第八章~力を望む者、望まぬ者・前編~
「劉備玄徳・・・。大徳仁義だの、優しい国だの・・・、聞こえはいいけどよ。
結局は自分に従って来ない連中は力でねじ伏せているだけじゃあないか?」
「・・・・・・。」
目の前の男が好き勝手言っている、それを何も言わず、黙って聞く廖化。
「そんで乱世が終わった今も、その考えは変わる様子はない・・・。それどころか
今まで自分がしてきた事は正しかったとかほざいているから・・・性質が悪い。」
この男、先程から劉備の事をさんざんに酷評する。
「あんたはいいのかい?こんな女がこの国を統べている事に・・・納得しているのか?
そんなはずは無い・・・だろ?それに、あの女が王として相応しい存在ではない事は、
お前だって分かっているだろうよ。」
ついには劉備は王に相応しくないとまで言い放った。それでもなお廖化は沈黙を通す。
「だったら、今こそ立ち上がる時!今のお前なら、この国を落とすだけの力を十二分に
持っている!お前の正義の鉄鎚で、愚王・劉備玄徳を粛清するんだ!」
「・・・・・・。」
この男は廖化と正和党を高く買っているようだ、若干買いかぶりすぎの気もするが。
「無論、俺もお前達に協力するぜ。劉備を粛清するってんなら全面協力も惜しまねぇ。」
どうやら自分達に手を貸してくれるようだ。この男、劉備に恨みでもあるのだろうか。
「・・・お引き取り願おう。」
「あん・・・?」
「我々は、軍では無い。そのような行為に、意味など無い・・・!」
廖化は男の言葉を聞き入れなかった。
「・・・・・・。」
「もう一度言おう、お引き取り願おう。」
二人の男の間に沈黙が生まれる。その沈黙を断つように、廖化はその場を立ち去ろうとする。
そして、男の横を通り過ぎた時であった。
「・・・ま、いいさ。今の所はよ・・・。だがこれだけは覚えておきな!」
廖化の足が止まる。
「お前は近いうち、俺の力が必要になるぜ・・・絶対にな!」
「・・・そのような日が来ない事を祈ろう・・・。」
そして廖化は再び歩きだす。その後ろ姿を男は黙って見ていた。
「はぁ・・・、はぁ・・・、はぁぁ・・・、北郷・・・待たんか・・・。」
「おい、露仁・・・。大丈夫か?」
坂道の途中、息を上げあがら、俺の後ろを付いてくる露仁が俺に呼びかける。
「大・・・丈夫に・・・、見えんのか・・・、お前・・・さん?」
額から大量の汗が流れ落ち、倒れてしまうのではないかと思ってしまう。
「まぁ崖から落ちても生きてるんだから、この程度の山の坂道ぐらいで
死にはしないだろう?」
「き、貴様・・・!?わしを何じゃと思っておるのじゃ・・・!」
そして、その場に座り込んでしまう。
「おい、露仁・・・。今日中にこの山を降りるって行ったのはあんたじゃないか?!
言っておくが、俺だって疲れているんだ。」
この長い坂道に、俺の足もがくがくであった。
「それにあんたの話じゃ、山を下りた先に村があるだろ?なら今日はそこで
久し振りに宿で一泊しよう。」
「ぬぬぬ・・・、好き勝手言いおってからに、貴様はいつからそんな態度が
取れるようになったのじゃ!!」
疲れたと言ってるわりに、口数が減らない露仁。
「はいはい・・・、なら俺は先に村に行くから。露仁はそこで休んでいなよ。」
付き合っていられないので、俺は後ろ手を振りながら、そのまま先を進む。
「北郷・・・!待たんか!!貴様には年寄りを労わる精神は何ないのか!?
待たんかーーー!!!」
そう言って、露仁は再び俺の後ろ付いてくる。
それからおよそ三刻後のこと・・・。
「ここか・・・。」
山を下りた二人は、近くにあった村に立ち寄る。ここが露仁に言っていた村だろう。
その露仁は、木の枝を杖代わりにして、肩で息をしていた。
「ほ・・・北郷・・・、わしは・・・もう駄目・・・じゃ・・・。わしは
・・・ここで死ぬんじゃのう・・・。」
前にも同じ事を言っていたな・・・、この爺さん。
「あ、あんな所にすっごい美人が・・・。」
「なに!!何処じゃ、何処じゃ!?」
先程までと打って変って、元気になる露仁。辺りをきょろきょろ見渡す。
「それだけ元気があれば、死ぬのはまだ先になりそうだな・・・。」
そう言うと、俺は今日泊まる宿を探す。
「!?北郷!!貴様、わしを・・・このわしを騙しおったのか!?
