No.845277

九番目の熾天使・外伝 = 蒼の章 = カムイ篇

Blazさん

未だモチベーションが立ち直らないのですが取りあえず第五話を…

三話の続きは次回に回そうかなと…うん。大丈夫なハズ…

2016-04-30 17:54:00 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:468   閲覧ユーザー数:437

五話 「隠れた楽園」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

楽園内

とある廊下で偶然kaitoを捕まえたリリィは、キリヤがどこにいるかと訊ねる。

両手には何かの資料なのか束が抱えられており、彼女がそれを目的で探していることは明らかだ。

 

 

「―――一足遅かったな。残念だけど、ロキは弟連れて任務だ」

 

「任務…ですか」

 

「そ。団長からの緊急で、ディアのヤツも引っ張ってたな。そういや」

 

「………。」

 

団長直接の命令であるなら仕方がないと、俯いて少し残念そうな顔をするリリィは直ぐに顔を上げるとから元気のような笑顔でkaitoに礼を言う。

どうやっても本当は会うだけでもよかったという顔で、目的は抱えている資料よりも彼との会話だったようだ。

それを察したkaitoは少しの間沈黙するが、なにを考えていたのか口元を釣り上げると、リリィに「余計な事」を教える。

 

 

「―――アイツは今、アヴァロンに居る」

 

「えっ…?」

 

「こっそりと聞いてたんだよ。なんか面白そうかなってな」

 

「はぁ…でもどうして―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行先はカムイにある遊楽街「ホウライ」っつーところ」

 

 

「―――え?」

 

 

「まぁ…遊郭だな。普通に言えば」

 

 

 

 

遊郭。つまり、女遊び、の場所。

 

 

 

実際はホウライに居るであろう協力者のもとへ行くことだが、kaitoがどこでそれを知ったのかまたどうしてホウライを知っているのかは今その場では彼しか知らない。

余計なことを言ってしまったkaitoは目の前でふるふると小刻みに震えるリリィがどういう反応をするのかと様子を窺っていたが、それが地雷というよりも触れれば発火する着火剤だとは知らずに墓穴を掘ってしまうことには次の瞬間に思い知らされることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――オイkaito」

 

 

「…へ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今すぐそこへの行き方教えろ。でなけりゃお前の○○○を○するぞ」

 

 

※あまりに酷過ぎる言い方ですので今回は皆さんのご想像と妄想と墓穴にお任せします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

= アヴァロン東部 カムイ郊外 =

 

 

 

 

「にえっきしっ!!?」

 

「えっ…だ、大丈夫ですか…!?」

 

大きなくしゃみを飛ばしたキリヤに驚いたディアーリーズはただのくしゃみなのかと心配するように気遣う。どうやら、ただ大きかっただけのようで直後に鼻をすすり呼吸を整えると大丈夫だ、と片手を上げて制した。

 

「最近カゼみてーなの貰った覚えもないんだけどなぁ。変に寒いせいか?」

 

「うつさないでくれよ、兄貴のカゼなんて俺も願い下げだからな」

 

「…何。俺が全身不潔みたいな言い方しないでくれるか。マジで傷つくんだけど」

 

「事実だから仕方ねぇだろ。実際、休みの日はリリィとナニしてんだか…」

 

「いやそれ話とは関係ねぇ!?」

 

ウルフの一体で彼の相棒であるリュコスを挟み、討論する二人。それには前を歩いていたディアーリーズとBlazも呆れるしかなく、Blazにいたっては長くなるであろう言い合いに深いため息をついた。

 

「…あのさ、お前ら。元気なのは結構だけどよ、少しは静かにしてくれねぇか」

 

「仕方ねぇだろ。こいつ(ルカ)が余計なことを言うから…」

 

「だとしても、もう少しエチケットは守って貰いたいぜ」

 

「………。」

 

完全に口喧嘩一歩手前の状態である二人にさてどうするべきかと頭を抱える二人。そもそも何故二人が一緒に来ているのかということに疑問を持つBlazは大方のことを予想しつつも黙々と先頭を歩く。

