※本文中に蜀の劉備に対し批判的な表現が含まれています部分が存在していますが、
物語の流れの上でやむを得ない演出である事をあらかじめご了承ください※
かなりの部分でこれまでと異なった展開を見せているこの20周目の世界だが、
華琳の下に仕えてからの大筋はこれまでと何ら変わることはなかった。
敢えて言うなら皆の俺に対する態度の違いがあるが、
それはこれまでの世界でも対応一つで変えられたことなので大した問題ではない。
「………………」
そんなこれまで通りの流れに従い、華琳は袁紹を倒して河北四州を手に入れた。
だが、それは同時に彼女との対決を意味している。
「………蜀の王、劉備」
彼女が袁紹・袁術軍から逃れるためにウチの領土を横切りたいと願い出てきたとき、
俺はこれまでと同じように華琳と共に彼女の前に立った。
そしてこれまでと同じように彼女の言葉を聞いた。
もし俺が最初に華琳ではなく彼女に出会っていたのなら、彼女の理想を叶えようと尽力しただろう。
しかし、今の俺からすればそれは聞くに堪えない戯言。
一国の王たる者の姿はなく、ただ己の我侭を他人に押し付けているだけの小娘に過ぎなかった。
「………まぁ、いいさ」
この際俺が彼女に対してどのような感想を抱いたのかは関係ない。
例え誰が相手だろうとしても、俺は絶対に華琳を守ってみせる。
その決意さえあれば十分なのだから。
「……うぅん………お兄さぁ~ん………くー……」
「ふふっ。もちろん風も、だよ?」
「……それならいいのですぅ……すー…………」
「………実は起きてんじゃないだろうな、風」
恋姫†無双 終わらぬループの果てに
第6話 20週目 その4
起こるべくして起こった劉備達との戦いは、中盤までまったく同じ展開だった。
本拠地から少し南に位置している出城に本陣を構え、蜀軍を迎え撃つ魏軍。
しかし5倍以上の圧倒的な兵力差を覆す事は難しく、ジリジリと追い詰められていく。
そして最前線で戦う華琳もまた、俺が助けに入らなければ確実に討ち取られていた。
「……この!」
「さすがにやるな、呂布!」
蜀の援軍として今回の戦いに加わっている三国無双の豪傑、呂布。
大陸中探しても今の俺と1対1でまともに打ち合えるのは彼女だけだろう。
さっき防いだ華琳への攻撃も、とてもじゃないが普通の人間に出せるパワーじゃない。
両手でなんとか受け止められたが、たった一撃で手甲がおしゃかになるかと思った。
それでも本気でいけば勝てない相手ではない。
「っ?!」
素手での戦闘が基本の俺は他の面々に比べてリーチがかなり短い。
しかしその分身軽に動け、一つ一つの動作において生じる隙も格段に小さい。
故に俺が通常の1対1で取る戦法は単純明快。
フットワークで撹乱しながら隙を見て距離を詰め、至近距離からの一撃で相手を打ち倒す!!!
「せりゃあッ!!!」
「かはっ・・・!!!」
方天画戟を掻い潜り、無防備な呂布の鳩尾に掌底を叩き込む。
普通ならこれで悶絶するか気絶している所だが、さすがは呂布。
呼吸困難に陥った様子を見せたものの、武器も手放さず倒れもしない。
しかし動きが止まっただけで十分。
一撃で倒れないのなら二撃目を入れるだけ…っ?!
