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真・恋姫無双~魏・外史伝~ 再編集完全版7

 こんばんわ、アンドレカンドレです。

 明日友人達と日帰りスキーに行くので、今日投稿します。お話は改訂前でいう第八章。改訂前では書かなかった、袁紹達のその後についてのエピソードを加えました。今思うと、なぜ書かなかったのか・・・、あの時の自分がよく分らない・・・。

 それでは、真・恋姫無双~魏・外史伝~ 再編集完全版 第七章~心の在り方~をどうぞ!!

2010-03-07 18:06:38 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:2976   閲覧ユーザー数:2692

第七章~心の在り方~

 

 

 

  「劉備玄徳。

  大徳仁義だ、優しい国だの・・・、聞こえはいいけどよ。

  やっている事は武力で相手をねじ伏せる、他の連中と大して変わらねぇよな?」

  「・・・・・・」

  目の前の男が好き勝手言っている。廖化は何も言わず黙って聞いていた。

  「そんで乱世が終わった今も、その考えが改める様子はない。

  頭の中がお花畑なんだから余計に性質が悪い」

  「つまり、お前は何が言いたいのだ?」

  「あんたはこのままで良いのかって話だよ。

  こんな頭の悪い女がこの国を統べている事に納得しているのか?

  いや、そんなはずは無いだろう?

  それに、あの女が王として相応しい存在ではないと少なからず思っているはずだ」

  ついには劉備は王に相応しくないとまで言い放った。

  それでもなお廖化は沈黙を通す。

  「だったら今こそ立ち上がる時だ!今のお前ならこの国を落とすだけの力を十分に持っている!!

  てめぇの正義で愚王を粛清してやれ!」

  「・・・随分と我々を買ってくれているのだな」

  「勿論、俺もお前達に協力するぜ。劉備を潰すってんなら喜んでな・・・」

  「はぁ・・・、お引き取り願おう」

  「あん?」

  「我々は軍では無い。我々の信念に背くような真似をするつもりは毛頭ない」

  「・・・・・・」

  「もう一度言おう。お引き取り願おう」

  二人の男の間に沈黙が生まれる。

  その沈黙を断つように廖化はその場を立ち去ろうとする。

  完全に振られてしまったが、男は決して諦めなかった。

  「・・・ま、いいさ。だが、これだけは覚えておきな」

  廖化の足が止まる。

 

 

  「お前は近いうち、俺の力が必要になるぜ・・・絶対にな!」

  「なる程、ならばそのような日が来ることはないな」

  そして廖化は再び歩きだす。その後ろ姿を男は黙って見ていた。

 

 

  「はぁ・・・、はぁ・・・、はぁぁ・・・、北郷・・・待たんか・・・」

  「おい、露仁・・・。大丈夫か?」

  坂道の途中、息を上げあがら、俺の後ろを付いてくる露仁が俺に呼びかける。

  「大・・・丈夫に・・・、見えんのか・・・、お前・・・さん?」

  額から大量の汗が流れ落ち、倒れてしまうのではないかと思ってしまう。

  「まぁ崖から落ちても生きてるんだから、この程度の山の坂道を登るぐらいで死にはしないだろう?」

  「き、貴様・・・!?わしを何じゃと思っておるのじゃ・・・!」

  そして、その場に座り込んでしまう。

  「おい、露仁・・・。今日中にこの山を降りるって行ったのはあんたじゃないか?言っておくが、

  俺だって疲れているんだ」

  この長い坂道に、実は俺の足もがくがくと震えている。

  「それにあんたの話じゃ、山を下りた先に村があるだろ?なら今日はそこで久し振りに宿で一泊しよう」

  「ぬぬぬ・・・、好き勝手言いおってからに、貴様はいつからそんな態度が取れるようになったのじゃ!!」

  疲れたと言ってるわりに、口数が減らない年寄りだな、ほんと・・・。

  「はいはい・・・、なら俺は先に村に行くから。露仁はそこで休んでいなよ」

  付き合っていられないので俺は後ろ手を振りながら、そのまま先を進む事にする。

  「北郷・・・!待たんか!!貴様には年寄りを労わる精神は何ないのか!?待たんかぁあああっ!!」

  そう言って、露仁は再び俺の後ろ付いてくる。そのうち血管がブチ切れるぞ、露仁・・・。

  

  それから数刻後・・・。

  「ここか・・・」

  山を下りた二人は、近くにあった村に立ち寄る。ここが露仁に言っていた村だろう。その露仁は木の枝を

 杖代わりにして肩で息をしていた。

  「ほ・・・北郷・・・、わしは・・・もう駄目・・・じゃ・・・。わしは・・・ここで死ぬんじゃのう」

  前にも同じ事を言っていたな・・・、この爺さん。まぁ、人間・・・そんな事を言っている奴に限って

 死にはしないものだけど。

  「あ、あんな所にすっごい美人が・・・!」

  「なに!!何処じゃ、何処じゃ!?」

  先程までと打って変って元気になる露仁。辺りをきょろきょろ見渡す。

  「それだけ元気があれば、死ぬのはまだ先になりそうだな・・・」

  一つわざとらしく溜息を吐くと、俺は今日泊まる宿を探す。

  「はぅあっ!?北郷!!貴様、わしを・・・このわしを騙しおったのか!?ぐんうぬぬぬ・・・

  おのれ~・・・!!」

   聞こえない、聞こえない・・・。俺には何も聞こえない・・・と。

 

