「皆が居るから、ちっとも寂しくない」
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マイ「艦これ」「みほ2ん」
:第6話<意外と夕立も>(改2)
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セミの声と妙に効いた空調が何故か緊張感を高める。
母親は私たちの対面の座布団に座った。自分のお茶を入れながら、まじまじと夕立を見ている。
「まさか、お前(司令)の彼女かと思ったけど、さすがに若過ぎるよなぁ。アンタ(夕立)もやっぱり海軍さん?」
「ぽ……あっ、はい」
少し硬く答える夕立。「ぽい」って言いかけたな。
母親は続ける。
「最近の海軍さんもハイカラだねぇ。アンタの格好は女学生っぽいし。ハーフの隊員さんまで居るんだねぇ」
女学生っぽいハーフか。まぁ、かろうじて日本語喋ってるし。そうでなかったら、ほぼ異星人だよ、きっと。
「ぽい?」
油断していたら夕立が呟いた! 母親に釣られたな?
その『ぽい』という言葉で母親は改めて夕立の顔を見た。それ以上、墓穴を掘るなよ夕立……私はそれを誤魔化すように母親に質問した。
「今日、急に帰省したのは、実は墓参りしようと思ってね。新しい赴任先が直ぐ近くの海軍基地だから。ホラうちのお墓……役場の傍だよね?」
突然、饒舌(じょうぜつ)になる私。我ながらワザとらしい。
母親は、ちょっと訝(いぶか)しがりながら答えた。
「役場の近く、寺の前の通りから共同墓地に入るだがん」
「ああ、あの井戸とか地蔵さんの山の向こう側だよね」
何となく記憶が蘇ってきた私。
ふと見ると夕立はリボンを揺らしながら首を傾げている。ベロ出したら、まるで犬だよ。冷や冷やする私の思いとは裏腹に母親は時計を見ながら続けた。
「今日は、お母さん時間あるから。お前が良ければ一緒に行くか? ご先祖さんにも成長した姿を見せたいし」
「そ、そうだね」
私は安堵した。良かった。何とか誤魔化せたかな?
ちょっと落ち着いた私は日向たちのことを思い出した。
「お墓って近いよね?」
「歩いたら……ちょっこぉ(すこし)距離があぁな(あるな)」
「今日は軍の車で来ているからサ、それで行こうよ」
「え?」
今度は母親が少し驚いている。やはり息子が海軍の司令官だと信じ切れていないのだろうか? やれやれ……。
堪りかねた夕立がまた「ぽい?」を発していたが母親には聞こえなかったようだ。まったく思わずこっちが「ぽい」って言いたくなるよ。
「まぁ、お前がそれで良いなら……ちょっこし奥から線香、取って来ぅわ(くるよ)」
母親は立ち上がった。
「うん」
私が奥へ入る母親の後姿を目で追っていると……
「ぽぃ!」
夕立か。思わず振り向くと彼女は、いきなり正座を崩して足を投げ出していた。
そして手で顔を扇(あお)ぎはじめた。
「何だよ? その落差は……がっかりするな」
「もぉ、疲れたっぽい」
「そうか」
だが直ぐに私は慌てた。
「おい、変に脚を立てるなっ……お前のスカートの丈! 短いんだからさっ」
「ぽい?」
自覚なし。
「危うく……」
そう言いかけて止めた。
『見えそうだったぞ!』 ……なんて本人を前にして言えないよ。
「無視、無視!」
私は慌てて夕立と反対側の壁を見る。傍から見たら極めて不自然な行動だな。
「疲れるけど」
彼女の声に、恐る恐る顔を上げる私。
夕立は相変わらず、のん気に手で顔を仰いでいる。この部屋は空調が効いてるんだが。
「もしかして緊張したか?」
彼女は扇ぐのをやめて、こっちを見た。
「でも、こういうのって初めて」
その澄んだ瞳で見つめられると、ちょっとドキッとする。
「なんか面白いっぽい」
私は心臓の動悸を誤魔化すように、おもむろに腕を組んだ。
でも夕立って意外に能天気なようで、それなりに母親に気を遣ってくれていたんだ。
思わず声が出た。
「ありがとうな」
「ぽい?」
こちらを見る彼女。そんなに、つぶらな瞳で見るなよ。
「あまりジッと見つめるな。何って言うか……」
私も恥ずかしいとは言わない。
「……」
固まったように、こちらを見詰めている夕立。間が持たない。
苦し紛れに、私は言った。
「そうか、お前には姉妹艦は居ても家族は居ないんだよな」
「そうっぽい」
ふっと寂しそうな表情をみせて視線を反らせた夕立。
「……あ、悪かった」
家族のことは拙いか。
でも彼女は直ぐに髪の毛の先端をいじりながら続けた。
「司令とか皆が居るから……ちっとも寂しくないっぽい」
「あ、ああ……そうか」
私も配慮が足りなかった。
「済まなかったな、夕立」
反省。
「でもお前は、きちんと気は遣ってくれるし意外にしっかりしてるな」
「ぽい?」
またそれか……ちょっと拍子抜けするけど見直した。艦娘も見かけで判断してはいけない。
もっとも彼女たちは戦場で射撃の複雑な計算を瞬時にしたり分刻みの作戦行動に加わったりする。艦隊作戦行動、即ち団体行動だ。一人の油断が全体の命取りになる。気遣いくらいは出来て当たり前か。
やがて母親が戻ってくる気配がした。夕立は、慌てて姿勢を戻した。その姿は微笑ましかった。
「何だ、夕立も可愛らしいところあるんだな」
今度はストレートに言えた。
「……」
初めて恥ずかしそうな表情をした夕立。思わず仰け反りそうになる。
「待たせたなぁ」
墓参道具を抱えた母親が入ってきた。
「うん……行こうか」
私は帽子を持つと膝を突いて立ち上がった。
夕立も遅れて立ち上がったが、足がしびれたらしい。
「ぽい」っと言って少しよろめいた。
彼女は髪の毛を押さえながら恥ずかしそうに舌を出して苦笑いをした。それを見た母親も笑顔になった。
「ははは」
私は軽く笑った。何だか、こういうのも、たまには良いかも知れない。
実家の軒先の風鈴が、チリンと風に鳴っていた。
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※これは「艦これ」の二次創作です。
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PS:「みほ2ん」とは
「美保鎮守府:第二部」の略称です。
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実家での夕立が意外に気を遣ってくれる姿に司令は驚くのだった。