No.741775

紫閃の軌跡

kelvinさん

第53話 高原の特別実習

2014-12-06 05:13:34 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:3034   閲覧ユーザー数:2802

 ~ノルドの集落~

 

「ん~……特に疲れは残っていないな。」

 

時間的には直接日の光がないとはいえ、空が明るくなり始めた頃に目を覚ます。以前ここに滞在した時も自然と起きる時間が早くなっていたことには苦笑を零した。すると、既に起きていたガイウスがアスベルの許に近づいてきた。

 

「流石に早いな、アスベル。おはよう。」

「ああ、おはようガイウス。で、その持っているものは?」

「これか……これだ。」

 

すると、彼の持っているものに気付いて尋ねると、ガイウスは畳んでいた布を広げてアスベルの目の前に掲げるように見せた。それはノルドの民族衣装であった。今ガイウスが着ているものよりも青を基調とした上着の部分の丈が長く、ラカンが着ていたようなものと同一であった。

 

「母さんがアスベルのために作ったものだ。こういう機会でなければ着ることもないだろうからな。」

「嬉しいけれど、なんだか恐縮と言うか……折角だから着させてもらうけれど。」

「ああ、そうするといい。」

 

何でも、ガイウスからの手紙でアスベルがノルドに来ることを知って、作ったものと言うことだ。外様とはいえここまでしてもらえることには感謝の言葉で一杯である。その服に袖を通し、二人は羊の放牧を手伝うこととなった。木製の柵があるとはいえ、羊がどこかに行かない様に見張るのも一苦労であった。……大方の区切りもついたので、大丈夫だというガイウスの言葉に頷き、集落から少し離れたところで、持ってきていた太刀を抜き、振るう。

 

「ふっ……!!」

 

その過程で、荷物を取りに行くために離れの住居―――リィン達が眠っている場所に、静かにお邪魔したのだが……

 

『……“また”かよ。』

 

眠っているリィンの上に覆いかぶさってる一人の女性―――ステラの姿にアスベルは静かに溜息を吐いた。まだ寝間着姿だったので、大丈夫……なのかどうかは、敢えて言わない。言うと面倒なことになる。それはともかくとして、剣を構え……そして空気を断つかのように走る光……そこに、姿を見せたのは一人の少年の姿に気づき、アスベルは太刀を鞘に納めて振り向く。

 

「……おはよう。ゆうべはおたのしみだったのか?リィン。」

「おはよう。というか、茶化さないでくれアスベル。って、その衣装はどうしたんだ?」

 

初夏の季節とはいえ、この高原では少し肌寒い……なので、制服姿のリィン。そして、その手には太刀が握られていた。どうやら、アスベルの気配を察して起きたらしく、ステラをそのまま寝かせてここに来たということだった。それを聞いてアスベルは事情を説明して少し考えた後、再び太刀を抜き放った。

 

「……リィン。お前も薄々は気付いているはずだ。この帝国に迫ろうとする戦火……だが、お前自身は未だに己自身と向き合っていない。……ま、別に説教するわけじゃないけれど……これもいい機会だな。」

「…アスベル?」

「太刀を抜け、リィン。実力的には奧伝だが、師父はお前に対して“中伝”の目録しか渡していない。……けれど、『資格』は一応揃った。今からお前に、“烈火”“疾風”“空蝉”……そして師父がお前に対して重点的に叩き込んだ七の型―――“夢幻”の13の奥義を凌ぎきってもらう。」

 

一の型“烈火”の『蛍火』『焔刃烈破』『雷火』『焔群(ほむら)』、二の型“疾風”の『風神烈破』『風塵怒濤』『鎌鼬』『黒皇(こくおう)』、四の型“空蝉”の『孤塁抜』『地塵烈破』『陣龍閃』『空断(からたち)』、そして七の型“夢幻”の唯一の奥義『影踏(かげふみ)』。その奥義を全てしのぎ切れという言葉に、リィンは驚愕した。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!まだ奥義伝承の前段階ですら終わってないのに……」

「悠長に時間を取っている暇がないんだ。お前自身が未だ抱えているもの……そのためには、お前自身が強くならなければならない。それにお前の場合、謙遜しすぎる面があるから多少強引にでも“叩き込んだ”方が早い。」

 

この世界で言えば、強くなって損はない……と言うのがアスベルの持論だった。それに付随して抱える問題も多くなるのは仕方のないことだ。それに“来月の事”を考えると今ここで叩き込み、そして学院に帰ってから厳密に詰めていく……正直、付け焼刃みたいなことになりそうではあるが、やって後悔したほうがまだマシだ。それに、この時を想定した上で、学院に入ってからのリィンの鍛錬を見てきたのだから。

 

