「あれ?やっぱり靴は脱ぐっぽい?」
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マイ「艦これ」「みほ2ん」
:第5話<母親>(改2)
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私は実家の玄関脇に立った。相変わらずセミが鳴いている。夕立は私の斜め後ろで飛び跳ねた自分の髪の毛を気にしていた。
「さて」
彼女は無視して呼び鈴を押そうとした私はハタと考えた。
「自分の実家なんだから、そのままドアを開ければ良いか?」
思わず真剣に考えてしまった。本当に久しぶりの実家だからな。
そんな私の姿に夕立は不思議そうな顔をした。
「何かトラブルっぽい?」
心配した彼女は私の顔を覗き込む。
「いや、何でもない」
思わず引いた。お前の長髪を、またくわえる訳にはいかない。
「久しぶりの実家だからな。ちょっと敷居が高くなるんだ」
私は苦笑した。
「敷居?」
復唱する夕立。
「えっと……気分的に入り辛くなることさ」
「ふーん」
自分の実家の前で悩む男なんて、艦娘も不思議に思うのだろう。
「じゃ、帰る?」
おい、そう来るか?
「いや……このまま帰ったら祥高さんに悪いだろう?」
「あ、そうっぽい」
理解したか。
「何しろ艦娘を三人も連れて出ているからな。形だけでも実家訪問しなきゃ」
「じゃ、私がノックするっぽい?」
こいつめ意外な提案をしてくる。さすが艦娘、実家訪問という今回の『ミッション』を、あくまでも遂行しようとしているな。
「いや大丈夫……」
私は彼女をチラッと見て気付いた。夕立って結構、背が高いんだな……そんなことを思いながら私は入口に近づいた。
すると、いきなりドアが開いた。
『ガン!』
「痛ぁっ!」
目から火花が散って頭がガーンとした。一瞬、何が起こったのか理解出来なかった。意識が遠退く。
「ぽい?」
その声で何とか正気を保った。
「痛てて」
額を擦りながら顔を上げると、いつの間にか開いたドアの反対側に夕立が立っていた。とっさに身をかわしたらしい。
「おい護衛艦夕立! 役に立たってないぞ!」
思わず小言。イザとなったら盾になるという日向の言葉が泣くな。
当然、家の中から顔を出したのは母親だった。
「玄関先で誰の声がするかと思ったわ」
「ぽいっ、似てる! 似てるぅ」
夕立が私の母親の顔を見て飛び上がってはしゃいでいる。
「やめろ恥ずかしい」
痛みを堪えつつ夕立を制する私。
そんな私たちを見て母親は怪訝(けげん)そうな顔をしていた。
「何だ、お前? 帰って来ちょった(きていた)だか?」
「うん、ちょっとね」
手紙書いたんだけど……忘れたのか?
それでも私は、少し反論したくなった。
「母さん、人の気配を感じたらさ、ドアを開ける前に確認くらいしてよ」
言いつつ私は気付いた。自分が短気なのは母親譲りだったのか……なるほど納得した。
母親は言う。
「ああ、悪かったわ。まあ、せっかく来たンなら上がれや」
彼女はドアの反対側に立っている夕立の存在に気づいた。
「このハイカラな人は誰ぁだ? お前の彼女か」
首を傾(かし)げている夕立。いつの間にか髪の毛も整っていた。
「いや、あの」
……誰がこのご時勢、司令の軍服で女性を連れまわすんだよ! まあ昔はそういう豪傑な司令長官も居たらしいけどね。
しかし、この「艦娘」は母親には理解不可だろう。じゃ部下? ちょっと変だ。なら同僚? うーむ会社員じゃあるまいし。
取り敢えず私が海軍ってことは母親も知っている。えい、面倒だ!
