No.91368

冥琳と酔っ払い

komanariさん

お久しぶりです。

何番煎じかわかりませんが、今回は、冥琳さんのお話です。

時間軸的には、蜀と同盟を結んだあと、赤壁の前ぐらいです。

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2009-08-24 13:39:29 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:10201   閲覧ユーザー数:8404

コンコンッ

 

夜。私が差し迫った曹魏との決戦について考えていると、扉をたたく音がした。

 

「・・・・・誰だ?」

 

そう声をかけると、扉の向こうから返事があった。

 

「めいり~ん・・・・・」

 

聞きなれた声ではあったが、いつもとは違う調子に、どうしたのかと思いながら、私は扉を開けにむかった。

 

ガチャッ・・・・

 

扉を開けたが、正面には誰もいなかった。

 

「・・・・・はぁ。お前はそんなところで何をうずくまっているんだ。」

 

扉のすぐ横にうずくまるその男に、ため息交じりに私はそう言った。

 

「めーりん・・・・」

 

そう言ってもう一度私の名前を呼ぶ男の周りに微かに匂っている酒の香りから、これがどういう状況なのか薄々分かっていたが、私は一応その男に問いかけた。

 

ただし、溜息ぐらいは付けてさせてもらった。

 

「はぁ~・・・・・・・。北郷どうしたのだ、そんなところにうずくまって。」

 

そう私が尋ねると、北郷は顔をあげて私の方を見上げた。

 

「めーりん。俺さぁ、お酒飲み過ぎちゃったみたいなんだぁ・・・・・」

 

そう言う北郷の顔は少し赤く染まっており、その瞳は普段のそれではなく、とろんとしていた。

 

北郷が自らこんなに酔っぱらうまで酒を飲むわけはない、おそらく祭殿にでも飲まされたのだろ。

 

(・・・・まったく、祭殿にはもう少し考えてもらいたいものだな。)

 

そう思っていると、北郷がフラフラと立ち上がった。

 

「お酒飲んでたらぁ、冥琳に会いたくなってさぁ、・・・・おっと。」

 

そう言いながら一歩踏み出そうとするが、足元がおぼつかず倒れそうになったので、私は思わず北郷の体を支えた。

 

「あぁ・・・ごめん、めーりん。」

 

そう少し申し訳なさそうに言う北郷に、私はすこし苦笑していた。

 

「気にするな。ひとまず、私の部屋に入るぞ?」

 

「あぁ、お願い。」

 

会いにきたと言われたことに対する少しの嬉しさと、酔っぱらいを相手にしなければならないという少しの面倒くささ。その二つから来た先ほどの苦笑は、私をどこか懐かしい気持にさせていた。

 

ドサッ

 

どうにか北郷を部屋の中に入れ、そのまま寝台まで連れて行くと、北郷は寝台の上に横たわった。

 

(そう言えば昔、雪蓮ともこんなことがあったな・・・)

 

私は寝台の上に寝ている北郷を眺めながら、先ほど感じた懐かしさの原因を、記憶の中に探した。

 

 

 

 

「ねぇ~え~。めーりーん。・・・・・・私のこと好き~??」

 

いつものように、酔っ払った親友はそう私に尋ねた。

 

「えぇ、好きよ。好きだからとりあえず、自分の部屋で寝てちょうだい。」

 

本来酒に強いはずの彼女が、年に数度だけこうしてべろべろに酔っ払うことが昔はあった。その度に私の部屋に来ては、ただひたすら私にそのような質問を繰り返していた。

 

「ぶ~ぶ~。めーりん、ちゃんと真剣に答えてないでしょー。いいもん。どうせめーりんは私のことなんて嫌いなんでしょ?わかってるもーん。めーりんは祭のことが大好きなんでしょ。私なんかのより大きい、あの西瓜みたいな胸に頭を埋めるのが夢なんでしょ??」

 

この数年後、雪蓮の胸は祭殿の西瓜に引けをとらなくなるのだが、このときはまだ、若干、祭殿の方が大きかった。まぁ、若干だが・・・・。

 