恐らく団長であるクライシスが戦力補充ということでキリヤを選んだが、今回の事件に何を思ったのかルカを追加戦力として送り込んだのだろう。

兄弟であればイマイチ仲がよくないと言っても阿吽の呼吸で…というのが立てた仮説だ。

 

 

「こんなんで大丈夫かね…」

 

「まぁ…戦力としてはアテにしてもらっても大丈夫だと思います…」

 

「戦力としては…ね」

 

妙に辛辣な言い方をするディアーリーズに本人の悪意がないことを確認すると、Blazは再び延々と続く暗い夜道を進んで行く。

すると今度は彼が少し前から思っていたことを口に出す。

 

「…ところで、目的地ってまだ先なんですか? もう随分歩いてますけど…」

 

「もう直ぐ着く。着かねえからって苛立ってるのか?」

 

「い、いやそういう意味じゃなくて…ただ嫌に景色が変わらないなって…」

 

 

彼らが歩き出してそろそろ十分だろうか。ディアーリーズの言う通り、景色は提灯によって灯された光によって照らされる石造りの道と、その外側に刺さっている鳥居。そしてその外側である周囲は闇につけ込まれた森林しかない。時々どこからか動物の声がするが、それが余計に恐怖をかり立たせ平常心を欠いてしまう。

 

「心配すんなよ。これ(提灯)がある限りお前がパックリ食われることはねぇんだし。それに、進んでるのは確かなんだぜ」

 

「…一応聞きますが、何を根拠に」

 

「あれだ」

 

顎を動かして「あれ」をさしているらしく、そのあれを探して見回すが目の前には暗い夜道とその中で色濃く立ちはだかっている山ぐらいしかない。その中の一体どこに彼の言うあれがあるのかと思いながら、分からなくなったディアーリーズはギブアップして答えを尋ねた。

 

「…えっと…」

 

「山。近くなってきてるだろ?」

 

「え…」

 

「俺らはあの山向かって歩いてんだよ。着くまであと五分ってとこだな」

 

何か目印があるのかと思っていたが、それがまさか今までずっと見えていた黒い山であると知った瞬間、ディアーリーズの中で何かが砕けたように感じ、足取りが少し重たく感じ始める。

 

「本当に…目的地って…」

 

「心配すんな。多分、お前が考えてるのとはぜってー違うからな」

 

もはやその言葉を信じていいのかと心配に思える状況に、足だけでなく頭までも重くなり始める彼は最後の希望とばかりに目的地の景色を想像して鉛のような足と溶けてしまいそうな体を保たせる。

このまま最後の希望まで潰えたら彼の体と精神がなぜか溶解してしまいそうに見えたが、既に目的地の様子を知っていたBlazにとってそれは今の内のことだ、と片づけられてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、それでも我慢しきれなかったディアーリーズはとうとう怒りをあらわにした。

 

 

 

「―――Blazさん」

 

「なんだ」

 

「…任務であるなら仕方はないって思いますよ。そういう場所に行くのは」

 

「ああ。まぁしゃーねぇな」

 

「…けどですね」

 

「うん?」

 

 

 

「…コレ。完全に僕らを馬鹿にしてません?」

 

 

 

ようやく山の麓にたどり着いた四人だが、そこには彼らが予想した町と言えるようなものは何一つとしてなく、代わりに目の前にぽつんと古いお堂が一つあるだけだった。

これにはキリヤとルカの二人も大丈夫なのかと信用のない目で背中を見ている。

彼のいう場所、それがまさかこんな殺風景な所だったとはと。

 

 

「馬鹿にはしてねぇよ。それに、たかがお堂だろうが。お堂馬鹿にすんなよ」

 

「いやお堂を馬鹿にしているんじゃなくて僕らを馬鹿にしているかって話で…」

 

「誰も俺はここがゴールだって言ってねーぞ」

 

「え…?」

 

確かに、ここがゴールだとは彼は一度も言ってはいない。だがだからといってお堂だけであることに変わりはないし、他に行く場所もない。鳥居によって繋がれた道は間違いなくこのお堂だ。