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「!」
二撃目を放とうとした瞬間、関羽とは別の殺気を感じて咄嗟に呂布から離れる。
俺に向けて突き立てられたのは見覚えのある直刀槍。
そしてそれを向けてきたのはこれまた見覚えのある人物。
かつて風や稟と共に旅をし、道中で何度も手合わせさせられた彼女の名は趙 子龍。
真桜に煙玉を貰わず呂布達を直接相手にした機会も何度かあったが、ここで星と会うのは初めてだ。
「……久しぶりだな、星」
「ええ。お久しぶりです、一刀様」
「………知り合い?」
援護によって立ち直った呂布は、まだ少し痛むのであろう鳩尾をさすりながら俺のことを星に聞いていた。
と言っても別に俺と星が内通しているといった類の疑いを抱いている様子はなく、単純な興味のようだ。
「星、呂布!」
そうこうしている間に一番最初に殴り飛ばした関羽まで復活してくる。
いかんいかん、さっさと目的を果たさないと。
「華琳、一度城まで撤退するぞ」
「撤退ですって!? そもそも一刀、何故後曲を任せたはずの貴方がここにいるの!?」
「はいはい、文句なら後で聞いてやるから…よっと」
「あっ、ちょ、コラ!」
星達がいる前では華琳を説得する暇がない。
それにほとんどバレているだろうけど、わざわざこちらの内情を敵に教えてやる義理もないしな。
俺はジタバタと暴れる華琳を無理やり抱え上げる。
煙玉を使わない場合、こうしなければ華琳を戦場から離脱させられないのだ。
「そういう訳なんで、俺達はここで一旦引かせてもらいます」
「なにっ?! 逃げると言うのか!!!」
「戦略的撤退ですよ、関羽さん」
「どっちだろうと構わん! それをみすみす許すとでも思っているのか?」
「別に貴女に許してもらう必要はありません。貴女程度ならこの状態でも瞬殺出来ますからね」
「貴様ッ!!!」
俺の放った言葉が我慢ならなかったらしく、再び得物を構えて突撃してくる関羽。
例え両手の塞がった状態でも、頭に血が上っている関羽では相手にならない。
「落ち着け愛紗。悔しいだろうがあの御方の仰るとおりだ。
まして冷静さを欠いた状態では尚更であろう」
「………この人、恋よりも強い」
「くっ…!!!」
しかし星と恋の制止を受けて直後に踏みとどまる。
あわよくばここで戦線から離脱してもらおうと思ったが、当てが外れてしまった。
まぁ、離脱といっても別に殺すわけじゃないし、次の機会にしておくか。
「じゃ、また後でお会いしましょう」
3人からこの場で戦おうという戦意が消えたのを確認し、俺は華琳を抱えたまま城へと走った。
華琳を連れて城まで撤退する過程で、俺は今までと同じように華琳の説得に当たった。
劉備との舌戦でかなり頭に血が上っていた華琳は案の定、俺の腕の中で滅茶苦茶に暴れた。
それでも俺は冷静さを失わないよう振る舞いながら、己を見失っている彼女に喝を入れる。
抱きかかえている都合上華琳の頬を殴って強引に落ち着かせるという行為が出来ないため、
この体勢では通常よりも説得に時間が掛かってしまう。
それでも何とか華琳を立ち直らせ、これまでと同じように無事城へと撤退する事が出来た。
ただ、そのままの状態で城に入った直後に風から物凄い眼つきで睨まれたのは何故なんだろう?
「いや、今はそんな事考えている場合じゃないか」
ともかく戦いは籠城戦へと移行し、春蘭達が戻ってくるまでの時間稼ぎが始まった。
が、鄄城での戦い同様にここでもとんでもない変化が生じていた。
「……半日、か」
城に戻った直後、俺は秘密裏に妖術を使用して春蘭達の現在位置を調べていた。
その結果として春蘭達の帰還がこれまでの世界よりも半日遅れるということが判明したのである。
「マズイな」
現在の華琳達の予想では今夜が山場ということになっている籠城戦だが、
このままのペースで推移していけば間違いなくそれ以前に勝敗が決してしまう。
半日遅れではギリギリ間に合わないのだ。
「………………」
俺が劉備軍に対して大規模な妖術を行使すれば、この状況は簡単にひっくり返せる。
しかしそれは最終手段にもなりえない禁じ手。
鄄城の時とは状況が違う。
人外の力によってもたらされた勝利など、華琳にとっては何の価値もないからだ。
つまり、正攻法でどうにか春蘭達が帰還するまでの時間を稼がなければならない。
「となると、選択肢は2つか」
この条件下で俺に残された選択肢は2つある。
一つは俺が単騎突撃で敵の本陣を強襲し、大将である劉備を倒すというもの。
これは以前の模擬戦の結果を踏まえれば妖術無しでも可能。
ただ、それをやってしまうと高確率で劉備を殺す事になる。
そして劉備を殺してしまえば、強制ループの条件に引っかかってしまう。
この世界では既に強制死亡の条件を一つ突破しているため、
もしかしたら強制ループ自体が起こらないかもしれない。
しかしこれまでと異なっているこの世界において、ループ終点まで是が非でもたどり着いておきたい。
だから絶対の保障がない以上、安易な決断での無謀な博打は出来なかった。
そうなると残されているのはもう一方の選択肢。
こっちにも単騎突撃とはまた違った意味でのリスクがあるけど、仕方ないか。
「華琳、風、桂花、ちょっと行ってくるよ」