と、今になってしまっては、こうして冷静に考えることもできるが、あの時は私もまだまだ子供だった。少なくとも、武官としてだけではなく、『大人の女性』として憧れていた(あの当時はだか)祭殿への気持ちと、一番の親友への気持ちの違いをうまく説明できないぐらいには。

 

「さ、祭殿のことが、なぜ今出てくるのだ!?」

 

そんな私に、雪蓮は「やっぱり」と頬を膨らましながら言った。

 

「そーやって慌てるってことは、めーりんはやっぱり祭が好きなんだぁー。私のことなんてどうでもいいんだぁ~。」

 

そうやって拗ねる雪蓮に、私はさらに慌ててしまっていた。

 

「そ、そんなわけないでしょう!?雪蓮のことは大好きよ!ど、どうでもいいなんてこと、あるわけな・・・・・・////」

 

そこまで言って、雪蓮が満足げににんまり笑っているのに気付いて、私は思わず頬を染めてしまっていた。

 

「あるわけな・・・・の続きは何を言おうとしたのかなぁ~??私のことが大好きなめーりんは、私のことどうでもいいなんてことが、あるわけな・・・・・なんなのかなぁ??」

 

そう言いながら私に抱きついてくる雪蓮から顔をそむけて、私は言った。

 

「し、知るかっ!」

 

恥ずかしさで、本当に顔から火が出てきそうな私に抱きついていた雪蓮は、少し微笑むと私の顔に手を触れた。

 

「ふふ。ありがとう冥琳。私もあなたのこと大好きよ・・・チュッ」

 

言葉の後に、不意に雪蓮が口づけをしてきたことに驚いている私を、いたずらっぽい笑顔で見つめる雪蓮に、私は何も言えなくなっていた。

 

「ありがとう、冥琳・・・・・」

 

そう言いながら、もう一度私に口づけをした雪蓮は、そのまま私を寝台に押し倒した・・・・・・。

 

 

 

 

「ふふ。あの頃は雪蓮にやられっぱなしだったな・・・。」

 

昔の記憶を呼び覚ましたあと、私は小さく苦笑した。

 

「スー・・・・・スー・・・・・・・」

 

ふと寝台で眠る北郷の寝息が聞こえた。

 

「・・・・まったく、お前がそこで寝たら私はどこで寝ればいいんだ・・・・。」

 

そう微笑みながら言う自分にふと気付いて、そのことにまた苦笑してしまう。

 

ギシ・・・・・

 

そっと枕元に腰かけて、北郷の頭をなでる。

 

「この前、初めてお前に抱かれて・・・・なぜだろうな・・・・」

 

まだ生きていたいと思ってしまった。雪蓮の夢を実現するために、もうこの命は惜しくはないと思っていたのだが・・・・。もっと生きていたい。北郷との子供を育てていきたい。そう思ってしまった。

 

病が蝕んでいるこの体では、叶えられない願いだが、北郷に抱かれているときは、そんな願いでも叶うような気がしてしまった。

 

(雪蓮。こんな私にあなたはなんて言うのかしら。)

 

ふと、答えがない質問を天に投げかけた。

 

「ふふ。私らしくもない・・・・な」

 

そう呟くと、不意に北郷が私の手を握った。

 

「・・・・もう誰も失いたくないだ・・・・。冥琳・・・・・・」

 

北郷は少し体を動かして、私の腰に抱きついた。

 

「もう、雪蓮の時みたいな思いはしたくないんだ。・・・・だから冥琳、ずっと一緒にいて・・・・・。子供を産んで、その子たちが結婚して、孫ができるぐらいまで、一緒に・・・・生きて・・・・・」

 

北郷はそこまで言うと、ギュッと私の服をつかんだ。

 

「昨日、雪蓮が夢に出て来たんだ。・・・・冥琳の願いを叶えたいって、お願いねって、悲しそうに笑ってそう言ってた・・・・・・。冥琳の願いが何か分からないけど・・・・、俺はすごく不安になった。・・・雪蓮の悲しそうな笑顔を見てたら、・・・・冥琳がいなくなっちゃいそうで・・・・。最近冥琳ずっと顔色悪いし・・・・・」