  泊まる宿を見つけた一刀と露仁は早めの夕食をとるべく、村の飯屋に来ていた。とりあえず、テーブルに

 着いて何を食べるかを決めようと、メニューを開いて見る。

  「いつまで怒っているんだ、露仁」

  俺は自分の向かいに座っている、そっぽ向いた態度を示す露仁に話しかけた。   

  「別に怒っとらんわい・・・」

  俺の方を見ないで、不機嫌そうに答える。

  「・・・・・・」

  怒っているじゃないか・・・、と心の中で思った。しかし何だかんだと言っても、俺はこのお爺さんと

 一緒に旅を続けている。はっきり言って世話が焼ける人だ。今までよく一人でやっていけたものだと、

 ある意味で感心する。今のところ、俺はこの人を頼る以外に術は無い。このお爺さんが洛陽に行くと

 言う事で、俺はその付き人(兼護衛役)として同伴させてもらっている。その意味では、感謝しなくては

 いけないのだけれど・・・。だからと言って、俺に迷惑が掛かる様な真似は控えて欲しいよ。せめて、その

 怒りっぽい所はもう少し何とかして欲しいのだが、それは前例があるので半ば諦めている。

  「まぁ、飯を食べれば機嫌も直るとは思うけど・・・」

  「何か言いおったか?」

  「別に。それより何食べるか決まった?」

  「ふん!とっくに決まっておるわ」

  「そうか、なら店の人を呼ぶか・・・。すみませ~ん!」

  とりあえず、店の人を呼ぶ。すると、

  「はーい!」

  元気な女の子の声が聞こえ、厨房の方からその声の主と思われる店員さんがやって来た。

 気のせいかな・・・、どこか見覚えがある風貌だな。

  「・・・あれ?」

  「・・・君は?」

  その店員さんと俺の目があった瞬間、その疑問は吹き飛ぶ。

  「もしかして・・・、北郷さん・・・ですか?」

  「君は・・・、まさか顔良さん?」

  意外な所で、意外な人物と再会する。そう、この店員さんは顔良さん。袁紹の所の武将で俺は面識がある。

 官渡の戦いの後、その袁紹と共に行方が分からなくなっていたが・・・。

  「驚いたな・・・、まさかこんな辺境な地に流れていたんだね」

  「は、はぁ・・・まぁ、あの後色々とありまして・・・」

  顔良さんの背中から、何かどんよりとしたオーラが醸し出されている。確かに彼女・・・、苦労とか

 不幸とか、望んでなくても向こうから積極的にやって来るって感じだもんな。

  「そういう北郷さんは、いつ天の国から戻ってきたんですか?」

  「ああ・・・、君も知っていたんだ、俺があっちに帰ったって話?」

  厳密に言えば、帰ったのではなく強制退場なのだけれど。

  「それはもう大陸中、その話題で持ち切りでしたから」

  「そっか・・・」

  俺がこの世界から消滅し、元の世界に戻って約1年・・・、こっちでは2年が過ぎていた訳だけど。

 その2年間、華琳や皆はどんな気持ちで過ごして来たんだろう・・・?そしてこの世界の人達がこの

 2年間をどう過ごして来たのか・・・?

  「あれ?」

  ふと、気になる事が頭に浮かぶ。

  「そういえば、文醜さん・・・?」

  「きゃあ!?」

  俺の質問は、彼女の悲鳴でかき消される。

  「ど、どうしました?!」

  「ふほほほほ♪お嬢さん、中々いい尻しとるの~」

  「ろ、露仁!?何やっているんだ!」

  そこには顔良さんのお尻を両手で揉んでいる露仁がいた。

 やけに静かだとは思っていたが、ある意味でさすが露仁。美人には目が無いか・・・。

  「もう~!止めてください~!」

  ってそんな事考えている場合ではないな!

 顔良さんが涙目になっている、早いとここのエロ爺をどうにかしないと。

  「おい、露仁!いい加減に・・・!?」

  「ぬっほうううううううーーーーー!?」

  またしても俺の話が、今度は露仁の叫びによって掻き消される。

  ドガァアッ!!

  そして、露仁の上半身が店の壁の中に埋まってしまった。一体何が起きたんだ?

