良司が帰って、他のお客の相手を少ししていたら、閉店の時間となった。私はレーコードの針を外し、外の扉に本日終了の札を下げ鍵をかけカウンターに戻り食器の片付けをしていると、隣にいたお父さんが話しかけてきた。
「佳織、今回でマジにふられたな。」
「何言ってんの。違うって毎回言ってる。それに、私にはちゃんと彼氏がいます。」
何やらお皿の割れる音がしたけど、気にしないでおこう。今度の休みにでもここに連れてきて紹介しようかな。私はそんな事を考えながらグラスの洗剤を水で洗い流し伏せていく。
「んぁ、そんなの初めて聞いたぞ。」
「そりゃそうでしょう。私、今初めていったもん。」
お父さんは狼狽えながらも話を続ける。
「まぁそれは後で聞くとして、良はどうするつもりなんだ。お前は何となくわかっているみたいだが。」
水道の蛇口をひねり水をとめ、かけてあるタオルを手にしながら私は自分の考えを話し始めた。
「どうだろうね。アイツはいつも無茶苦茶なことを、平気な顔でやるから。お父さんも、昔苦労したでしょ。あ、今も変わんないか。」
私は茶化しながら答えつつ、拭き終わったグラス類を棚にならべながら話を続ける。
「まぁ踏み込むって言った時の顔や、その前の仕草からすると、文さんとお腹の子どもを一生ささえるつもりだと思うよ。」
棚の扉をしめてお父さんの方を振り返った。お父さんは目頭を押さえて目を瞑った。
「えっと、つまりあれか。お腹の子の父親になるつもりってことか。まったく俺に何の相談もなしに。誰に似たんだ。」
そう言いながら、目頭を押さえていた手をどけ、お父さんは店の棚に飾ってある写真立てを眺めていた。
「まぁお父さんの影響も多々あると思うけど」
と返しながら、私も写真立てに目をやった。
「俺か、俺はそんな風に育てた……」
なにやら、パニックになりかけていたので落ち着けるとにした。
「まぁまぁ落ち着いて。もう良司も未成年じゃないし責任はないでしょ。でも、私は父親は無いかなと思ってる。たぶんね、子どもに対しては父親代わりを努めるけど、文さんに大しては良き協力者として接するつもりじゃないかな」
そんな話しをしながら、お店の片付けをしていく。
「どういうことだ。一生を支える気なら結婚するってことだろ。」
乾いた布巾を水で漱ぎ軽く絞って、カウンターを拭きながら私がそう思った理由を教えた。
「なんせ、良司の片思い。でも、今日の文さん見ているとそうでもなさそうなんだよね。まぁ片思い云々は良司の話がソースだからあてにならないけど。」
今日の二人を見ていると、まぁ結婚て選択もあり得なくないな。文さんは良司を信用し信頼している。いつの間にそこまで惹かれたんだろう。まぁわかる気もする。
手に持っていた布巾をクリーニング屋行きの箱になげいれ今日一日の仕事を私は終えた。
「お前、そこ大事なとこだろ。ちょんと押さえとけ。」
お父さんは呆れたような声で私に言った。
「冗談いわないの。いつまでも、アイツの姉さん役じゃないよ。でも二人の間が良司の話以上だと、お父さんの言う通りだと思う。だから念のために、文さんの両親に挨拶に行く覚悟しといたら。うちの息子がご迷惑をなんとかなんてね」
お父さんはなにやら難しい顔をしながら考え込んでいた。
「やっぱり、俺か。挨拶に行くの」
ふと、お父さんの手元を見ると食器が山のように残っている。
「お父さん、私もうあがるよ。その食器ちゃんと洗っておいてよ。」
「えっ、お前もう洗い終わったのかいつの間に。」
もうこれだから男の人は、話をしながらでもコレくらいはやってくれないと。
私は、手伝えとか何とか言っているお父さんをあしらいながらも、良司と文さんの二人が歩む道が幸せになることを願った。
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どこかで起きていそうで、でも身近に遭遇する事のない出来事。限りなく現実味があり、どことなく非現実的な物語。そんな物語の中で様々な人々がおりなす人間模様ドラマ。