 

「確かに今までのはホウライに続く入口だ。だが、ここから先がその入り口の向こう側へと続く場所。いわば扉だ」

 

「扉つっても…まさかお堂に…」

 

「そういうこった。ついて来な」

 

行く道を知っているからこそ堂々と歩くBlazとジョーカー。

ジョーカーは一度だけ三人のほうに振り向き、ついて来いと言うような顔で鼻を鳴らす。彼もホウライを知っているらしく文句を言っているような顔でもない。

未だに信じられないという顔のディアーリーズはどうするべきかと迷っているが、隣で小さくを息を吐いて反論を諦めたキリヤたちに続き、後ろを付いて行くことにした。

 

「…この先なにも無かったら、お前をぶっ飛ばすぞBlaz」

 

「へいへい。文句はついてからにしな」

 

お堂の扉を押すと、僅かだがホコリが舞い散る。それを煙たく感じながらもずんずんと進んで行くBlazに本当に大丈夫なのかと思いつつ付いて行く三人。

中は見た目通りの狭さで五歩ほと大股で進めば奥にある仏像などが置かれている台座にたどり着いてしまう。これで本当に終わりなのかと思い始めたが、Blazはその台座の奥に何事も無いかのように進んだ。

 

「って奥行っていいのかよ」

 

「ああ。だってそれ、フェイクだからな」

 

「…なるほど。遠近感って奴か」

 

台座のせいで奥に少しスペースがあると気づかせないようなやり方に関心し、少しだけだが意欲を取り戻し始める。

 

「あとはここを抜ければゴールだ…っと」

 

 

台座の後ろには隠れるように扉が一つあり、そこを開こうとするが腐っていて開きにくくなっており、面倒に思ったBlazは強引に足で蹴り飛ばす。

所詮は木製ということで扉は開かれ、僅かに木が割れたような音もしたがそこは気にせずに更に奥へと進む。

 

「いくら偽装用だからって腐り過ぎだっての…」

 

「強引だなぁ…」

 

「罰当たるぞ」

 

「大丈夫だ。本物は別の場所にあっからよ」

 

気にするところはそこではないが、一々と突っ込む気力もない彼らは台座に置かれている仏像などを横目に見つつ奥へと向かう。

ここを通れば、もう直ぐ着く。この場ではもう嘘か真かとなっているが、お堂を出てからそれが少しずつ現実味を帯びて来たのを肌で感じ始め、まるで向こうから誰かがそう叫んでいるかのように感じる気配にまた少し長く感じる奥の道が今は短く思えてくる。

 

 

「もう直ぐか」

 

「そろそろ向こうの空気が漏れてくるあたりだからな。ここさえ抜ければな」

 

「………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホウライの由来は理想郷の一つとしての意味から取られている。

不老不死。文字通りという訳ではないが、その繁栄が死することなく続くという願いから込められた。

しかし万物には全て終わりがある。それは永遠であっても同じこと。いずれ誰かによってそれが成されるのだから…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ…」

 

「あれが…」

 

フッと息を吹きかけて提灯の火を消すBlaz。その隣ではキリヤとルカが目の前に広がる光景に目を奪われている。

ここまでくれば問う必要もないが、ディアーリーズはそれでも自分の目の前の光景を確かなものにしたいため、もう一度Blazに訊ねた。

 

「…あそこが…ホウライ…?」

 

「ああ。世に隠れた奴らの住まう、隠された楽園だとさ」

 

丘の上から見えるのは至る所で火の街灯が灯った街。

四角で仕切られ整備された様子は遠くからでも分かり、まるで碁盤のようになっている。そして、その街を十字で区切っているかのように四方にはひと際大きい建物と中心には広場のような場所がある。

 

「随分デカいな…結界まで張ってある」

 

「やってる稼業が稼業だ。それに色々と面倒も運び込まれることもあるから、その対策だとよ」

 

「もしかして典型的な…」

 