ぐんうぬぬぬ・・・おのれ~・・・!!」
泊まる宿を見つけた一刀と露仁は早めの夕食をとるべく、村の飯屋に来ていた。
とりあえず、テーブルに着いて何を食べるかを決めようと、メニューを開いて
見ていた時であった。
「いつまで怒っているんだ、露仁。」
俺は自分の向かいに座っている、そっぽ向いた態度を示す露仁に話しかけた。
「別に怒っとらんわい・・・。」
俺の方を見ないで、不機嫌そうに答える。
「・・・・・・。」
怒っているじゃないか・・・、と心の中で思った。
しかし、何だかんだと言っても、俺はこのお爺さんと一緒に旅を続けている。
はっきり言って、世話が焼ける人だ。今までよく一人でやっていけたものだと、
ある意味で感心する。
今のところ、俺はこの人を頼る以外に術は無い。このお爺さんが洛陽に行くと
言う事で、俺はその付き人(兼護衛役)として同伴させてもらっている。
その意味では、感謝しなくてはいけない。
だが、だからと言って、あまり俺に迷惑をかけて欲しくは無い・・・。
せめて、その怒りっぽい所はもう少し何とかして欲しいのだが、それは前例があるので
半ば諦めている・・・。
「まぁ、飯を食べれば機嫌も直るとは思うけど・・・。」
「何か言いおったか?」
「別に。それより何食べるか決まった?」
「ふん!とっくに決まっておるわ。」
「そうか、なら店の人を呼ぶか・・・。すみませ~ん!」
とりあえず、店の人を呼ぶ。すると、
「はーい!」
元気な女の子の声が聞こえ、厨房の方からその声の主と思われる店員さんがやって来た。
気のせいかな・・・、どこか見覚えがある風貌だな。
「・・・あれ?」
「・・・君は?」
その店員さんと俺の目があった瞬間、その疑問は吹き飛ぶ。
「もしかして・・・、北郷さん・・・ですか?」
「君は・・・、まさか顔良さん?」
意外な所で、意外な人物と再会する。
そう、この店員さんは顔良さん。袁紹の所の武将で、面識がある。官渡の戦いの後、
その袁紹と共に行方が分からなくなっていたが・・・。
「驚いたな・・・、まさかこんな辺境な地に流れていたんだね。」
「は、はぁ・・・まぁ、あの後色々とありまして・・・。」
顔良さんの背中から、何かどんよりとしたオーラが醸し出されている。
確かに彼女、苦労とか不幸とか、望んでなくても向こうからやって来るって感じだもんな・・・。
「そういう北郷さんも、いつ天の国から戻ってきたんですか?」
「ああ・・・、君も知っていたんだ、俺があっちに帰ったって話?」
「一時期、大陸中で持ち切りでしたからね。」
「そっか・・・。」
俺がこの世界から消滅し、元の世界に戻って約1年・・・、こっちでは2年が過ぎていた訳だけど。
その2年間、華琳や皆はどんな気持ちで過ごして来たんだろう・・・?
そしてこの世界の人達が、この2年間をどう過ごして来たのか・・・?
「あれ?」
ふと、気になる事が頭に浮かぶ。
「そういえば、文醜さん・・・?」
「きゃあ!?」
俺の質問は、彼女の悲鳴でかき消される。
「ど、どうしました?!」
「ふほほほほ♪お嬢さん、中々いい尻しとるの~。」
「ろ、露仁!?何やっているんだ!」
そこには顔良さんのお尻を両手で揉んでいる露仁がいた。
やけに静かだとは思っていたが、ある意味でさすが露仁。美人には目が無いか・・・。
「もう~!止めてください~!」
ってそんな事考えている場合ではないな!
顔良さんが涙目になっている、早いとここのエロ爺をどうにかしないと。
「おい、露仁!いい加減に・・・!?」
「ぬっほうううううううーーーーー!?」
またしても俺の話が、今度は露仁の叫びによって掻き消される。
ドカーーーン!!
そして、露仁の上半身が店の壁の中に埋まってしまった。
一体何が起きたんだ?
