No.79729

真・恋姫無双~魏・外史伝17

急いで、後編を書きました。
一体、一刀君はこれからどうなっていくのでしょうか?はたして、無事に許昌にたどり着く事が出来るのか?そして、この世界に再び動乱が巻き起こるのか?
そんなわけで、第八章・後編をどうぞ。

2009-06-18 02:41:07 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:5764   閲覧ユーザー数:4981

第八章~力を望む者、望まぬ者・後編~

 

 

 

  左慈が放った一撃に為す術もなく吹き飛ばされた一刀は、店の壁にぽっかりと空いた穴から見える、

 少し離れた一見の物置小屋の石壁に激突する。

  ドガーーーンッ!!

  その轟音と共に、石壁が砕ける。その際、砂埃が宙を舞う。

  シャキン・・・!

  そして、一刀が持っていた剣・刃は店と物置小屋の中間の位置にする所に金属音と共に突き刺さる。

  「う・・・、うぐ・・・。ほん・・・ごう。」

  左慈から受けた裏拳で口を切ってしまい、口から血を流しながら喋る露仁。

 頭を揺さぶられてしまったのか、景色がどよんで見える。そのせいで上手く立てない。

  一方、左慈は壁に空いた穴から外へと出る。そして、そのまま一刀がいるであろう物置小屋へと行く。

 その際、地面に突き刺さる刃を抜き取る。

  右手に刃を携えながら、左慈は物置小屋の穴が空いた壁の前まで来た。

 そこには、積まれていたのであろう木箱達が崩れその下敷きとなり、気を失っていた一刀がいた。

  「せめてもの情けだ。貴様の剣でとどめを刺してやる。有り難く思え。」

  そう言って、刃の剣先を一刀に向ける。

 そして、そこから刃を振り上げる。

  「死ね!北郷一刀!!」

  刃は一刀に向かって振り落とされた。

 

  「っ!?」

  一体何が起きたのか。

 左慈は一刀に止めを刺すべく、刃を振り下ろした。

 その瞬間であった・・・。

  ズドーーーンッ!!!

  左慈の体に、何かが凄まじい勢いでぶつかる。

 それに耐えられなかった左慈はそのまま後ろへと吹き飛ばされる。

 受け身とる間もなく、左慈の体は地面に接触すると、宙に跳ね返り、そして再び地面に接触する。

 そしてまた跳ね返り、もう一度地面に接触する。今度は跳ね返らず、うつ伏せの状態まま、

 地面との摩擦を受けながら、その勢いを削っていく。

  そして、左慈は自分が出てきた壁の穴の前でようやく止まった。

 左慈は何とか上半身だけを起き上がらせる。すると、口から血を吐き出した。 

  「ガハッ!・・・こ、これは!?」

  顔を苦痛で歪ませながら、改めて物置小屋の方を見る。

  そこには、左手に刃を携え、壊れた壁際に右手をかけ、物置小屋からゆっくりと出てくる一刀の姿が

 あった。

  「・・・・・・。」

  左足だけを外に出した状態で、俯いていた一刀の顔が上がる。

 その眼は、まるで獰猛な獣・・・、目の前の餌に今にも飛びかかろうとする獣の眼であった。

  「くッ・・・!どうやら玉の力が暴走しているようだな・・・!」

  左慈は体を回転させながら、素早く体勢を整える。

  「いいだろう。ならば、こちらも本気を出せばいい事だ!!」

  左慈はその体勢から両足を広げ、身を低くする。

  「はああぁぁぁ・・・・っ!!!!」

  ブワアァーーッ!!!

  彼を中心に突風が吹き荒れる。

 一刀はその突風を身に受けるが、微動だにしない。

 そして、一刀の姿が消える。否、消えたのではない。消えた様に見えるほど、素早く動いただけであった。

  再び姿が確認できた時は、左慈の目の前、すでに刃を両手で握りしめ、振りおろすとしていた。

  ドーーンッ!!!

