春蘭達の帰還を待たずして決着した劉備軍との戦い。
妖術こそ使わなかったとは言え、間違いなく人の領域を遥かに超えた所業だ。
鄄城の時のように当事者に口止めして事実を有耶無耶にするなんて真似も不可能。
これを契機に俺の名は大陸全土へと知れ渡り、色々な意味で注目される存在となるだろう。
あれだけ派手にやれば当然だろうが、敵はともかく身内にまで変な見方をされるのはやっぱり辛い。
もっとも、風達のように変わらず接してくれる人もいるから多少は気が楽だけどな。
それよりもまず俺が気にしなければならないのは………
「「お兄さん(一刀)、どうしてお兄さん(貴方)の隣で恋ちゃん(呂布)が寝ているのですか(かしら)?」」
「………うぅん、ごしゅじんさまぁ……むにゃ………」
「………………マジかよ」
目覚めと共に発生したこの理不尽すぎる修羅場をいかにして潜り抜けるか、だな。
恋姫†無双 終わらぬループの果てに
第7話 20週目 その5
劉備達の戦いで俺達が手にする事となった予想外の戦果。
それが呂布こと恋の捕縛である。
まぁ、実際捕縛というよりも恋が勝手に捕虜になったというのが正しいかな。
ともかくそんな経緯を挟んで恋は降将として魏に下る事となった。
それがちょうど昨晩の出来事だ。
何だかんだで疲れていた俺はその決定の後にすぐ眠ってしまったため、
それから何らかの進展があったかどうかなどは全く知らない。
だから一体何がどうしてこんな状況になったのかもまるで見当がつかなかった。
「「黙ってないで弁解の一つでもしたらどうなんですか(どうなの)、お兄さん(一刀)?」」
「いや、その、俺にもさっぱり身に覚えがないと言うか、何と言うか……」
「「………………最低」」
俺の正直な言葉に2人揃って同じ反応を返してくる。
お願いだからそんなこの世に存在する価値もない屑を見るような目で俺を見ないでくれ。
本当に俺は何も知らないんだから……と言っても状況悪化するだけだろうから言わないけどさ。
「………んぅ………ん? ごしゅじん、さま?」
どうしたものかと途方に暮れていたまさにその時、渦中の恋が目を覚ました。
眠そうに目を擦りながらゆっくりと身体を起こす恋。
どうやら彼女は寝る時に服を着ない派らしく、身に着けているのはシンプルな下着のみ。
そのため彼女の動作によって羽織っていた布団が捲くれた拍子に、弾みで彼女の胸がぷるんと揺れた。
下着の上からでもハッキリと解るそれはまさに美乳と称するに相応しい至高の存在。
無意識にガン見していた俺は思わず手を合わせそうになってしまう。
「「………………」」
いかん、そんな男の悲しい性に気をとられている場合ではなかった。
しかも何故だか風と華琳の怒りのボルテージがさらに跳ね上がった気がする。
特に華琳なんて今すぐにでも絶を……って、既に構えてる!?
「一刀、せめてもの慈悲に遺言くらいは聞いてあげるわよ」
「さすがは華琳様、お優しいですね~。風なら問答無用ですのに~」
ヤバイ、弁解が遺言になってる。
風の発言も過激どころの話ではない。
2人とも目が本気だ!!!
「………ご主人様、恋が守る」
そんな2人から俺を守るかのように恋が立ち上がった。
相変わらず裸に近い格好のままで寝台から降り、何処から取り出したのか方天画戟を構えていた。
どうでもいいけど、この位置からだと穿いているとはいえ恋のお尻が丸見えなんだよな。
うん、美乳にして美尻とはこれいかに。
華琳も風も凄く綺麗ではあるんだけど、やはりボリュームが……って、んな事考えてる場合じゃない!
「皆落ち着いてくれ! それと恋、どうして恋が俺の部屋で寝てたんだ?」
今にも本気で斬り合いを始めそうな2人の間に割って入り、そしてこの状況の原因である恋に説明を求めた。
もちろん俺の視線は恋の顔に固定済み。
まかり間違っても顔から下には向けられない。
そんな事をしたら間違いなく背後から華琳にバッサリやられてしまうから!
「?」
俺の質問に首をかしげる恋。
いやいや、意味が解らなくなるような難しい質問じゃないだろ?
