No.843473 九番目の熾天使・外伝 = 蒼の章 = カムイ篇Blazさん 2016-04-20 23:12:04 投稿 / 全2ページ 総閲覧数:431 閲覧ユーザー数:417 |
四話 「閑話休題」
カーバンクル。
それは十六世紀の文献で登場する動物で、具体的な姿には様々な説が存在している。
リスなどに近い四足歩行で額にはルビーの宝石が埋まっている。
そしてそれを手に入れたものは富と名声を手に入れられると言う。
かつて、これに挑戦した者たちは多く存在したが、結局は空想上の生き物として現代では忘れ去れ片隅に残されるばかり。
だが実のところ。カーバンクルは実在する、と言う世界は幾つか存在し、その目撃例も多数寄せられている。
当然ながら、ミッドチルダにも報告例は届いており、それを聞いた者たちは一目見ようと、もしくは全て独占しようとするが、そのいずれも失敗。
最新の研究ではカーバンクルは近づく相手を慎重に選ぶというのが通説となり、発見ならまだしも独占や捕獲などの私情の欲に満ちてしまった彼らには永遠と言っていいほど近づかれることもない。
そして。その彼らとは別に本当にカーバンクルと出会い、信頼を築いた少女が居る―――
「キュイ?」
「ん?どうしたの、ルビィ?」
「キュウ…キュイッ!」
「…相変わらず意思疎通が出来るんだな」
「私たちには何がなにやら…」
微笑ましく遊んでいる少女三人。
咲良、ニュー、蓮は緑豊かな庭園の中、小さな二匹と共にはしゃぎまわる。
その中で咲良の頭の上には、エメラルド色の毛色をしたカーバンクルが乗っておりゆったりと先が二つに分かれた尻尾を揺らしてしがみ付いていた。
ルビィと呼ばれるそれはアヴァロンの世界に存在する覇獣。その中で精霊種は覇獣とのハイブリットタイプで膨大な魔力と霊力を内包している。
しかしパートナーである咲良にとっては関係のない事で、いつもは彼女の遊び相手になっている。
メダル云々、最近構ってくれていないとやさぐれていたりもするが。
そんな彼女たちの姿を見る支配人と刃。
三人の居る風景が自分たちとは全く別の空気である事に少し近寄り難さを感じ、離れた場所から彼女らを見守っていた。
一応、三名の保護者がそろって不在(白蓮は別件)なので面倒見のいい彼らがお守をすることとなったのだ。
(…結局、分からずじまいが多いな)
「キュイ?」
「フゥウ!」
「フウどうしたの?」
「フゥウ…!」
ニューの頭の上に立つのは「フウ」と名付けられた鳥。詳しくはなんの鳥なのかは不明だが一応は同じ覇獣らしく膨大な魔力などを内包している。
が。どうにも鳥であるという事が原因なのか、時折ZEROに捕食対象として見られることもあり、色々と危ぶまれている。
ちなみに支配人曰く、この二匹の会話が行われている時点で意味不明な世界らしい。
「キュウゥ…」
「フゥッ!」
「お腹すいたの?」
「フウさっき食べたばっかりだよ」
「食いしん坊だね」
「…見てて微笑ましくは思うんですが…」
「まぁ…実際実力がな」
自らをメダルに変えたり、元次元素体だったり、ペース乱さない能力持ちだったりと実体を見ればある意味恐ろしいメンツなのは確かで彼女ら本気を出せば誰も手が出せないし、そもそも彼女たち自身に手を出すことも不可能だ。
咲良は兄であるディアーリーズに。
蓮は父であるげんぶに。
そしてニューはBlazに、だが本人がやる気があるかどうかが問題となっているが。
「そういやあのカーバンクルとかって何処から連れて来たんだ?」
「ああ。あれは確か―――」
事件前の年末。咲良がどうしてもニューと遊びたいと言い出し、それに蓮までも便乗。
年末の忙しい時に言われた所為で困り果ていたが、前もってか大掃除を終えていたBlazたちの事を知って目を付けられ、押し付けられるような形で彼女らが預けられたと言う。
