「…これは…」
〈ほづみ君!今の音は?ザー。〉
「あ、いえ、ちょっと夕美ちゃんが感情的になってサイコバリアのパワーが瞬間的にバーストしたんです…が、ちょうどガス欠になって。」
〈ああ、そうか、暴走せんでよかった。〉
「いや、先生。暴走じゃありません。たしかにベクトルはノーコンですが、パワーはたしかにちゃんと制御できてました」
〈なんやて…〉
すこし間があった。〈しかも、思いのほか効き目が長いな。余裕を見ても10分てとこか〉
腕時計をみてほづみが確認した。「ですね」
「なんやのんな。あんたらばっかりで学者みたいなミョーな会話してからに!」
「いや夕美ちゃん、ぼくら、学者だから。一応…」
そういいはしたものの、どこか言い切れないひっかかりを感じずにいられないほづみである。
「そんなことより、うら若きオトメの部屋に本人に無断で勝手に入って服を漁っても何とも思わんあんたと、それを平気でアカの他人の男に許可する父親ていったいどんな神経なんや!?」
〈ザー。ええやんけ、スッポンポンでうろつく方がお前の好みか?〉
夕美のどこかでぷつん、と音がした。
「おおおおおお父ちゃん。ちょちょちょ調子にノンなよ。」夕美の言葉は怒りのあまりうわずっていた。「い、今は離れてても、どうせお父ちゃんの今晩のごはん作るのはあたしやで。生殺与奪の権限はアタシにあるっちゅうこと、忘れたらまずいんとちゃうか?」
〈ザー……〉
〈ザー……〉
〈ザー……〉
〈ほほっほ、ほほほ〉
「なに、笑とんねん。」
〈わ、わわ、笑ろてんのとちゃうわい、ほほ、ほづ、ほづみくん。ほづみくんをよよよ、呼ぼうとしとったたたんや。〉
あきらかにビビっている耕介だった。
「はい先生。」
〈とととりあえず、夕美を連れて裏門へ来てくれ。車を廻すわ。ほな、あとで。〉
ザー、という空電音のあとで耕介と亜郎の乗る車が移動し始めたのが見える。
「許してあげてよ、夕美ちゃん」
「なにをヒトゴトみたいに。ほづみ君、あんたもあんたや。常識ないにもホドがあるわ。あんたが何年も旅してきた外国では、女の子の部屋は入り放題やったんか!?」
「あ…。いや、それは…ないなあ」
杓子定規に答えるほづみに突っ込む言葉もない夕美だった。
「ところで先生…」と、こちらは助手席の三宅亜郎。
「なんや。まだおったんか」
「居ますよ!どこへ行けるって言うんですか。まだ平賀先輩にも会ってないのに」
「誰や、それ」
「メディア部の副部長です。会って彼がラジコンヘリで調べた現場の事を知りたいんですが、携帯が壊れたから連絡取れなくて」
「なんや。ほな降ろしたるさかい、行ってこいや」
「いや、そっちも気になりますが、とりあえずは夕美さんの正体を誰にも知られずにどうやって閉じ込められている人を助けるか、もすごく気になって」
「んなもん、決まっとるがな。ヒロインらしいコスプレや。そのためにいろいろクルマに積んできた」
にわかに亜郎の眼が輝きだしたのは、記者根性によるものではなさそうだ。
「い、いつのまに」合流した夕美も絶句した。
「何をいまさら…この話の流れ、この私のキャラで他に何があるとYOUのだ。」
「ほ、ほな、ほづみ君が持ってきてくれてたジャージは」
「それはお前がサイコバリアのパワーですっぽんぽんになったときのことを考えてほづみ君が勝手にしたこっちゃ」
「え」
ほづみはボサボサの頭をかきながらバツが悪そうにしていた。
(へえ、意外に紳士やんか)と夕美は思った。器用でなんでもできるようだし、なんで耕介のような変態学者の助手なんかしてるのか理解できない。
「いっちゃん心配やったんは、サイコバリアのパワーのせいでどんなコスプレをしたところで、みんなぶっちゃけてしまうんとちゃうか…ってことやったけど、どうやらそれは杞憂やったみたいやし。さあ、衣装が無事と分ったからには早よ着替えて見事なヒロインデビューをかざっ」
ごん!耕介は最後まで言い終わることなく、夕美のゲンコツを浴びていた。
「えーかげんにしぃや。ひとをオモチャにせんとって」
「せ、せやけどお前。そのTシャツとGパンのまんまはモチロンの事、ちゃんと変装せんと正体が」
「なにゆうてんねん、なんか知らんけど、パワーが暴走した時点であたしらの事、相手だか敵だかにもうバレるのは時間の問題やて、自分でゆーてたやないか!!」
「ち。覚えとったか」
「だけど夕美ちゃん。」とほづみ。「パワーの存在を“連中”に知られるのと、世間的に顔を知られるのとは違うよ」
「…そやのん?」
「世間的に夕美ちゃんの事や僕らの事が知られたら、もう普通の生活などできない…この世では」
「うそ」
「世間が欲しがるのは噂のタネだけど、“連中”が欲しがってるのは…」
「?」
「ま、それはともかく。コスプレ…いや、変装は有効だと思う。いずれにせよ“有名人”になってしまうのは否めないけど、少なくともそれが誰なのかはそうそう分らないはずだよ。なんせ、なにもかもが現代人の常識を越えてるからね」
「うううううう。」
「さ。そうと決まったら衣装、選ぼか。」耕介はひとり嬉しそうだ。
「納得いかんなあ〜〜〜〜〜〜〜〜」
頭をかかえ込む夕美を尻目に、耕介はクルマのハッチバックを開いてトランクを披露した。「さあ、選べ」
だが、もっとも反応したのはやはり亜郎だった。
「こ、これは!!《メイズ戦記ファング》のファミアのコスじゃないですか!」
「ほお!知っとるんか。ほな、これは」
「うわっ。《ガイアマン》のヒロイン、ひかるちゃんですか!!」
「なに、これも知っとるんか!お前いくつや。お前の歳やったら再放送もないし、知ってるはずあらへんぞ」
「ふ、ぼくを誰だと思ってるんですか。こう見えてもメディア部の部長ですよ。」
なんのメディアや、と夕美はぶつぶつとひとり突っ込んでいた。
「ほな、これはどうや!?」
「ああっ、《闇の魔理炎怒》のマリエンヌまであるんですか。す、すごいな、クラシックから最新のコスまで網羅してるなんて」
「お前、外人のくせになんでこんなんまで知ってるんや〜。」
「いや、僕の祖母は外国人ですが、僕は日本人です」
「先生、今は外国でもネットのおかげでほとんどリアルタイムにアニメや特撮が観られるから外国人のオタクも多いんですよ」
「いや、だから外国人じゃないって」
「う〜ん、ロクでもないガキや思てたけど、お前なかなか話せるやないか」
「…聞いてないし」
そんな調子で車のトランクから出てくる出てくる、何着もの衣装。まるで呉服屋の外回り営業でも見ているようだった。
〈ACT:45へ続く〉
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すんげーはげみになりますよってに…
(作者:羽場秋都 拝)
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ふっつーの女子学生・須藤夕美は、発明家の父親が作ったドリンク剤のせいでふぁいと!一発で超々能力ガールに変身!して活躍する話。
でもなっかなか、進みません。(;´д`;)気長にお付き合いください。