「このスケベ爺・・・、うちの斗詩に何やってんだぁ!!」
そして、顔良さんの背中からヌッと出てきたのは・・・。
「文醜さん!?」
「ん・・・?」
俺の声に反応した文醜さんは、俺の方を見た。
「・・・あれ?兄ちゃん、どっかで見たような~・・・。」
そう言って、俺の方を見ながら頭をひねる文醜さん。
「文ちゃん、この人は曹操さんのところ北郷さんだよ~。」
「え?ああ!そうだそうだ、北郷の兄ちゃん!どうしたんだよ、こんな所で!!」
「あはは・・・。思い出してくれて良かった・・・。」
急にテンションが上がった文醜さんに押され気味の俺であった。
ちなみに露仁は未だに壁の中だった。
「そうか。流れに流れて・・・、今はこの店で仕事を。」
注文していた料理を食べながら、二人の話を聞いていた。半ば愚痴であったけど。
ちなみに、露仁はこの店の二階の店員用の休憩室で寝込んでいる。
「そうなんだよ~、官渡で曹操に負けてからあたいらマジで大変だったんだぜ~。」
「何言ってんだよ~、文ちゃんは仕事をよくさぼっていたくせに~。」
そして時折入るこの2人の漫才を見ながら、箸を進める。
この2人を見ていると、何故か安心するな~・・・。
ちなみに、2人の話だと袁紹は今、この村の宿で・・・まぁ、その・・・今で言うニートを
しているようだ・・・。まぁ、あの人に仕事しろって言う方が無理なのだろうけど。
「それで兄ちゃんはこんな所で何してんのさ?」
いきなり、文醜さんが俺に振って来る。
「え?ああ、俺はさっきのお爺さんと洛陽に行く途中で、ここに立ち寄ったんだよ。」
「洛陽ですか・・・。ここは山陽近くだから・・・まだ先ですね~。」
「っていうかさ、兄ちゃんは何であのスケベ爺と一緒にいるわけ?」
「色々と・・・、やむにやまれぬ事情というのものがあって・・・。」
「事情ですかぁ・・・。北郷さんも色々と苦労しているんですね?」
「君達ほどじゃないとは思うよ?」
「ですよね~・・・。」
「ここから洛陽へはどう行ったら早く着くかな・・・?」
「う~ん・・・、ここからだと陳留を経由していった方がいいと思いますね。」
「陳留か・・・。」
陳留・・・、俺があの時、下りた所も確か陳留だった。そこで風と稟に出会い、
そして華琳、春蘭、秋蘭に出会った。
「なら、その事を露仁に話して、今後の進路を決めた方がよさそうだな。」
そう思っていたその時であった。
「その必要はない。何故なら、貴様は今俺によって殺されるのだからな。」
「なッ!?お前はあの時の!」
店の中央に立つ柱に背中を預けながら、こちらを見る男。そいつは以前、成都で俺を・・・。
「あそこから落ち、なおも生きていようとは、貴様の悪運も大したものだ。
だが、それもここまでだ。」
そう言って、柱から背中を離し、こちらに近づいてくる。
「おい、ちょっとあんた。待ちなって・・・。今兄ちゃんはあたいらと・・・。」
いきなり割って入って来た事に気を悪くした文醜さんがその男の肩を持って、静止させる。
「ふん。」
「っ!?」
いきなり、文醜さんが吹き飛ばされる。吹き飛ばされた彼女は、そのまま窓を突き破っていった。
「文ちゃん!?」
顔良さんは、彼女を追って店を出ていく。店の中は、こいつのせいで騒然としていた。
「お前、文醜さんに何をした!?」
「目障りだったんで、軽く小突いただけだ。しかし、その割には派手に吹っ飛んでいったがな。」
平然とした顔で、淡々と話す。そして、いつの間にか奴の足が奴の頭より高く上がっていた。
「ッ!?」
奴の足が振り落とされる。テーブルは無残にも中央から叩き壊される。テーブルの上に
乗っていた料理や調味料が宙を舞う。そのテーブルが破壊された衝撃で俺は椅子ごと後ろに倒れる。
その際に、俺は床に頭をもろにぶつけてしまった。
「い、てて・・・。」
目の前がちかちかする。そんな俺に構う事なく、男は俺に向かって再び足を振り下ろす。
「うおわッ!」
何とか転がり回って、その一撃を避ける。振り落とされた足は、そのまま椅子ごと石床を砕いた。
何だよ、その破壊力・・・。成都の時と比べモノにならないぞ。あんなモノを喰らったら、ひとたまりもないぞ。
「おい、何やってんだ!喧嘩なら外でやりやがれ!」
厨房から、店の主人と思われる中年の男が大声を出しながら出てきた。
それに気づいた奴は、自分の足元に倒れていた椅子を、まるでサッカーボールのように足で、器用に宙を
舞いさせる。反対の足で宙に舞った椅子を店主の方に蹴り飛ばした。
「うぎゃああ!!」
店主は、身をかがめる。そして椅子は厨房側の壁にぶつかり、粉微塵になった。
俺は、その隙に何とか壁に掛けてあった『刃』を取り、鞘から抜く。
「・・・ほう。この俺に剣を向けるか?ならば、死んでも文句は言うまいな。」
「死んだら、文句も何も言えなくなるだろうが・・・!」
そんなつまらないやり取りをしながら、剣を構えながら、奴と間合いを取る。
まずは、この店から出ないと・・・!