「えっと、さ。恋の寝る部屋は別に用意して貰っただろ? なのに、どうして俺の部屋で寝てたんだ?」
もう少し言葉を付け加えて再度尋ねる。
すると今度は俺の質問の意図が掴めたようで、答えを返してくれた。
「……恋、ご主人様と一緒にいないといけない」
「えっ、どうして?」
「……昨日、言われた」
「昨日?」
一瞬何のことか解りかねたが、すぐに思い当たる事柄があった。
何のことはない、彼女の監視役に俺が任命されていたのだ。
俺を除けば大陸最強の武を持ち、加えて一般人とはちょっと思考がズレている恋。
いくら従順な態度を見せているとはいえ、
彼女をいきなり単独で行動させるのは様々な意味で危険だからという判断らしい。
「あのな、恋。別に四六時中一緒にいないといけないわけじゃないんだぞ?」
もっとも既に恋は捕虜という位置づけではないので、監視役というか世話係みたいなもの。
恋の行動を華琳に報告するなんて義務もないし、ほとんど形だけなのだ。
「……そうなの?」
「そうなの。だからね、今度からはキチンと自分の部屋で…」
「でも、恋はご主人様とずっと一緒にいたい………だめ?」
俺が言い終わらぬうちにそう言って、ピトッと身体を密着させてくる恋。
叱られるのではないかと不安に怯える子供のような表情は正直堪りません。
「恋がそうしたいのなら、俺は構わないよ」
「♪」
だから俺がこんな事を言ってしまうのも、つい背中に手を回して抱きしめてしまうのも不可抗力なんです。
泣きそうな顔から一転笑顔になった恋はまさに無敵なのです。
さらに忘れてはいけないのが、服越しとはいえ程よく伝わってくるこの何とも言えぬ柔らかさと弾力。
見た目だけではない本物の美乳持ちとは、さすが三国無双………ハッ?!
「「………………」」
背後から突き刺さる絶対零度の視線に気付き我に返るも、全ては後の祭りだった。
朝っぱらからあわや強制ループ逝きかというハプニングに見舞われてしまった俺だが、
どうにかこの世界に留まる事が出来た。
ちなみに華琳と風、2人の姿は既にない。
『あまりにも浅はかな決断を下した昨晩の自分を斬り殺してやりたいわね……ふふっ』
華琳はそんな台詞と共に自嘲気味の笑みを見せながら、
『予想外の敵が現れましたね~……新たな対策が必要です』
風は今まで見た事がない程の真剣な表情で悩みながらそれぞれ俺の部屋を後にしていった。
が、俺に対する視線は終始絶対零度のままだったので油断は禁物である。
もっとも、恋と行動を共にする時点で油断もクソもないわけなのだが。
「おなかすいた……」
「それじゃあ少し早いけど、朝ごはん食べに行こうか」
まぁ、あれだ、過ぎた事を悔やんでいても仕方がない。
普段なら朝の鍛錬の時間だが、俺は予定を変更して恋と共に厨房へと向かった。
決して上目遣いで訴えてくる恋の可愛さにやられたわけではないので勘違いしないで欲しい。
しかし、この時間だと自分で作らないといけないな。
もう少し遅かったら流琉に朝ごはんを作って貰えるし、やはり恋に少し待って貰ったほうが……
「ごはん……」
「待ってな、恋。すぐに俺が美味しい朝ごはんを作ってあげるからな」
俺はテーブルに恋を座らせ、駆け足で厨房に突入していく。
過去のループで流琉から料理を教わった経験は伊達ではない。
持てる知識の全てを使って最高の朝ごはんを作ってみせようじゃないか!
