ん~、良い香りなの。
お給金の半分を二ヶ月注ぎ込んで、試行錯誤を重ねて作った沙和特製の石鹸が遂に完成したの。
お肌にも優しいし、もうこれ無しじゃ生きていけないの。
「沙和、髪も洗って大丈夫かの?」
「大丈夫なの、後でお酢を少し入れたお湯で流せばいいって一刀様が言ってたの」
「美羽様、私に髪を洗わせて下さいよ~。うう、お嬢様がどんどん私から離れてしまわれる」
「お母さん、璃々も自分で洗うの」
「あらあら偉いわね。それじゃ美以ちゃん、洗ってあげるから少しジッとしててね」
「しおんの手が気持ち良いのにゃー」
「「「大王しゃまだけズルイのにゃー」」」
「分かった分かった、わしが洗ってやろう」
紫苑さんの友達の桔梗さんに南蛮の美以ちゃん達。
突然訪れてきて驚いたけど、昨日の今日には裸の付き合いが出来るほど仲良くなれたの。
沙和の石鹸も喜んで貰えたし、お風呂がとっても賑やかなの。
洗い終わって、公共施設用の試作として造られた大浴場に皆で浸かるの。
「桔梗、貴女が来てくれて本当に嬉しいわ。でも、ごめんなさい、私の所為で色々と失わせてしまった」
「気にする事はない、わしなりのけじめは付けれたのでな」
「益州の劉璋は自分が漢の継承者だと宣言してますけど、その辺りは如何なんでしょう?」
「洛陽から逃げてきた奴等に担ぎ上げられたようだ、愚かさも此処に極まったの」
「益州方面の警戒を高めた方がいいかしらね?」
「劉璋のボウズは喚いておるだけで自身で攻めてくる度胸なぞ皆無だが、警戒はしておいた方がいいだろうな」
う~ん、沙和は戦略とかよく分からないけど、油断しない方がいいのは分かるの。
「のう、沙和。美以が石鹸を齧って泡を出しとるのじゃが大丈夫かの?」
「駄目なのー!!美以ちゃん、ペッして口をゆすぐのー!」
良かったの、幸い飲み込んではいなかったの。
「子供が口に入れないように注意が必要ね」
「だが確かに良い物だ、肌がこれほどに潤うのは久しぶりよの」
「これは人気出ますよ。沙和さん、商人と量産の話はついたんですか?」
「二つ返事で商談が決まったの、これからも新開発を頼まれて費用も全面的に支援してくれる事になったの」
この石鹸に使った費用も戻ってきたし、契約金とかは一刀様に作り方を教えてもらった物だから国庫に納めるの。
「女の子が綺麗に成る物をいっぱい作るのが沙和の夢なの。大陸が平和になるまではそんなに時間が取れないけど、一刀様も応援するって言ってくれたの」
「ふむ、良い夢とは思うが戦乱の世だ、今は他にすべき事があるのではないか?」
「フフ、桔梗の言う事も尤もだけど、華国では少し考え方が違うのよ。一刀様が『人が夢を持てる国を造る』と言われてるの」
「実際のところは、人々にとって『自分の大事な人達が笑顔でいてくれる』とか、『自分の意思で未来を探せる』とか、他にも沢山あるので総じて分かりやすい言葉にしてるだけなんですけどねえ」
「しなくてはいけない事の手を抜く訳じゃなくて、大事な事を見失わないようにして欲しいって言ってたの」
「・・成程の」
桔梗さんが優しい顔になってるのを見て嬉しいの。
美羽ちゃん達が楽しそうに話してて、見守ってる紫苑さん達は微笑んでるの。
お風呂を出た後にまた新しいお客さんが来てやる事が増えたけど、沙和は元気で頑張れるの。
「真・恋姫無双 君の隣に」 第44話
「うりゃりゃりゃりゃりゃりゃ-------!」