「左慈!貴様、自分が何をしとるのか分かっておるのか!?」
「ろ、露仁?!」
店の2階で寝ていたはずの露仁が、いつの間にか奴の後ろの方にいた。
どうも、こいつと知り合いのようだけど・・・。
「無論だ。こいつを殺せば、全てが終わるというのだろ?」
こいつは俺を見ながら、露仁と会話する。いったい何を言っているんだ?
俺を殺せば、全てが終わるだって?
「承知の上でのこのような真似じゃと言うか!?」
「それがどうした。俺はこいつを殺す。そして、あの時果たせなかった事を・・・、今度こそ
この手で成し遂げる!そのために、俺はこの力を手に入れたのだ!!」
「何じゃと・・・?左慈!貴様・・・、『無双玉』を!!」
「それがどうした。これを俺達に渡したのは、お前では無いか?」
「ぐうっ・・・!」
完全に置いてきぼり状態になってしまっている・・・。
さっきからこの2人は何を話しているんだよ・・・。
「分かっていない・・・、と言いたそうな顔をしているな、北郷。だが、気にする事は無い。
貴様は・・・」
「俺によって殺される・・・か?」
「分かっているようだな?」
「あれだけはっきり提言されればな・・・。」
「では、死ね!」
「左慈!!」
露仁の静止を促す言葉に、耳を貸さず、俺に突っ込んできた。
ビュンッ!!
「ぐわッ!!」
すかさず刃で蹴りを受け止めるが、その重さに後ずさりする。
そしてもう一撃を放ってくる。
「くッ!」
バランスを崩していた俺は、その場に尻餅をつくように何とかかわす。
ズゴーンッ!!!
奴の一撃は俺の後ろの壁を破壊し、そこに大きな穴が出来る。
「う、うわあああああ!!」
それを見ていた客の一人が悲鳴を上げながら、店から出ていく。それにつられるかのように
次々と、店内にいた客達が逃げ出す。中には泣いている人もいれば、転んでしまっている人もいた。
「く、くそ・・・。」
腰が抜けてしまったのか、上手く立ち上がれない。刃を杖代わりに何とか立ち上がる。
ドクンッ―――!!
「ぐッ・・・!?」
急に胸に激痛が走る・・・。その痛みに、思わず気が遠くなりかけた。
くそ、こんな時に・・・!
「止めんか、左慈!」
露仁は何とかしてこいつを止めようと、こいつの服にしがみつく。
「邪魔をするな、老仙!?」
ドガッ!
「ぐほぅっ!?」
だが、左慈が放った裏拳を顎にもろに受けてしまった露仁は、後ろに倒れてしまう。
「ろ・・・露仁!?」
俺は激痛に耐えながら、何とか喉から声を出す。
「苦しそうだな。それは・・・貴様がまだその力を上手く活かしきれていない証拠だ。」
おぼろげな意識の中で、奴の声が聞こえる。
「最も・・・へたれの貴様に、それを使いこなせるはずはないのだがな!」
「ぐあぁ・・・!」
俺の前髪を乱暴に掴む。もはや抵抗する力も無かった。
力が入らない俺の足は宙を漂っていた。
「所詮、貴様はその程度の存在であったのだ・・・。そんな貴様に、俺は・・・!!」
苦虫を噛んだような顔をした思った瞬間、前髪を離した。
ズドーーーンッ!!!
俺の足が地に着く前に、俺は腹に奴の渾身の一撃をもろに喰らってしまった・・・。
そして、俺の・・・意識は、そこで・・・途絶えた・・・・。
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前回の最後のオチに閲覧者の皆さんの意見は賛否両論だと思います。正直、僕も「これはひどい」と、思いました。ただ僕は欝な展開はあまり得意では無くて・・・。それで、オチを付けて中和みたいな感じでやってしまったわけです。そして今回から欝展開の連続になりそうで・・・。
それはともかく、真・恋姫無双~魏・外史伝~第八章・前編をどうぞ。