  「このスケベ爺・・・、うちの斗詩に何やってんだぁ!!」

  そして、顔良さんの背中からヌッと出てきたのは・・・。

  「文醜さん!?」

  「ん・・・?」

  俺の声に反応した文醜さんは、俺の方を見た。

  「・・・あれ?兄ちゃん、どっかで見たような~・・・」

  そう言って、俺の方を見ながら頭をひねる文醜さん。

  「文ちゃん、この人は曹操さんのところ北郷さんだよ~」

  「え?ああ!そうだそうだ、北郷の兄ちゃん!どうしたんだよ、こんな所で!!」

  「あはは・・・。思い出してくれて良かった・・・」

  急にテンションが上がった文醜さんに押され気味の俺、ちなみに露仁は未だに壁の中だった。

 

  「そっかぁ。流れに流れて・・・、今はこの店で仕事を」

  注文していた料理を食べながら、二人の話を聞いていた。半ば愚痴であったけど・・・。ちなみに、

 露仁は脳しんとうを起こし、この店の二階の店員用の休憩室で寝込んでいる。

  「そうなんだよ~、官渡で曹操に負けてからあたいらマジで大変だったんだぜ~」

  「何言ってんだよぉ、文ちゃんは仕事をよくさぼっていたくせに~」

  そして時折入るこの2人の漫才を見ながら俺は箸を進める。この2人を見ていると、何故か

 安心するな~・・・。

  ちなみに、2人の話だと袁紹は今この村の宿で・・・まぁ、その・・・今で言うニートをしている

 ようだな・・・。まぁ、あの人に仕事しろって言う方が無理なのだろうけど。

  「それで兄ちゃんはこんな所で何してんのさ?」

  いきなり、文醜さんが俺に振って来る。

  「え?ああ、俺はさっきの変態爺さんと洛陽に行く途中でここに立ち寄ったんだよ」

  「洛陽ですか・・・。ここは山陽近くだから・・・まだ先ですね~」

  「っていうかさ、兄ちゃんは何であのスケベ爺と一緒にいるわけ?」

  「色々と・・・、やむにやまれぬ事情というのものがあって・・・」

  「事情ですかぁ・・・。北郷さんも色々と苦労しているんですね?」

  「君達ほどじゃないとは思うよ?」

  「「ですよね~」」

  「ここから洛陽へはどう行ったら早く着くかな・・・?」

  「う~ん・・・、ここからだと陳留を経由していった方がいいと思います。他の道だと遠回りになって

  しまいますから」

  「陳留か・・・」

  陳留・・・、あの時も確か陳留だった。風と稟に出会い、そして華琳、春蘭、秋蘭と出会った。

 俺にとってこの世界での始まり場所・・・。

  「なら、その事を露仁と相談して今後の進路を決めた方がよさそうだな」

  そう思っていたその時であった。

  「その必要はない。貴様はここで俺に殺されるのだからな」

  「なッ!?お前はあの時の!」

  店の中央に立つ柱に背中を預け、こちらを見る男。そいつは以前、成都で俺を・・・。

  「あそこから落ち、なおも生きていようとは・・・貴様の悪運も大したものだ。

  ・・・だが、それもここまでだ」

  そう言って、柱から離れると奴はこちらにゆっくりと近づいてくる。

  「おい、ちょっとあんた。待ちなって・・・。今兄ちゃんはあたいらと・・・」

  いきなり割って入って来た事に気を悪くしたのか文醜さんはその男の肩を持って静止させる。

 だが、奴は文醜さんに目もくれない。

  「・・・ふん」

  「っ!?」

  そしていきなり文醜さんが吹き飛ばされる。吹き飛ばされた彼女はそのまま頭から窓を突き破ってしまった。

  「ぶ・・・、文ちゃん!?」

  顔良さんは血相を変え、窓から外へと吹き飛ばされた文醜をさん追って店を出ていく。店の中はこいつの

 せいで騒然としていた。

  「・・・お前、文醜さんに何をしたんだ!」

  「目障りだったんで、軽く小突いただけだ。まぁその割には派手に吹っ飛んでいったが、な!」

  平然とした顔で、淡々と話す。そして、いつの間にか奴の足が奴の頭より高く上がっていた。

  「・・・ッ!」

  奴の足が振り落とされる。テーブルは無残にも中央から叩き壊され、テーブルの上に乗っていた料理や

 調味料が宙を舞う。そのテーブルが破壊された衝撃で俺は椅子ごと後ろに倒れる。その際、俺は床に頭を

 もろにぶつけてしまった。

  「い、てて・・・」

  目の前がちかちかする。そんな俺に構う事なく、男は俺に向かって再び足を振り下ろす。

  「うぉわッ!」

  何とか転がり回って、その一撃を避ける。振り落とされた足は、そのまま椅子ごと石床を砕いた。

 何だよ、その破壊力は。成都の時と比べモノにならない。あんなモノを喰らったら、ひとたまりもないぞ。

  「おい、何やってんだ!喧嘩なら外でやりやがれ!」

  厨房から、店の主人と思われる中年の男が大声を出しながら出てきた。

 それに気づいた奴は、自分の足元に倒れていた椅子を、まるでサッカーボールのように足で器用に宙に

 へと持ち上げると、次に反対の足で宙に舞った椅子を店主の方に向かって蹴り飛ばした。

  「うぎゃああ!!」

  店主は慌てて身をかがめる。そして椅子は厨房側の壁にぶつかり、粉微塵になった。俺はその隙に何とか

 壁に掛けてあった『刃』を手に取り、急いで鞘から抜く。最も抜いたからと言ってこれで戦えるかどうかは

 分からない。だって、実際にこれで戦った事は無いし、それ以前に実戦で剣を使った事なんて数えるくらい

 しかない。警備隊の頃は周りに合わせて棍棒を使っていたし、何より俺にはせいぜい町人の喧嘩を一人で

 治めるぐらいが精一杯だ。

  「・・・ほう。この俺に剣を向けるか?ならば、死んでも文句は言うまいな」

  少なくとも目の前にいる男はどう考えても町人程度の相手ではない。油断していたとは言えあの文醜を

 一撃で倒してしまうのだから、俺一人で太刀打ち出来るとは到底思えない。せいぜい奴の気をこちらに向け

 させる事ぐらいだ。

  「死んだら、文句も何も言えなくなるだろうが・・・!」

  そんなつまらないやり取りをしながらやや抜け腰気味に身構え、奴との間合いを測る。まずはこの店から

 出ないと・・・! 