幾らでもかかってくるのだ、ここは絶対に譲らないのだ。
相手も強いけど、どんどん力が湧きあがってくる鈴々は無敵なのだ。
「張飛、私が相手だ。今度こそ息の根を止めてくれる」
「またお前なのか、確か魏延とかいったのだ、いい加減に鈴々にはかなわないと分かるのだ」
「黙れ!だったら私の息の根を止めてみろ!デブッ、貴様は兵を率いてこのまま攻め込め!」
「わ、わかったんだな、いくんだな」
させないのだ。
お前等、まとめてぶっ飛ばしてやるのだ。
単調な攻撃を繰り返してました袁紹軍に変化が出てきました。
いよいよ本格的な攻勢に転じてきましたね。
「雛里ちゃん、どう見る?」
「うん、厳しくはあるけど守れるよ。朱里ちゃんが作成した連弩と、御遣い様の援助物資のお陰でね」
大量の矢を一斉に発射する連弩は御遣い様にお世話になってた時に思い付いたもので、ようやく完成出来ました。
「問題は左慈っていう敵大将だね。物凄く強いって聞いてるし」
「愛紗さんと鈴々ちゃんには必ず二人掛りで対応してとお願いしてるから大丈夫だと思う。絶対に守りきって見せるよ」
雛里ちゃんの力強い言葉が凄く頼もしい。
愛紗さんを支えて経験を重ねてきた事が雛里ちゃんをこんなに成長させたんだ。
私も負けてられない、雛里ちゃん達が安心して戦えるように支援しなきゃ。
「そうだ。雛里ちゃん、御遣い様が教えてくださった外交政策が涼州で公表されたみたい。袁紹軍の動きに影響が出るかもしれないよ」
「うん、あると思うけど。・・朱里ちゃん、何か考えがあるの?」
「仲国と名は変わっても、袁家は古き体制が色濃く残ってるから」
だからこそ付け込む隙があるよ。
涼州軍を破り、統治の為に西涼で政の指揮を執らせてもらってる。
新しい国造りの事もあって、羌族や氐族の人達も含めて訪問客が後を絶たない。
それでも混乱する事が無く順調に進んでるのは、馬家の人達が積極的に手伝ってくれるおかげだ。
翠や蒲公英が今の状況を作ってくれてたんだろう、本当にありがたい。
その翠と蒲公英に追討戦の役目を任せたが、短期間で涼州諸侯の全てを殲滅し降伏させて戻ってきた。
報告は聞いてるから詳しい話は明日にして、ゆっくりと休んでくれと伝えてる。
大分夜も更けてきて、俺もそろそろ休もうかなっと思ってたら、
「あれっ!?一刀様、まだ休んでなかったの?」
休んでもらってた蒲公英が顔を見せる。
「蒲公英こそ休んでなかったのか?」
「ううん、戻ってからお姉様とお風呂に入って直ぐに休んだよ。ちょっと目が覚めたからお水を飲みに出てきただけだよ」
「そうか。蒲公英、お帰り。色々とありがとう」
同じ地で戦ってたのに顔を合わせる機会が無かったからな。
「えへへ~、ただいま~♪」
胸に飛び込んできた蒲公英を優しく抱きとめる。
しばらくそのままでいたら、蒲公英が何やら呟き始めた。
「・・ちょっと待って、一刀様がまだ部屋に戻っていないという事は、・・かなり経ってるよね、・・拙いかも、でも罰と思えば・・」
「蒲公英?」
声をかけると慌てて俺から身を離して、
「ううん、何でもない。それより一刀様も休んだ方がいいよ。それじゃね、お休み~♪」
風の様に去って行った蒲公英を見送って、不思議に思いながら俺も部屋に戻る。
・・ところで、ベッドの上で猿轡をされて縄で縛られて暴れてるのは、何度見直しても翠だよな。
たんぽぽっ、絶対ゆるさねー!
