No.81567

真・恋姫†無双~江東の花嫁達~(壱弐)

minazukiさん

ようやく葵が心から笑えるようになり、洛陽に到着した一行。
しかしそこで見つけた一人の憔悴しきった少女。

2009-06-29 00:08:08 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:17747   閲覧ユーザー数:13233

(壱弐)

 

 洛陽までの道のりはいたって平穏だった。

 

 馬車の中では雪蓮と華琳、それに葵が仲良く肩を寄せ合って眠っている姿はとても数日前まで想像がつかなかった光景だった。

 

 初めは何となくぎこちなかった葵も雪蓮達の気さくな態度と酒を勧められたことで少しずつだが柔らかな表情になっていった。

 

 だが夜になると舞香や母親のことを思い出しているのか、すすり泣くことがあると風から教えられた時、どうしたらいいのか雪蓮に相談した。

 

「こればかりは自分で乗り越えなければならない。私だって乗り越えられたわよ、時間がかかったけれどね」

 

 母親を失った悲しみを知る雪蓮だけにその言葉には重みがあった。

 

 そして幾夜が過ぎたある時、一刀達のもとに風がやってきた。

 

「本当は風もお願いしたいのですが今は葵ちゃんをお願いしたいのですよ」

 

 毎晩のように泣く葵を思って風は二人の天幕で彼女を寝かせて欲しいとお願いに来た。

 

「いいわよ」

 

 一番に反対するのではないかと思っていた雪蓮が賛成したことに一刀は驚きつつもいいのかと確認をする。

 

「泣いている女の子を無視するほど一刀が薄情ならば夫婦になんてなってないわよ」

 

「雪蓮……」

 

「あなたが決めたことならば最後までそれを果たす。それが私の知っている北郷一刀でしょう?」

 

 葵を守るという約束を破るわけにはいかないことは雪蓮も承知していた。

 

「その代わり、私は風と一緒に寝るわ♪」

 

「おお、それは風としても嬉しいです」

 

 何かと息が合う二人。

 

「一緒に寝るって……、まて、それじゃあ俺が葵ちゃんと二人で寝るってことか?」

 

「おや、風はそう言ったと思いますが?」

 

 どこにも言っていないと思いながら一刀は仕方なく受け入れることにした。

 

「よかったですね、葵ちゃん」

 

 風が後ろに振り向くとそこには葵が申し訳なさそうに立っていた。

 

 自分のせいで迷惑をかけている思っているのか表情は暗かった。

 

「お兄さんと眠ればきっといい夢が見られますよ」

 

 そんな保証など何処にもないが風はあえてそう言った。

 

「一刀さん……」

 

「いいよ。安心して眠れるかどうかは分からないけれどね」

 

 念のため雪蓮に目で謝ると、今回は特別よと肩をすくめた。

 

「風、いくわよ」

 

「そうですね。今夜はお兄さんが絶賛する雪蓮さんの柔らかな感触を代わりに堪能することにするのです」

 風の親父臭い言葉に雪蓮は軽く一刀を睨みつけた。

 

「か~ず~と~」

 

「ま、待て。俺はそんな事一言もいってないぞ!」

 

 無実だと訴える一刀だが、それも風によってあっさりと有罪に変わった。

 

「おや、お兄さんは昨日言いましたよ。生まれてくる子供はきっと雪蓮さんに似て美人で胸が大きくなると」

 

「風!間違ってる間違ってる!」

 

 一刀は雪蓮に似て美人までは確かに言ったがその後までは言わなかったはずだった。

 

「風はなんでもお見通しなのです」

 

 そう。

 

 風の言うとおり一刀は言葉にはしなかった。

 

 だが心の中では確かに思っていた。

 

 それを見透かされていたと思うと風ののんびりとした表情が侮れなかった。

 

(たぶん、あの頭の上に載っている奴が原因か?)