  「左慈!貴様、自分が何をしとるのか分かっておるのか!?」

  「ろ、露仁っ!?」

  店の2階で寝ていたはずの露仁がいつの間にか奴の後ろの方にいた。こいつと知り合いのようだけど・・・。

  「無論だ。こいつを殺せば、全てが終わるというのだろ?」

  こいつは俺を見ながら、露仁と会話する。いったい何を言っているんだ?俺を殺せば、全てが

 終わるだって?

  「承知の上でのこのような真似じゃと言うか!?」

  「それがどうした。俺はこいつを殺す。そして、あの時果たせなかった事を・・・、今度こそ

  この手で成し遂げる!そのために、俺はこの力を手に入れたのだ!!」

  「何じゃと・・・?左慈!貴様・・・、『無双玉』を!!」

  「それがどうした。これを俺達に渡したのは、お前では無いか?」

  「ぐうっ・・・!」

  完全に置いてきぼり状態になってしまっている。さっきからこの2人は何を話しているんだよ・・・。

 頼むから俺にも分かる様に話してくれ。

  「分かっていない・・・、と言いたそうな顔をしているな、北郷。だが、気にする事は無い。

  貴様は・・・」

  「俺によって殺される・・・か?」

  「何だ、分かっていたのか」

  「あれだけはっきり提言されればな・・・」

  「ふんっ・・・では、死ね!」

  「左慈ぃ!!」

  露仁の静止の言葉に耳を貸さず、奴が俺に向かってくる。

  ビュンッ!!

  「ぐわッ!!」

  まるで猛牛に体当たりされたかの様な重い蹴りを右肩に喰らい、堪らず俺は吹き飛ばされ壁にぶつかる。

 壁にぶつかり、俺の意識が飛びそうになる。右肩の骨が折れていないか心配だ。そんな俺の心情など察して

 くれるはずも無く、左慈は容赦なく蹴りを放ってきた。

  「く・・・ッ!」

  俺は、咄嗟に支えにしていた壁から手を離し、その場に崩れ倒れる形で何とかかわす。

  バッゴォッ!!!

  奴の一撃は俺の後ろの壁を破壊し、壁にはぽっかりと大きな穴が出来る。

  「う、うわあああああっ!!」

  それを見ていた客の一人が悲鳴を上げながら、店から出ていく。それにつられ次々と店内にいた客達が

 逃げ出す。中には泣いている人もいれば、転んでしまっている人もいた。

  「く、くそ・・・」

  腰が抜けてしまったのか上手く立ち上がれない。刃を杖代わりに何とか立ち上がろうとするが・・・。

  

  ドクンッ―――!!

  

  「ぐッ・・・!?」

  急に胸に激痛が走る・・・。その痛みに、思わず気が遠くなりかけた。くそ、こんな時に・・・!

  「止めんか、左慈!」

  露仁は何とかしてこいつを止めようとこいつの服にしがみつく。

  「邪魔をするな、老仙!?」

  ドガァッ!

  「ぐほぅっ!?」

  だが、左慈が放った肘が鼻元にもろに受けてしまった露仁は後ろに倒れてしまう。

  「ろ・・・露仁!」

  俺は激痛に耐えながら、何とか喉から声を出す。

  「苦しそうだな。それは・・・貴様がまだその力を上手く活かしきれていない証拠だ」

  おぼろげな意識の中で奴の声が聞こえる。

  「最も・・・貴様程度の器では使いこなせるはずはないのだがな!」

  「ぐあぁ・・・!」

  俺の前髪を乱暴に掴む。もはや抵抗する力も無く、力が入らない俺の足は宙を漂う・・・。

  「所詮、貴様はその程度の存在であったのだ・・・。そんな貴様のせいで、俺は・・・!!」

  苦虫を噛んだような顔をした思った瞬間、前髪を離した。

  ズドォオオオンッ!!!

  俺の足が地に着く前に、俺は腹に奴の渾身の一撃をもろに喰らってしまい、俺の・・・意識は、

 そこで・・・途絶えた・・・・。

 

  左慈が放った一撃に為す術もなく吹き飛ばされた一刀は、店の壁にぽっかりと空いた穴から見える、

 少し離れた一見の物置小屋の石壁に激突する。

  バッゴォオッ!!

  その轟音と共に物置小屋の石壁が豪快に砕け散り、砂埃が大きく宙を舞い上がる。

  シャキンッ!!!