大晦日までまだ日にちがあったとはいえ、彼らも年末の行事に備える時だったので迷惑であったのは事実。
しかしそれでも断る理由もなかった彼らは仕方なしに外出した所、その先にカーバンクルに遭遇。咲良ともう一人のパートナーが選ばれたと言う。
「二匹いるのか、アレ」
「ええ。もう一匹はこなたさんが」
「…ブランカと言い、動物に懐かれやすいなアイツ」
「まぁ…親しみやすい子たちですからね」
「…って、結構詳しいな。刃」
「伊達に彼らに付き合ってるワケでもないですからね」
その時。心なしか刃の目が遠く、そして虚ろであったのは支配人しか知らない。というか彼しか見えなかった。
「―――その…お疲れさま」
「ええ…」
毎度付き合わされる身にもなれよ、と言わんばかりの顔はもしこれ以上負荷をかければ迷わず暴発しようで、脳裏では彼に余計な事を負わせないようにと願うばかりだった。
だが、それを知ってか知らずか。あからさまに厄介ごとが詰まりに詰まった用件を、言い出す人物が姿を現した。
「…ああ。ここに居ましたか」
「げっ…」
「竜神丸さん、なにか用ですか?」
自身で開発した新しい端末デバイスのリングを腕にはめた、白衣の男。
竜神丸は、まるで二人を探していたかのように目を合わせると第一声を放ち、近づいて来る。支配人は自分たちに用があるのだと察し、厄介ごとではないようにと願い、刃は近づいて来る彼に何事かと首を傾げる。
支配人の予想通り、竜神丸は二人にある頼み事をしにやって来たのだ。
「…露骨に嫌そうな顔をしてますね、支配人さん」
「い、いや…別に…」
「…で。私たちに何かようがあるのですか?」
「ええ。お二人とも、今日一日は楽園に居ますよね」
「…ああ」
「まぁ、そうですけど」
まさか彼の実験の手伝い(実験台)にされるのではないかと、心なしか無意識に身構えた支配人。彼に呼び止められると半分の確率で実験台にされるのは嫌というほど体と精神が理解している。しかも口八丁が上手い彼にのせられて実験台の危険性がないと思わされることもあり、ディアーリーズはそれに引っかかって何度か実験台にされたこともあった。
なので、目の前に敵がいるかのように身構えたのだが、竜神丸はそれを見て何を思ったのか、軽く一笑して自身の笑いのネタにしてしまう。
「………。」
「なら丁度いいですね。実は、お二人にあることを頼みたいのですよ」
「頼み…ですか。実験なら手伝いませんよ」
「分かっています。私が頼みたいのは、ある事についての連絡の中継を頼みたいんです」
「…ある事?」
予想に反したと、一瞬緩みはしたが、それでも彼の言葉に気を付けてなにを言われるのかと聞き続ける。
「それは今はまだ言えない事です。ですが兎も角、okakaさんの調査班から報告が来ると思いますので、それが来たら直ぐに私に連絡して下さい。ありのまま、そのままの言葉を全て…ですよ」
「ッ…そんな事、他の連中にやらせれば…」
「それはダメです。なにせ、内容が内容ですので、余計なことで波紋を広げることは避けるべき案件で、頼めるのは口の堅い人中核メンバーでないといけないんですよ」
「………。」
「一応、私のほうから各所に連絡はしています。なので、お二人は連絡が来たら直ぐに私へとそのまま伝えてください」
「―――――なに考えてやがる」
ぽつりと、暗い闇の中から声が発せられる。
低くくぐもった声で、何処へと響く事も無い声はただ静かにそう言った。
誰に言ったことでもない。ただ誰かに言うかのように、彼はそう呟いた。
「テメェは…なにをしようとしてるんだ」
低く、鈍く、そして鋭い声が響く。
まるで一本の剣のように鋭い声はどこへと響いていき、その誰かの喉元を求めて通っていく。
誰にではない、誰かに、その場にいる筈の誰かへと。
そして、その誰かは答えた。
「―――単なる実験…いえ、今の段階では観察ですかね」