「それもあるぜ。けどその他満載ってのがこの世界だからな。変に余計な事に巻き込まれたくない、巻き込みたくない…要は自分たちでなんとかするから関わんなってワケだが…ま、こういうのばっかりは無理な話だろうよ」

 

そう言って丘を下っていくBlazにディアーリーズは妙に慣れ過ぎて(・・・)いるように思え変な心配事を持ち始める。

 

「遊郭か…行くの初めてだな…」

 

「今回、リリィさんがついて来なくてよかったな。兄貴」

 

「場合によっちゃ○されるな…絶対…」

 

「か、回避不可能なんですね…」

 

「そりゃリリィだし…」

 

「女はこういうのに敏感だかんなぁ…」

 

「なんでBlazさんまで共感してるんですか」

 

「………。」

 

 

あ。アンタ経験しているのね。

黙り込んでしまったBlazの後ろ姿になんとなく察したディアーリーズとルカは大方誰であろうかという予想をしつつ遊郭の町に向かい再び歩き出した。

 

 

 

「この丘を下れば入口だが先に言っとくぜ。当然ながら町中での武器使用はご法度だ。いくら遊楽の町つっても自衛はしてるからな」

 

「分かってるって。少なくとも、お前よりは気は長い方だからな」

 

馬鹿にするように笑うキリヤにうるせぇと図星の顔で返すが、気が短いのは事実なためにBlazもそれ以上の反論は出来なかった。

自分でも自負しているせいで、それが図星であれば余計返すこともできない。今更ながら何故気が短いのかと自分に呆れるが、どうやっても覆せない事実にぼやくことしかできない彼は不貞腐れた顔で先頭を歩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遊楽で人里から離れた地。なれば人は少ないかと言われればそうでもない。

隠された地であるからこそ楽園へと足を踏み入れる人間は多く、活気づいているのだ。また女の色気に誘われているのか、出入りする人間の殆どは男で、その服装に統一感はない。

カムイの町に住む和服。剣士であるからか鎧をまとっている者も少なくない。他にも西部に居そうな洋服を着ている人間も見かける。

中には変わり種もいるが、それはまだ語れる者たちではない。

斯くして、今日も女たちと夢のような一晩を楽しむがために男たちは隠れた里に降り立った。

 

 

 

 

 

「お、おお…」

 

「凄いな…結構人の気配がする」

 

その隔たりである扉をくぐったディアーリーズとルカは活気と様子に驚きを隠せなかった。人里から離れた場所というからいるのは大抵代官のようなヤツばかりかと思っていたが、そういった人間は逆に少なく平民と言うべき人が多く入り浸っている。

町の様子もただ女と遊ぶ場だけではなく、休憩所なのか茶屋もありそこに座って誰が美しいか、色気のある女かというのを語らっている男たちも居た。

 

ただ、こういう場所に抵抗感と若干のトラウマがあるディアーリーズはその雰囲気に圧倒されながらも必死に理性を保っていた。

 

「カムイじゃそこそこ名の通ってる場所だからな。それに遊楽つったらこの世界じゃここだけだ」

 

「だから態々遠路はるばるってワケだ」

 

「ああ。賞金稼ぎ、指名手配、代官、平民、商人等々…ま。肩書様々なのは当然だな」

 

と、何事もないかのように話している三人。しかしディアーリーズは自然と入ってくる声に気になってしまい、少しずつだが頬が赤くなっている。

遊楽であればと多少覚悟していたが、ここまであからさまに聞こえてくると彼も驚くのを通り越して聞こえている自分が恥ずかしく思えてくる。

 

「………。」

 

「どうした、ディア。今更こんな所来て恥ずかしくないだろ」

 

「い、いや…そうじゃなくて…っていうか皆さん平気なんですか!?」

 

「…なにが」

 

「えっ、なにがって…その…」

 

「…なにが?」

 

 

どうやら慣れているというより気にしていないというべきなのか。遊楽の町だからそんなの当然だろうという顔で聞いて来る彼らにディアーリーズは自分ひとりが蚊帳の外のように思えて仕方がない。