  そして、一刀が持っていた刀は店と物置小屋のちょうど中間の位置にする所に金属音と共に突き刺さる。

  「う・・・、うぐぅ・・・北・・・郷」

  左慈から受けた裏拳で口内を切り、口から血を流しながら喋る露仁。

 頭を揺さぶられてしまったのか、景色がどよんで見え、上手く立つ事が出来ない。

  一方、左慈は壁に空いた穴から外へと出る。そしてそのまま一刀がいるであろう物置小屋へと赴く。

 その際、地面に突き刺さる刃を抜き取り、右手に刃を携え物置小屋の穴がぽっかりと空いた壁の前に辿り着く。

 小屋の中は薄暗く、そこに穴から外の光が差し込んでいる。目を凝らして見ると、積まれていたのであろう

 木箱達が床に無秩序に崩れ、一刀はその下敷きとなり気を失っていた。

  「せめてもの情けだ、貴様の刀でとどめを刺してやる。有り難く思え」

  そう言って、刃の剣先を一刀に向け、そして躊躇う間もなく、無情のまま刃を振り上げる。

  「死ね!北郷一刀!!」

  ブゥオンッ!!!

  刃は一刀に向かって振り落とされた。

  「っ!?」

  一体何が起きたのか。

 左慈は一刀に止めを刺すべく、刃を振り下ろした。

 その瞬間であった・・・。

  ズドォオッッ!!!

  左慈の体に何かが凄まじい勢いでぶつかる。

 それに耐えられなかった左慈はそのまま後ろへと吹き飛ばされる。

 受け身とる間もなく、左慈の体は地面に接触すると宙に跳ね返り、そして再び地面に接触する。

 そしてまた跳ね返り、もう一度地面に接触する。今度は跳ね返らず、うつ伏せの状態まま地面との摩擦を

 受けながらその勢いを削っていく。そして左慈の体は自分が出てきた壁の穴の前でようやく止まった。

 左慈は何とか上半身だけを起き上がらせる。白装束は地面との摩擦で所々ボロボロになり、受けた衝撃から

 喀血を催した。 

  「がふッ!・・・こ、これはっ!?」

  顔を苦痛で歪ませつつ溜まった血を全て吐き出すと、改めて物置小屋の方を見る。

 そこには左手に刃を携え、壊れた壁際に右手をかけ、物置小屋からゆっくりと出てくる一刀の姿があった。

  「・・・・・・」

  左足だけを外に出した所で俯いていた一刀の顔が上がる。

 その眼はまるで獰猛な獣・・・、目の前の餌に今にも飛びかかろうとする獣の眼であった。

  「くッ・・・!どうやら玉の力が暴走しているようだな!!」

  左慈はよろめきながらも立ち上がり、素早く体勢を整える。

  「いいだろう。ならば、こちらも本気を出せばいい事だ!!」

  左慈はその体勢から両足を広げ、身を低くする。

  「はああぁぁぁ・・・・っ!!!」

  ブワアァアアアッ!!!

  彼を中心に突風が吹き荒れる。一刀はその突風を身に受けるがそれを微動だにしない。

 そして、一刀の姿が消える。否、消えたのではない。消えた様に見える程に素早く動いただけ。

 再び姿が確認できた時は、左慈の目の前、すでに刃を両手で握り締め、振り下ろした。

  ブゥオンッ!!!

  振られた刃のは空を切る、だが左慈の姿はそこには無かった。彼の姿が再び現れたのは一刀の後ろ上方、

 そして右足は一刀の延髄を狙っていた。

  ブワァッ!!!

  左慈の蹴りが一刀の後ろ首に放たれる。しかし、その蹴りはかわされる。一刀は特別な事はしていない。

 ただ、その場でしゃがみ込んだだけだ。左慈は蹴りを振り切ると、しゃがんだ一刀を睨むと一刀も睨み返す。

  次に仕掛けたのは一刀だった。しゃがみの体勢から刃を地面すれすれ、上半身のバネのみで左慈に振り

 上げると、左慈は後方にバク転を決め、一刀の斬撃を再びかわし、一刀から数歩先に着地する。

  「ハァッ!!!」

  「死ねぇえええッ!!!」

  二人同時に間合いを詰めてべく大地を力一杯に蹴る。二人の叫びが交差し、二人の一撃が交差する。

 左慈の重い蹴りが一刀に襲いかかり、一刀の斬撃が左慈に放たれる。

  ブゥオンッ!!!

  ブワァッ!!!

  何度も何度も交差すれどその一撃が二人に届く事は無く、一刀が左慈に向かって突きを放つが、

 左慈は地面を蹴り上げ一刀の頭上よりやや高く飛び跳ねると、突き放った直後の若干の静止を受ける刃の

 峰を跨ぐ際に右足が一刀の左頬を蹴り飛ばし、一刀の首は左に捻じ切れるくらいに捻じれ、頭に引っ張られる

 ように首より下の身体が捻じれ、一刀は体勢を崩し、左慈に背を向けてしまう。

  「ふんッ!」

  ドガァアッ!!!

  「・・・ッ!」

  一刀の背中に直蹴りをお見舞いする左慈。無防備の背中から蹴りを受け、一刀は地面に倒れ、転げ回って

 いくのであった。

  「文ちゃん、立てる・・・?」

  「と、斗詩ぃ・・・。あたい吐きそう、お、おえ・・・!」

  文醜の肩をかりながら、今にも吐きそうな顔をしながら口を空いている手で押さえる。

  「ええ!?ちょ、ちょっと待ってよぉ、文ちゃーーん!」

  ドドォオオオ―――ッ!!!