 

 常に風の頭の上に鎮座している人形。

 

 どこかの万博博覧会のシンボルタワーみたいな姿をしている宝譿。

 

「とにかくそういうことなので風は寝るのです、おやすみなさい」

 

 ご丁寧に頭まで下げて雪蓮の手を握って天幕を出て行く。

 

 雪蓮も一刀に、

 

「あとで詳しく聞くわ」

 

 と言い残して笑顔で出て行った。

 

「あ、あの……一刀さん?」

 

「うん?ああ、大丈夫。いつものことだから」

 

「でも、一刀さんにご迷惑をかけてしまいますから、風お姉ちゃんのところに戻ります」

 

 だがそれを一刀は止めた。

 

「気にしなくていいから。それよりも俺なんかでいいのか?」

 

 仮にも自分は男で葵は女というには程遠い少女。

 

 同じ寝台で寝るとしても一刀の理性が保てるかどうか保証はなかっただけに、一刀のほうが正直なところ迷惑をかけてしまうかもしれないと思っていた。

 

「大丈夫だよ。眠れないのなら話をしていればいいし、眠たくなれば葵ちゃんが寝台を使えばいいから」

 

「そ、それはダメです」

 

 葵はつい大声を出してしまった。

 

「葵ちゃん?」

 

「風お姉ちゃんが言っていました。一刀さんの側室ならば全てを委ねなさいって」

 

 その言葉の意味まで教えられたのか頬を紅く染める葵。

 

(風の奴……また変なこと教えたな)

 

 雪蓮のことといい、葵のことといい、好き放題しているように思えてならなかったが、それも彼女なりの配慮があってのことなど一刀には想像もつかなかった。

 その後、一刀と葵は寝台に座って世間話をした。

 

 一刀としてはあまり舞香のことや母親のことを思い出させないように配慮しながら話していたが、それも話題がなくなって行き詰ってしまった。

 

「一刀さんは寂しいと思うことはありますか?」

 

 自分のいた元の世界からこの三国志の時代にやってきた一刀はしばし、そのことを忘れていた。

 

「初めは戸惑ったけれど不思議と寂しいと思わなかったかな」

 

 雪蓮と出会ってからというもの何かと騒がしかった日々。

 

 そんな中で一刀は自分のいた世界のことを思い出して感傷に浸ることがなかったといえば嘘になるが、それほど寂しいとは思わなかった。

 

「それに今は俺の子供が雪蓮の中にいる。今更帰りたいなんて思わないよ」

 

 父親の顔を知らずに育つ子供のことを考えると、今こうしてこの世界に生きていくことが自分の運命だと刻み込んでいた。

 

「お強いんですね」

 

「強くはないよ。天の御遣いって呼ばれながらも一人では何もできなかったしね」

 

 今の自分がいるのは雪蓮や蓮華、冥琳達がいてくれたおかげだった。

 

 多くの人と出会い接していく中で一刀は精一杯、自分の出来ることをしようとした。

 

 だがそれは結果的には誰かがいてこそできたことであった。

 

「言っただろう?葵ちゃんも一人で無理ならば俺達がいる。寂しいと思うときはいつでもこうして話をしよう」

 

「一刀さん……」

 

 葵は全身の力を抜くように一刀にその身を預けていく。

 

「一刀さんがご迷惑でなければこうしていてもいいですか?」

 

「うん。舞香さんほど柔らかいわけじゃあないけどね」

 

 葵の肩を寄せ抱きしめる一刀。

 

 そしてゆっくりと二人は寝台に上がり、お互いを抱きしめあった。

 

「温かいです」

 

 もう自分は一人ではないという実感を求めるように葵は一刀にしがみ付く。

 

「雪蓮様に叱られてしまいますね」

 

「雪蓮も葵ちゃんの気持ちは分かっているって言っていたよ。自分と同じだって。でもだからこそ自分の力で乗り越えないといけないって」

 

「はい……」

 

「雪蓮はああみえて強いからそれが可能だったんだけど、葵ちゃんはダメだと思ったらいつでも頼ったらいいよ」

 

「一刀さん、それは雪蓮様に失礼ですよ」

 

「そう?」

 

「雪蓮様だって一刀さんがいてくれるから乗り越えれたのだと思いますよ」

 

 葵の言葉に一刀はどうかなと思ったが、もしそうならば嬉しかった。

 

「雪蓮様に言っておきますね。一刀さんが雪蓮様に対してどう思っていたか」

 

「勘弁してください」

 

 情けない声で謝る一刀に葵は思わず笑ってしまった。

 

 それが一刀にも感染し、二人は笑いあった。

 その夜を境に、葵は雪蓮や風、それに華琳達とも話をするようになった。

 

 一刀は自分が少しでも力に慣れたのだと満足していた。

 

「おや、お兄さん。何がいいことでもあったのですか?」

 

 なぜか一刀の膝の上に座っている風は見上げてくる。

 

「そう見えるか?」

 

「ええ。風はいつの間にかお兄さん研究会を立ち上げるほどよく見ていますよ」

 