ホントにホントーにやばかったんだぞ。
自室の寝台に倒れこんでたら、いきなり縛り上げて一刀の部屋に放置しやがって。
どうしてくれんだよ、この気まずい状況。
縄を切ってくれた一刀に何も言わずに厠に向かって、どうにか間に合ったけど戻って説明しない訳にはいかないだろ。
アタシが何処に行ったかなんて分かってるだろうから、特に追求もしてこないし。
あー、どうすりゃいいんだよ。
「翠」
「な、なんだよ、言っとくけどアタシにあんな趣味は無いからな」
「違うよ。追討の任を完璧に務めてくれた事、馬家の心をまとめて俺に力を貸してくれるようにしてくれた事、本当に感謝してる。ありがとう」
出会った時と変わらない笑顔。
久しぶりに会ったけど、王になっても変わってない一刀に嬉しく思っちまう。
あっ!
そうだ、アタシは一刀に謝らなきゃ。
アタシは床に手をついて頭を下げる。
「すまないっ、アタシが馬鹿だったからアンタや皆に迷惑をかけちまった」
「翠っ、何を!?」
「あたしは何も考えようとしてなかった」
一刀は出来るだけ人が死なないように水面下で事を進ませてたのに、アタシは自分の気持ちを優先させて戦に突入させちまった。
アタシは正面から戦う事しか頭になくて、武人が戦で倒れるのは本望だって決め付けて、誰が血を流すのかを深く考えてなかった。
戦で最も倒れるのは、普段は槍を持たない者達だって事を。
追討戦で逃げるのに必死な兵達を見てはじめて気付いた、それからは戦うより必死で投降を呼びかけた。
一刀が追討戦で出した指示は、可能な限り投降するように呼びかける事と、それでも戦おうとする者には、
「一刀を一番嫌ってた馬玩が最期に言ったんだ、「感謝する」って。武人として最期まで戦わせてくれた事を、兵達を必要以上に傷つけなかった事を」
一刀は敵にも敬意を示してたんだ。
それに比べて、アタシは何だ。
母様やたんぽぽが怒るのは当たり前だ。
何が一刀の槍になるだ、ただの戦狂いじゃないか!
「翠、顔を上げてくれ」
「本当にすまない!罰を与えてくれ、首を刎ねられたって文句は無い!」
アタシに将の資格は無い。
傷つかずに済んだ筈の多くの兵に侘びたいんだ。
「翠、指示に背いて勝手に戦端を開いた事には罰を与える。でもね、翠が全て間違ってたとは俺には思えないんだ」
思わぬ言葉に顔を上げたアタシに、一刀が手を差し出してきて立たせてくれる。
「翠が間違ったのは軍を率いる者としてであって、人としてじゃないよ」
一刀がゆっくりと言葉を続ける。
「過ぎた過去はいくらでも仮定が考えられる。反省は大事だよ。でもね、翠の行動は涼州軍閥に怒りはあれど憎しみを持たせなかった。降ってきた人達は勝敗について異論を唱えなかったよ。裏表の無い翠の真っ直ぐな気持ちを心の何処かで共有してたからだと思うんだ」
そうなのか?
そういや降った韓遂のじじいや楊秋達から恨み言は言われなかった。
死んでいった馬玩達からも。
「大事なものを沢山失ったよ。翠のせいじゃなくてお互いに譲れないものがあったから。・・だからこそ前に進む、でなきゃ何の為に戦ったんだ!」
一刀。
なんでそんなに悲しい顔をしてるんだよ。
お前は勝ったんだぞ?
「翠、力を貸してくれ。全ての責は俺が背負う、・・それくらいしか出来ないから」
違う。
掴んでくれてた手を強く握り返す。
「違う!違う、違う、違う!」
絶対違う!
「翠?」
「アタシらがどれだけ一刀に救われたのか、どれだけ頼りにしてるのか、どれだけ甘えてるのか。アンタにどれだけ幸せな気持ちにしてもらってると思ってんだよ!」
いつものアタシなら恥ずかしくて絶対言えない、でも、
「ああ、そうだよ、アンタの事が大好きなんだ。何だってしてあげたいんだ。傍に居れたら幸せで、ずっと一緒に居たいんだよ!」
そんな悲しい顔をさせたくない。
笑ってて欲しい、いつもの優しい笑顔でいて欲しい。
「アタシ馬鹿だから、余計な事を考えないで言うとおりに従うから、だか、んっ!?」
えっ!?えっ、ア、アタシ、今、一刀と、口付け、してる?