「……凌ぎきって初めて見えてくるものもある……いくぞ、リィン!」

「……ああ!来い、アスベル!!」

 

その実力はリィンですら“未知数”……アスベルとリィン……彼なりの特訓が幕を開ける。流石に全力とはいかず、ある程度加減したもので13の奥義を一セットとし、それを数セットランダム発動で繰り返す。この方法はアスベルがユンから教わった時にやっていた方法を簡素化したもの。何せアスベルの場合、八つの型の26の奥義がランダムに飛んでくる状況から最初は躱し、最終的には同じ技で相殺させるという荒行をこなしていた。一区切りついたところで攻撃を止め、アスベルは太刀を鞘に納める。一方、リィンの方は片膝をついて肩で呼吸するような感じであった。

 

「―――こんなところかな。これ以上やると実習に響くから。」

「はぁ……はぁ………流石だな、アスベル。」

「どういたしまして。」

 

正直な感想としては……“奧伝”と言っても差し支えないぐらいだろう。流石に一、二、四の型はまだ壱式の中盤ぐらいだが、七の型の方はもう少し研鑽を積んでいけば確実に皆伝に至るのは間違いないだろう。ただ……問題なのは、彼の中に眠る“力”のことだ。何せ、この特訓中に一度だけだが“解放しかけた”のだ。ただ、今の彼の精神状態では中途半端な踏み込みになり、“力の暴走”にしか成り得ない。

 

「しっかし、ケルディックに続いて二度目とはな。」

「俺も起きた時は吃驚したよ……まぁ、ステラも単純に寝ぼけていたんだろうけれど……どうした、アスベル?」

「………お前はロイドか。」

「???」

 

それ以前に、この朴念仁は本気で自分自身を省みないと、碌な目に遭わないのは……もう遅いのかもしれないが。この調子で行くと、10人以上の妻がいるだなんて夢物語じゃなくなりそうでもある。……既に複数いる俺も人の事は言えませんが、これ以上増やすと心労がマッハなんです……でも、それがフラグになりかねないから困る。その後はと言うと……リィンの寝床で寝ていたステラに対し、女子たちが質問攻めしていた。ここにラウラがいなくて本当に良かったと思う場面かもしれない。ともあれ、アスベルも制服に着替え、ウォーゼル家で朝食をしっかり食べ、その後ラカンから特別実習の封筒が渡された。

 

 

【特別実習一日目・午前(南側限定)】

 

・薬草の調達

 

・監視塔への配達

 

・ゼンダー門からの要請(手配魔獣)

 

 

感覚的には難しくないが、馬での移動となるため時間がかかることは明白であった。ともあれ、まずは薬師のアムルの家を訪ねた。

 

「おや、アスベル君じゃないか。久しぶりだね。」

「ええ、お久しぶりです。依頼を見て来たのですが。ちなみに、今回の依頼はひょっとして……“エポナ草”ですか?」

「察しが良くて助かるよ。ガイウスは勿論の事、君も群生地の分布は覚えているだろうからね。」

「流石アスベルだな。」

「いや、依然頼まれた時と時期が似通ってたからな。もしかしたらと思って聞いたら、偶々当たっただけだよ。」

「それでも十分かと思いますが。」

 

これからの時期に備えて、馬のための予防薬を作るための材料を集めてきてほしいということだった。記憶の片隅にはその特徴や群生地は叩き込んでいるので問題は無い。それをあっさりと言いのけたアスベルに対して笑みを零すガイウス、一方でそれに冷や汗を流したリィン達であった。手配魔獣に関しては、ゼンダー門で説明を聞いてその討伐に行った。結果は苦戦することなく、あっさり目に終わった。

 

「上手く行きました。」

「……ほ、本当に私達が倒したの?」

「間違ってはいないと思いますが……」

「とはいえ、リーゼロッテのお蔭で楽に戦えた。流石と言うべきだろう。」

 

リーゼロッテがバックアップに回ったお蔭でもあるが、それ以上にリィン達も士官学院の授業や特別実習を通して得てきた経験が、彼等を一段と強くしていたことは間違いないだろう。

 

『もう、ゴールしていいですよね……?』

『マズい、委員長がご乱心だ!!』

『そぉい!!』

『えええええっ!?セリカ、何でスープレックスしたの!?』

『ツッコミそっちかよ!!あ……委員長から何かが……』

『呼び戻せーーーっ!!!』

 

………その過程の中で、サラの時折度外視した武術教練によって幾度となく見られた精神的疲労……それに対する治療(物理)……つまるところ、自分自身と言う存在を失わないための綱渡りをしているようなものであった。それ以外にも色々ツッコミ入れるところはあるのだが、多すぎてツッコミを放棄せざるを得ない。

 