  刃が空を切る。すでに左慈の姿は無かった。

 彼の姿が再び現れた時、一刀の後ろ上方、一刀の延髄を狙っていた。

 左慈の蹴りが、一刀の後ろ首に放たれる。が、その蹴りは一刀が刃の切っ先で左慈のつま先を

 受け止めた事で、阻止された。一瞬ではあったが、二人の動きが静止した。

  二人は互いに与えた衝撃に、同時に後ろへと下がる。

 そして、また二人同時に相手に突っ込んでいく。

  「あああっぁぁぁぁああああ・・・!!!」

  「しいぃぃぃねえぇぇぇぇーーーー!!!」

  二人の叫びが交わる。

  二人の一撃が交わる。

 左慈の重い蹴りが一刀に襲いかかり、一刀の一薙ぎが左慈に振り落とされる。

 何度も何度も交われど、その一撃が二人に届く事は無かった。

  一刀が左慈に向かって、突きを放つ。が、左慈は地面を蹴り上げる様に上に飛ぶ。

 そして、刃の峰に乗るとそこからさらに後方に一回転しながら、高く飛び跳ねる。

 一刀は、それを追うように左慈に向かって飛び上がる。

  「文ちゃん、立てる・・・?」

  「と、斗詩ぃ・・・。あたい吐きそう、お、おえ・・・!」

  文醜の肩をかりながら、今にも吐きそうな顔をしながら、口を空いている手で押さえる。

  「ええ!?ちょ、ちょっと待ってよぉ、文ちゃーーん!」

  ドーーーンッッッ!!!

  爆音が向こうから聞こえる。

  「え!?な、何今の音・・・って、きゃあああ!文ちゃん止めてぇー!!」

  

  「うおおおおああああああーーー!!!」

  「うおおおおおぉぉぉぉぉーーー!!!」

  一刀は左慈の一撃を刃で受け流し、左慈に一撃を加える。

 左慈は一刀の一撃を鉄ごしらえの靴の底で受け止め、一刀に一撃を加える。

 鈍い金属音と鋭い金属音が交互に鳴り響く。

  「す、すげぇ・・・。あの二人、落ちながら戦っている・・・。」

  ようやく落ち着いた文醜は、目の前に広がる光景に唖然としていた。

 その言葉通り、二人は落ちながら戦っていたのだから。

 ちなみに、顔良はそれどころではなかった・・・。

  地面に降り立った二人は、一度間合いを取る。

  「くそ!手間取らせおって・・・!」

  「・・・・・・。」

  「ならば、玉の力を・・・!」

  「ど、どうしたんだ!?あいつ膝を折ったぞ!?」

  文醜が状況を解説する。

  「くッ・・・!ここにきて・・・、おのれぇ!!」

  「うがあああああッ!!!」

  雄叫びを上げながら、一刀は左慈に向かっていく。

  「くそ!」

  その一刀に気づいた左慈は近くの家の屋根に飛び移る。

 一刀は立ち止まり、左慈を睨みつける。そして左慈もまた一刀を睨みつける。

  ビュンッ!!

  「ッ!!」

  どこからともなく、空を切る音がする。

 一刀は刃でその音の原因を叩き落とす。

 地面には叩き落とされた矢が落ちる。

  「な、何だぁ!?一体どこから矢が飛んできたんだ!!」

  「文ちゃ~ん・・・!どうしたの?」

  驚く文醜に近づく顔良。だが、文醜は自分の声に反応しない。

 その文醜が見ている方を自分も見る。彼女が見る先、村に隣接する森の中を見る。

  「な、何・・・?何か・・・いる?」

  暗くてよく見えないが、そこに何かが動いている事が顔良には分かった。

 そしてその動く何かが、複数である事に気付く。

  「な・・・!あ、あれって・・・まさか・・・!」

  文醜がその動く何かの正体に気付くと同時に、森の中から出てきたのは・・・。

  「ご、五胡だーーー!!!」

  五胡の兵がぞろぞろと森の中から出てくる。

  「どういう事だ・・・!何故ここに五胡が・・・、北郷の存在に気づいたのか?」

  そんな左慈を余所に、五胡の兵達は無差別に村を襲い始める。

  「ぶぶぶ文ちゃん、どうしよう!?」

  「き、き決まってんだろ?!早く逃げるんだよー!!」

  「で、でも麗羽様は!?」

  「今はうちらの命のほうが大事だろって!!」

  「ああーー!待ってよぉーー!!」

  文醜と顔良は一目散に逃げ出した。

  五胡の兵は家を壊し、村の人達を見境なく襲いかかる。逃げ惑う村人達。

 泣き声と叫び声が村を駆け抜ける。

  「・・・今は引いた方が良さそうだ。北郷!今度会う時は、必ず貴様を殺す。」

  そして、左慈の姿は一瞬にして消える。

  逃げる人達の中に、一組の兄妹がいた。

  「きゃあ!」

  その妹が誰かとぶつかり、転んでしまう。

  「莉瑠!」

  自分の妹が転んだ事に気が付いた兄が、妹の傍に駆け寄る。

  「大丈夫か、莉瑠!」

  「おにいちゃん!」

  そんな兄妹に大きな影がかかる。

  「あ!」

  そこには五胡の兵が立っていた。

  「おにいちゃん!!」

  恐怖のあまり、妹は兄に抱きつき、兄は妹を守るように強く抱きしめる。

 そんな兄妹の姿など関係ない様に、五胡は手に持つ大剣を振り上げる。

  「うっ!」

  兄は目をつぶる。

  

