No.907956

真祖といちゃいちゃ 2-3

oltainさん

2017-05-30 20:58:00 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:538   閲覧ユーザー数:534

「……なでなで」

「えへへー」

背中の羽が、軽く荒ぶっている。

まだ少し恥ずかしいが、これからはなるべく意識して撫でてあげるようにしよう。

「質問を変えよう。すずはさ、どっちの姿で居たい?」

「んー?小さい方が楽だけどー。こっちがいいってマドカが言うなら、真祖、頑張るよー」

「いや、俺は別にどっちでもいいって――」

 

待てよ。

 

「すず、今何て言った?」

「小さい方が楽?」

「その次その次!」

「こっちがいいってマドカが言うならー」

 

 

 

頭の中に、言葉のピースが浮かんでくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『マドカ、お前にも出来る事だ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『呪いで大きくしてやるだけよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『俺が好きなのは、胸の大きいかぶきりひめだ』

 

 

 

「どうしたのー?マドカー?」

真祖の声は、耳に入っているのに届かない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『こっちがいいってマドカが言うなら』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう少し、もう少しで届きそうな気がする。

考えろ考えろ考えろ。

 

陰陽師と式姫の関係ならば、言霊によってその姿を縛る事は容易いだろう。

しかし、それはかぶきりひめにとってその姿を象る理由にはならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それを象らせるには、かぶきりひめ自身がそうするように仕向ける他はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの時、師匠は――師匠は――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っくっくっく……そうか、そうだったのか」

俺は声を立てずに一人納得した。気付いてみれば、なんてことはない。

あれだけ頭を悩ませて挙句に掴み取ったのが、こんな単純な答えだったなんて。

「灯台下暗しってのは、こういう事か。ははっ」

「マドカー?」

「あぁごめんごめん。すず、ありがとう。お前のおかげで謎は全て解けた」

事情が呑み込めない真祖の頭を、俺は全力で撫で撫でしてやった。

 

 

 

「剣は持ったか?」

真祖を見送るのに、俺は縁側に出ていた。

「大丈夫、大丈夫ー」

撫で撫でが効いたのか、真祖はご満悦の様子。

 

「あんまり遠くまで行くんじゃないぞ」

「分かってるー」

「体調が悪かったら、無理するなよ」

「分かってるー」

「変な奴には付いていかないようにな」

「……もー、心配しすぎー」

 

 

 

真祖を修行に送り出し、再び寝室へと戻ろうとすると、

「どうやら、答えは出たみたいね」

かぶきりひめが、側柱へもたれかかっている。

 

「これはこれはかぶきりひめ殿。こんな夜更けにどちらまで」

「別にー?今頃、ハルさんが空になった私の部屋へ訪れている頃だと思って」

「師匠ってば……」

 

「そっちにお邪魔しても、構わないかしら?」

「ダメです。師匠にバレたら俺が殺されるんで」

「あら、私の事嫌いなの?ひどいわねぇ」

「ははっ、そうですね。師匠と同じくらい嫌いです」

 

イタズラっぽい笑みを浮かべて、ゆっくりとこちらへかぶきりひめが歩いてくる。

「さて、お聞かせ願えるかしら?」

 

彼女と向き合い、俺は――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は――その姿が一番好きだな」

あの時、師匠はおそらくこう言ったんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

かぶきりひめが、一瞬きょとんとした。

「大体、こんなところでしょ?」

 

かぶきりひめが黙ったので、俺は追い打ちをかける。

「この言葉だけでは、言霊としての作用もなにもない」

 

けれど、おそらく師匠はその一言で彼女の姿を縛ったんだ。

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何故なら、貴方は師匠の事が好きだから」

ピクリと、彼女の尻尾が揺れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

言霊より強く、己を縛りつけるモノ。陰陽師でない俺でも理解できるモノ。

それは、俺の知りうる限り、恋愛感情以外に他ならない。

 

『それなりの条件と準備が整わないと駄目なんだが』

そもそも師匠に対して恋い慕う気持ちがなければ、この呪いは決して成功しない。

 

好きな人に、その姿が好きだと言われてしまったら最後、自分で自分に縛られるしかない。

たとえそれが、縛られるのを嫌うかぶきりひめであっても。

 

「…………」

 

かぶきりひめは、否定も肯定もしなかった。ただ、にっこりと笑っている。

 

「まぁそういうわけで、今夜は好きな人の所にでも行ってやって下さい」

俺は返事を待たずに、そのまま寝室へ入って戸を閉めた。


 
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