孫権は顔が真っ赤になるほど懸命で、甘寧など鬼気迫る気迫ではないか。

それに、鍛練の内容も色々あるのじゃな。

孫権は身体を捻る運動をよくしておるし、甘寧は腕立て伏せなどで上半身を集中して鍛えておる。

「健気ですねえ、特に甘寧さんは」

「妾も鍛えたほうが良いかの?」

「お嬢様はおそらく大丈夫です」

七乃の言う事は時によく分からんのじゃ。

 

 

某月某日

今日は施設の子供達を連れて公園に来たのじゃ。

民の憩いの場として花を植えたり等と環境を整えた場所で、かねてより一刀と相談して子供が遊べる遊具をと考えておったが、真桜が士官してくれたお蔭で作成速度が上がり完成したとの事。

既に注目されておったのか、近隣の子供達が集まっておって大変な賑わいじゃ。

それに真桜と警備隊の隊長である沙和が来ておって、妾たちに話しかけてきたのじゃ。

「よう来てくれたで、楽しんでってや」

「美羽ちゃん、みんな~。順番を守って遊んで欲しいのが沙和からのお願いなの」

格遊具に警備隊の者達がおって、子供達に遊具の扱いで注意をしたり順番の整理をしておるようじゃ。

妾もお姉さんじゃから見守る立場じゃ、・・しかし、色々あるの。

「美羽様、実際に体験した方が子供達に注意しやすいのでは?」

成程、七乃の言う通りじゃ。

うむうむ、凄いのじゃ、面白いのじゃ。

い、いや、妾は子供達の為に確認しておるだけなのじゃぞ。

見よ、真桜や沙和も遊んでおるではないか。

・・じゃがおかしいの?

確かあれはしいそうとか言って、交互に上下に動く筈なのに水平のままじゃ。

「沙和、足をつけとったらあかんやろ。動かへんやんか」

「真桜ちゃんこそ足を上げなくちゃ駄目だと思うの」

「何言うてんねん、沙和の方が下がるのが自然なんやで」

「そんな事はないの。だって真桜ちゃんは無駄に大きすぎるものを二つ持ってるんだから」

「いやいや、沙和の腰回りに付い取るもんの方が重いて」

「「・・・・・・・・・・・・・・」」

そういえば七乃に習うたの、君子危うきに近寄らず、じゃったな。

 

 

某月某日

以前は全く寄り付こうと思わなんだ書庫じゃが、本の内容が解ってくると他にも読んでみたくなるのじゃな。

「美羽様、左伝なら此の辺りにありますよ」

「ふむ。他にお薦めはあるかの?」

「そうですねえ、あら、呂蒙さんじゃないですか」

「こ、これは袁術様に張勲さん、書庫を利用させていただいて有難う御座います」

派遣されてから変わらずの堅い言葉遣いに寂しく思ってしまうのじゃ、一刀とはもっと柔らかな感じで話しておるのに。

じゃが今迄に妾が孫家を利用しておった事を思えば当然で、謝りたいと思うていても勇気が出ないのじゃ。

「凪さんも御一緒だったんですね」

「ええ、将としての学など私には有りませんから、申し訳なくも亞莎に教わっています」

「い、いえ、凪さんはとても覚えが早いですし、私の勉強にもなってますから」

二人は多くの書を抱えて出て行った。

仕事が沢山あるのに更に勉強して、一刀もそうじゃ、それに比べて妾は・・。

「・・美羽様、誰もが直ぐに何でも出来るようになる訳ではありませんよ。一つ一つ積み重ねて出来る事が広がっていくんです。私達にも美羽様のような頃があったんですよ」

「七乃」

妾を優しく抱き締めながら話してくれる七乃の言葉が嬉しくて涙が出てしまったのじゃ。

頑張るのじゃ、・・そして何時か孫権たちに必ず謝ると誓うのじゃ。

 

 

某月某日

昨夜眠っておったら何やら会話が聞こえてきて、其方に目を向けたら七乃が一刀に覆い被さっておって口付けしておったのじゃ。

妾は咄嗟に背を向けてしまったのじゃが、何やら二人が声を抑える感じで言い合っておったのじゃ。

「ま、待ってくれ、七乃!いきなりどうしたんだ!?」

「あれだけ好き勝手してくれてよく言えますね。とにかく、責任取ってください」

「好き勝手って、俺、寝てただけだぞ?」

「どうせ夢の中でも同じ事をしてたんでしょう、問題ありません」

「ムー、ムー。・・・・プハッ、頼むから落ち着いてくれ」

「うるさいですねえ、天井の染みでも数えててください」

天井の染み?そんなもの数えてどうするのじゃ?

「女子がそんな事言ったららめえ」

「さあ、覚悟決めてください」

覚悟?一体何の覚悟じゃ?

「お、お願いです。せめて、せめて場所を変えさせてください」

「・・・仕方ないですね」

その言葉を最後に二人とも寝室を出て行ったのじゃ。

 

 

某月某日

昨夜は一体何があったのじゃろうか?

七乃は御機嫌で肌も艶々しておるのじゃが、一刀は疲れ果てておる。

当人達に聞くのはどうも憚られて、凪達に聞いてみたら真桜と沙和は抜け駆けと言って走り去りおったし、凪からは真っ赤になりながら誰にも話さないようにと言われたのじゃ。

と言う訳で妾もやってみれば分かるのではないかと思い、二人が眠っておるのを確認して一刀に顔を近付けてみる。

こんなに近くから一刀の顔を見るのは初めてで、な、何じゃ、凄く心の臓が跳ね始めたのじゃ。

一刀に聞こえるのではないかと思う程に煩いのじゃ。

か、一刀が起きてしまうのじゃ、早く済ませるのじゃ。

唇を合わせる。

こ、今度は急激に顔が熱いのじゃ!

妾は急いで一刀から離れて布団を頭から被る。

頭の中は目茶苦茶で全然眠れなかったのじゃ。

 

 

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あとがき

お久しぶりです、小次郎です。

本編が完結して暫く筆を全く取らなかったのですが、ちょっと書こうかなと軽い気持ちだったのに一気に書けてしまいました。

ただ読み返してみましたら、何かやらかした気分です。

今回は美羽視点の話ですが、他にも別の形で書いてみようかと考えてます。

そんなに多くは書きませんが、また読んでいただけたら嬉しいです。


 
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