  ザシュッ!!

 

  いつまでも大剣が振り下ろされない。兄は恐る恐る目を開けていく。

 そこには大剣を振り上げたまま、動かない五胡の兵・・・そして、そのまま崩れされる。

 兵の後ろには刃を振り下ろした一刀が立っていた。

  「・・・・・・。」

  兄に言葉は無く、ただ見ているだけしかできなかった。

  「ハヤク・・・、イケ。ココハ・・・オレ・・・ガ!」

 苦しそうにそれだけを言い終えると、一刀は後ろを振りかる。そこには、三十前後の五胡の兵がいた。

 そして彼等の視線は全て一刀に注がれていた。

  「・・・う、うおお、おおおおおおぁぁぁぁぁぁあああああああああ!!!!」

  獣の様に、背が仰け反らせながら雄叫びに近い、切り裂けるような叫び声を上げる。

 その叫び声に反応するかのように、五胡の兵達は一斉に襲いかかる。

  

  それから半刻・・・、すでに日が傾きかけ空が夕焼けに染まり始めた頃・・・。

  

  ―――その村に・・・人影は無かった。

  

  ―――そこには夕日照らし出されて出来た影が一つ。

  

  ―――その影は頭から足まで赤く染まっていた。

  

  ―――だが、それは夕日によるものでは無かった・・・。

  

  ―――その影の周りには、五胡の兵の死体が縦横無尽に倒れていた。

  

  ―――そしての死体から大量の血が流れ出ていた。

  

  ―――その血は、村を、一つの影を赤く染め上げていた。

  

  ―――何処かでカラスの鳴き声が聞こえる。

  

  ―――その鳴き声に、影は我に帰る。

 

  ―――ふと、影は自分の手を見る。

 

  ―――その手は、まだ温もりが残る赤い血に染まっていた。

 

  ―――指先から、指の間から・・・その血が滴り落ちる。

 

  ―――その血を見ていた影は、次第に息が荒くなり始める・・・。

 

  「アアアアアアアアアアアアアアアアァァァァアァぁァァァァァアあアあァァァァアアアアアあアアア

  アアアあアアアアアアアアアアアアアアアあアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァア

  アアアあアアアアアアアアアアアアアあアアアアアアアアアアアアアアアアアアアあアアアア!!!!」

 

  先程まで大人しかった影が、天に向かって叫ぶ。

 すると、家の屋根に止まっていたカラス達がそれに驚いて、羽を羽ばたかせる。

 影が手にする剣を振り回す。叫びながら、何かに脅えるかのように、振りまわす。

  そんな影にもう一つお影が近づき、腰に両手を回し、がっちりと押さえる。

  「北郷!!わしの声を聞け!ゆっくりと・・・、ゆっくりと深呼吸するんじゃ。」

  「アアアアアアッ、ァァァァッアアア・・・!!!

   アアアッハアァ・・・、アアアッハアァ・・・!」

  叫びながらも、何とか呼吸しようとする・・・。すると、先程まで暴れたいたはずが、

 次第に大人しくなっていく。

  「深呼吸しながら、少しずつ、肩の力を抜いて行くのじゃ!!」

  そう言って、両手で両肩を優しく握る。

  「アアアッハアァ・・・!アアアッハアァ・・・!」

  「そしたら、目をつぶれ!そして指先足先に神経をとがらせるんじゃ!!」

  「ハアァ・・・!ハアァ・・・!ハアァ・・・!」

  「ようし、いいぞ!そのままだ・・・。そのままの感じで、自分の心を落ちかせるのだ。

  それお前だ、お前なのだ。だから恐れるな!その姿を受け入れるのだ、北郷一刀。」

  「はあぁ・・・!・・・はあ・・・、・・・はあ・・・。」

  その呼吸が落ち着くと同時に、体から力が抜けていく。そしてついに、その場に座り込む。

  「大丈夫か、北郷・・・!?」

  「ろ、ろじん・・・?」

  虚ろな目で、共に旅をしてきた老人の名を呼ぶ。

 