  二人がいる場所から少し離れた向こうから爆音に似た音が聞こえる。

  「え!?な、何今の音・・・って、きゃあああ!文ちゃん止めてぇー!」

  

  

  左慈の一撃を寸前でかわした一刀。左慈の蹴りは地面を完膚無きに叩き割り、割れた大地は破片となって

 舞い上がる。舞い上がる土破片で左慈は一刀の姿を見失い急ぎ探すも、一刀は左慈に脇腹に滑り込み、

 上半身を反回転させ、刃を両手に渾身の横薙ぎを放つ。

  ブゥオンッ!!!

  気配を感じた左慈は咄嗟に身を引く。

  ザシュッ!!!

  刃の切っ先が左慈の脇腹の皮膚をかすめ、切創から滲みだした血が白装束を赤く染める。

  「ちぃ!」

  それを見て舌打ちをする左慈。そして一刀に視線を戻すと、一刀はすでに間合いを突き詰めて来ていた。

  ブゥオンッ!!!ブゥオンッ!!!ブゥオンッ!!!

  今度は自分の反撃だと言わんばかりに刃による斬撃を間髪無く左慈に横薙ぎ、兜割、袈裟切り、切り上げ、

 次々と放ち、左慈は反撃する間も得られず、斬撃を紙一重で回避し続けながら反撃の機を窺っていた。

  「す、すげぇ・・・。あの二人、何て滅茶苦茶な戦い方をしているんだよ・・・」

  ようやく落ち着いた文醜は目の前で繰り広げられる戦いの光景にただ唖然とするしかなかった。文醜の目

 でも二人の動きを完全に把握しきれず、何が起きているのか理解出来かねていた。

 ちなみに、顔良はそれどころではなく、文醜の吐瀉物の処理に手を焼いていた・・・。

  「くそ!手間取らせおって・・・!」

  「・・・・・・ッ!」

  「ならばこれならば・・・ッ!」

  途端、左慈の瞳孔が大きく広がり、額から汗が流れるとその場で片膝を折った。

  「ど、どうしたんだ!?あいつ膝を折ったぞ!?」

  少し離れた場所から隠れながら見ていた文醜がそれを見たままを口にする。

  「くッ・・・!ここにきて・・・、おのれぇ!!」

  「ガァアアアッ!!!」

  獣に似た雄叫びを上げながら、一刀は左慈に向かっていく。

  「くそ・・・ッ!」

  その一刀に気づいた左慈は足を震わせながらも、近く建つ家の屋根に飛び移る。一刀は立ち止まり、

 屋根の上に立つ左慈を睨みつけると、左慈も一刀を睨み返す。

  ビュンッ!!

  「・・・ッ!!」

  どこからともなく、空を切る音が鳴り、一刀は刃でその音の原因を叩き落とすと、地面には折れた矢が

 パサッと落ちる。

  「な、何だぁ!?一体どこから矢が飛んできたんだ!!」

  「文ちゃ~ん・・・!どうしたの?」

  驚く文醜に近づく顔良。だが、文醜は自分の声に反応しない。その文醜が見ている方を顔良も見る。

 彼女が見る先、村に隣接する森の中・・・。

  「な、何・・・?何か・・・いる?」

  暗くてよく見えないが、中で何かが動いている事が顔良には分かった。そしてその動く何かが複数で

 ある事に気付く。

  「な・・・!あ、あれって・・・まさか!」

  文醜がその動く何かの正体に気付くとほぼ同時に、森の中から出てきたのは・・・。

  「ご、五胡だーーーっ!!!」

  五胡の兵がぞろぞろと森の中から出てくる。

  「こいつ等・・・、まさか北郷の存在に気づいて?」

  そんな左慈を余所に、五胡の兵達は無差別に村を襲い始める。

  「ぶ、ぶぶぶ文ちゃん、どうしよう!?」

  「き、き決まってんだろ?!早く逃げるんだよぉーっ!!」

  「で、でも麗羽様は!?」

  「今はうちらの命のほうが大事だろって!!」

  「ああーー!待ってよぉーー!!」

  文醜と顔良はその場から一目散に逃げ出した。

 

  五胡の兵は家を壊し、村の人達を見境なく襲いかかる。逃げ惑う村人達・・・、泣き声と叫び声が村を

 駆け抜けていく。何故五胡がこの辺境の村に現れ、襲撃するのか・・・誰にも分かるはずもなかった。

  「・・・今は引いた方が良さそうだ。北郷!今度会う時は、必ず貴様を殺す!」

  そして屋根の上に立っていた左慈の姿が一瞬にして消える。

 

  逃げ惑う人達の中に一組の兄妹がいた。

  「きゃぁ!」

  その妹が誰かとぶつかり転んでしまう。

  「莉瑠!」

  自分の妹が転んだ事に気が付いた兄が、妹の傍に駆け寄る。

  「大丈夫か、莉瑠!」

  「おにいちゃん!」

  そんな兄妹に大きな影がかかる。

  「あ!」

  そこには五胡の兵が立っていた。

  「おにいちゃん!!」

  恐怖のあまり妹は兄に抱きつき、兄は妹を守るように強く抱きしめる。そんな兄妹の姿など関係ないと、

 五胡兵は手に持つ大剣を振り上げる。

  「うっ!」

  兄は目をつぶる。

  

  ザシュッ!!