決して上目遣いで訴えてくる恋の可愛さにやられたわけではないので勘違いしないで欲しい。
大事な事なので2回言いました。
「うおりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!」
そんな感じで気合と共に仕上げた入魂の一品はふわふわ卵のプレーンオムレツ。
彩にケチャップをかけ、付け合せの野菜サラダを添えれば完成だ。
もちろん同時に作ったトーストとコンソメスープも忘れてはいけない。
うん、自分で作っておきながらツッコミ所満載だと思うけどとりあえず却下しておく。
気合とノリと勢いがあれば割と何でも出来るのが日常パートなんだ、察してくれ。
メタな事を口走りつつ、俺は早速完成したオムレツを恋の下へと運ぶ。
「……凄く美味しそう」
完成した料理を見た恋の視線は途端に皿の上へと釘付けになっていた。
その姿はまさしくご飯を前にしてお預けをくらっている犬そのもの。
あまりの微笑ましさにもう少し見ていたい気もするが、早く食べさせてあげよう。
「見てないで食べていい…「はむはむ……もぐもぐ……」…よ、恋」
俺の許可が出るや否や、言い終わらぬ内に料理を食べ始める恋。
その姿はまさしく口いっぱいに食べ物を頬張るハムスター。
あまりの可愛さに思わず撫でてしまいそうになるが、食事の邪魔をしては可哀想なので見てるだけ。
「恋、美味しいかい?」
「……もぐもぐ……はむはむ……んっ、凄く美味しい……もぐもぐ……はむはむ……んっ、ありがとう、ご主人様」
それでもついつい我慢しきれず感想などを聞いてみるが、食べる合間に帰ってくる言葉も満足そのもの。
恋は幸せいっぱいな状態で俺の料理を食べ続けていた。
こんな顔で食べられると、作ったかいがあったと言うものだ。
「………………なくなった」
しかし、幸せな時間はいつまでも続かない。
あれだけの勢いで食べていればなくなるのも当然早い。
感覚的に2人前くらいあった朝食はすっかり恋のお腹の中に消えていたのだ。
幸せの絶頂から一転、不幸のどん底に落ちたような表情になる恋。
それだけ俺の料理を気に入ってくれたのは嬉しいが、だからと言って食べすぎは良くない。
俺は綺麗になった皿を回収し、洗い場へ運……
「ご主人様……」
「おかわりだな? よし、超速で作ってくるから少し待っててくれ、恋」
…んだ後はすぐさま厨房に立ち、初回よりも手際よく調理を進めていく。
恋は大陸最強なんだから人より食べる量がちょっとばかし多くたって何の問題もない
それに食べ過ぎたってその分運動すれば全然大丈夫!
なんなら組み手の100回や200回くらい、俺がいくらでも付き合ってやる!!
決して上目遣いで訴えてくる恋の可愛さにやられたわけではないので勘違いしないで欲しい。
大事な事は何回でも言うぞ。
「よし、完成! 恋、おかわりできたぞ~」
「なら、ついでに私の分も作って貰えるかしら、一刀?」
「まさか恋ちゃんだけ贔屓したりはしませんよね、お兄さん?」
そんな訳で恋の元におかわりを運んでいった俺なのだが、
いつの間にか恋の両隣に座っている2人の笑顔を見て凍り付いてしまった。
ん? 笑顔なのにどうして凍りついたかって?
2人の目が笑ってなかったどころか、今朝部屋で見たとき以上の迫力だったからだよ!
天国から地獄へと変貌した朝食を終え、既に一日の気力を使い果たした感のある俺。
それでも現実とは残酷なもので、俺に一時の休息すらも与えてくれなかった。
「………今日も街"は"平和だなぁ~」
久しぶりに出かけた街の警邏。
本来なら疲れた心を癒すための気分転換になるはずのこの時間が今は何よりも恨めしい。
「………人、いっぱい」
きょろきょろと辺りを見渡しながら、俺の後ろをカルガモの子供のようについてくる恋。
食べ物に釣られて時折迷子になりそうになるのを除けば何の問題もない。
「一刀が出した案の効果もかなり出ているようね」
「最近はまた一段と賑やかになりましたね~」
問題があるのは俺の両側に陣取っているこの2人。
さも当然のように俺の腕を取り、そして自分の腕を絡ませている華琳と風である。
「えっと、華琳と風はどうしてここにいるのかな?」
「視察を行うのは統治者として当然の義務よ」
「街の現状をしっかりと見極めねば有効な改善案は出来ないのですよ~」
街に出ている理由はもっともらしいと言えばもっともらしい。
「じゃあさ、どうして2人とも俺と腕を組んでるのかな?」
「一刀が気にする必要はないわ。ただ黙って私と腕を組んでいればいいのよ」
「お互いに身体の隅々まで知り尽くしている仲なんですから、腕を組むくらい当然ですよ~」
しかし、腕を組んでいる理由は2人とも理由になっていなかった。