現実感の無い現実を実感出来たのは、唇が離れて抱き締められてからだった。
「ありがとう。俺も翠が好きだよ、真っ直ぐな翠がね」
「か、か、か、かず・・」
「翠、自分の事を馬鹿なんて言ったら駄目だよ。俺は許さない」
「で、でも」
「翠は同じ失敗を繰り返さない、だから馬鹿なんかじゃない」
そう、なのかな。
アタシは、アタシのままでいいのかな。
「むしろ馬鹿は俺だと思うし」
ひ、否定した方がいいよな、でも否定出来ないような。
「ア、アタシは今の一刀が好きだからいいんだよ。それにアンタは馬鹿じゃなくて大馬鹿だから全然問題なし」
何言ってんだ、アタシは。
でも本心だ、利口な一刀なんてなんか嫌だ。
「う、うん、ありがとう?」
よし、あと一言、あと一言だけ言うぞ、頑張れ、アタシ。
「こ、こ、このまま、このまま朝まで、一緒にいてもいいかな?」
ポチャン。
あ~、退屈ですね~。
落ちる水滴を数えるのも飽きましたよ~。
牢に入ってから一ヶ月位ですか。
まだ雪蓮様が長沙に戻らないという事は、反乱は鎮まってない事になりますよね。
隙を窺ってる劉繇達が退いてないから動けないんでしょうし。
長沙には一刀さんか祭様が援軍に来て下さるでしょうから、そろそろ片付いてるとは思うんですが。
おや?誰か来たかと思いましたら冥琳様でした。
牢の鍵を外してくださいます。
「穏、明日に出立する。今日は部屋で休んでおけ」
「ありがとうございます。それで、何が起こったんですか~」
冥琳様の硬い表情、良い事ではありませんね。
「蓮華様から反乱鎮圧の報告が届いた。劉繇達も退却したので柴桑は確保できた」
「それだけではないんですね」
冥琳様が私から顔を逸らされます。
「・・蓮華様が御遣いの軍門に降る事を進言された、賛同する者達の連名と共にな。至急長沙に戻り、真意を問わねばならん」
そうですか、・・やっぱり遅かったんですね。
冥琳様、私達は見落としてました。
戦になるまでに急いで力を蓄えなければという考えが既に負けてたんです。
一刀さんは意識をしていないかもしれませんが、一刀さんの実際に行ってきた政や戦、建国書における大陸の未来を考えさせる等の実績。
それら一つ一つが、孫家や民の心を見えざるところで攻め立ててたんです。
私達がすべき事は戦に勝つだけの為でなく、華国に勝る民が望む国を造る事だったんですよ。
・・本当に気付くのが遅すぎました。
申し訳ありません、一刀さん。
勝手を言ってるのは百も承知ですが、どうか孫家を救って下さい。
雪蓮様や蓮華様が、一生癒える事の無い傷を負われないように。
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あとがき
小次郎です。
前回は温かな御言葉をいただき、本当にありがとうございます。
書いてる時間が楽しく感じられました。
ご質問をいただいてましたので、遅ればせながらお答えさせていただきます。
適役は適切な役です。敵と被ってたのは気付いてませんでした。
猫に烏賊は通説を用いたのですが、確かに全ての猫がそうとはいえませんよね。
美以たちは大丈夫だったようですが、何でも口にするのは危ないと学んだ方がいいでしょうね。
暑くなってきまして食べ物の傷みも早くなってます。
気を付けないといけませんね。
誤字修正の件も、ご指摘ありがとうございます。
ではまた次回もよろしくお願いします。
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一刀の造りたい国にはどんな願いがこめられているのか
それはまだ始まったばかり