No.77898

SFコメディ小説/さいえなじっく☆ガールACT:43

羽場秋都さん

ふっつーの女子学生・須藤夕美は、発明家の父親が作ったドリンク剤のせいでふぁいと!一発で超々能力ガールに変身!して活躍する話。
やーっっと、自分の意志で空へ飛び上がりました!!
でもなっかなか、進みません。(;´д`;)

2009-06-08 00:27:19 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:834   閲覧ユーザー数:791

 たとえほづみの頭のネジがどれほど緩んでいるとしても、どれほどヘンでも、薬の効果に頼って空中に浮かんでいるしかない今は、おとなしく彼の指導を仰ぐしかないのである。 

 「大切なのは、つねにイメージを思い浮かべることだよ」とほづみは言う。

 不思議なもので、人間の頭脳は未経験なことでもあらかじめ心の準備をしておくことである程度不測の事態にも対処できるようになる。たとえそれが実際の練習を伴わない空想に過ぎないことでも。

 もしかしたらそれは、人が遭遇するであろう、あらゆる事態に備えての準備として遺伝子という記憶プログラムの中に用意されている当たり前の事なのかも知れない。

 

「あ。ほら。あれ、夕美ちゃんの学校だよね。あの、グリーンの防水処理をした給水塔の脇あたりなら気付かれずに着地できるだろう…。いいかい…焦らずに。エスカレーターでなめらかに降りてゆく所をイメージして…」言われるままゆっくりと高度を落としてゆく夕美。

 着陸態勢になってからのほづみは夕美の両肩に手を掛けて“おんぶ”状態になっていたが、おんぶするものとされるもの、体格が逆転している上に、身体と足はスカイダイビングみたいに宙に浮いているものだからまるで背後霊である。

 

 

 もう建物ごとの高さの差が手に取るようにはっきり判るほど降りてきていた。

 いままで夢中で気付かなかったが、前の方に例の倒れかけたクレーンが見えた。それ自身が組み上げていったはずの巨大な鉄の骨組みに、一昼夜経った今もあやういバランスを保って寄りかかったままひっかかっているのが見えた。

 

(あそこに誰かがまだ残っている…)

 同時に、ビルの間に多くの野次馬や警官、消防隊などの姿も見える。

 

 どんどん近づいてくるビルの屋上や地面を恐ろしくないと言えばウソになるが、身体が慣れてきたのか、シューッと降下して行くプロセスを楽しみ始めている自分に気がついた。

 おっかなびっくりでぎこちないながらも、たしかに自分で降下具合を調節している“手ごたえ”のようなものを感じ始めているからかも知れない。

「うん、うまいアプローチだ。落ち着いて。怖くないよ。この降下スピードでなら踏み台から飛び降りるより安全だ…さあ、いくよ。少しひざを曲げ気味にして着地だ」

 

 数秒後。ほらね、スキーのリフトから降りるより簡単だったろ…と、まだ緊張さめやらぬていでorzの文字そのままに四つん這いになっている夕美の背中に声を掛けた。

 そのほづみはというと、着地のショックで背後霊のポジションから背負い投げよろしく前へ投げ出されてあおむけに転がっていた。

「は、は、はあ…汗、びっしょりや…冷や汗やら、脂汗やら…生きた心地せんわ」

「今に慣れるさ。お。あれ、先生たちのクルマじゃないかな」「どこ」「ほら、あっちのビルの影。合流を急ごう」

 

 どてっ。

 歩こうとしたほづみが転けた。立ち上がろうとしたが、ひざがガクガクと笑って言う事を聞かなかった。

「あはは。さすがにさっき落っこちた時に僕も腰が抜けたらしいや」

 

 

「あの…おとうさん」

 その頃、須藤家自家用車の助手席の居心地の悪さに耐えきれなくて亜郎は必死に空気感を変えようとしていた。

「おとうさん言うな言うとるやろが」

「ゆ…夕美さん、ほんとに、その…飛んでこられるんですか」

 その時、車の中のどこかでブザーが鳴った。籠もったような安っぽい音だ。

「もう、来とるわ。あー。ほづみ君?」

「え?」

 夕美の父親、耕介が座席の下から取り出したのは大昔の巨大な携帯電話…のように見えたが、実はトランシーバーだった。被災地などで完全装備の陸上自衛隊が使ってるようなカーキグリーンのいかついアレである。

「な、なんで今どき携帯電話でなくそんなもんを」

「ほっとけや。ウチは夕美の使とる一台しか契約しとらへんのんじゃ。悪かったな」

 

〈ガー。あー、先生。お待ちどうさまです。ザー。すみません、そこから見えるでしょう、いま学校の屋上なんですが、すぐにはそっちまでいけそうにありません。どうぞ?ザー〉

「?どないした、やっぱり、その…夕美の服がぶっちゃけたか」

〈ザザー!はあ!? ちょ、ちょっとお父ちゃん!? “やっぱり”て、それ、どういうこっちゃ!!!〉

「あ。しもた。トランシーバーて、まわりのモンにも会話が筒抜けやったんやな」

〈ザー、あー、違います。僕の腰が抜けてしまったもんで。彼女は無事です、まったく無事です。どうぞ。ザー〉

「まったく?んんん?どういうこっちゃ…」

「おと…いや、せ、先生。須藤先生。いま、夕美さんの服がどうとか」

「いや…なんともない、ゆうとった。???なんでや。人ひとりを…いや、ほづみ君まで連れて飛んだんや。並大抵のパワーとちゃう筈やのに?同時に発生するサイコバリアかてこの前の───」耕介は亜郎がいる事など眼中にない調子で独り言を言いながら考え込んでいた。「服みたいなヤワなモン、飛び上がった時に吹っ飛んでてもおかしないやろに」

 

「ザー。お父ちゃん!黙って聞いとったらなんやてぇ!? あたしがまたスッポンポンになる事を期待でもしとったんか!何考えてんねん、それでも親か、こら、なんとか言え!! ザー」

「いや、だからちゃんと夕美ちゃんの換えの服も持ってきてたんだよ」とほづみはトランシーバーを取り出したあとのリュックを指さした。開いたファスナーの隙間から、しっかりたたまれて納まっている見慣れた色のジャージが覗いている。

 

「ほ、ほづみ君!? ま、あんたまさか、あたしの部屋から勝手に…!?」

「勝手にじゃないよ。ちゃんと先生の許可は」

「お父ちゃんがなにをどう許可しようと関係あるかーーーーーーーーーーい!!!!

 

 パンという音がして屋上に張り出した階段室の窓が割れた。

 だが、それだけだった。夕美の周りには須藤宅のダイニングキッチンすら消滅させた青白い球状の“サイコバリア”があったのかもしれないが、陽の光が強いためか見えなかった。

 そしてじっさいにそれはすぐに消えたのである。いままさに“スイッチ薬”の効果が消えたからだ。

  

〈ACT:44へ続く〉

 

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 すんげーはげみになりますよってに…

 (作者:羽場秋都 拝)

 

 


 
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