 

私の服をつかんだ北郷の手が、少し震えていた。

 

「今の俺に、冥琳の願いが叶えられるかわかんないけど・・・・、俺、がんばるから、どんなに時間がかかっても、冥琳の願いを叶えるから・・・・、だから・・・・・・」

 

(だから、生きて・・・・・)

 

北郷はそう言い終える前に、私は北郷の頭をなでた。

 

「あぁ。私もお前の子を産みたいと思っている。心配するな。最近は忙しくて、少し疲れがたまっているだけだ。曹魏との決戦までは頑張らなくてはならないが、その後は、ゆっくり休ませてもらうさ。」

 

私は出来るだけ穏やかに、そう北郷に言った。

 

「私の願いも、その頃になったら北郷に叶えて貰う。その時はよろしく頼むぞ?」

 

私の願いをかなえることは不可能だと知りながら、北郷に嘘を言う私。

 

「・・・・・・冥琳の願いって何なの??」

 

雪蓮は、「せっかく一刀にお願いしたのに」と私を怒っているだろうか。

 

「ふふ・・・。秘密だ。」

 

そう言って、私は北郷の頭を抱いた。

 

「だが、お前がいなければ、私の願いはかなわない。自分の体は大事にしてくれよ?」

 

そんなことを私が言うなど、なんて皮肉なんだろうか。きっと、私が死んでしまった後、北郷は怒るだろう。

 

「さぁ。明日も仕事がある。今日はもう寝よう。」

 

だが、今から騒いでもどうにもならないことなら、せめてあと少しだけでも、この愛しい男が悲しまないように、私は嘘をつこう。

 

北郷を静かに寝台に戻し、私もその横に寝そべる。

 

(雪蓮。せっかくの心使いを無駄にしてしまってすまない。だが、北郷や蓮華様たちが幸せでいられる世界を築くためには、ここで止まってはいられないんだ。)

 

すこし涙を流したようなあとを残す北郷の寝顔が愛おしくて、北郷の顔をそっと撫でた。

 

(その世界が、お前が望んだ世界なのだろう?雪蓮・・・・)

 

静かに月を覆って行く雲のように、静かに私の体を蝕んでいく病。

 

すべてを覆われてしまうのが先か、それとも私が大業を成すのが先か。それは分からない。

 

ただ今は、愛しい男の寝顔を眺めながら、幸せな温もりにこの身を委ねていたいと、そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

「おやすみ、雪蓮。おやすみ、一刀・・・・・・・。」

 

 

愛しい人の名前を口にしてから、私は意識を手放した。

 

 

 

 

あとがき

 

こんにちわ、こんばんわ、komanariと申します。

 

前の話を投稿してから、かなり時間が空いていますが、皆様お久しぶりです。

 

 

さて、今回の話は冥琳さんのお話だったのですが、いかがだったでしょうか?

 

少し切なめになってしまったのは、何というか、たまたまです。

 

原作で冥琳が一刀君のことを、ずっと「北郷」と呼んでいたので、「一刀」って呼ばせたいって思って書いてたら、こんな感じになってしまいました。

 

出来れば、幸せなお話を書きたかったんですが、ごめんね。冥琳・・・・orz

 

いつか、冥琳の幸せなお話も書くので、お許し頂けると嬉しいです。

 

 

今回の冥琳の話で、今までの『魏→呉→蜀』の順番を崩してしまったんですが、これからは特に順番とか考えないで書いて行こうかなって思っています。

 

なので、まだまだいい作品は書けませんが、僕なんかにリクエストなどありましたら、勢力とか関係なくどんどんしていただけますと、うれしいです。

 

 

そんな、感じでこれからも頑張って行こうと思っていますが、今回は、僕の作品を読んで頂き、本当にありがとうございました。

 

それでは、またお会いできますことを・・・・


 
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