「一刀?」
「お兄さん?」
「行くって……どこへよ?」
突拍子もなくこんな事を言い出した俺に当然疑問を投げかける3人。
そんな3人に向けて、俺は簡潔に告げた。
「場所も状況も全然違うけど、長坂橋仁王立ちの再現……かな?」
「門……開いてく」
呂布の呟きを隣で聞きながら、私はその奇妙な光景に目を奪われていた。
城壁の上から豪雨の如く降り注いでいた曹操軍の抵抗が突然止み、
今まさに我々が破壊しようとしていた城門が突然開き始めたのだ。
もしや降伏? いや、曹操は例え最後の一人となったところで決して引かないだろう。
ならば何かの策? しかし、この状況での開門がどんな策に繋がるというのか。
私には解らない。
そしてそれはおそらく、この光景を見ている者全ての思いのはず。
誰もが驚きと戸惑いの感情を胸に抱き、沈黙したままそれを眺めていた。
だが、完全に開いた城門から出てきた一人の男の存在によって私は全てを理解した。
「我が名は北郷 一刀! 大いなる天の意思を受け、この地に降臨せし者なり!」
静寂に包まれた戦場に響く澄んだ、しかし力強い意思の込められた声。
「我が使命は魏の王たる曹操の覇道成就! そして、その覇道を阻まんとする者を討ち滅ぼす事!」
日の光を受けて輝く衣服を身に纏い、しかしその衣服以上の輝きを放つ雄々しい姿。
「故に天の意思に逆らわんとする愚かな者達よ! 我は汝らを決して許しはしない!」
それはこの世に生を受けて以来、初めて心の底から感服させられた御仁。
「汝らの犯した罪の重さ……我が力の全てをもって、その身に刻みつけてくれようぞ!!!」
思わず聞き惚れてしまうような見事な言葉の後、この身を襲ったのは形容し難いほどの恐怖だった。
かつて人攫いと勘違いし、誤って対峙してしまった時に似た威圧感……しかし、まるで次元が違う。
「これが、一刀様の……本気、か………」
これだけ離れた場所にいるにもかかわらず、まともに喋る事すら叶わない。
今すぐにでも膝をつきそうになるのを堪えるだけで精一杯だった。
この私ですらこの有様なのだから、単なる一兵卒にしてみれば堪ったものではないだろう。
彼の姿を直視できるほど近くにいた者達は早々に意識を手放しており、
ただ微かに声が届いただけの者達ですら完全に戦意を奪われていた。
もはや一騎当千、万夫不当の言葉すら適当ではない。
この世に並ぶ者など存在しない……圧倒的なまでに唯一無二な存在だった。
「………………」
そんな絶対強者の前に立ったのは、つい先程まで私の隣にいたはずの彼女。
あの御方がいなければ間違いなく大陸最強の名を得ていたであろう稀代の豪傑、呂布。
この重圧に晒されてなお、それを発する彼の前に立てるだけで称賛に値する。
自分には不可能だと思いながら、悔しいとさえ感じなかった。
「さっきは華琳を撤退させるのが目的だったけど、今度は違うよ?」
呂布を目の前にして一刀様の口調が普段のものに戻る。
しかし、その身体から放たれている覇気に一切の変化はない。
一瞬でも気を抜こうものなら確実に意識ごと刈り取られてしまうだろう。
「………恋じゃ、勝てない………でも、戦いたい」
それは、初めて己の武を超える存在に出会った彼女が抱いた素直な想いなのだろう。
生憎と私にはまるで理解できない心情だが、一刀様には伝わったらしい。
「君の事は良く知らないけど、なんか君らしいって気がするよ」
呂布に向けてニコリと微笑みかけた一刀様は、一分の無駄もない動作で構えをとった。
そして、呂布もまたぎこちない動作で得物を構える。
もはや見るまでもなく、誰の目にも結末の解りきった勝負。
だが、私は己の全神経を集中させてその光景を目に焼き付けようとしていた。
あの一刀様と同じ領域に立とうとする呂布に羨望の念を抱きながら………
「はぁ~、終わったぁ~」
撤退していく劉備軍を見送りながら、俺は大きく息を吐き出す。
正直、ここまで上手くいくとは俺も思っていなかった。
やはりあの状態で俺に挑んできた呂布との一騎打ちが決定打になったな。
一撃で呂布を叩き伏せた後、警告という名の脅しで皆あっさり引き上げてくれたぜ。
結果的に妖術も使わなかったし、味方の被害も抑えられて万々歳だ。
ただ予想以上に効果があり過ぎて、結局春蘭達が帰ってくる前に終わっちゃったけど……
「…あれ? もしかして俺、とんでもない事やらかしたんじゃないか?」
自分でやっておきながらアレだが、今更になってマズイのではと思えてきた。
確かに『劉備軍を撤退させる』という極論的な意味で言えば同じ結果だが、
前の鄄城での戦いに輪をかけて過程が出鱈目になっている。
てか、ここまでくるとこれも十分に人外の力のような気が……
「まぁ、体調不良にもなってないし、いいかな」
ループ現象とは別に1周目の世界から存在した謎の体調不良。
この世界での出来事を史実とは異なる結果に変えようとする度に起こるあれも起こってないし、
大局的にみてOKと言う事なんだろうな、きっと。
うん、そうに違いない、むしろそういう事にして欲しい。
「でも、さすがにこれは問題だよな」
「………どうしたの?」
先程一騎打ちで俺が倒した呂布。
なるべくダメージを与えないよう気をつけたので、彼女もすぐに意識を取り戻した。
というか、なんでここに残ってるのかな?