特に風は色々な意味で自重して欲しい。
街の人達の視線は既に諦めたが、発言の度に華琳から腕を締め上げられるのは勘弁だ。
いい加減に腕が折れても何ら不思議ではない。
「…一刀、服が見たいわ。案内しなさい」
「え? いや、さっき視察って…『メキメキッ!』…喜んで案内させていただきます!」
本当に折られては堪らないので、大人しく従う。
そんな訳で俺は3人を連れ服屋へとやって来た。
「一刀、これはどうかしら?」
店に着いた早々、華琳は脇目も振らずに下着コーナーへと突入。
そして数ある下着の中からチョイスした物を俺に見せ、堂々と感想を求めてきた。
過去のループで何度も経験した事ではあるが、この羞恥プレイには未だに慣れない。
「それもいいけど……俺は、そっちの色の方が良いと思うな」
とは言え、ここは恥ずかしさに目を瞑ってでも積極的に意見を出した方が良い。
何故なら俺が積極的に意見を出すと、逆に華琳の方が大人しくなってしまうからである。
「そ、そう……一刀はこういうのが好みなのね」
ちょっと驚きながらも顔を赤くしてボソボソと呟く華琳。
最初にこっちが主導権を握ってしまえばこっちのもの。
後は早めに買い物を済ます方向に導けばいい。
「お兄さ~ん。風の方も見ていただけますか~?」
と、今度は背後から風のお呼びがかかる。
言い出したのは華琳だが、何気に風もかなり乗り気だった。
何だかんだで女の子だしやっぱりお洒落にも気を………………
「気に入ったので買ってみたんですけど、どうですか?」
悪戯っぽい表情で軽くポーズを決めている風は、見事なまでの下着姿だった。
「………それ、もう買ったの?」
「はい」
「………なんで、今着てるの?」
「お兄さんに見せるためですよ~」
「………ここ、まだ店の中だよ?」
「この位置なら表からは見えませんし、店内はお兄さん以外全員女性なので問題ないですよ~」
この時の俺は予想外の不意打ちに動揺し、一種の錯乱状態に陥っていたのだと思う。
自分の事なのに不確かなのは、意識が曖昧でよく憶えていないからだ。
「それよりお兄さん。お兄さんはこの下着、どう思います?」
「………うん、風に似合ってて凄く可愛いと思う」
「この姿で風が迫ったら、思わず襲っちゃいますか?」
「………うん、思わず襲っちゃう」
「なら……風を襲ってください、お兄さん」
「………うん、わか…『ドゴッ!!!』…ぐおっ?!」
突如後頭部に凄まじい痛みを感じ、混濁していた意識が一気にハッキリとした。
ついでに何かとんでもない事を口走っていたような気がするけど、思い出せない。
てか何で俺の目の前に不機嫌そうにしてる下着姿の風がいるんだ?!
「一刀、こっちを向きなさい」
「なんだよ華り……ん…………」
今それどころじゃないんだ、と続けようとした言葉は結局言えなかった。
何故なら振り向いた俺の目の前に、先程俺の勧めた下着を身に纏った華琳がいたから。
もちろん着ているのは下着のみ、である。
「………華琳、その格好は?」
「さ、さっき一刀が良いって言った方の下着を着てみただけよ!」
「………着てみただけって」
「う、うるさいわね! それより…その、どうなのよ?」
「………うん、凄く綺麗だ」
決して色褪せる事のない芸術品のような華琳の身体。
その身を飾る下着は美しさを決して損なわせず、むしろさらなる高みへと誘ってくれる。
そしてそんな華琳を前にした俺はもちろんナニ……
ガスッ!!!
「………手が滑った。ゴメンなさい、ご主人様」
…もする事無く、若干不機嫌そうな恋が投擲し俺の目の前に突き刺さった方天画戟をただ見つめていた。
今日は色々な意味で長くなりそうだ。
あとがき
どうも、『ささっと』です。
華琳、風、恋の三つ巴…てかハッキリ言って恋無双な第7話。
中途半端に感じられるかもしれませんが、今回はここで区切りです。
それにしても思った以上に恋の出番が出来てしまい、プロット修正に時間がかかってしまいました。
その所為で投稿も遅れてしまいましたが、次からはまた2~3日間隔で投稿できそうです。
次回もまだまだ続く3人の争い。
果たして一刀君は無事一日を終えることが出来るのでしょうか?
コメント、および支援ありがとうございました。
次回もよろしくお願いいたします。
PS:恋は甘えん坊&嫉妬心を若干+したのがデフォ設定 (再び作者の趣味的な意味で)
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春蘭達の帰還を待たずして劉備軍との戦いに勝利した一刀であったが、
呂布こと恋が自主的に捕虜となってしまった。
何故か彼女にご主人様と呼ばれ好かれてしまった一刀君は果たして……