「観察だと?」
「実験をしようにも何も分からないものへと、いきなりメスを入れるほど馬鹿でもありませんから。”アレ”が何で、どうすればいいのか。それを調べるのですよ」
「………。」
「個人的には貴方がその観察に参加しない事には驚きましたけど、支障ないレベルです。もっとも…貴方がそれでいいのであればの話しですがね、ZEROさん」
あからさまに聞こえる音量での舌打ちが鳴らされる。暗闇の中で彼の言葉に苛立ったZEROは、今にも襲い掛かりそうな爛々とした眼で睨みつけていたが、それを今はまだその時ではないと理性で抑えていた。
今はまだ襲う時ではないと、獲物を捕らえる前のように。
だがその獲物である竜神丸は平然とした顔で背を向けていて、その立ち振る舞いも人によっては煽っているようにも見えてしまう。
事実、ZEROには彼に煽られるだけの理由と出来事があり、それが原因であり理由となって彼のもとに訪れていた。
「ご感想、どうでしたか。アヴァロンでの大敗は」
「ッ………」
「まさか、いつものノリで行けると思っていたが、こんなアッサリと返り討ちにされるとは私も思ってませんでした。話には聞いていましたが、どうにも彼らと適合するためには実力行使だけでは無理そうですね。
流石は覇を極めた存在…ですかねぇ」
「…笑ってんのか」
「それこそまさかですよ。データは取れた。結果も分かった。ですが、これを笑いごとで済ませるほど私は軽視してません」
結果は重畳とばかりに上機嫌になっている竜神丸。彼の目の前に映し出される投影ディスプレイにはその話題となっているデータが映されており、それを整理しつつデータを元にした様々な仮説、結論などを記している。
数少ないデータがまたひとつ増えたということで少し興奮気味で話す所為か、少し言葉遣いに、らしさが薄くなっているのは恐らく今までの中でも珍しい様子だ。
基本、興味深いデータがあっても感情をあまり表に出さず不敵な笑み程度で済ませていたが、今回はZEROの大敗というのが理由で少し意欲が強くなっていたらしい。
「上位の覇獣は…なるほど。それなら、彼に憑依したことにも理由はつけられるか…」
低くも今にも笑い出しそうな声はディスプレイの前で淡々と続けられていく。時折我慢が出来ずに今にも声に出して言いたそうに呟き、手の動きは止まる事がなかった。
彼が上機嫌であることは誰の目からも明らかだが、当然ながらその後ろに座るZEROは逆転して不機嫌極まりない。
煽っているわけではないと分かっているが、それを理由にあそこまで上機嫌であるという事に苛立ちを隠せなかった。
「…チッ」
変わらない事実と現実に頭を抱える。
絶対的自信があったはずのものが、あの時一瞬で消え去ってしまったのだ。
それによる大敗と屈辱、彼は久しい感情である「悔しさ」を噛みしめて戻って来てしまった。
―――ハッ! いくら強かろうが、お前さんが
なにが凶獣だ。
たかが数億生きてるからって、俺たちにでかい顔出来ると思うなよ。
「―――――なにがデカい顔だ…それはテメェのことだろうが」
まるで子どもが言い訳をするように、起こった出来事に悪態をつく。起こった事を曲げるつもりも言い訳するつもりもないが一つの感情に覆われつつあった彼の中ではそれが精一杯の返しだ。
次が最後だ。
勝利であるために、ZEROは独り虎視眈々とリベンジへの準備をする。
あの時、自分のことを嘲笑い見下した者の顔を悲痛にゆがませるために―――
「―――挑むのですね。神にあって神にあらぬ者たちに」
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現在少し迷走気味ですが、とりあえず…
それと、ZEROさん。なんとなくですがスミマセン…(内容的な意味で)
兎も角モチベーション立て直しを頑張りつつ何とかしてみます…