 

  いつまでも大剣が振り下ろされない。兄は恐る恐る目を開けていく。

 そこには大剣を振り上げたまま、動かない五胡の兵・・・そしてそのまま崩れ倒れる。

 兵の後ろには、鮮血に濡れた刃を片手に握り締める一刀が立っていた。

  「・・・・・・」

  兄に言葉は無く、一刀の姿をただ見ているだけしかできなかった。その瞳は獣の如く、兄はその瞳に

 射抜かれその場から逃げ出す事が出来ない・・・。

  一刀は後ろを振り返り、兄妹に背を向けると、そこには三十前後の五胡の兵が立ち塞がり、視線は

 全て一刀に注がれていた。

  「・・・う、うおお、おおおおおおぁぁぁぁぁぁあああああああああ!!!!」

  それはまるで獣の様で、背が仰け反らせその雄叫びに近い、空気を切り裂く叫び声を上げる。

 その叫び声に反応するかのように、五胡の兵達は一斉に襲いかかるのであった・・・。

  

  それから半刻・・・、すでに日が傾きかけ空が夕焼けに染まり始めた頃・・・。

  

―――その村に・・・人影は無かった

  

―――あるのはかつて人間だったとされる肉塊・・・ 

  

―――五胡の兵の死体が縦横無尽に倒れていた

  

―――その死体からは大量の血が流れ落ち・・・

  

―――その血が夕陽の代わりに村を赤く染め上げていた

  

―――その村をどこかからか見ていた烏による空しい鳴き声が聞こえてくるのであった・・・

  

  「・・・はっ!」

  思わず、目が覚めた。

 まるでそれは悪夢・・・、いや、それは夢でなく間違いなく現実。今だこの手に残る、肉を切る感触と

 あの生暖かいあの血の感触は・・・決して夢幻であるはずはない。

  「・・・ようやくお目覚めかい?」

  突然声をかけられ驚くも、その声の主が誰かは既に分かっていた。声の主は焚き火の火を見ながら、

 木の根元にその腰をおろしていた。改めて自分をみるとあの時と同様、毛布の様な布が被せられていた。

  「露仁、・・・ここは?」

  「あの村から少し離れた所じゃ、さすがにあそこに残るのは、まずいからのう」

  「そう・・・だな」

  俺は再び体を横にする。まだ体が鉛の様に重く、倦怠感が全身を包む。

  「村の人達は・・・?」

  「安心せい・・・。お前さんの活躍で、とりあえず死人は出ておらんはずじゃ」

  「そうか・・・それは良かった」

  露仁の言葉に、俺は本当に安心した。その一方で、あぁ・・・やはりあれは現実だったのだと改めて

 思い知らされる、人を殺したという事実と共に。

  「どうやら、お前さん・・・、その力を上手く使いこなせおらんようじゃのう・・・?」

  「力・・・」

  そう言いながら、俺は自分の両手を見る。

 この手で村の人達を救ったんだ。だが、それと同時にこの手で多くの血を流してしまった。

 不思議と殺した事への恐怖は感じなかった。もう過ぎてしまった事だからなのか・・・、それとも戦で

 人の死に様を嫌と言うほど見てきたせいでそういった感覚が鈍ってしまったのかもしれない・・・。

 けれどこの感覚はあの時のそれに良く似ている。建業での事とその後の事と全く同じだ・・・。

 一体・・・、何なんだ?俺の体に、何が起きているんだ?この力は、何なんだ・・・?

  「じゃが、その力があったからこそあの村は救われたのじゃ」

  俺の心を読んでいるのかのように、露仁は俺に話しかける。

  「でも・・・。でも、この力は・・・きっと皆を不幸すると思う・・・」

  「何故、そう思うんじゃ」

  「俺・・・あの時、皆を殺そうとしていた。村の人だろうと、五胡の兵だろうと

  関係なかったと思う。たまたま・・・五胡が俺の方に襲いかかって来たから、だから

  村の人達を手にかけずに済んだんだ」

  「・・・・・・」

  露仁は何も言わず、黙って聞いていた。

  「前にも同じ事があったんだ・・・。あの時も、今回も、何とかなったけど・・・

  でも、いつかきっと誰かを傷つけてしまう。守りたいはずのものなのに・・・」

  ひょっとしたら華琳を、皆もこの手で・・・。この得体の知れない力が俺の意思に関係なく暴れ出したり

 すれば・・・。その時、俺はこの力を抑え込む事が出来るのだろうか・・・?