  「・・・はっ!」

  思わず、目が覚めた。

 その悪夢から・・・。いや、それは夢でなく、間違いなく現実であった。

 今だこの手に残る、生暖かいあの血の感触を・・・。

  「おや?ようやくお目覚めかい?」

  突然、声をかけられ驚いたが、その声の主を探す。

 主は、焚き火の火を見ながら、木の音にその腰をおろしていた。

 改めて自分をみると、毛布の様な布が被せられていた。

  「露仁、・・・ここは?」

  「あの村から少し離れた所じゃ、さすがにあそこに残るのは、まずいからのう。」

  「そう・・・だな。」

  俺は再び体を横にする。まだ体が鉛の様に重く、倦怠感が全身を包む。

  「村の人達は・・・?」

  「安心せい・・・。お前さんの活躍で、とりあえず死人は出ておらんはずじゃ。」

  「そうか・・・それは良かった。」

  露仁の言葉に、俺は本当に安心した。

  「どうやら、お前さん・・・、その力を上手く使いこなせおらんようじゃのう・・・?」

  「力・・・。」

  そう言いながら、俺は自分の両手を見る。

 この手で村の人達を救ったんだ。だが、それと同時に、この手で多くの血を流してしまった。

 不思議と恐怖を感じなかった。もう過ぎてしまった事だからなのか・・・。

  あの時と同じだ、建業での事とその後の事と全く同じだ・・・。

 一体・・何だんだ?俺の体に、何が起きているんだ?この力は何だんだ?

  「じゃが、その力があったからこそ、あの村は救われたのじゃ。」

  俺の心を読んでいるのかのように、露仁は俺に話しかける。

  「でも・・・。でも、この力は・・・きっと皆を不幸すると思う・・・。」

  「何故、そう思うんじゃ。」

  「俺・・・あの時、皆を殺そうとしていた。村の人だろうと、五胡の兵だろうと

  関係なかったと思う。たまたま・・・五胡が俺の方に襲いかかって来たから、だから

  村の人達を手にかけずに済んだんだ。」

  「・・・・・・。」

  露仁は何も言わず、黙って聞いていた。

  「前にも同じ事があったんだ・・・。あの時も・・・今回も・・・何とかなったけど・・・

  でも、いつかきっと誰かを傷つけてしまう。守りたいはずのものなのに・・・。」

  ひょっとしたら、華琳をこの手で・・・。

  「・・・それはお前さんの心次第じゃ。」

  「え・・・?」

  「力に善悪の概念は存在せん。飽くまで量的なもの絶対的なものじゃ。」

  「・・・・・・。」

  「まぁ・・・そこに善悪といった相対的なものがあるとするなら、それは

  その力を使う・・・人の心じゃ。」

  「人の心・・・。」

  「お前さんのその力も、お前さんの心次第じゃ。心と強さとは決して切れぬ関係なのじゃよ。」

  「心と強さ・・・。」

  その時、何故かとても懐かしい気分になって来た。昔、誰かが同じ事を言っていたような・・・。

  「おっと、柄に似合わぬ事を言ってしまったの。忘れてくれ・・・。」

  露仁は得照れくさそうにそっぽ向いてしまう。

  「ありがとう・・・。」

  「別に礼を言う程のものじゃ・・・。」

  「違うよ・・・。あの時、露仁が俺の側に駆け寄って来た時の事だよ・・・。

   ・・・あの時、露仁が居てくれて本当に良かった。だから、そう言う意味での・・・。」

  「よさんか、馬鹿もん!!・・・わしは、その・・・ただな、ええと。

  ・・・だあ、言い訳するのも面倒じゃ!もう寝ろ!」

  顔を真っ赤にしながら言う露仁に思わず口元がゆるんでしまう。

  「ははは・・・、分かったよ。じゃ、お休み。」

  そして、俺は再びを眼をゆっくりと閉じていった。

  

  「そう・・・、お前次第なのだ。私がお前に授けたその力は両刃の剣・・・。だからこそ、

  お前でなくてはならない。無限に膨れ上がる『力』には、無限の可能性の『人の心』が不可欠なのだ。」

  薄れていく意識の中で、そんな言葉を聞いた様な気がした。


 
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