 どんな研究会だと突っ込みたくなる一刀。

 

「葵ちゃんが笑えるようになってよかったなあって思っているんだよ」

 

「そうですね。風も嬉しい限りです」

 

 これからもっと笑えるのなら一刀はもっとよい国づくりをしようと思っていた。

 

「ところでお兄さん」

 

「今度はなんだ?」

 

「葵ちゃんはどうでしたか?」

 

「ぶっ」

 

 思わず噴出した一刀は顔を真っ赤にして風を見る。

 

 そこにはしてやったりという勝ち誇った風の表情が浮かんでいた。

 

「おやおや、どうかしましたかお兄さん?」

 

「お前……絶対わざとだろう?」

 

「何がですか?」

 

「………………いや、いい」

 

 おそらく何を言っても無駄だと理解した一刀は前を見る。

 

 ふとそこで気づいたことがあった。

 

「まさかとは思うけど雪蓮も知っている「わよ」……!?」

 

 背筋が凍りつくような視線をまともに感じる一刀は後ろを決して振り向こうとしない。

 

「風、貴女は中で休みなさい」

 

「そうさせてもらいますね」

 

 何事もないように風は一刀から離れ馬車の中に入っていき、代わりに雪蓮が出てきた。

 

 一人顔色が悪くなっていく一刀。

 

「お兄さん頑張ってくださいね」

 

 ありがたくもない励ましを残して風は引き戸を閉めた。

 

 重い沈黙が一刀と雪蓮の間に流れる。

 

「いい天気ね♪」

 

「そ、そうだね……」

 

 笑顔が引きつる一刀は雪蓮を見れなかった。

 

「洛陽は長安よりも大きいから蓮華達にもお土産買わないとね」

 

「そうだね……」

 今の一刀はお土産どころではなかった。

 

 怖いほど上機嫌で話す雪蓮にどう言い訳するかで頭の中は一杯だった。

 

「別に怒ってなんかないわよ」

 

「そうだね……え?」

 

 雪蓮の方を見ると前を見据えていた。

 

「それとも怒られることでもしたのかしら?」

 

 どう答えるべきか悩む一刀だが雪蓮はそんな彼を優しく微笑んだ。

 

「仕方ないわよね。私があなたを本気で好きになるぐらいよ?他の女の子があなたに惹かれないわけがないわ」

 

「それは喜んでいいのかどうかわからないんだけど」

 

「妻としては嬉しくないわ。でも人としてなら問題ないわ」

 

 雪蓮も風と一夜を共にした時、色んな話をしていた。

 

 そして風や葵、それに華琳までもが一刀に好意を抱いていることを聞いても不思議とそうなのだと納得していた。

 

「いっそうのこと、華琳や桃香も側室にしちゃう?」

 

 そうなれば一刀を中心とする国が出来上がり今以上に平和で楽しい世の中になるのではないか。

 

 そう考えた事もあった一刀はやんわりと断った。

 

「俺はこんな事を言っても説得力ないかもしれないけれど、あの二人は友達として付き合いたいと思っているんだ。風や葵ちゃんまでで打ち止めだよ」

 

「珍しいわね」

 

「なにが?」

 

「一刀だったら押せば受け入れると思っていたけれど」

 

 呉から始まり魏、五胡まで種馬ぶりを発揮している一刀。

 

「これ以上増えたら蓮華達が怖いからね」

 

 本音はそれだった。

 

 五胡の撤退によって山越のほうも収束に向かっていると聞いて二人は文を出した。

 

 だがその中で新しい側室が増えるかもしれないと冗談半分で雪蓮が書き加えていた。

 

 それが原因で一刀が呉に来て初めて命の危機をその身に感じることになる。

 

「帰ったらあの子達にもたくさん一刀の温もりを与えてあげなさいよ。きっと喜ぶから」

 

「俺……もつかな?」

 

「大丈夫でしょう♪」

 

 確実に未来を予想できる一刀に雪蓮は肩を寄せてきた。

 

「洛陽って月達と出会った場所ね」

 

 二人にとって懐かしい場所の一つ。

 

 あの時から三年。

 

 華琳の統治の元でどれぐらい賑わっているか楽しみだった。

 

「それで思い出した。雪蓮、アレどうしたんだっけ?」

 

「アレ?」

 

 一刀が何を指しているのかすぐには分からなかったが、あえて名前を言わなかった事で思い出した。

 