 

 

「……………。」

 

「お前ウブなんだな。もう少し耐性あると思ってたけど」

 

「人前で聞こえてるから恥ずかしいに決まってるでしょ!!!」

 

「…それって人前じゃなきゃ恥ずかしくねぇって事だよな」

 

刹那。ディアーリーズの怒りの鉄拳が何故かBlazにではなくキリヤに飛んだのは一応同罪だからだと言う。

その後二人に対して制裁を終えた四人と三匹は再び目的地であるその人物の居る場所へと向かうのだが、そこで改めて浮かび上がった疑問がひとつあった。

 

「…そういやBlaz」

 

「なんだ」

 

「なんやかんやで情報聞くためにここまで来たけどさ。誰に会うんだ?」

 

ルカの質問はなんてことのない情報屋というべき人間が一体どんな人物なのかということだった。遊楽の町というからには彼の予想ではここに入り浸っている人物なのだろうというのが大部分を占めていたが、帰って来た答えはそれを大きく反していた。

 

「…ああ。そういや話してなかったな」

 

「だろ? 一体誰なんだよ」

 

「…そうだな。まぁ一言で言うなら………「この町を取り仕切ってる女の一人」…だな」

 

 

別に不思議ではなかった。だが、どこか大きく期待外れというより意外だったという反応が彼ら三人の共通したものだった。酒と女が好きな親父、風来坊のような男。または女。

それとは違い、元からこの町に居座る女、遊女が今回の情報収拾の相手。

それ故に質問したルカの反応もそこまで驚いているという様子はなく、ああそうだったのかという返しだけだ。

 

「別に旅団に居る女よかマシなんだが…まぁ、かなり合わせるのが面倒なヤツでな」

 

「面倒…?」

 

「堂々としてるんだけど、どうにも自分のペースじゃなきゃいけねぇって奴でな。強引なんだよ。アイツは」

 

「何度か会ってるんですか?」

 

「二、三度な。ただあんまり会う気にゃならねぇがな」

 

中心の広場へと向かう中、嫌な記憶を思い出す顔でいるBlaz。今から会う人物は彼であっても会う気は起きない様だ。

だがそれでも会わなければいけないという事で溜息をついて先頭を歩く彼はやがて広場へと入ると辺りを見回しはじめる。

 

「さぁて…話が正しけりゃここに居る筈なんだが…」

 

「誰かと待ち合わせ…もしかして…」

 

「…つか…本当に凄いな」

 

改めて周りを見回すと、肩のあたりを露出させて色気を出した女性が少しブスな顔の男とじゃれあっていたり、後ろ姿を見れば面前で堂々と女性の尻や股を触っている者もいる。だがいずれも彼女たちはそれを嫌がっている様子はなく、むしろ子どもとじゃれているかのように困り顔をしている。

 

「…慣れてるっていうか…我慢してるかね」

 

「な、なんでしょうかね…一応仕事なんですし…」

 

「俺だったらマッハで地面に顔面叩きつけられるな」

 

「リリィさんにですよね、ソレ」

 

「いや最近なぜか…」

 

「………。」

 

何となくリリィが最近キリヤに怒ることが多くなった理由を知った気がしたディアーリーズは思わず頬がつり上がって苦笑してしまう。自分でもあまり理由が分からないという顔のキリヤは考えにふけ、後ろ姿を眺めていたディアーリーズとルカはそれぞれ苦笑と疑いの目を向けおり、弟であるルカに至っては信じてないといった顔だった。

 

 

 

 

 

 

―――その刹那。

 

ふと、自然と自分の脳へと駆け巡った感覚に反応が遅れてしまう。警戒心としては敵に対するソレだったが、ディアーリーズが感じたのは敵意などではなく、誰かが近づいて自分を見ているという視線だ。その所為か反応が僅かに遅れてしまい、安心感と緊張感に挟まれた彼の首は中途半端な動きで振り向くことになってしまった。

それでも素早く首を回し気配のするほうへと向いて、その正体を目に捉えるがそこに映った人物に驚き目を丸くしてしまう。

 

