「海の上ばかりっぽい」
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マイ「艦これ」「みほ2ん」
:第4話<解放感っぽい>(改2)
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後部座席に私と並んで座っている夕立は、さっきからから軍用車の外に、その長い金髪をなびかせている。このご時勢、こんな地方の町に金髪の少女なんか居ないから、その分、彼女は異様に目立つ。
時おり通り過ぎる通行人も金髪を棚引かせる夕立に気付いて目を丸くする。そりゃそうだ。軍用車から金髪ガールが顔を出しているんだから。
「ぽいぽい、楽しみっぽい」
人目を、はばかることなくリズミカルに鼻歌交じりの夕立。
「何だか嬉しそうだな」
「ぽい?」
この語尾には、いちいち脱力しそうになるが……彼女のニコニコしている姿を見ると髪の毛が目立つくらいは、まあ大目に見てやろうかと思うのだ。
しかし、こっちは久しぶりの実家訪問で緊張しているのに、こいつは、のん気で羨(うらや)ましいな。
そんな私の気持ちを察したのか夕立は片手で金髪を押さえながら呟くように言った。
「私、毎日、訓練と作戦で海の上ばかりっぽいんだ……だから、たまには陸地も良いっぽい」
本当に嬉しそうな笑顔……そうか。それが彼女たちの現実か。
「そうだよな」
私も同意した。
艦娘にだって感情がある。同じような訓練を繰り返すばかりの日々が延々と続けば夕立だって嫌というか、その代わり映えの無い景色には飽きるだろう。
人には帰る家があり故郷もある。そこに様々な思い出を宿すことが出来る。だが艦娘はどうだ? 工廠や工場だけでは、彼女たちにとって決して故郷足り得ないのだ。
彼女たちに、たまの休日があっても自分が戻る場所は結局、鎮守府しかない。そこでいつ果てるとも知らずに年中、戦いに明け暮れるのだ。
だから今回のように公的な大義名分でもなければ陸(おか)に上がっていつもと違う景色を眺める時間もない。
私はふと着任時の視察で外出した際に、港を興味深く眺めていた寛代の姿を思い出した。考えてみれば同年代の少女なら多少は出かけて遊んだりする年頃だろう。
だが、それを犠牲にして、ひたすら戦うのが艦娘なのだ。
艦娘って何だ? そもそも敵って何だ? 分からない事だらけだ。
この長い戦争の意味など誰も分からない。だが彼女たち艦娘にとっての、この戦争の意義は、いったい何だ? 私は急に考えてしまった。
軍用車は順調に走って県道から旧市街地へと入った。道路は急に狭くなり碁盤の目のようにゴミゴミしてくる。
「……」
寛代は助手席で黙って道を指差している。
「……」
日向は、それを見ながら黙々とハンドルを回し続けている。二人とも基本的に無口でジェスチャーゲームをやっているみたいだ。絶妙なのか違うのか? よく分からない。
車は順調だから取り敢えず、うまくいっている……のかな?
夕立は、さっきからずっと金髪を振り乱しながら外の景色を見てる。
つい私は彼女に声を掛けた、
「境港なんて大して珍しい物も何もない町なんだけどな」
「ぽい? ……でも楽しいっぽい」
夕立は笑って応える。その屈託の無い返事に私は苦笑するばかりだ。
なるほど彼女は陸の上……鎮守府の外の世界が珍しいのだろう。普段の彼女が鎮守府から出る機会があっても、そこは大海原だ。水平線の彼方まで何もない。それに比べたら変化のある町並みの方が珍しいのも仕方がないか。
寛代が示した狭い路地に軍用車が入る。突然そこに私には見覚えのある景色が広がった。あっと思う間もなく、こじんまりとした平屋の前で軍用車が停まった。
既にかなり髪の毛がボサボサになっている夕立。何だか金髪の鬼婆にも見えるんだが。それは、まったく気にせず陽気に身を乗り出す彼女。
「ここっぽい?」
「ああ、ここだな」
ついに実家へ来てしまったか。急だけど誰かいるのかな?
髪の毛を直しながら目を大きく見開いて首をかしげている夕立。
「司令の実家って言うからぁ、もっと大きいかと思ったっぽい」
「別に司令だから実家が大きいとは限らないよ……ま、私の父親は空軍の軍人だったけどね」
「……!」
私の発言に、なぜか車内の全員の視線が一斉に、こっちを向いた。
「何だよ、その反応は?」
海軍の提督の父親がもと空軍の軍人だと、そんなに珍しいのかよ!
「ぽい?」
夕立のそれは力が抜けるって。いや、私だけでなく全員が脱力したような……。
でも、お陰で、今の私への艦娘たちの視線も消えたからホッとした。艦娘って人間には当たり前のことでも妙な反応をすることがある。正直、戸惑う。
人間の血縁関係とか習慣に関することは彼女たち艦娘には分かり難い世界だ。だから過剰反応したり無反応(無視)だったりするのは致し方ない。
取り敢えず皆の妙な反応は無視だ。私は、おもむろに車を降りた。
ジワジワと聞こえるセミの声が夏らしさを強調する。朝晩は過ごし易くなったとは言っても日中のアスファルト上は暑い。
髪の毛を直した夕立も私に続けて「よいしょ」と言いながら車の反対側から降りてきた。
「あれ?」
振り返ると運転台に鎮座している日向。
「お前は来ないのか?」
彼女は、すまし顔で答えた。
「私と寛代は念のため、ここ(軍用車)で待機しています」
寛代も同様らしく頷いている。
「あ、そうなの」
……さすが日向、用心深い。こんな狭い街中には敵の重戦車も来るわけないと思うが。まぁ男子一人と女子三人で、いきなり実家に押しかけるよりは良いか。
「ぽぉい」とか言いながら、眉間にしわを寄せて、しつこく髪の毛を押さえている夕立。無頓着に髪の毛を車外に放出し続けるからだよ……ったく。
「おい、行くぞ」
私は彼女に一声掛けながら実家の玄関前に立った。
「実家か……本当に懐かしいな」
玄関脇の木からセミの鳴き声が響いていた。その声は私の緊張感を煽っているようだった。
「しかし、まだまだ残暑は厳しいか」
私はハンケチで汗を拭って少しでも落ち着こうとしていた。
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※これは「艦これ」の二次創作です。
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PS:「みほ2ん」とは
「美保鎮守府:第二部」の略称です。
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実家訪問で緊張する司令に比べると妙に楽しそうな夕立だ。そこには艦娘たちの事情もあった。