  「・・・それはお前さんの心次第じゃ」

  「え・・・?」

  それはまるで俺の心を見透かしているかのように、露仁の言葉で俺は意を突かれる。

  「力に善悪の概念は存在せん。飽くまで量的なもの絶対的なものじゃ」

  「・・・・・・」

  「まぁ・・・そこに善悪といった相対的なものがあるとするなら、それはその力を使う・・・

  人の心にあるんじゃよ」

  「人の心・・・」

  「お前さんのその力も、お前さんの心次第じゃ。心と強さとは決して切れぬ関係なのじゃよ」

  「心と強さ・・・」

  その時、何故かとても懐かしい気分になって来た。昔、誰かが同じ事を言っていたような・・・。

  「おっと、柄に似合わぬ事を言ってしまったの。忘れてくれ・・・」

  露仁は得照れくさそうにそっぽ向き、毛布にうずくまる。

  「ありがとう・・・」

  「別に礼を言う程のものじゃないわ・・・。もう寝て体を休めとくんじゃ明日は早いぞ」

  「ははは・・・、分かったよ。じゃ、お休み」

  そして、俺は再びを眼をゆっくりと閉じた・・・。

 

  今より数刻程前に遡る・・・。

  「はぁ・・・、はぁ・・・、いやぁ~ひどい目にあったぁ・・・」

  「文ちゃん、これからどうするの?麗羽様、あの村に置いて来ちゃったけど・・・」

  五胡に襲撃された村から少し離れた人気のない林道、一目散に逃げ出してきた顔良、文醜が乱れた呼吸

 を整え、流れる汗を拭い、ひとまず自分達の安全を確認していた。

  「どうするって言われてもなぁ・・・、姫、大丈夫だと思うか?」

  「うぅ~・・・、大丈夫じゃないかも」

  「だよなぁ~」

  あの小さな村が数十の武装した五胡の兵達に襲撃されたのだ。あの村に防衛機能などあるはずもなく、

 きっと瞬く間に占領されている事だろう。そうなれば、宿に引き籠っている袁紹が無事であるという保証

 はどこも無かった。 

  「姫・・・ちくしょう!今度という今度こそ惜しい人を亡くしたみたいだな、こりゃ」

  「文ちゃん・・・」

  握り締めた拳をふるふると震わせる文醜の肩を、顔良は優しく包み込むようにして手を置いた。

  「一体誰を亡くしたのですか、猪々子さん!?」

  「うわぁっ!また出たぁっ!」

  「ひゃあっ!」」

  そんな二人の背後からのっそりとその姿を現れたのは、死んだと思われた袁紹だった。二人はあまりの

 驚きに腰が抜け、その場に尻餅をついてしまった。

  「またとは何ですか!またとは!?全く、二人して私を置いていくとは・・・!」

  感動の再会・・・、と言うにはあまりにも滑稽な光景。

  「い、いや!姫、それはあたいらも色々とあって・・・!斗詩が言うんで仕方無く!」

  「えぇ~!?ちょっと待ってよ!あの時文ちゃんが自分の身が大事だって言って、先に逃げ出した

  じゃない!」

  「なんですってぇ~?あなた達、私を端から置き去りにする気だったのですのねぇっ!?」

  二人は必死になって袁紹に置き去りにした言い訳をしていた。

  「そ、それはともかくこれからどうしましょうか・・・」

  一通り言い訳も済み、互いに落ち着いた所で顔良は今後の事について切りだす。

  「あたいらの財産も・・・、あの村に置いて来ちまったしなぁ~。だからと言って、のこのこ戻って

  殺されるのは嫌だし・・・」

  実際は、すでに一刀によって村を襲撃した五胡の兵達は全滅しているのだが、現時点でその事を

 この三人は知る由も無かった。

  「ふっふっふ・・・、猪々子さん。あんなはした金を取りに戻る必要などありませんわよ」

  「へっ?」

  「それはどういう事ですか、姫?」

  不敵な笑いをする袁紹に思わず尋ねてしまう顔良。

  「猪々子さん、あなたは以前・・・『黄金の楽園』という場所があると言っていましたわね?」

  「まぁ・・・確かに、大陸の南方には黄金が腐るほどある伝説の楽園があるらしいってどっかの

  婆ちゃんだか、爺ちゃんが言っていましたけど・・・まさか、麗羽?」

  「その楽園に行こう・・・だなんて言うんじゃ・・・?」

  「まさかも何も、そのつもりですわ。この私がこぉんな大陸程度で収まる様な人物ではありませんわ!

  黄金の楽園・・・、そここそ!私に相応しい新天地ですわぁ!おーっほっほっほっほっほっほっほ!!」

  「・・・・・・」

  馬鹿な高笑いをする袁紹の傍らでぽかんと口を開け、呆然とする顔良。

  「さっすが、麗羽様!!そんな子供だまし程度の夢物語を平然と言ってのける!そこに痺れる!!

  憧れるぅうーーー!!!」

  逆に腕を大きくを振り上げ、袁紹の考えに同調する文醜。

  「えぇ!それでこそ猪々子さん!!さぁ、参りますわよ!いざ、黄金の楽園!私達の新天地を求めて!!」

  袁紹は適当な方向に向かってびしっと人差し指を伸ばし、向かう先を示す。その先に待つのは文字通りの

 楽園なのか、はたまた想像を絶する地獄なのか・・・。

 

  この三人の物語はここから始まるが、それはこの物語とは全く別の話である・・・。


 
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