 

「…女の…子?」

 

 

綺麗な銀色の髪をサイドテールで結び、薄い水色の浴衣に身を包んだ少女が一人。下駄を履きこなして何事もないかのように立っていた。

突然現れたのがそんな少女であることに驚きつつも、一体何者かと僅かに警戒心を持つディアーリーズ。

すると彼が何者かと問う前に少女の方から口を開かせた。

 

 

「―――待たせたな。Blazさんよっ」

 

「えっ…?」

 

「…時間通り…ってワケでもないわな、レイナ」

 

「まぁそこは気にすんなよ。互いに用事あってだ」

 

話し相手が自分ではなくBlazであることに驚きつつも少し追い出されたという感じに思えたディアーリーズだが、直ぐに状況を把握するとルカも不思議に思っていた事を訊ねる。

 

「…Blazさん、この子は?」

 

「あれ。お前ら会ってなかったか?」

 

「会ってません…っていうかこの子、もしかして旅団の?」

 

「…ああ。どっかで見た顔だと思ったら」

 

ただ一人キリヤだけはレイナと呼ばれた少女の顔を見て思い出したようで、それを理由に余計に二人の間に彼女が居たのか、覚えてないのかという不安に駆られはじめる。

だが必死に思い出しても彼女を見たことがある記憶はなく、本当に何者かと思いルカはギブアップして不本意だが兄であるキリヤへと問うた。

 

「もしかして、旅団の協力者か…?」

 

「当たりっちゃ当たりだけどな。厳密にゃサポートメンバーの一人…って言うべきだろうな」

 

「かもしれねぇ。といっても、アタシが楽園に居たのはほんの二か月ぐらいだけだかんな」

 

「そんな短かったっけか」

 

「………あのさ。アニキたちだけが分かる話をしないでくれるか」

 

自分たちが蚊帳の外であることにイラつき始めるルカに軽く笑って謝るキリヤは、Blazの代わりにとレイナの正体を明かす。

 

「名前は初めて聞いたけどな。こいつ、昔まだお前らが入る前に預かってた子なんだ」

 

「僕らが入る前…ですか」

 

「言った通り、本当に二か月ちょいで他の場所に移されてな。その時っきりだったけどまさかここまで成長してたなんてな」

 

「へぇ…けど、それじゃあサポートメンバーっていうより保護対象っていうか…」

 

「かもしれねぇ。けど、今は違う…だろ?」

 

「アテにして貰ってもいいと思うぜ」

 

にひひ、と笑いながら二歩ほど下がったレイナは改めて自分の自己紹介をする。

 

 

「春覬レイナ。式…いや、蒼崎のヤツのサポートメンバーだ」

 

「へぇ…蒼崎さんの…………え?」

 

基本女タラシの蒼崎のサポートメンバー。正直言えば信じられないというのが本音だったが、現実はそこまで本音通りではなかった。キリヤが知っているだけで三人は居るサポートメンバーだが、彼女のような子がサポートメンバーであるという事にはディアーリーズたちは驚くしかない。

なにせ、レイナの年齢と分かっているだけでのサポートメンバーの年齢(ディアたちは知らないが)は恐らく殆ど同い年。しかもそれがもし正しければ二人はべつの意味で驚かなければならない。

 

 

「…えっと…君、いくつ?」

 

「…? 十七だけど。それがどうかした―――」

 

「蒼崎さん…ついにJK年齢にまで手を…」

 

「お前ら蒼崎をなんだと思ってたんだよ」

 

「あーアイツ時々アタシの事を変な目で見るんだよなぁ…」

 

「オメーもなにノッてんだよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――その後。蒼崎が居ないのを良いことに、ディア―リーズたちは溜まっていたのか彼への罵詈雑言を時々混ぜつつ蒼崎の無罪の罪を肥大化させていく。

なぜそこまで蒼崎の株を落とそうとしているのか。

恐らく、ディアーリーズに至っては完全に彼のもう一人の人格への恨みなのだろう。

 


 
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