「護衛の……隊員だよ」
「隊員?」
母親は目を丸くした。
「たいそうな御身分になったなぁ」
明らかに信じてない、お母さん。
「まぁ、いい。早よ入れ」
彼女は扉を大きく開いた。
「うん」
しかし母親の前だと、いくら司令という位置があっても親子の関係に戻るんだな。夕立の手前、さすがに少し恥ずかしい。
でも人間的なプライドなんか、艦娘(夕立)は気にしないようだ。彼女は、さっきからただニコニコしているだけ。この調子だと簡単に挨拶だけして、お墓の場所を聞いて済みそうだな。
私たちは母親に続いて玄関に入る。実家は一軒家だ。中に入ると木造家屋の香りと独特の雰囲気に包まれた。
「……ああ、懐かしいな」
ちょっと感傷に浸ってしまう。やっぱり、ここは私の実家なんだ。
少々固まっている私を見て母親が促す。
「早よ上がれ」
「うん」
私は靴を脱いで廊下に上がると振り返った。
「おい、お前も上がれ」
私の動作を見ていた夕立は言った。
「あれ? やっぱり靴は脱ぐっぽい?」
「そうだよ」
少し意外だった。そうか鎮守府では滅多に靴を脱がないか。
「ふーん」
そう言いながら夕立は靴を脱ぐ。
何だか本当に何も知らない人に物事を教えているような感覚だ。こういう一般人の日常生活を、この娘は知らないんだ。
廊下で立ち止まった母親も不思議そうに見ている。
「何だ? やっぱりハーフか?」
「うん、そんなところ」
適当に応える。
廊下を歩き出したとき、私たちは仏間の横を通った。
「そうだ、挨拶しときな」
母親が促した先には我が家の先祖代々の仏壇が置いてある。私は夕立を手招きして仏間に入った。
「なぁに? これ」
当然だが夕立は仏壇なんて初めてだろう。鎮守府にあるのは神棚だし。あれだって毎日手を合わせているのは私と祥高さんくらいだもんな。
「神社っぽい?」
惜しい。
「仏壇だよ。何ていうか、鎮守府の神棚の親戚みたいなものだ」
我ながら乱暴な例えだ。
とりあえず私は畳にひざまづくと線香を手向け手を合わせた。夕立もそれに続いて見よう見まねで線香を捧げる。
およそ、こういうものとは縁の無さそうな艦娘が仏様に手を合わせる光景は、まさに前代未聞だな。それでも、この姿を見ると『お盆』という実感が湧く。
暫く手を合わせていた夕立は顔を上げてこっちを見る。
「もう良いっぽい?」
「ああ上出来だ。さ、奥に行くぞ」
私は夕立を手招きして廊下を進んだ。
私と彼女は実家の居間に通された。そこは8帖で床の間がある和室だ。私たちは座卓を囲む座布団に座った。
実家は大して豪華ではないが居間には空調が入っているから涼しい。
「すごい、涼しいっぽい」
「ああ」
このご時勢、贅沢だな。父親の軍人年金か? 両親は意外と良い暮らしをしているようで安心した。私も親不孝ながら、ほとんど仕送りをしたことがない。親だって、とっくに私の仕送りなんか当てにしてないだろう。
「はあ」
制帽を脱いだ私は両腕を背中のほうに伸ばして、ちょっと天井を仰いだ。そういえば、この和室の雰囲気とか懐かしいな。しばらく建具の木目をジッと見つめている私。
「あれ? こんなに狭かったんだ」
「……ぽい?」
私の独り言に反応する夕立。そういえば母親も、ちょっと小さくなったように感じる。
お茶道具を持ってきた母親は、湯飲みにお湯を注ぎながら言う。
「お前から手紙もらったときは信じられんかったけど。でもその格好見ると……本当に、出世したんだなぁ」
「……」
そうだよ。ろくに仕送りもしない親不孝者が分不相応な位置にいるわけだ。手紙も今回、初めて書いたし……。罰当たりな人事かも知れない。相変わらず実家では口数が少なくなる私だけど。少しソワソワしている夕立も今のところ大人しくしている。取り敢えず助かるぞ。
母親は私と夕立に、お茶を出しながら言う。
「お父さん仕事に行ってるから。夕方まで戻らんよ」
「あ、そう」
軍人とはいえ元空軍だからな。海軍の私と夕立では、父親も居心地悪いだろう。
やがて母親は台所に戻ると、お菓子を持ってきた。夕立は軽く会釈をした。若干『ぽい』が出ているが不自然さはない。良いぞ、ここまでは。
「……」
お茶を置いた母親は、しばし沈黙。うっ、ちょっと間が持たない(汗)
外からは相変わらず、セミの声が響いていた。
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※これは「艦これ」の二次創作です。
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PS:「みほ2ん」とは
「美保鎮守府:第二部」の略称です。
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実家へ向かった司令は久しぶりに懐かしい実家に帰省して母親と再会した。同伴した夕立の挙動には少々、困惑もしたが、お盆らしさも実感していた。