で、ゼンダー門に報告をしてそのまま監視塔に向かうことにした。実は薬師の家で依頼を受けた後、そのまま集落にある交易所に立ち寄り、店主のキルテから主に食料品の配達物を受け取ったのだ。

 

「う~ん、後で何か見繕っておくかな。」

「誰に贈るんですか?」

「妹とラウラにかな……って、ステラは何で睨むんだよ?…まぁ、プレゼント位はするけどさ。」

「……そ、そんなプレゼント位で機嫌が直ると思ったら大間違いですよ。」

「サラッというあたり、リィンさんらしいですね……アスベルさんも気を付けた方がいいですよ?って、その装飾品は?」

「ああ、これ?向こうにいる連中とか、実家の家族宛にな。妹はもう少し身だしなみをきちんとしてほしいよ……無理な相談かもしれんが。(……アリサにも買ったということは、伏せておこう。からかわれるのは目に見えてるし。)」

 

リィンとステラの痴話喧嘩(?)に苦笑を浮かべつつ、依頼を受けたA班であった……ともあれ三角岩の奥側に聳え立つ建物―――帝国軍の拠点である監視塔を改めて見ると……この自然の中では不釣り合いな代物である。その建物の前にいる退屈そうな表情を浮かべた兵士―――ザッツの姿があった。話しかけると気怠そうな雰囲気であったが、集落からのお届け物と聞くと目を輝かせるぐらいの食いつきっぷりにリィンらが引き気味になるほどであった。まぁ、こんな辺境の地ともなれば楽しみはそれぐらいしかないのであろう。

 

「そうだ。よかったら、実習の一環と言うことで監視塔の見学をしていかないか?」

「えと、よろしいのでしょうか?」

「はは、見られて困るようなものは置いていないからな。それに、ゼクス中将からお前さん達に対して便宜を計らうよう言われていてね。」

 

折角の申し出なので、その申し出を受けた。監視塔の内部を案内され、そして最上部……そこから見える高原の雄大な風景……そして、監視塔から東側に大きく陣取られた“基地”。それは、カルバード共和国の軍施設であった。緩衝地域とはいえ、互いの体裁を保つために軍をこの地に置くこと。互いに監視する意味もあるが、それに対するデメリットも当然生まれている。

 

「あれが……」

「ああ、共和国軍の基地さ。」

 

入り組んだ場所が多いノルド高原では、戦車の運用自体ままならない。そうなると機甲師団の持ち味である機動力の大部分を奪われているに等しい。正直言って固定砲台程度の運用が限界であろう。その分装甲車や飛行艇の重要度が増す。その意味では、元々そう言う地形であったリベールは“幸運”と言うべきなのかもしれない。

 

「とはいえ、クロスベル方面程緊迫はしていないから、気は楽なんだが……っと、他の兵士には内緒にしてくれよ。」

「はは、解りました。」

 

このような素晴らしい場所を、残していくのも破壊していくのも同じ人間……帰りがけに兵士は先程の配達物として帝国産のワインを届けてもらうようお願いをし、リィン等は了承してそれを受け取り、その場を後にした。

 

 

リアル事情のため、更新が遅れました。一日が仕事と睡眠時間でなくなるって、大変(リアル話)

 

リィンのちょっとしたパワーアップフラグです。この本筋はここではないのですがね。

 

ここで、この先の予定(第三章除く)をちょこっとお話ししておきます。というのも、原作との変更点がかなり多いので、少しでも話しておかないと誤解を招きそうなので……何がって?私自身の誤植の問題ですが(コラ

 

まず、第四章は『空』組から数名ほど出します。確定しているのは六名。その内既に判明しているシオンとクローゼ以外に四名でます。その内二名は遊撃士で行く予定です。

 

で、第五章は“ある人物”の登場方法、それと“やんごとなき人物”の移動方法が変わります。何を言っているのかは……その時に解るかと思います。何せ、私の書いているレグラムは“帝国領じゃない”ので。

ただ、第五章の顛末の大筋は決めてますが……選択肢が

 

1.死んだほうがマシと思えるぐらい酷い 2.命は取らないが、容赦しない 3.お前たちの罪を数えろ

 

てな具合です。あと、“彼女”の戦闘シーンも書く予定ですが、その対戦相手が……うん(遠い目)

どの道にしても、眼鏡が砕け散る(誰のだよ)

『最大の脅威には最大の力を以て叩き伏せる』を地で行く感じです。あと、本編が煮詰まったら外伝の方もちょくちょく入れていく予定です。

 

……デュバリィはいいとして、あとの二人は誰の嫁にするかな……繋がりで言うとルドガーが本命になりそうですが(ただし彼女たちの上司が怖い)

 

言い忘れていましたが、第六章開始前にインターミッションが入ります。

 


 
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