「えっとさ、呂布は…「恋でいい」…恋は行かなくていいの? 皆、帰ってるよ?」
「………ご主人様と一緒がいい」
いきなり真名を許されたかと思いきやまさかのご主人様発言キターーーーー!
いや、別にテンション上がってないからね?
「なんで俺がご主人様なの?」
「?……ご主人様は、ご主人様」
呂布もとい恋は俺の質問の意図が理解できていないらしい。
どうやら風とは違った意味での不思議ちゃん……本物の天然のようだ。
「でもさ、急にこっちに来たら君の家族とか友達とか、心配するんじゃないかな?」
「………………」
俺の言葉にしゅんとなって俯いてしまう恋。
……物凄い罪悪感を感じるのはなんでだろう?
「でも、恋はご主人様に負けた………だから、捕虜」
「捕虜? いや、別に俺は君を捕虜にする気はないんだけど」
「………………」
再びしゅんとなって俯いてしまう恋。
……だからなんでこんな罪悪感を感じるんだ?!
「あー………とりあえず、恋は俺の捕虜ね」
「っ………♪」
罪悪感に耐え切れずつい言ってしまった言葉に反応し、パアァァァっと擬音がつきそうなほど顔を輝かせる恋。
……こんなの誰がどう考えたって反則じゃないか!!!
「………よろしくな、恋」
「………よろしくお願いします、ご主人様」
こうして魏、というか俺の下に新たな仲間が加わったのでした。
「アイツ、一体なんなのよ………!!! 華琳様、これはいくらなんでも……華琳様?」
「一刀………」
「お兄さん………」
「か、華琳様? どうかなさったんですか? 風? なんでそんな顔を真っ赤にして呆けてるわけ?」
「「………………はぁ」」
あとがき
どうも、『ささっと』です。
蜀軍との対決となった第6話です。
春蘭達の出番なし。
無印恋姫の中でも屈指の燃えシーンである鈴々の長坂橋仁王立ち改変シーンを入れてみました。
4話以上に激しい中二展開まっしぐらな本気の一刀君無双です。
しかし、おかしい。
プロットではちゃんと劉備との絡みがあったはずなのに、本書きでは何故かそれが星視点に置き換わっていた。
しかも恋が捕虜?になる展開なんてそもそもプロット自体にもなかったはず。
てか、デレはしたが華琳様の影が薄すぎる。
いくら原作と同じ場面を省いたとしても、もっと描写が入るはずだったのに。
一体どうしてこんな事になってしまったんだろう………謎だ。
次回、華琳様のデレを交えた魏の日常編その2。
華琳様に加えて恋という予想外のライバル登場に我が嫁の対応は……
コメント、および支援ありがとうございました。
次回もよろしくお願いいたします。
PS:恋姫ヒロインを3人挙げろと言われたら、風、華琳、恋で決まり!!! (TOP3的な意味で)
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華琳の下に仕える事となった一刀は、これまでの世界と細部は違えども忙しい日々を送っていた。
そんな彼の前に立ちはだかるのは蜀の大徳、劉備 玄徳。
圧倒的な兵力差で迫る劉備軍を前に、いよいよ一刀が本気をみせる……