「たしかうちの宝物庫に入れたまま……忘れていたわね」

 

 皇帝の印を保管した挙句に忘れていた二人。

 

 今更そんなものを世に出せば騒乱の元になりかねなかったのでそのまま行方不明にしておくことになった。

 

「見えてきたで~」

 

 霞の声に二人は目の前を見た。

 

 洛陽の城壁が少しずつ大きくなってきた。

 漢王朝の都だった洛陽は今では魏の都になっていた。

 

 軍を霞と凪に任せて僅かな供回りを引き連れて華琳と一刀達は門をくぐったがその内側は以前と変わらず活気に溢れていた。

 

「平和になってから民政を重点的に力を入れているから活気はあるほうよ」

 

 人口の多さと物資の流通など盛んに行われているためこの洛陽という都はおそらく江東のどこよりも賑わっている。

 

「凄いなあ~」

 

「お土産もたくさんありそうね」

 

 久しぶりの洛陽に一刀達は嬉しそうに眺めている。

 

「葵ちゃんは初めてだよな」

 

「はい」

 

 街の中を進んでいく馬車。

 

 誰もが活気に溢れた表情で商売をしていた中で一刀はふと一人の少女に気づいた。

 

「どうかしたの?」

 

 馬車を止める一刀。

 

 そして馬車から降りてその少女に近づいていく。

 

 少女の服は古く所々が破れており、切り傷がいくつもあるうえ顔も憔悴しきっていた。

 

 瞳は虚ろでただ大地に向かって頭をたらしていた。

 

「君、大丈夫かい?」

 

 一刀の声にも反応しない少女。

 

 どこからかの難民なのだろうかと思ったが、この三年でそういう者はほとんどいなくなっていた。

 

 華琳もまさか自分の領内で憔悴しきっている少女の姿を見るとは思わなかった。

 

 何度か声をかけるとようやく虚ろな瞳を一刀に向ける少女。

 

「あ……う……」

 

 うめき声を上げると少女はそのまま瞼を閉じて一刀の胸の中に倒れていく。

 

「しっかり!」

 

 身体を揺するが起きない。

 

「落ち着きなさい」

 

 華琳がやってきて手早く脈と呼吸を調べる。

 

「とりあえず城に連れて行くわ。あなた達もついでにきなさい」

 

 本来であれば城まで行かず、街で別れるつもりだったがこの状況ではそうもいってられなかった。

 

 一刀は少女を抱きかかえ馬車の中に連れて行き、雪連と風は続いて中に入って華琳と葵は馬車を走らせた。

 

「う~~~~~ん」

 

「どうしたの?」

 

 風が唸り声をあげているのに気づいた雪蓮。

 

「いえ、この女の子をどこかで見たような気がするのですよ」

 

「そうなのか?」

 

 風の知り合いなのだろうかと二人は彼女を見るが、思い出せないでいた。

 

 そうしている間にも黒髪の少女は意識を取り戻すことなく静かに眠っていた。

(座談)

 

水無月:ようやく洛陽に到着!降り口は右側です~。

 

一刀 :電車かよ!

 

雪蓮 :それにしてもまた出てきたわね。読者からはーれむ作りの旅だの側室はあと何人増えるだのって言われているわよ?

 

水無月:私としてはこれで打ち止めです。さすがのこれ以上増やすと収拾がつきませんからね。

 

華琳 :待ちなさい!

 

水無月:おや、どうかしましたか?

 

華琳 :できればもう一人だけでいいから増やしなさい。それで打ち止めでいいわ。

 

水無月:これ以上どうしろと?一刀がいよいよ底なしの種馬くんになりますよ?

 

雪蓮 :それは困るわね・・・・・・。

 

華琳 :いいからあと一人出しなさい。しかもこの子よ。(紙に書かれた名前を見せる)

 

水無月:・・・・・・マジっすか?

 

華琳 :文句あるかしら?

 

雪蓮 :文句はないけれど、どうするわけ?

 

華琳 :それを考えるのがこの作者でしょう?

 

水無月:う~~~~~ん、別にいいですけど、真名は知りませんよ、さすがに。

 

華琳 :そこは任せるわ。

 

水無月:というわけで次回は洛陽編が本格的に始まります。第二期も後半戦突入しましたのでこれからよろしくお願いします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

?  :え?私が出るの?そういうことはもっと早く言ってよね♪さっそく美容室に行かなくちゃ♪


 
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